106 / 122
第一部ヴァルキュリャ編 第三章 ロンダーネ
既視感《デジャヴ》
しおりを挟む
「ジトレフッ! 何やってんだよっっ!!」
アセウスの切迫した声がする。
あ、待てよ、これ、既視感。
なんだっけ、この状況。
ローサとの勝負の時か?
いや。違う。あの時は理由は分かってた。
「アイフレッドさん! 大丈夫ですかっ?! ジトレフッとりあえず剣はしまえっ!! 傷付けるなっ! 何も抵抗してないだろっ?! 彼に敵意はないっっ」
アセウス、それはちょっと違う。
違うって右手首も言ってる。
抵抗してないんじゃない、抵抗する隙がないだけだ。
敵意の有る無しに関わらず、相手を封じる、完全制圧。
それをジトレフが瞬時に行っただけ。
解いたら何が起こるかは分からない。
アイフレッド次第だ。
考えてみろ、突然こんな目に遭って何故黙ってる?
見たところ身体からは脱力している。
自分の置かれている状況は分かってるってことだ。
抵抗したら、あの黒い剣で即死。
なら、弁明するはずじゃないか?
俺は敵じゃないって。何故こんなことをするって。
止めろって、普通言わねぇか?
今、アイフレッドは何を考えているんだろう?
少しでも読み取れないかと、俺は綺麗な横顔を見つめた。
透けるような白い肌。
見開かれた茶色の瞳。
珍しく崩れた無表情に表れている感情は、恐怖、焦り、それと迷い。
俺は、この表情を知ってる。
「ジトレフッ!!」
いてもたってもいられなくなったアセウスが、慎重にジトレフ達に近づいて行く。
「何か理由があるんだな?! 分かった。でも大丈夫だって! 彼は……、アイフレッドさんは、タクミさんの友人だっ、例の料理人だし、何もしないっ、俺達に害をなさないっっ。ジトレフの理由が解消されないとしても、俺達三対一だろ。何かあれば対処できる。ひとまず落ち着いて、アイフレッドさんから手を放してくれっっ」
「アセウス殿、私は冷静だ。申し訳ないが剣を収める気はない。……この男の口から解放しても問題がないという説明がある以外は拘束は解かない。この男は、ローセンダールでエルドフィン殿を謀り、私に薬を盛った男だ」
「え……?」
アセウスは驚愕してジトレフからアイフレッドに視線を移した。
アイフレッドは何かを諦めたように目を閉じる。
膠着。
しばらく時が止まったかのようだった。
アセウスは、何も言えず、アイフレッドの顔を見つめている。
その蒼白い顔に、つぅーっと一筋汗が流れた。
俺はゆっくりと近づいて、組伏されたままのアイフレッドの頭から注意深く白布を外した。
ふぁさっと広がった金髪は、ジトレフの言葉が無稽ではないと俺達に思わせた。
俺自身は未だ信じ難いが、右手首は確信している。
「アセウス、ジトレフが正しい。拘束を解くのは止めた方がいいと俺も思う。未だに信じられないけど、女じゃなかったのかよ……」
そういや、化粧と匂いが凄かった。
髪だって瞳の色だって同じような人は何人もいる。
俺には右手首の映像・音声解析を信じるしかねぇ。
「本当にそーなのか……? 似ていると言われたら確かにそーだけど、似たよーな人なんていくらだっているし、似てるってのもその程度だろ。お姉さんとか、親戚ってことだってあるし……、あれは女の人だったよ」
アセウスがアイフレッドに気兼ねしつつしゃがみこむ。
アイフレッドは伏し目がちに目を開けたが、目の他は動かさず、一言もしゃべらない。
アイフレッドの顔をまじまじ見ながらアセウスは眉を寄せる。
「やっぱり、違うんじゃないか? ジトレフはアイフレッドさんが女装してたっていうのか」
「なんの話をしている。ローセンダールでエルドフィン殿から物盗りを図り、私を殺めようとした男だ。忘れたのか」
「いや、覚えてるよ、だから、あれは女の人だっただろ? あー、少なくとも女の人の格好をしてた」
「何を言っている? お二人にはこの男が女に見えるというのか? 着飾った、この男が」
は?
俺とアセウスは顔を見合わせる。
見ると、アイフレッドも目を見開いてジトレフをマジ見してる。
「え? お前、あの時から男だって気づいてたの?」
「……お二人は女だと思っていたのか? だとしても、そんなことはもういい。問題はその男が、ここに居るということだ。タクミ殿を呼んで欲しい。このまま殺すか、ローセンダール部隊に突き出すか、判断して貰わねばならない」
ジトレフの容赦のないバリトンボイスは、部屋の空気だけでなく、そこにいる俺達全員を震わせた。
アセウスの切迫した声がする。
あ、待てよ、これ、既視感。
なんだっけ、この状況。
ローサとの勝負の時か?
いや。違う。あの時は理由は分かってた。
「アイフレッドさん! 大丈夫ですかっ?! ジトレフッとりあえず剣はしまえっ!! 傷付けるなっ! 何も抵抗してないだろっ?! 彼に敵意はないっっ」
アセウス、それはちょっと違う。
違うって右手首も言ってる。
抵抗してないんじゃない、抵抗する隙がないだけだ。
敵意の有る無しに関わらず、相手を封じる、完全制圧。
それをジトレフが瞬時に行っただけ。
解いたら何が起こるかは分からない。
アイフレッド次第だ。
考えてみろ、突然こんな目に遭って何故黙ってる?
見たところ身体からは脱力している。
自分の置かれている状況は分かってるってことだ。
抵抗したら、あの黒い剣で即死。
なら、弁明するはずじゃないか?
俺は敵じゃないって。何故こんなことをするって。
止めろって、普通言わねぇか?
今、アイフレッドは何を考えているんだろう?
少しでも読み取れないかと、俺は綺麗な横顔を見つめた。
透けるような白い肌。
見開かれた茶色の瞳。
珍しく崩れた無表情に表れている感情は、恐怖、焦り、それと迷い。
俺は、この表情を知ってる。
「ジトレフッ!!」
いてもたってもいられなくなったアセウスが、慎重にジトレフ達に近づいて行く。
「何か理由があるんだな?! 分かった。でも大丈夫だって! 彼は……、アイフレッドさんは、タクミさんの友人だっ、例の料理人だし、何もしないっ、俺達に害をなさないっっ。ジトレフの理由が解消されないとしても、俺達三対一だろ。何かあれば対処できる。ひとまず落ち着いて、アイフレッドさんから手を放してくれっっ」
「アセウス殿、私は冷静だ。申し訳ないが剣を収める気はない。……この男の口から解放しても問題がないという説明がある以外は拘束は解かない。この男は、ローセンダールでエルドフィン殿を謀り、私に薬を盛った男だ」
「え……?」
アセウスは驚愕してジトレフからアイフレッドに視線を移した。
アイフレッドは何かを諦めたように目を閉じる。
膠着。
しばらく時が止まったかのようだった。
アセウスは、何も言えず、アイフレッドの顔を見つめている。
その蒼白い顔に、つぅーっと一筋汗が流れた。
俺はゆっくりと近づいて、組伏されたままのアイフレッドの頭から注意深く白布を外した。
ふぁさっと広がった金髪は、ジトレフの言葉が無稽ではないと俺達に思わせた。
俺自身は未だ信じ難いが、右手首は確信している。
「アセウス、ジトレフが正しい。拘束を解くのは止めた方がいいと俺も思う。未だに信じられないけど、女じゃなかったのかよ……」
そういや、化粧と匂いが凄かった。
髪だって瞳の色だって同じような人は何人もいる。
俺には右手首の映像・音声解析を信じるしかねぇ。
「本当にそーなのか……? 似ていると言われたら確かにそーだけど、似たよーな人なんていくらだっているし、似てるってのもその程度だろ。お姉さんとか、親戚ってことだってあるし……、あれは女の人だったよ」
アセウスがアイフレッドに気兼ねしつつしゃがみこむ。
アイフレッドは伏し目がちに目を開けたが、目の他は動かさず、一言もしゃべらない。
アイフレッドの顔をまじまじ見ながらアセウスは眉を寄せる。
「やっぱり、違うんじゃないか? ジトレフはアイフレッドさんが女装してたっていうのか」
「なんの話をしている。ローセンダールでエルドフィン殿から物盗りを図り、私を殺めようとした男だ。忘れたのか」
「いや、覚えてるよ、だから、あれは女の人だっただろ? あー、少なくとも女の人の格好をしてた」
「何を言っている? お二人にはこの男が女に見えるというのか? 着飾った、この男が」
は?
俺とアセウスは顔を見合わせる。
見ると、アイフレッドも目を見開いてジトレフをマジ見してる。
「え? お前、あの時から男だって気づいてたの?」
「……お二人は女だと思っていたのか? だとしても、そんなことはもういい。問題はその男が、ここに居るということだ。タクミ殿を呼んで欲しい。このまま殺すか、ローセンダール部隊に突き出すか、判断して貰わねばならない」
ジトレフの容赦のないバリトンボイスは、部屋の空気だけでなく、そこにいる俺達全員を震わせた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる