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第一部ヴァルキュリャ編 第一章 ベルゲン
宴のまえ
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俺は空気の読めない、協調性のない、ひねくれ野郎らしい。
ごくたまに口を開けば、どこかズレていて、皆からスルーされる。
そう自覚するようになってから、学生時代は周りに合わせて、皆と同じことを言うようにしてた。
そうすれば一人浮くことはない。
賢い処世術だと思った。
皆と同じことを言う。
それは自分の意見がない、ということになる。
スルーされることはないが、その他大勢の同調発言として埋没する。
居ても居なくても変わりない。
卒業してからやっと気づいた。
そんな方法で輪の中にしがみついても、本質は変わりなかった。
俺が俺自身を隠しているから、皆の目に俺が映ることはない。
隠れぼっちってやつだ。
なにが正解なんだろう。
ずっと考えてしまう。
他人と一緒にいると考えて考えて
考えで頭が一杯になって疲れてしまう。
だから、一人の時間が好きだ。
自分を全部空っぽにして、ぼぉーっとする時間が俺には大切なんだ。
そー、れー、がーっっ!
視界のはしにチラチラと金色の光が横切る。うっぜぇっ!
久しぶりに一人時間を味わえると思っていたら、お邪魔虫がわいてきやがった!
入るぞ、と宣言して部屋に勝手に入ってきて、
暗い顔のまま居座ってボソボソと話しかけてくるっ
なに?! エルドフィンって一人の時間も持てないわけ?!
ちょっと前、俺のこと無視して二人で以心伝心してたんだし、
ジトレフんとこ行きゃあいいだろ!!
寝転がったままチラ、とアセウスを見ると、
俺の半無視も気に止めていないのか、ゆっくり言葉を続けている。
俺がソグンやシグルと会っている頃、アセウスは部屋に籠るカールローサに付き添っていたらしい。
といっても、部屋には入れて貰えなかったらしいが。
肩を落として、時折俺の方を窺う仕草が、大きな粗相をして飼い主に叱られている犬みたいだ。
………………しょぉぉーがねぇぇなぁあっっ
俺は起き上がりベッドの上であぐらをかいた。
話聞いてやるか。
聞くぐらいなら俺にだって出来るからな。
……アセウスの欲しい言葉を返したりは出来ねぇだろうけど。
なぁ? エルドフィン。
「泣いてるみたいだった……」
「……だろうな」
「そばにも居させて貰えなかった」
「……そりゃぁなぁ」
え?! なんだよ、お前ぇやるきあんのかってっ
めっちゃ一言一言相槌打ってがんばってんだろぉがっっ!
「ちゃんと話したかったんだけど、一言も返事がなくてさ」
「泣いてたら無理じゃね?」
「傷付けたくはなかったんだ」
「……しょうがねぇよ。カールローサはお前と一緒に来たがっていて、お前は連れてく気はサラサラねぇんだから。だろ?」
「……」
「まぁ、あんなお姫様、巻き込もうなんて気は俺でも起こらねぇけど……」
「だよな……」
アセウスのグジグジ発言が止まった。
気が済んだのか? いや、俺に話しても意味がないと悟ったのか。
こういう時どんな返事すればいいのかわからないの。
笑ったら良いかな? アスカにブッ飛ばされるよね。
適切な返しへのプレッシャーが無くなってホッとするのも束の間、
今度は沈黙が重い。
な、なんか話すかっ
「本音のとこどうなん? お前」
「……なにが?」
「カールローサは……本気みたいだけど」
なんだかその言葉を口にするのは恥ずかしい俺。
「……ローサのことは、好きだよ。伴侶になっても、仲良くやっていけると思う」
なんだ、その言い方わ。
「恋愛感情はないってことか?」
「……そういう普通の人間みたいなことは、考えないようにしてるから。今の俺に、そういうのに費やせる余裕はないだろ?」
そうきたか。
まぁ、それも、正論なんだろーが。
普通の人間みたいに生きられないって、なんだよ。
ファイナルファイトのコーディかよ。
え? 古い? 知らねぇ? CAPCOMの名作だぜ? 古さ関係ねぇだろ!
ベルスク尊し!! ベルスクを知らずにアクションゲームは語れない!!
俺は、納得いかなくてもやもやした。
(ファイナルファイトが古いかって話じゃねぇぞ、アセウスの話な。)
けど、一番もやもやしてぇのはアセウスなんだしなぁ。
当の本人がこうやって、文句も言わず、腐りもせず受け入れてるのに、自由お気楽な俺が不満面ってのもねぇ。のか。
ちゃんと抑えなきゃ。
そう葛藤を始めて、ふと、気がついた。
《Asseus》が普通の人間みたいに生きるためには、エイケン家の掟ってすごく都合が良かったんじゃねぇか?
偶像みたいな生き方に縛っているように見えて、政治的で、その実中身空っぽの生産性のねぇ、クソみてぇな掟。
だけど、それのおかげで《Asseus》が普通に生きて、結婚して、家庭を作って、普通に死ぬことができる。
大義の名のもとで。
陰で何か言う奴はいるかもしれないけど、誰にも邪魔されないし、同情や憐れみから擁護が生まれるかもしれない。
彼らの背負わされた罪からしたら、普通の人間と同じように平穏に人生を全うすることは、この上ない待遇……。あれ?
「ローサには、幸せになって欲しいと思う。でも、俺には、きっと出来ない」
俺が黙り込んだせいで、答えが不十分と誤解したのだろうか。
アセウスが再び口を開いた。
絞り出すようなその声に、俺はハッと我に返らされた。
そうそう、普通のことは考えられねぇって話だったよな。
「まぁな。俺も同じだから、無責任なこと出来ねぇっつーお前の気持ちは分かるな」
「え?」
「早いとこ魔物倒して普通の人間に戻ろうな」
「――エルドフィンっっ」
「?? ん? なに? なんか違った?」
アセウスが変な表情をしている。
やらかしたらしい。
だから、俺は気の利いたことは言えないんだってっ。
こーゆー時、エルドフィンだったらどんな言葉を返しているんだろう。
なんなんだよ……、すげぇ悔しい。
「……いや……。なぁ、エルドフィン。俺、今日の宴席では飲んでみようかな」
「ん?」
「お酒。酔うまでどのくらい飲むのかとか、酔った後どうなるのか知る良い機会だし」
「はぁ?! ……まぁ、好きにしろよ」
恋愛経験値が低すぎて、アセウスのカールローサへの本音が分からなかった俺は、もしかしたら飲みたい気分なのかもな、なんて余計な気を遣った。
「エルドフィンもな?」
「ふぁっ?」
「まともに飲んだことないんだから、一人でなんてそう飲めないよ。つきあうだろ?一蓮托生だもんな」
アセウスは子どもみたいな顔で嬉しそうに笑った。
酒を飲むのがそんなに嬉しいのか。
まぁ、高校の時に隠れて宅飲みをしてた同級生は確かに嬉しそうだったな。
それへの憧れもちょっとはあった。
だけど、俺を頷かせたのは贖罪。
ベルゲンに来てから、エルドフィンを追いやった引け目を感じることが多かった俺に、その笑顔を断ることは出来なかった。
ごくたまに口を開けば、どこかズレていて、皆からスルーされる。
そう自覚するようになってから、学生時代は周りに合わせて、皆と同じことを言うようにしてた。
そうすれば一人浮くことはない。
賢い処世術だと思った。
皆と同じことを言う。
それは自分の意見がない、ということになる。
スルーされることはないが、その他大勢の同調発言として埋没する。
居ても居なくても変わりない。
卒業してからやっと気づいた。
そんな方法で輪の中にしがみついても、本質は変わりなかった。
俺が俺自身を隠しているから、皆の目に俺が映ることはない。
隠れぼっちってやつだ。
なにが正解なんだろう。
ずっと考えてしまう。
他人と一緒にいると考えて考えて
考えで頭が一杯になって疲れてしまう。
だから、一人の時間が好きだ。
自分を全部空っぽにして、ぼぉーっとする時間が俺には大切なんだ。
そー、れー、がーっっ!
視界のはしにチラチラと金色の光が横切る。うっぜぇっ!
久しぶりに一人時間を味わえると思っていたら、お邪魔虫がわいてきやがった!
入るぞ、と宣言して部屋に勝手に入ってきて、
暗い顔のまま居座ってボソボソと話しかけてくるっ
なに?! エルドフィンって一人の時間も持てないわけ?!
ちょっと前、俺のこと無視して二人で以心伝心してたんだし、
ジトレフんとこ行きゃあいいだろ!!
寝転がったままチラ、とアセウスを見ると、
俺の半無視も気に止めていないのか、ゆっくり言葉を続けている。
俺がソグンやシグルと会っている頃、アセウスは部屋に籠るカールローサに付き添っていたらしい。
といっても、部屋には入れて貰えなかったらしいが。
肩を落として、時折俺の方を窺う仕草が、大きな粗相をして飼い主に叱られている犬みたいだ。
………………しょぉぉーがねぇぇなぁあっっ
俺は起き上がりベッドの上であぐらをかいた。
話聞いてやるか。
聞くぐらいなら俺にだって出来るからな。
……アセウスの欲しい言葉を返したりは出来ねぇだろうけど。
なぁ? エルドフィン。
「泣いてるみたいだった……」
「……だろうな」
「そばにも居させて貰えなかった」
「……そりゃぁなぁ」
え?! なんだよ、お前ぇやるきあんのかってっ
めっちゃ一言一言相槌打ってがんばってんだろぉがっっ!
「ちゃんと話したかったんだけど、一言も返事がなくてさ」
「泣いてたら無理じゃね?」
「傷付けたくはなかったんだ」
「……しょうがねぇよ。カールローサはお前と一緒に来たがっていて、お前は連れてく気はサラサラねぇんだから。だろ?」
「……」
「まぁ、あんなお姫様、巻き込もうなんて気は俺でも起こらねぇけど……」
「だよな……」
アセウスのグジグジ発言が止まった。
気が済んだのか? いや、俺に話しても意味がないと悟ったのか。
こういう時どんな返事すればいいのかわからないの。
笑ったら良いかな? アスカにブッ飛ばされるよね。
適切な返しへのプレッシャーが無くなってホッとするのも束の間、
今度は沈黙が重い。
な、なんか話すかっ
「本音のとこどうなん? お前」
「……なにが?」
「カールローサは……本気みたいだけど」
なんだかその言葉を口にするのは恥ずかしい俺。
「……ローサのことは、好きだよ。伴侶になっても、仲良くやっていけると思う」
なんだ、その言い方わ。
「恋愛感情はないってことか?」
「……そういう普通の人間みたいなことは、考えないようにしてるから。今の俺に、そういうのに費やせる余裕はないだろ?」
そうきたか。
まぁ、それも、正論なんだろーが。
普通の人間みたいに生きられないって、なんだよ。
ファイナルファイトのコーディかよ。
え? 古い? 知らねぇ? CAPCOMの名作だぜ? 古さ関係ねぇだろ!
ベルスク尊し!! ベルスクを知らずにアクションゲームは語れない!!
俺は、納得いかなくてもやもやした。
(ファイナルファイトが古いかって話じゃねぇぞ、アセウスの話な。)
けど、一番もやもやしてぇのはアセウスなんだしなぁ。
当の本人がこうやって、文句も言わず、腐りもせず受け入れてるのに、自由お気楽な俺が不満面ってのもねぇ。のか。
ちゃんと抑えなきゃ。
そう葛藤を始めて、ふと、気がついた。
《Asseus》が普通の人間みたいに生きるためには、エイケン家の掟ってすごく都合が良かったんじゃねぇか?
偶像みたいな生き方に縛っているように見えて、政治的で、その実中身空っぽの生産性のねぇ、クソみてぇな掟。
だけど、それのおかげで《Asseus》が普通に生きて、結婚して、家庭を作って、普通に死ぬことができる。
大義の名のもとで。
陰で何か言う奴はいるかもしれないけど、誰にも邪魔されないし、同情や憐れみから擁護が生まれるかもしれない。
彼らの背負わされた罪からしたら、普通の人間と同じように平穏に人生を全うすることは、この上ない待遇……。あれ?
「ローサには、幸せになって欲しいと思う。でも、俺には、きっと出来ない」
俺が黙り込んだせいで、答えが不十分と誤解したのだろうか。
アセウスが再び口を開いた。
絞り出すようなその声に、俺はハッと我に返らされた。
そうそう、普通のことは考えられねぇって話だったよな。
「まぁな。俺も同じだから、無責任なこと出来ねぇっつーお前の気持ちは分かるな」
「え?」
「早いとこ魔物倒して普通の人間に戻ろうな」
「――エルドフィンっっ」
「?? ん? なに? なんか違った?」
アセウスが変な表情をしている。
やらかしたらしい。
だから、俺は気の利いたことは言えないんだってっ。
こーゆー時、エルドフィンだったらどんな言葉を返しているんだろう。
なんなんだよ……、すげぇ悔しい。
「……いや……。なぁ、エルドフィン。俺、今日の宴席では飲んでみようかな」
「ん?」
「お酒。酔うまでどのくらい飲むのかとか、酔った後どうなるのか知る良い機会だし」
「はぁ?! ……まぁ、好きにしろよ」
恋愛経験値が低すぎて、アセウスのカールローサへの本音が分からなかった俺は、もしかしたら飲みたい気分なのかもな、なんて余計な気を遣った。
「エルドフィンもな?」
「ふぁっ?」
「まともに飲んだことないんだから、一人でなんてそう飲めないよ。つきあうだろ?一蓮托生だもんな」
アセウスは子どもみたいな顔で嬉しそうに笑った。
酒を飲むのがそんなに嬉しいのか。
まぁ、高校の時に隠れて宅飲みをしてた同級生は確かに嬉しそうだったな。
それへの憧れもちょっとはあった。
だけど、俺を頷かせたのは贖罪。
ベルゲンに来てから、エルドフィンを追いやった引け目を感じることが多かった俺に、その笑顔を断ることは出来なかった。
応援ありがとうございます!
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