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第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

an(d) t(h)en

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『……その言葉、どこで聞いた?』

吟遊詩人バードから聞きました」


 眠気のせいで説明がめんどくさい。
 知ってれば説明は要らないだろうし、
 知らなければ説明しても意味ないよ、きっと。
 ものぐさして口を閉じたら、目蓋まで閉じようとしてきた。
 いや、待て。お前はまだだ。

 
『ヴァルキュリャ一族を訪ねて回っていると言ったな。これからの予定はどうなっている?』

「? 明日あと二人、吟遊詩人バードから話を聞いて、多分明後日ヨルダール邸に顔を出してから、コングスベルを出立です」


 まばたきを繰り返しつつ、ものぐさな口を働かせる。
 答えるのはいいけど、なんでその話?
 早く本題を片付けたいんだけど……。


『次はどこへ行く』 


 俺の質問の答えはぁ……?


「ロンダーネのオーネ家を訪ねる予定です」

『……慎重さは信頼を高める、だが、機会を失う』

「え?」


 眠気が強過ぎて、聞き間違えたのかなと思った。
 身長差がなんだって?
 何を、失うって、言ったか?


『時間切れだ、エルドフィン・ヤール。真実が見えぬ相手とこれ以上語ることはない。グングニルは私が認めた者にしか扱えない。お前が力を欲しているならいずれまた会うだろう』


 う゛ぇっっ!!
 俺がっっ! 最強の味方ゲイロルルを失うのかっ?!
 協力も、グングニルも得られずにっ!
 一気に目が覚めた。
 絶望の悪魔がその大鎌で俺を睡魔ごと刈りったみたいに。
 張り詰めた意識だけが俺を支配していた。
 時間切れだ、時間切れだ、時間、切れた……


「まっっっ!! 待ってっっ!!!!」


 伸ばした手は虚しく暗闇に吸い込まれて、消える。
 真っ暗闇だ。
 何も、見えない。
 ゲイロルルという光は、一瞬で、消えてしまった。
 まぢかよ……。
 失敗したのか、また・・
 身体と脳の疲労限界を感じながら暗闇で頭を抱える。
 けれど、焦りと不安は俺を眠らせようとしない。
 朝は淡々と近づいてくるのに、目は冴える一方だ。


「……ど、どーしよぉ……。俺……、くっそぉ……くそっ」


 *
 *
 *


「お。エルドフィン、起きた?」


 聞き慣れた声とともに目に入ったのは、見慣れない部屋とテーブル。
 あれ、ここは。
 なんとなく身体の反応が鈍い。
 慣らすようにゆっくりと、周囲を見回しながら身体を起こす。
 どうやら俺は、テーブルに伏して寝ていたようだ。


「あぁ……、マッシュポワンを食って、俺……寝ちまったのか」

「うん、少しは疲れ取れた?」


 それで、昨夜の出来事を夢で見てたと。


「どーだろ。かえって疲れが増したよぉな気も、しなくもねぇ」

テーブルここじゃあな」

「いや、でも、少しはマシになってるよ。眠くて、でも眠れなくて、ほんとしんどかったから」

「そ? なら、良かった」


 穏やかに微笑んだアセウスの横には誰もいなかった。
 座ったまま伸びをして、腕と一緒に首を回す。


「……んっと、俺達・・だけ?」

「ヤクモ? なら、帰ったよ。魔法陣ゲートでお見送りしてくれるって」

「ふぅん」


 変な奴。
 どうせ戻るなら一緒に戻ったって変わらねぇのに。


「明日はヨルダール邸に行って、その足で出立でオケ?」

「あぁ、それなんだけど、ヨルダール邸に行くのはなしになった。宿で朝飯食ったらそのまま町を出るから、少しくらい朝寝しても大丈夫だよ」

「えっ、なんで? 話は?」

「エルドフィンが寝ている間にミゲルさんがここ・・に来たんだ。明日、ガンバトルさんが時間作れなくなったから、わざわざ来て貰うのも申し訳ないって」

「は?」

「ミゲルさんの方で調べた話は全部教えて貰った」

「はぁ?!」


 これは往年の名(迷)台詞、ちょ待てよ! を言いたい。


「エルドフィンを起こそうか迷ったんだけど、吟遊詩人バードから聞いたのと同じ話しかなかったよ」

「まぁ、それはそうだろけど……」

「オスロへ行く時は、寄ってくれって言ってた。ミゲルさんに呼ばれたって言えば、直ぐ取り次いで貰えるってさ」

「……へぇ」

「ふっっ」


 突然、思い出したようにアセウスはけらけらと笑う。
 ちょ、待てよ。
 笑う要素ねぇだろ。どこにも。


「そー不服そうな顔するなよっ。表情出し過ぎっ」


 実に楽しそうだ。
 むむむむ。


「別に不服じゃねぇーよ。起こしてくれても良かったのにとは思うけどさ」

「だな。さーて、夕飯までどーする?」


 アセウスは組んだ両手を返して伸ばすと、ゆっくりと左右に振った。
 あ。
 知ってる。
 右手首が知らせてくる。
 この動作はあれ・・だ。


「……やるか?」

「いーね! エルドフィン暫くサボってただろ。加減出来なくてやり過ぎても怒るなよー」


 言うが早いか、立ち上がったアセウスは腕を回しながら外へと向かう。
 早ぇよっっ。
 いや、そうは言ったけど、俺にも心の準備ってもんが。


「え、明日旅立つのに? 俺としては全然加減し過ぎてくれていいんだけど、いやむしろやり過ぎなくらい加減しろ」

 
 アセウスの足が止まれば良い、なんて思いながら声量を上げて呼び掛ける。
 実戦稽古ってどの程度本気マジでやるもの?
 悪ぃけど、俺そーゆーのに本気見せるの苦手な人種タイプなんだけど。
 完全にバックギアだ。
 しかし、アセウスは軽く振り向くだけで容赦ない。
 
 
「ローセンダールに戻るだけじゃん! ロンダーネに向かうには準備に数日必要だろうし、打ち身の一つや二つ」

 ひでぇ、まぢかよ。
 重い腰を上げると、もうアセウスはドアを開けて食堂を出て行くところだった。
 渋々俺は追いかける。


「ちょ待てよぉー、徐々にって言ったろー? 手加減マックスでよろしこなんだってばぁー」
 
 
 
 
  
 ―――――――――――――――――――
 【冒険を共にするイケメン】
 戦乙女ゴンドゥルの形代でエイケン家の神の血継承者 アセウス
 【冒険の協力者イケメン】
 ? ヨルダール家当主 ガンバトル
 ローセンダールの魔術師 タクミ
 ソルベルグ家当主 カルホフディ
 【冒険のアイテム】
 アセウスの魔剣
 青い塊
 黒い石の腕鎖ブレスレット(シグルの監視石付き)
 イーヴル・コア(右手首に内蔵)
 ヴァルキュリャ十一家を繋ぐ帯ベルト
 【冒険の目的地】
 一旦 ローセンダール
 その後 ロンダーネ
 【冒険の協力者ヴァルキュリャ】
 エイケン家 ゴンドゥル
 ランドヴィーク家 通称ソグン
 ソルベルグ家 通称シグル(ドリーヴァ) 
 ✕(ヨルダール家 通称ゲイロルル)


 
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