ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

銀の鳥

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 世紀の悪役とは可哀想な人間ひとなのかもしれない。 
 物事にはなんだって異なる視点があり、一方的な視点で簡単には決めつけられない。
 現実社会に執着を抱かないからといって、孤独だとか哀れだと解するのは偏見だ。
 だが、社会性を持つ生き物である人間の視点から見ればそうなるだろう。
 人間をやめて別の世界を望むということは、目の前の社会に絶望しているからだ。
 
 矮小わいしょうなことに縛られて、数多あまたの苦しみと闘い続けなければならないこと。
 それが幸せなのかと聞かれても今の俺には答えられない。
 でも、逆に考えてみろ。
 数多あまたの苦しみと闘い得るほどの何か・・を目の前の世界に見いだせているということだ。
 その「何か」って、なんだ?
 矮小か壮大かとか、価値があるかとか、そういう次元じゃない。
 特別であることが明らかな「何か」だ。 
 その何か・・を手に入れたこと自体は幸せなんじゃないかって、俺は思う。
 何日も何時間も社会そこで生きてきたのに、何も手に入れられなかったら、絶望する。
 人間は考える存在いきものであるが故に、自分のすべてに意味を求めてしまうからだ。
 前世の俺は可哀想な人間やつだったんだ。
 
 ずっと惨めに思ってきた。
 惨めさに居たたまれなくて、サヨナラした。
 今なら思う。
 俺がサヨナラしたかったのは、あの世界ではなくて、あの世界の「俺」だった。
 惨めな自分が許せなかった。受け入れられなかったんだ。
 自分自身が自分を見放してしまった。否定してしまった。
 可哀想な俺。
 
 俺自身だけは、味方になって、慰めてあげれば良かった。
 悲惨な現状も苦悩も思いやっていたわってあげれば良かった。 
 誰よりも自分の頑張りを知っていたんだから。
 俺がどれほど耐えてきたのか、本当の意味では他の誰にもわかりっこないのだから。
 今なら全力で肯定してやるのに。
 思うほど悪くねぇよって、微笑わらってやるのに。
 今の自分が前世あっちの自分だったら、何か変わっていたかもしれないと思う。
 願望じゃない、ただの実感だ。
 相変わらず、俺自身は何も出来ない俺なんだけど。
 主観的な存在いきものである俺らにとって、「現実」とはそんなものなのかもしれない。
 
 
「おかえりなのもすっ!」
 
 
 日暮れ近くになって、一人目の吟遊詩人バードを訪ねた先でのことだった。
 吟遊詩人バードが滞在しているという宿屋の前で、見たことのある少年が手を振っていた。
 二度と見たくなかった不愉快な笑顔だ。
 
 
「な、なんでお前がここにいんだよっ?!」
 
「ビックリしたぁー。ヤクモ、俺たちがここに来るって知ってたのか?」
 
「ふふんっ♪」
 
 
 ヤクモは猫みたいに鼻を鳴らした。
 ウゼぇっ。
 ここに居る理由をつきとめとこうと思ったんだが、やっぱり無視しとけば良かったかも、と後悔が生まれた。
 
 
「情報集めは得意なツテ・・がいるって言ったのしょ~。お二人がこちらの吟遊詩人バードさんに会いに来るという情報は、入手済みもすよんっ」
 
 
 キモいんだって突っ込まれてるのが分からないのか、いや、分からねぇんだろうなっ。
 褒められることのほどではありません、とでも言うようにヤクモはフードの角を手でこすった。
 
 
「え、どいつだよ、ヤクモの手先だったやつ」
 
「ヤクモの知り合いなら、そう言ってくれても良かったのに。そんな素振りの人居たかなぁ」
 
「お二人とは直接は話してないと思いもすよ」
 
「で、なんで待ち伏せしてやがんだよ。吟遊詩人バードに会うのの邪魔なんかさせねぇぞ」
 
「エルドフィン、なんでそんな喧嘩腰」
 
「大丈夫もすよっ、食べたりしませんから! さぁさぁ、ヤクモのことは気にせず、吟遊詩人バードさんからお話を聞くなのしょ~」 
 

 ヤクモはアセウスの背を押して、ぴょんこぴょんこと家屋の中へといざなった。
 逆らう理由はないけど、こいつのペースに従うのもしゃくだ。
 仕方なく後に続きながら、渾身の悪意をぶつけてやった。


「ストーカーかよ、お前。きしょいな」
 
「元々の意味では代名詞のように使われてもすからねぇ。嫌なイメージが先行するのは不本意ではあるのもすが」
 
「はぁ?!」
 

 な、何の躊躇ちゅうちょもなく言葉が返ってきた。
 なんて主観的な存在いきものっっ、全然響いてねぇっ。
 言ってることの意味も全然わかんねぇっ!
 はぁっ? なんなのコイツ、はぁあっっ?
 自棄やけくそな気分になって、俺は考えるのを止めた。
 さっさと用を済ませて、帰ろ。
 それがいい。
 
 宿屋の中の一室に入り、立ち止まっているアセウスの後ろから顔を出してみる。
 もう挨拶を始めたみたいだった。

 吟遊詩人バード
 目の前には、話に聞いていた通りの、優形やさがたの青年が居た。
 俺たちよりも年上のように落ち着いて見えるけれど、
 肌や顔立ちを見ると年下のようにも見える。
 年齢不詳。
 そもそも俺には人間かも疑わしく見える。 
 吟遊詩人バードってみんなこうなのか?
 それとも、この人が特別なだけか。

 銀髪だった。
 前世も含めて初めて見る。
 銀髪って本当にあるんだ。
 ふんわりした銀の髪が顎から肩の辺りまで伸びていて、色白の美麗な顔に影を落としている。
 後ろの髪の毛は長く伸ばしているみたいで、束ねられた髪が左胸の下まで垂れていた。
 全体的に色味が薄いので陽炎かげろうのようだ。
 目を消し隠すように伏せられた睫毛が、ゆっくりととばりを上げる。
 紫色のだ ―――。
 
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