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第一部ヴァルキュリャ編 第二章 コングスベル
二番目のヴァルキュリャ
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「ヨルダール家のヴァルキュリャは、初代の次にヴァルキュリャに選ばれた方です」
「うん」
「シグルお姉様と同じくらい……いえ、それ以上に別格の方なのです。それは分かりますか?」
「うん、たぶん、なんとなくは」
ベンチャー企業で例えたら、創立メンバー役員と他社員みたいな違いだろ。
ヨルダール家の彼女は創立メンバー役員の中でも代表取締役副社長。
そんなところじゃね? と解釈していた。
「正直に言います。ゲイロルルお姉様への仲介は出来ません。私が一人の人間に協力して槍をもつものの力を使わせていると知られたら、ゲイロルルお姉様は放ってはおかないでしょう。私はヴァルキュリャではいられなくなる気がします。だから、出来ません」
「そっか。ソグンが消えちゃったら俺も困る。分かった」
詩人や吟遊詩人の話だと、ヨルダール家のヴァルキュリャは冷徹な印象だった。
現在のソルベルグ家とヨルダール家を比べても想像は出来る。
シグル以上に怖ぇ相手っぽい。
「私は協力は出来ませんが、ゲイロルルお姉様と会う方法になら考えがあります」
「どんな?」
「この地に来てから、ゲイロルルお姉様の気配はまるで感じられません。お姉様はヨルダール家の様子を見に訪れてはいないようです。もしかすると……ヴァルホルからずっと出ていないのかもしれません」
「ヴァルホルからも?」
まぢか。
だから、ソグンが俺の近くをうろうろしてたのか。
ヴァルホルにこもっているなら、ソグンを呼ぶのにビクビクする必要ねぇんじゃん!
けど、待てよ。
人間に興味がないってことじゃ……
だとしたら、どうやって会って、力を貸して貰えるように説き伏せたらいいんだ?
「ここコングスベルは、お姉様と縁深い地です。この地で、ただならぬ力が起これば、きっとお姉様は気づかれるはず。ヴァルホルからとはいえ確認しに来るのではないかと」
「ただならぬ力っていうと……」
「あの青い塊の力、あるいはシグルお姉様の盾の力」
「……なるほど」
そういえば、ベルゲンでもシグルが乱入してきたのは盾を使った後だったっけ。
着いたその日にもソグンとさんざん喋ったのに、現れなかった。
盾の力に呼ばれて来たっつー可能性は高いな。
「青い塊が力を発現する仕組みはわかりません。私があの時と同じ状況を再現する訳にはいきませんから、盾の力を使うのが良いのではと思います。それが難しければ、罪の子の魔剣の力でも、もしかしたら……」
「ソグンっ」
「え?」
「その言い方は止めてくれ。……意味は同じかもしれないけど。あいつのことはアセウスって名前で呼んでやって欲しい。あいつが居ないところでも」
ばかげたこだわりだよな、とは思った。
でも、ソグンなら分かってくれるとも思ったんだ。
「わかりました。すみません」
「いや。こっちこそ、ごめん。盾のセンでやってみる。ソグンは疑われないように離れていてくれていいからな。コンクスベルに居るのは、多分あと数日ってとこだと思うんだ。そのくらいの間は一人でなんとかやれるだろ」
あぁーあ、ミス確定だ。
虚勢の仮面の下で自嘲していた。
考えが甘かった。
ゲイロルルに接触するには、ソグンを遠避けなければならない。
けど、遺物の力を確かめ手に入れるためには、ソグンの力が不可欠だった。
俺がすべき順番としては、遺物をすり替えてから、ゲイロルルと接触し説得だったんだ。
オージンの槍らしき遺物の情報を手にしながら、みすみす指を加えてこの地を離れる。
俺の短気が招いた結果じゃねぇか。
「コングスベルから離れたら、また呼ばせて貰うな。あ! もち、近くにゲイロルルの気配を感じる時は来なくていいけど。ゲイロルル以外でも、ソグンにマズい状況だったら隠れてていーよ。来れない事情があるんだろうって、こっちはこっちでなんとかする」
ソグンは返事の変わりなのか、軽く微笑んだ。
言葉にしたら自分でも気づくことになって、理解した。
これが、現実か。
事態が進んでいけば進んでいくほど、バレたら困る相手が増えるんだろう。
今までみたいにソグンを頼れなくなる。
簡単にチートは失くなるんだ。
自分だけで考えなきゃいけない。
何が出来るか、何をすべきか。
「では、私はこれで、もうよろしいですか? よろしければエルドフィンのお気遣いに従い、オッダへでもとどまろうと思います」
「あ、一つだけ、あの槍みたいな遺物のこと、っって、見てた?」
「はい」
「あれって、何か知ってる? オージンがヴァルキュリャにくれた槍かな? 勝利の槍って奴」
「……答えられません」
ソグンは申し訳なさそうな顔で俯いた。
別にいいのに。答えられないっていう答えから分かることもある。
「そか、おけ。じゃあ、これも答えられないかもしれないけど、《あんさず らぐず うるず》って分かる?」
「アンサズ ラグズ ウルズ……、ですか?」
「うん」
「シグルお姉様と同じくらい……いえ、それ以上に別格の方なのです。それは分かりますか?」
「うん、たぶん、なんとなくは」
ベンチャー企業で例えたら、創立メンバー役員と他社員みたいな違いだろ。
ヨルダール家の彼女は創立メンバー役員の中でも代表取締役副社長。
そんなところじゃね? と解釈していた。
「正直に言います。ゲイロルルお姉様への仲介は出来ません。私が一人の人間に協力して槍をもつものの力を使わせていると知られたら、ゲイロルルお姉様は放ってはおかないでしょう。私はヴァルキュリャではいられなくなる気がします。だから、出来ません」
「そっか。ソグンが消えちゃったら俺も困る。分かった」
詩人や吟遊詩人の話だと、ヨルダール家のヴァルキュリャは冷徹な印象だった。
現在のソルベルグ家とヨルダール家を比べても想像は出来る。
シグル以上に怖ぇ相手っぽい。
「私は協力は出来ませんが、ゲイロルルお姉様と会う方法になら考えがあります」
「どんな?」
「この地に来てから、ゲイロルルお姉様の気配はまるで感じられません。お姉様はヨルダール家の様子を見に訪れてはいないようです。もしかすると……ヴァルホルからずっと出ていないのかもしれません」
「ヴァルホルからも?」
まぢか。
だから、ソグンが俺の近くをうろうろしてたのか。
ヴァルホルにこもっているなら、ソグンを呼ぶのにビクビクする必要ねぇんじゃん!
けど、待てよ。
人間に興味がないってことじゃ……
だとしたら、どうやって会って、力を貸して貰えるように説き伏せたらいいんだ?
「ここコングスベルは、お姉様と縁深い地です。この地で、ただならぬ力が起これば、きっとお姉様は気づかれるはず。ヴァルホルからとはいえ確認しに来るのではないかと」
「ただならぬ力っていうと……」
「あの青い塊の力、あるいはシグルお姉様の盾の力」
「……なるほど」
そういえば、ベルゲンでもシグルが乱入してきたのは盾を使った後だったっけ。
着いたその日にもソグンとさんざん喋ったのに、現れなかった。
盾の力に呼ばれて来たっつー可能性は高いな。
「青い塊が力を発現する仕組みはわかりません。私があの時と同じ状況を再現する訳にはいきませんから、盾の力を使うのが良いのではと思います。それが難しければ、罪の子の魔剣の力でも、もしかしたら……」
「ソグンっ」
「え?」
「その言い方は止めてくれ。……意味は同じかもしれないけど。あいつのことはアセウスって名前で呼んでやって欲しい。あいつが居ないところでも」
ばかげたこだわりだよな、とは思った。
でも、ソグンなら分かってくれるとも思ったんだ。
「わかりました。すみません」
「いや。こっちこそ、ごめん。盾のセンでやってみる。ソグンは疑われないように離れていてくれていいからな。コンクスベルに居るのは、多分あと数日ってとこだと思うんだ。そのくらいの間は一人でなんとかやれるだろ」
あぁーあ、ミス確定だ。
虚勢の仮面の下で自嘲していた。
考えが甘かった。
ゲイロルルに接触するには、ソグンを遠避けなければならない。
けど、遺物の力を確かめ手に入れるためには、ソグンの力が不可欠だった。
俺がすべき順番としては、遺物をすり替えてから、ゲイロルルと接触し説得だったんだ。
オージンの槍らしき遺物の情報を手にしながら、みすみす指を加えてこの地を離れる。
俺の短気が招いた結果じゃねぇか。
「コングスベルから離れたら、また呼ばせて貰うな。あ! もち、近くにゲイロルルの気配を感じる時は来なくていいけど。ゲイロルル以外でも、ソグンにマズい状況だったら隠れてていーよ。来れない事情があるんだろうって、こっちはこっちでなんとかする」
ソグンは返事の変わりなのか、軽く微笑んだ。
言葉にしたら自分でも気づくことになって、理解した。
これが、現実か。
事態が進んでいけば進んでいくほど、バレたら困る相手が増えるんだろう。
今までみたいにソグンを頼れなくなる。
簡単にチートは失くなるんだ。
自分だけで考えなきゃいけない。
何が出来るか、何をすべきか。
「では、私はこれで、もうよろしいですか? よろしければエルドフィンのお気遣いに従い、オッダへでもとどまろうと思います」
「あ、一つだけ、あの槍みたいな遺物のこと、っって、見てた?」
「はい」
「あれって、何か知ってる? オージンがヴァルキュリャにくれた槍かな? 勝利の槍って奴」
「……答えられません」
ソグンは申し訳なさそうな顔で俯いた。
別にいいのに。答えられないっていう答えから分かることもある。
「そか、おけ。じゃあ、これも答えられないかもしれないけど、《あんさず らぐず うるず》って分かる?」
「アンサズ ラグズ ウルズ……、ですか?」
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