ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
71 / 122
第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

王の町《コングスベル》

しおりを挟む
 薄青い空を白い帯状の雲がぐんぐん流れている。
 風を強く感じるのは、川沿いの高地を歩んでいるからではないらしい。
 歩きやすく整備された岩肌を踏みしめながら、俺はポンチョの襟口のひだに顔を埋めた。
 
 
「助かったよ、ヤクモ! これ・・なかったら、結構寒かった!」
 
 
 俺の呼び掛けに前方を歩く少年が振り向く。
 黒髪のおかっぱ頭にもこもこした頭巾風フード。
 フードの隙間から外ハネ癖のついた髪がぴょんぴょんと飛び出ている。
 
 
魔術師メイガスからお世話をうけたまわってもすからね~。コングスベルはここよりも高いところにあるもす。旅の方はみんな寒さにビックリするもすよ~」
 
 
 目を糸目にして、にゃはっと笑う。
 猫目あるある。
 なぜ奴らは笑う時「にゃはっ」という擬態語を背負うのか。
 同中おなちゅうにいたなぁ、あいつ、おっさんになっても「にゃはっ」て笑ってんのかなぁ。
 
 
「コングスベルは燃える石が採れるお山の町なのもす~。北と南を結ぶおっきな川が流れていて、人の行き来や物の運搬が便利だったんでしょね~。そこそこお山の石とかで栄えた、そこそこの町だったのもすが、先代領主様がやっちまったのもすっ」
 
 
 おっきな、のところで両手を広げたり、仕草がいちいち期待を裏切らない。
 軽やかな足取りで、こっちを向いたり、前に向き直ったり。
 ヤクモ少年は道案内をしながらツアーガイドもしてくれるようだ。
 
 コングスベルの北東、二~三日の距離のところに、タクミさんは魔法陣を設置していた。
 利用する顧客の多い人気地点ポイントなんだとさ。
 いつの頃からかそこに案内人ガイドが常駐していて、顧客がお世話になるもんだから、タクミさんも親しくなったという。
 それがこの元気で華奢な少年、ヤクモくんだ。
 現地ガイドが居た方が良いだろうと、タクミさんがコングスベルまでの同行を頼んだのだ。
 え? 案内ガイド料金どうなってんのかって?
 知らんっっ。
 
 
「もともと征服欲が強かったんですかねぇ、人を使って町を整備して、周囲に領地を拡大してはいたのもすが……なんと、他の町の領地にまで手を拡げてしまったのでもすっ。それまで仲良くご近所付き合いをしていたお隣さんのでもすよっ」
 
「もすかっ」
 
「もすっ」
 
 
 ノリで言ってみたけど、いや、おかしいだろ。
 もすってなんだよw
 しゃべりも動きもまるで二次元キャラだ。
 
 
「コングスベルはぶっちゃけそこそこの町なのもす~。燃える石とシャケくらいしか目玉がないもす、ぶっちゃけだけに。……」
 
 
 目をまんまるく見開いて期待いっぱい見つめてくる。
 俺を見つめたかと思うと、アセウスを見つめたり、おめめらんらんの満面の笑みをせわしなく向けてくる。
 何待ち? ねぇ、ヤクモくん、何待ち?
 ぶっちゃけ・・・シャケ・・・がダジャレってますとか
 笑い待ちぢゃないよね?
 いや、笑う奴いねぇだろこんなの。いくら待たれても俺は笑えねぇ。
 
 俺が戸惑っていると、ヤクモ少年の表情が瞬で変わった。
 俺とアセウスに向ける目が、価値のないものゴミクズを見るような冷たい半目になった。
 情緒……だいじょぶか?
 
 
「……お隣さんは逆にすっごい町だったのもす~。港があって交易で栄えてわっさわっさっすわ、人も物も豊かにそりゃあ溢れてたのもすっ。自然にも恵まれてて食物には困らないし、文化も進んでて、学問も盛んだったのもすよ~」
 
「え? そこを侵略しちゃったわけ? そんなすごい町を?」
 
「そうなのもすっ! 世界で一番の町だろうって、誰もが思う町だったのもすよ~。領主様はとってもお人柄の良い方で、何もかもがぴかぴか一番の町なのに、武力の類いはまるでなかったそうもす~」
 
「そんな町が……《冷たいグズル青布ブラール》は?」
 
 
 真面目な声でアセウスが聞く。
 ヤクモ、アセウス、俺の順に歩いているので、俺にはアセウスの表情はわからない。
 
 
「もちろん、いたもすっ。でも、必要最低限だったみたいなのしょ~、コングスベルの侵略の前では何の妨げにもならなかったとか~」
 
「で、どうなったよ?」
 
 
 俺の問いにヤクモは立ち止まり、俺達の方へ数歩足を戻した。
 深刻な顔を寄せ、声を潜める。
 
 
「『神の牧草地』と呼ばれ愛された町は消えたのもすっ。コングスベルに取り込まれ、領主様一族は行方知れずでもすっ」
 
「まじか……」
 
 
 アセウスは言葉も出ないらしい。
 まぁ、そうだろな。
 なんだかんだこの世界の、
 というか、アセウスやエルドフィンの周りの世界の人間達・・・は平和だ。
 人間同士でそんな血生臭いこと――――。
 普通は引くだろ、俺もばり引いてる。
 
 
他人ひとのものを奪うために人間同士で戦うなんて、時代遅れ過ぎて誰も彼もが理解しがたいのもしょ~。人間達ひとびとの敵はもう長いこと魔物モンスターだけだったもすからねっ。形は残っていても、人間ひと人間ひとを支配なんてものは風化してるのもすっ。だから、多くの人間ひと侵略それを目撃したのに、誰一人として語ろうとする者はいないのもすっ。まだ一世代も経っていない最近の話もすよっ」
 
 
 ヤクモは大きな身振り手振りの末に拳を握り締めた。
 もう声の大きさも戻っていて、熱く演説する政治家みたいだよ。
 正義感があふれちゃう奴なの?
 建前ポーズを頑張る奴なの?
 どっちも俺はお近づきになりたくない奴もすなぁーっ。
 
 俺は「多くの人間ひと」って奴の方だ。 
 見ざる聞かざる言わざる。
 やらかし・・・・なかったこと・・・・・・にする・・・のが鉄板。
 そこはこの世界も同じらしいな。
 ヤクモがいなかったら知らずに訪ねてた訳だ。
 知れて良かったのか。
 知らない方が良かったのか。
 
 
「『神の牧草地』の恩恵ちからで、そこそこ・・・・の町は急速に潤ってどぅわんどぅわんっすわっ。沈黙した目撃者達の精一杯の皮肉だったんでしょね~。町はそれまでとは違う名で呼ばれ、それがそのまま現在いまの町の名になったのもすっ、『王の町コングスベル』と」
 
 エルドフィンの記憶を探す限り、この世界には王様っつーのはいない。
 領主様による地方分権だ。
 
 しょっぱなから王様きどり・・・が相手かよ。
 
 俺は黙ったままのアセウスの背中に、心の中でそう呟いた。
 
 
 
 
  
 ―――――――――――――――――――
 【冒険を共にするにゃはキャラ】
 ヤクモ
 【冒険を共にするイケメン】
 戦乙女ゴンドゥルの形代でエイケン家の神の血継承者 アセウス
 【冒険の協力者イケメン】
 ローセンダールの魔術師 タクミ
 ソルベルグ家当主 カルホフディ
 【冒険のアイテム】
 アセウスの魔剣
 青い塊
 黒い石の腕鎖ブレスレット(シグルの監視石付き)
 イーヴル・コア(右手首に内蔵)
 【冒険の目的地】
 コングスベル
 【冒険の協力者ヴァルキュリャ】
 エイケン家 ゴンドゥル
 ランドヴィーク家 通称ソグン
 ソルベルグ家 通称シグル(ドリーヴァ) 
 
 
  
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...