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第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

愚か者

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 「オージン神ってどんな性格の神様なんですか? そういや、俺、容姿とか見た目も知らないかも。知ってますか?」 
  
「エルドフィンっっ?!」
 
 
 う゛ぇえっっ?! なになにっ?
 突然大きな声で名前を呼ばれて身体がビクついた。
 見るとアセウスが慌てた様子で俺とガンバトルを見ている。
 
 
「え、なに……?」
 
 
 俺、またなんかヤバいことした?
 
 
「尊き神をもって何者かを問うのか……。まるで人間の知り合いのように語るのだな」
 
 
 ガンバトルが腕組みをときながら頬を緩めた。
 え?! 笑った? 気のせい?!
 こいつ、笑うの?!
 
 
「あのっ、こいつっ、エルドフィンはちょっと変わってて、あの、本当に、えっと、言い方がちょっとあれなだけで、決して神々を軽んじてる訳じゃなくて」
 
 
 え?! そこ? ダメなの?
 別に良くね? むしろお前のそのフォローの必死さが自爆ってる気がするが。
 実際、言い方だけじゃなく、軽んじてるけど、なにかダメなのか?
 神なんて、ファンタジー世界じゃ俺達と同じ、ただの登場人物キャラクターの一人だろ。
 
 
「不遜な姿勢は嫌いじゃない。実力と意志が伴わなければただの愚か者だが」
 
 
 ガンバトルが何か意味の分からないことを言っている。
 不遜なのはお前だろ。これで嫌いだとか言い出したら爆笑もんだわ。
 容姿が似てるのなら、オージンは灰褐色の髪色ってことだ。
 瞳の色は……織物タペストリーからはわかんねぇな。
 ガンバトルは黒色だが、髪も黒いし参考にもならないだろう。
 ヨルダール家はヴァルキュリャ時代そのままって訳じゃないようだ。
 思考が似ているとしたら、オージンの性格を知らなきゃ話にならんだろ?
 だから聞いたんだ。
 誰が愚か者だ。お前か。マッチ以外で口にする奴初めて見たわ。
 
  
「オージンは偉大で崇高な神フィムブルチュールだよ、エルドフィン。ボケたつもりなんだろうけどタチ悪くスベってるよ。人間おれらは到底知ろうとしなくていいことだろ。って、真面目なツッコミしか入れられない」
 
 
 ガンバトルを気にしつつアセウスが言う。
 どうやら俺はボケてスベった。
 そういうことが良いらしい。
 
 
「激怒した狂気の主という話もある、だとしたらどうだ? ヨルダールは狂戦士たる一族ということになる」
 
 
 えっ!? それめっちゃやベーじゃん。
 まともに話が出来る気がしない。
 ヒステリー女とかぜってぇ無理だしっ!
 ヴァルキュリャはもちろん、こいつ・・・だって。
 なに? 突然スイッチ入ったりする訳?! 
 監獄部屋から解放どころか、出る時は死体とか……。
 
 嫌ぁな汗が額に滲み出るように感じた。
 手の甲で拭いながらガンバトルを目で盗み見る。
 心なしか口の端が笑っているような、いないような。
 どんだけアルカイック・スマイルよ。
 手の甲は何も拭うことなく乾いていて、そのことが余計額に見えない汗を滲ませる。
 
 ガンバトルは織物タペストリーの横の箪笥を開け、黒い布に包まれた何かを取り出した。
 俺達の前のサイドボードに乗せ、くるんでいる布を広げる。
  
  
「これはオージンから預かり受けた神の槍という話だ」
 
 
 古びた金属部品のようなものが姿を表した。
 いや、石塊いしくれといった方が適切か。 
 形状から槍の穂の部分かな、とは思う。
 腐食しているのか、形はいびつだ。
 歴史の資料集で見た旧石器時代の打製石器を思い出す。
 
 
「何か刻まれていますか?」
 
 
 まじまじと観察しながらアセウスが質問している。
 誰にかなんて名前を呼ばなくても分かる。ガンバトルにだ。 
 だが、遠慮がちに発せられた問いは、よすがない呟きのように虚しく消えていった。
 ちっっ、無視しやがったっっ、この野郎っ。
 ずいっ、とサイドボードの前に割って入り、俺も間近で見てみる。
 
 
「確かに……何か刻まれているような、埋め潰されてもいるような。文字、かな?」
 
 
 アセウスは神妙な顔で頷く。
 槍の先に文字を彫る?
 そんなこと聞いたことないな。
 素人考えでも武器の強度を落としそうだ。
 何のために? 実戦用ではないのか? でも、それにしては……
 
 
「飾り……じゃないよな?」
 
  
 自分の考えをアセウスに確認してみる。
 アセウスは俺の目を見たまま、ha han
 
 ……違う。
 
 違うと言ってるじゃないの、ho ho
 
 めろぉぉっっ
 今の流れでメロディつけられた奴いるか?! いたらすげぇわっ!
 謎の遺物を目の前に、緊張感ある真剣マジ場面シーンなんだよっ。
 80年代昭和歌謡曲はブッコみ過ぎだろっ。
 俺の親父は、あ、前世の方な、酔うと懐メロ・ジュークボックスになる男だった。
 その親父のせいで、俺の大脳には昭和歌謡が染み付いていた。
 前世では日常的なことだったが、謎なきっかけで回路がつながると脳内BGMや鼻唄で出てきてしまうのだ。
 だが、断れ! ここは出てこなくていいだろっ。
 マッチくんのせいだっ! 愚か者のせいだっ!
 いいよなイケメンはよっ、音痴でもモテモテアイドルなんてよっ。
 振った女なんて呼んでくるなよ!
 そっちは「歌上手いけど不幸」みたいに言われてるよ。
 井上陽水をあんな情感的に歌いこなす歌唱力だぞ、URアルティメットレア才能持ちだぞ!
 
 クラスメイトと行った初めてのカラオケで俺は泣いたよ。
 昭和マンとか80年代エイティとかはやし立てられて、二度と行くことはなかったよ。
 俺ぼっち化の一つの要因のはずだ。
 しょうがねぇじゃん、スマホ持ってなかったんだもん。
 音楽と言えば、親父の鼻唄とおかんのスマホ(あと学校の授業)くらいからしか入手できなかったんだもん。
 シーズン・イン・ザ・サン熱唱出来る小学生がいたら悪ぃのかよ。
 う゛ぁあーっっ
 なに黒歴史語ってるんだ、俺はっ!!
 文字数無駄にとってしまったじゃねぇか!
 話が大して進んでねぇぞっ!
  
 
  
 
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