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第一部ヴァルキュリャ編 第二章 コングスベル
人間嫌いな彼女
しおりを挟む人間が好きかって?
好きな訳ねぇだろ、俺は自分で人生にサヨナラした男だぞ。
っって、この言い方クソダサぁっっ!
『……私もだ』
え、俺、まだ言ってない……んですけど……。
『私も元は人間だ。好きでいたい。だが、人間は愚かだ。繰り返される愚行を目にするたびに、同じ人間だった自分まで嫌いになってくる。目を閉じヴァルホルに隠ってもう何百年と経つ。既に人間であったことも忘れ、何故この身があるのかも忘れる。ただ漫然と時をやり過ごしているのに、オージンの姿を目にすると人間だったこの身の罪を思い出す。こんな日々に私はもう未練がない』
……「同じ」だ。
エルドフィンになる前の俺と。
死んだように表情の無い美しい顔。
こんなに美形で、賢くて、神に選ばれて、
人並み外れた力を持ってるのに。
意味無く存在することに飽き飽きし、世界にも自分にも嫌気がさしている。
「終わりたいんですか」
角度のせいか。
ゲイロルルの瞳がまた緑色の輝きを帯びたような気がした。
口許も、少し微笑った?
光の加減による、気のせい?
『私は何も望まない。運命に従うのみだ。エルドフィン・ヤール、お前はアセウス・エイケンを籠の封印から解放し、ファストルが生みし《罪の責務》の終着を探すつもりだろう? 今や、オージンも私達を見ると悲しい過去を思い出すだけだろう。お前が手繰り寄せる運命にヴァルキュリャの消失という道があるなら、消えてオージンに恩を返したい。それだけだ』
消極的な願望。
知ってる。
何も望まない、なんて言って、しっかり具体的な望みがある。
自分では絶望した気でいても、まだ希望を握りしめている。
希望といえるのか、矛盾の塊なのだけど。
パンドラの箱かよ。
昔から、人間は自分自身を理解ろうと踠いている。
愚かな癖に。
「本当に何も失くなっちゃったんですか? ファストルさんのこと、気にならないんですか? 初代ファストルさん? と、あなたと三人目のシグルさんの仲は特別だったって聞いています。子どもを作った経緯も良く分からぬまま行方知れずになってしまって、会いたいとか、話したいとか、そういうのって何年経っても消えないんじゃないですか?」
『ファストルはもう遠い過去に消えた。何の感情もない。姿を消した彼女には私達と会って話す気はないのだと思う。彼女が望まぬことは、私も望まぬ』
「いやいやいやっ、それは分からないじゃないですかっ。後で話す気でいたけど、何かあってそれが出来なくなったのかもだし」
『その可能性は否定しない。だが、どちらにしろ、結果は同じだと思う。私も同じ気持ちだから分かるのだ。会いたい、会わなければいけないと心の内から思っていても、会いたくない、いや、会えない姉妹がいる。ファストルも、きっと、自分のことを忘れて欲しいと思っているはずだ』
なぜそーなる?! まるでわからん。
ゲイロルルの心の箱の底に残っている希望。
本人も気づいてないかもしれない願望が何か分かれば、協力を得る策略に使えると思ったのだが、言ってることがブッ飛びすぎてて糸口を掴むどころか、糸玉が見えねぇ、理解不能だ。
「じ、じゃあ、ご家族とか子孫とかは気になりませんか? ヴァルホルから様子を見に来て、見守ってるヴァルキュリャもいるって聞きました。ヨルダール家の人達はゲイロルルさんのこと、すごく誇りに思ってましたし、今でも織物を大事にして、敬愛してますよ」
『見ていないと言っただろう。人間の悲しいところを目にするだけだからだ』
そうだ、人間嫌いなんだったーっ!!
ヴァルキュリャにも未練はない、人間も嫌いで関わりたくない。
ヴァルホルに隠った日々は無意味で、
オージンに負い目しか感じてない。
そんなゲイロルルの潜在願望って何だよ???
『お前なら理解出来るだろうと話したのだが、見誤ったか。徒事はもういい。友人の封印を解くのかと、それを聞いている』
「くっそっ! 真実って、自分のことでも見つけるの難しいからな」
『……』
げっっ!
今っ、俺、喋っちってたっっ!!
冷たい沈黙の空気で、うっかり心の声が漏れていたことに気づかされる。
「あ、いや、えっと、誤解されるような態度を取ってしまったのかなぁーって。わ、私は真実を知れば知っただけ、アセウスの負担を減らせるかなって思っただけなんです。そんな、神の力? の封印を解いてしまったら、ますます魔物が放っておかないだろうし、当然オージンにも知られるだろうし、アセウスの負担は増えるだけじゃないですか」
『……そうだな、オージンは必ず現れるだろう』
やっぱりっっ!!
ほらほらっ。
まだ危険あり過ぎる。
ゲイロルルに頼むのは、今じゃねぇじゃんっ。
封印を解く手がかりが分かったのは嬉しい。
けど、優先すべきはゲイロルルを味方につけることだ。
もしくは、ゲイロルルが敵に回っても問題ないだけの味方を確保すること。
なんか、もう、読まれて全部バレてそうだけど、とりあえず、準備が整うまでは、あやふやに隠しとかねぇと。
「そんな怖いこと、しませんっ(今は!! )。それより、話の続きです! オージンの書って知ってますか?」
『オージンの書? 知らぬ』
「えっっと、普遍の時を超えてオージンを記したものらしいんですけど、秘められた知恵で、魔術で、すごい力みたいなんですが」
『……知らぬ。オージンの力といえばグングニルだ。オージンが秘められた知恵と魔術を操るという話はシグルから聞いたことはある。だが、良く知らぬ。私はオージンの忠実な僕で、詮索はしない主義だった』
「グングニル!! 勝利を誓う槍ですよね?! オージンがあなたに授けたっ!」
『……そうだ』
「それって、ヨルダール家に残していったんですよね? 槍の先はこぉんな形で、金属で出来てて、文字が彫ってあって」
俺はヨルダール邸で見た遺物の形を手で示した。
テンション上がり気味の俺と違って、ゲイロルルは無表情を崩さない。
『……そうだ』
「ヨルダール邸で見ました! 大事に保管されてましたよ、何故だか、グングニルだとは伝えられてないみたいですけど。見た目もだいぶ酷くなってましたが、何かあったんですか?」
『知らぬ。私は一族へ、神の信頼の証として、残していっただけだ。以降、ヨルダール家へは立ち寄っていないし、グングニルがその後どうなったかも知らぬ』
まーたこのパターンかよぉー。
シグルより緻密なイメージがあったのに、ヴァルキュリャって自分が関わった物に興味ないわけ?
緊張の糸が切れてきたのか、会話に期待感が失せてきたのか、
なんだか暗闇が重く、目蓋も重く感じてきた。
ねみぃー。
そろそろ限界かも。
「じゃあ、これを最後の質問にします。《らぐなろく》、《えいんへりやる》、《あんさず らぐず うるず》、を知っていますか?」
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