ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
84 / 122
第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

Back to zero

しおりを挟む
「もう、ほんと、どんだけ俺の心臓止めにかかってくるつもりー?」
 
 
 日暮れ前の、夕食の利用客で混み始める食堂の喧騒に、アセウスの溜息は書き消された。
 
 
「心臓を1ダース準備できたとしても俺は不安になるよ、エルドフィン」 
 
 
 真面目な話をしているような顔で訴えかけてくる。
 え、これ、どーするのが正解……。
 困った時は、とりあえず笑ってみるのが日本人らしい。
 
 
「ははっ」
 
「それだけっ? 膝を打つような説明があるんじゃねーの?」
 
「え? えっと……、自由になれただろ?」
 
 
 対面のアセウスは、驚きと脱力と笑いがごちゃまぜになったような表情かおになった。
 俺は満面の愛想笑いを崩さずに、あ、向こうの席の料理ウマそーっ、と話題を逸らす。
 
 
「まぢかよ……。ほんと、お前の変貌ぶり読めねーわ」
 
 
 逸らせてナーイ。はい、失敗。
 でも、アセウスの表情はまんざら悪い気がしている訳ではなさそうだ。
 ほっとした俺は、顔に貼り付いていた愛想笑いが解けた。
 そして、少し、申し訳無さが生まれた。
 
 
「エルドフィンさぁ、やる気のない無気力系かと思わせて、激情振り回すみたいな唐突な言動増えてない? 空気読まないところは前からあったけど、心配することなんてなかったし、どっちかっていうと、後から説明聞くたびに賢いなーって俺、尊敬してたんだけど」
 
 
 出たよ、完璧少年スーパーボーイ
 
 
「……改悪されたんだろ。昔の俺はもういない、忘れろ。だって、ムカつかねぇ? ガンバトルあいつ。何様だっつーんだっ」
 
「んー……、言わんとすることは分かるけど、『領主様』だよ」
 
 
 ちーん。
 そうでした。
 地方自治の支配者。
 国家という上位の支配権力がなければ、実質的には君主に等しい。
 
 
「いろんなことがどーでも良くなったからかなぁ、はは、つい感情に流されてそーゆーの・・・・・忘れちまう。オージン神のことも……変な聞き方したんだよな、悪ぃ」
 
「変っていうか、神のことを探ろうってのは流石にまずいっしょ。しかも、ヴァルキュリャ一族相手になんて。ガンバトルが変人で良かったよ」
 
「なんだ! お前も変人だって思ってるんじゃんっ」
 
 
 ついほころんだ顔から、飛び出すように大きな声が出ていた。
 アセウスらしからぬすごい表情かおを返されて、あ、また間違ったっぽい、と悟る。
 
 
「そこじゃねーだろっ。喜びすぎっっ」
 
「はははいはい、つい素直な感情がさ、飛び出てしまったさ」
 
 
 前世では感じることのなかった安心感に俺は心地好く浸った。
 アセウスは俺を突き放さない。
 例え何回間違えても。
 しょーがねぇなぁこいつ、って目の前に居てくれるのだ。今もそうだ。
 こそばゆい。
 ふ~ん、神のことを探るのはNGなのか。
 そういえば、ソグンもシグルも、オージンのことを聞いた時はまともに答えてくれてないような。
 力を授かった半神だからかと思ったけど、そういう訳じゃないのか?
  
 
「ヴァルキュリャ一族にだと、余計まずいんだ?」
 
「そりゃそうじゃ……信仰心が強い場合、他の人間にもそれを強いる人は多いし、尊い神を軽んじることはそれだけで大罪に扱われる。ヴァルキュリャ一族なんて、普通に考えればオージン神への信仰が厚い人達の筆頭だろ? そんな人達相手にあの言い方は殺されかねないよ。もう二度と止めてくれよな、あーゆーのは」
 
「宗教か……」 
 
「ん?」
 
「でも、ホフディとはそんな感じじゃなかったじゃん」
 
「……エルドフィン、それで逆に? いや、あ゛ーっ、確かにらしくないとは思ったけど」
 
「??? ヴァルキュリャ一族だろ? 信仰心厚いんじゃねぇの? 俺、結構あんな感じで話してた気がするけど、特に殺気を感じた記憶は……」
 
「……おま、それ、本気で聞いてる? ……ホフディは俺のことを家族以上に思ってくれてるから。何よりも神の御意志を尊重する一族の当主が、神の封印を解こうとする奴を生かしておけると思う?」


 アセウスが毎回ふんわりと濁すもんだから、ひっかかってはいたのだ。
 ジトレフにも、あんなにベラってしまったのに、封印された力のことは「知りたい」としか言わなかった。
 オッダ部隊を考えてのことだとしても、話した内容と話さなかった内容の基準が分からなかったんだよな。
 
 
「あ……あぁ……それで……。そーゆーことかよ……」
 
 
 アセウスとホフディのやりとりやソルベルグ邸での出来事が、走馬灯のように頭をかけめぐる。
 そこにはその時俺が感じた以上のもの・・があった。
 俺達がしてたことは、帰宅部ないから囲碁部に入っとく? みたいな軽いノリの活動ことではなかったのだ。
 アセウスもホフディも、危険な断崖へと足を踏み出していたんだ。
 共に・・
 
 
「……ホフディ、いいやつだな」
 
 
 ぐるぐると、俺の中は生まれてくる感情で一杯になっていく。
 その中に「嫉妬」を見つけてしまって、俺は、他に言葉を口に出すことが出来ない。
 無知、独り相撲、思い上がり、強欲。
 際限のない自己嫌悪に擂り潰されながら、見つけたくなかった感情をそれらで覆い隠そうとする。 
 救いようのねぇクソなんだな、俺は。
 
 人の輪に入らなくなってから、ずっと外から眺めていた。
 人間やつらがどんな風に動いて、どんな時にどんな顔をして、どんな言葉を吐くか。
 眺めていると気づくことがある。ルールやパターンも見えてくる。
 他の奴らには見えていないことが、俺には見える。
 なんて、物知り顔でいた。
 全然、何にも、見えてねぇじゃねぇか。
 
 アセウスあいつを助けられるのは俺だけだなんて、いつ勘違いしたんだ。
 俺にあいつしかいないからって、あいつにも俺しかいないなんて気になってた。
 そんなことないのに。
 なんの根拠もなく。
 バッカじゃねぇの。 
 アセウスあいつはいっぱい持ってる。「ぼっち」は俺だけだ。
 
 
「エルドフィン……?」
 
めし、注文しよぉぜ」
 
「あぁ……久しぶりに食いたいもんが食えるな!」
  
 
 アセウスが嬉しそうな笑顔で答えたけど、俺は全然笑えなかった。
 俺はシグル相手に結構ヤバイことをしちまってたんだ。
 上手く行ったから良かったものの、下手したら全部台無しにしてた。
 俺は何にも分かってない。
 全然分かってないんだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

処理中です...