88 / 123
第一部ヴァルキュリャ編 第二章 コングスベル
二番目のヴァルキュリャ
しおりを挟む
「ヨルダール家のヴァルキュリャは、初代の次にヴァルキュリャに選ばれた方です」
「うん」
「シグルお姉様と同じくらい……いえ、それ以上に別格の方なのです。それは分かりますか?」
「うん、たぶん、なんとなくは」
ベンチャー企業で例えたら、創立メンバー役員と他社員みたいな違いだろ。
ヨルダール家の彼女は創立メンバー役員の中でも代表取締役副社長。
そんなところじゃね? と解釈していた。
「正直に言います。ゲイロルルお姉様への仲介は出来ません。私が一人の人間に協力して槍をもつものの力を使わせていると知られたら、ゲイロルルお姉様は放ってはおかないでしょう。私はヴァルキュリャではいられなくなる気がします。だから、出来ません」
「そっか。ソグンが消えちゃったら俺も困る。分かった」
詩人や吟遊詩人の話だと、ヨルダール家のヴァルキュリャは冷徹な印象だった。
現在のソルベルグ家とヨルダール家を比べても想像は出来る。
シグル以上に怖ぇ相手っぽい。
「私は協力は出来ませんが、ゲイロルルお姉様と会う方法になら考えがあります」
「どんな?」
「この地に来てから、ゲイロルルお姉様の気配はまるで感じられません。お姉様はヨルダール家の様子を見に訪れてはいないようです。もしかすると……ヴァルホルからずっと出ていないのかもしれません」
「ヴァルホルからも?」
まぢか。
だから、ソグンが俺の近くをうろうろしてたのか。
ヴァルホルにこもっているなら、ソグンを呼ぶのにビクビクする必要ねぇんじゃん!
けど、待てよ。
人間に興味がないってことじゃ……
だとしたら、どうやって会って、力を貸して貰えるように説き伏せたらいいんだ?
「ここコングスベルは、お姉様と縁深い地です。この地で、ただならぬ力が起これば、きっとお姉様は気づかれるはず。ヴァルホルからとはいえ確認しに来るのではないかと」
「ただならぬ力っていうと……」
「あの青い塊の力、あるいはシグルお姉様の盾の力」
「……なるほど」
そういえば、ベルゲンでもシグルが乱入してきたのは盾を使った後だったっけ。
着いたその日にもソグンとさんざん喋ったのに、現れなかった。
盾の力に呼ばれて来たっつー可能性は高いな。
「青い塊が力を発現する仕組みはわかりません。私があの時と同じ状況を再現する訳にはいきませんから、盾の力を使うのが良いのではと思います。それが難しければ、罪の子の魔剣の力でも、もしかしたら……」
「ソグンっ」
「え?」
「その言い方は止めてくれ。……意味は同じかもしれないけど。あいつのことはアセウスって名前で呼んでやって欲しい。あいつが居ないところでも」
ばかげたこだわりだよな、とは思った。
でも、ソグンなら分かってくれるとも思ったんだ。
「わかりました。すみません」
「いや。こっちこそ、ごめん。盾のセンでやってみる。ソグンは疑われないように離れていてくれていいからな。コンクスベルに居るのは、多分あと数日ってとこだと思うんだ。そのくらいの間は一人でなんとかやれるだろ」
あぁーあ、ミス確定だ。
虚勢の仮面の下で自嘲していた。
考えが甘かった。
ゲイロルルに接触するには、ソグンを遠避けなければならない。
けど、遺物の力を確かめ手に入れるためには、ソグンの力が不可欠だった。
俺がすべき順番としては、遺物をすり替えてから、ゲイロルルと接触し説得だったんだ。
オージンの槍らしき遺物の情報を手にしながら、みすみす指を加えてこの地を離れる。
俺の短気が招いた結果じゃねぇか。
「コングスベルから離れたら、また呼ばせて貰うな。あ! もち、近くにゲイロルルの気配を感じる時は来なくていいけど。ゲイロルル以外でも、ソグンにマズい状況だったら隠れてていーよ。来れない事情があるんだろうって、こっちはこっちでなんとかする」
ソグンは返事の変わりなのか、軽く微笑んだ。
言葉にしたら自分でも気づくことになって、理解した。
これが、現実か。
事態が進んでいけば進んでいくほど、バレたら困る相手が増えるんだろう。
今までみたいにソグンを頼れなくなる。
簡単にチートは失くなるんだ。
自分だけで考えなきゃいけない。
何が出来るか、何をすべきか。
「では、私はこれで、もうよろしいですか? よろしければエルドフィンのお気遣いに従い、オッダへでもとどまろうと思います」
「あ、一つだけ、あの槍みたいな遺物のこと、っって、見てた?」
「はい」
「あれって、何か知ってる? オージンがヴァルキュリャにくれた槍かな? 勝利の槍って奴」
「……答えられません」
ソグンは申し訳なさそうな顔で俯いた。
別にいいのに。答えられないっていう答えから分かることもある。
「そか、おけ。じゃあ、これも答えられないかもしれないけど、《あんさず らぐず うるず》って分かる?」
「アンサズ ラグズ ウルズ……、ですか?」
「うん」
「シグルお姉様と同じくらい……いえ、それ以上に別格の方なのです。それは分かりますか?」
「うん、たぶん、なんとなくは」
ベンチャー企業で例えたら、創立メンバー役員と他社員みたいな違いだろ。
ヨルダール家の彼女は創立メンバー役員の中でも代表取締役副社長。
そんなところじゃね? と解釈していた。
「正直に言います。ゲイロルルお姉様への仲介は出来ません。私が一人の人間に協力して槍をもつものの力を使わせていると知られたら、ゲイロルルお姉様は放ってはおかないでしょう。私はヴァルキュリャではいられなくなる気がします。だから、出来ません」
「そっか。ソグンが消えちゃったら俺も困る。分かった」
詩人や吟遊詩人の話だと、ヨルダール家のヴァルキュリャは冷徹な印象だった。
現在のソルベルグ家とヨルダール家を比べても想像は出来る。
シグル以上に怖ぇ相手っぽい。
「私は協力は出来ませんが、ゲイロルルお姉様と会う方法になら考えがあります」
「どんな?」
「この地に来てから、ゲイロルルお姉様の気配はまるで感じられません。お姉様はヨルダール家の様子を見に訪れてはいないようです。もしかすると……ヴァルホルからずっと出ていないのかもしれません」
「ヴァルホルからも?」
まぢか。
だから、ソグンが俺の近くをうろうろしてたのか。
ヴァルホルにこもっているなら、ソグンを呼ぶのにビクビクする必要ねぇんじゃん!
けど、待てよ。
人間に興味がないってことじゃ……
だとしたら、どうやって会って、力を貸して貰えるように説き伏せたらいいんだ?
「ここコングスベルは、お姉様と縁深い地です。この地で、ただならぬ力が起これば、きっとお姉様は気づかれるはず。ヴァルホルからとはいえ確認しに来るのではないかと」
「ただならぬ力っていうと……」
「あの青い塊の力、あるいはシグルお姉様の盾の力」
「……なるほど」
そういえば、ベルゲンでもシグルが乱入してきたのは盾を使った後だったっけ。
着いたその日にもソグンとさんざん喋ったのに、現れなかった。
盾の力に呼ばれて来たっつー可能性は高いな。
「青い塊が力を発現する仕組みはわかりません。私があの時と同じ状況を再現する訳にはいきませんから、盾の力を使うのが良いのではと思います。それが難しければ、罪の子の魔剣の力でも、もしかしたら……」
「ソグンっ」
「え?」
「その言い方は止めてくれ。……意味は同じかもしれないけど。あいつのことはアセウスって名前で呼んでやって欲しい。あいつが居ないところでも」
ばかげたこだわりだよな、とは思った。
でも、ソグンなら分かってくれるとも思ったんだ。
「わかりました。すみません」
「いや。こっちこそ、ごめん。盾のセンでやってみる。ソグンは疑われないように離れていてくれていいからな。コンクスベルに居るのは、多分あと数日ってとこだと思うんだ。そのくらいの間は一人でなんとかやれるだろ」
あぁーあ、ミス確定だ。
虚勢の仮面の下で自嘲していた。
考えが甘かった。
ゲイロルルに接触するには、ソグンを遠避けなければならない。
けど、遺物の力を確かめ手に入れるためには、ソグンの力が不可欠だった。
俺がすべき順番としては、遺物をすり替えてから、ゲイロルルと接触し説得だったんだ。
オージンの槍らしき遺物の情報を手にしながら、みすみす指を加えてこの地を離れる。
俺の短気が招いた結果じゃねぇか。
「コングスベルから離れたら、また呼ばせて貰うな。あ! もち、近くにゲイロルルの気配を感じる時は来なくていいけど。ゲイロルル以外でも、ソグンにマズい状況だったら隠れてていーよ。来れない事情があるんだろうって、こっちはこっちでなんとかする」
ソグンは返事の変わりなのか、軽く微笑んだ。
言葉にしたら自分でも気づくことになって、理解した。
これが、現実か。
事態が進んでいけば進んでいくほど、バレたら困る相手が増えるんだろう。
今までみたいにソグンを頼れなくなる。
簡単にチートは失くなるんだ。
自分だけで考えなきゃいけない。
何が出来るか、何をすべきか。
「では、私はこれで、もうよろしいですか? よろしければエルドフィンのお気遣いに従い、オッダへでもとどまろうと思います」
「あ、一つだけ、あの槍みたいな遺物のこと、っって、見てた?」
「はい」
「あれって、何か知ってる? オージンがヴァルキュリャにくれた槍かな? 勝利の槍って奴」
「……答えられません」
ソグンは申し訳なさそうな顔で俯いた。
別にいいのに。答えられないっていう答えから分かることもある。
「そか、おけ。じゃあ、これも答えられないかもしれないけど、《あんさず らぐず うるず》って分かる?」
「アンサズ ラグズ ウルズ……、ですか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる