ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
84 / 123
第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

Back to zero

しおりを挟む
「もう、ほんと、どんだけ俺の心臓止めにかかってくるつもりー?」
 
 
 日暮れ前の、夕食の利用客で混み始める食堂の喧騒に、アセウスの溜息は書き消された。
 
 
「心臓を1ダース準備できたとしても俺は不安になるよ、エルドフィン」 
 
 
 真面目な話をしているような顔で訴えかけてくる。
 え、これ、どーするのが正解……。
 困った時は、とりあえず笑ってみるのが日本人らしい。
 
 
「ははっ」
 
「それだけっ? 膝を打つような説明があるんじゃねーの?」
 
「え? えっと……、自由になれただろ?」
 
 
 対面のアセウスは、驚きと脱力と笑いがごちゃまぜになったような表情かおになった。
 俺は満面の愛想笑いを崩さずに、あ、向こうの席の料理ウマそーっ、と話題を逸らす。
 
 
「まぢかよ……。ほんと、お前の変貌ぶり読めねーわ」
 
 
 逸らせてナーイ。はい、失敗。
 でも、アセウスの表情はまんざら悪い気がしている訳ではなさそうだ。
 ほっとした俺は、顔に貼り付いていた愛想笑いが解けた。
 そして、少し、申し訳無さが生まれた。
 
 
「エルドフィンさぁ、やる気のない無気力系かと思わせて、激情振り回すみたいな唐突な言動増えてない? 空気読まないところは前からあったけど、心配することなんてなかったし、どっちかっていうと、後から説明聞くたびに賢いなーって俺、尊敬してたんだけど」
 
 
 出たよ、完璧少年スーパーボーイ
 
 
「……改悪されたんだろ。昔の俺はもういない、忘れろ。だって、ムカつかねぇ? ガンバトルあいつ。何様だっつーんだっ」
 
「んー……、言わんとすることは分かるけど、『領主様』だよ」
 
 
 ちーん。
 そうでした。
 地方自治の支配者。
 国家という上位の支配権力がなければ、実質的には君主に等しい。
 
 
「いろんなことがどーでも良くなったからかなぁ、はは、つい感情に流されてそーゆーの・・・・・忘れちまう。オージン神のことも……変な聞き方したんだよな、悪ぃ」
 
「変っていうか、神のことを探ろうってのは流石にまずいっしょ。しかも、ヴァルキュリャ一族相手になんて。ガンバトルが変人で良かったよ」
 
「なんだ! お前も変人だって思ってるんじゃんっ」
 
 
 ついほころんだ顔から、飛び出すように大きな声が出ていた。
 アセウスらしからぬすごい表情かおを返されて、あ、また間違ったっぽい、と悟る。
 
 
「そこじゃねーだろっ。喜びすぎっっ」
 
「はははいはい、つい素直な感情がさ、飛び出てしまったさ」
 
 
 前世では感じることのなかった安心感に俺は心地好く浸った。
 アセウスは俺を突き放さない。
 例え何回間違えても。
 しょーがねぇなぁこいつ、って目の前に居てくれるのだ。今もそうだ。
 こそばゆい。
 ふ~ん、神のことを探るのはNGなのか。
 そういえば、ソグンもシグルも、オージンのことを聞いた時はまともに答えてくれてないような。
 力を授かった半神だからかと思ったけど、そういう訳じゃないのか?
  
 
「ヴァルキュリャ一族にだと、余計まずいんだ?」
 
「そりゃそうじゃ……信仰心が強い場合、他の人間にもそれを強いる人は多いし、尊い神を軽んじることはそれだけで大罪に扱われる。ヴァルキュリャ一族なんて、普通に考えればオージン神への信仰が厚い人達の筆頭だろ? そんな人達相手にあの言い方は殺されかねないよ。もう二度と止めてくれよな、あーゆーのは」
 
「宗教か……」 
 
「ん?」
 
「でも、ホフディとはそんな感じじゃなかったじゃん」
 
「……エルドフィン、それで逆に? いや、あ゛ーっ、確かにらしくないとは思ったけど」
 
「??? ヴァルキュリャ一族だろ? 信仰心厚いんじゃねぇの? 俺、結構あんな感じで話してた気がするけど、特に殺気を感じた記憶は……」
 
「……おま、それ、本気で聞いてる? ……ホフディは俺のことを家族以上に思ってくれてるから。何よりも神の御意志を尊重する一族の当主が、神の封印を解こうとする奴を生かしておけると思う?」


 アセウスが毎回ふんわりと濁すもんだから、ひっかかってはいたのだ。
 ジトレフにも、あんなにベラってしまったのに、封印された力のことは「知りたい」としか言わなかった。
 オッダ部隊を考えてのことだとしても、話した内容と話さなかった内容の基準が分からなかったんだよな。
 
 
「あ……あぁ……それで……。そーゆーことかよ……」
 
 
 アセウスとホフディのやりとりやソルベルグ邸での出来事が、走馬灯のように頭をかけめぐる。
 そこにはその時俺が感じた以上のもの・・があった。
 俺達がしてたことは、帰宅部ないから囲碁部に入っとく? みたいな軽いノリの活動ことではなかったのだ。
 アセウスもホフディも、危険な断崖へと足を踏み出していたんだ。
 共に・・
 
 
「……ホフディ、いいやつだな」
 
 
 ぐるぐると、俺の中は生まれてくる感情で一杯になっていく。
 その中に「嫉妬」を見つけてしまって、俺は、他に言葉を口に出すことが出来ない。
 無知、独り相撲、思い上がり、強欲。
 際限のない自己嫌悪に擂り潰されながら、見つけたくなかった感情をそれらで覆い隠そうとする。 
 救いようのねぇクソなんだな、俺は。
 
 人の輪に入らなくなってから、ずっと外から眺めていた。
 人間やつらがどんな風に動いて、どんな時にどんな顔をして、どんな言葉を吐くか。
 眺めていると気づくことがある。ルールやパターンも見えてくる。
 他の奴らには見えていないことが、俺には見える。
 なんて、物知り顔でいた。
 全然、何にも、見えてねぇじゃねぇか。
 
 アセウスあいつを助けられるのは俺だけだなんて、いつ勘違いしたんだ。
 俺にあいつしかいないからって、あいつにも俺しかいないなんて気になってた。
 そんなことないのに。
 なんの根拠もなく。
 バッカじゃねぇの。 
 アセウスあいつはいっぱい持ってる。「ぼっち」は俺だけだ。
 
 
「エルドフィン……?」
 
めし、注文しよぉぜ」
 
「あぁ……久しぶりに食いたいもんが食えるな!」
  
 
 アセウスが嬉しそうな笑顔で答えたけど、俺は全然笑えなかった。
 俺はシグル相手に結構ヤバイことをしちまってたんだ。
 上手く行ったから良かったものの、下手したら全部台無しにしてた。
 俺は何にも分かってない。
 全然分かってないんだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...