ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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第一部ヴァルキュリャ編  第一章 ベルゲン

赤対黒

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 お前が消えて喜ぶ者にお前のオールをまかせるな――
 
 それは宙船そらふねっっ 俺が言ったのは黒船っ泥船っっ!
 俺、別に消えてないから! 誰も喜んでねーしっっ
 そんな経緯で、今、この真剣勝負が始まろうとしていた。
 
 始め反対していたはずのアセウスは、止めないのか? という俺の問いに答えなかった。
 無視か! リアル既読スルーか!
 違うもんねーっ、ツイートだもんねー、一人呟きだもんねっ
 反応なくても全然平気だもんっっ。泣
 その船を漕いでいけ お前の手で漕いでいけ~♪
 いやいや、違うんだって。
 強さとか実力とか関係ねー、連れてく気がハナからないんならこんな茶番……
 俺は湧き出る想いを風に託し、口をつぐんだ。
 ……叶えたかった何かを失う時に、偽の理由で欺かれるのは不幸だ。
 
 強い風に目を細めてやり過ごしながら、アセウスは中庭を見つめ続けていた。
 カールローサとジトレフが対峙してから数分が経っている。
 仕掛けるに仕掛けられないんだろ。
 ジトレフには隙なんてない。
 
 やっぱ無謀なんだよ、と俺のしびれがきれかけた頃、カールローサもだったみたいだ。
 彼女が動いてジトレフに斬りかかる。
 黒い光の弧に遮られたと思うと、視界全体を覆うように火花が散った。
 え……? 
 火花、じゃない。
 何だ、空中を舞う赤い細い煌めき。
 大量に、風に煽られ、火の粉のように散り散りに散って行く。
 
 赤い煌めきに目を奪われていると、視界に入り込んで来たアセウスが凄い勢いで駆けて行く。
 先程と変わらず立っているジトレフと、地に手をついているカールローサのもとへ。
 勝負あったか。
 一瞬だったな、と唾を飲み込む俺の傍らに、双子が揃って深刻な表情で迫って来ていた。
 
 
「「エルドフィン!! アセウスを――っ」」
 
 
 俺はハッとして頷き、慌てて走り出す。
 くっそ、めんどくせぇっ!
 アセウスは既にカールローサの所にたどり着いていて、話しかけるようにしゃがみこんでいる。
 頼むぜぇ、そのまま落ち着いてくれよ。
 カールローサの背を覗き込んだアセウスは、慌てた様子で何かを取り出し、抱き抱えるように彼女に触れた。
 そして、立ち上がるとそのままジトレフに掴みかかった。
 だぁぁーっからっっ、あのバカっ!!
 
 
「やり過ぎだっっ!!!!」
 
 
 アセウスの怒号が響く。
 何言ってんだよ、真剣勝負ったらそーゆーことだろ。
 ジトレフを怒るスジじゃねぇ。
 怒るなら許可したテメェ自身を怒れ。
 
 
ちゃんと・・・・やる・・って言ったじゃないか……」
 
「彼女はもう連れて行けとは言わない。……何が足りない?」
 
 
 ジトレフは大人しく胸ぐらを掴まれている。
 そのせいか、アセウスの声には既に理性の響きがあった。
 安心した俺は走る足を止め、息を整えながらゆっくりと二人に歩み寄って行く。
 
 
「傷付けて欲しくはなかった」
 
「……最小限におさえたつもりだ」
 
「必要があったって言うのか?」
 
 
 苦しげに歪むアセウスの表情が見えた。
 ジトレフを掴む手に再度力がこもるが、次の行動を起こす気配はない。
 俺は、手を地面についたまま、俯いて座り込んでいるカールローサを見る。
 長かった美しい巻き毛は、束ねられた所から少し下の辺りでいびつに切られていて、白いうなじがあらわになっていた。
 さっきアセウスが当てたと見られる布は、肩にずれ落ちて、「勝負の跡」を覆い隠すことなく見せていた。
 首を真横に走る赤い滲みは僅かながら太さを増していく。
 無意識に俺は顎周りを撫でていた。
 
 
「傷付かなければ学べぬ怖れもある」
 
 
 ベースギターのように言葉が響いた。
 ジトレフの答えは真理だ。
 そのうえ無抵抗で、相変わらずの無表情。
 アセウスの手から力が抜けていくのが見て分かった。
 我らが幼馴染みはそうバカではないようだった。
 俺は、ジトレフを掴むアセウスの手をほどき、アセウスの胸に押し当ててやる。
 
 
「ジトレフは……悪くねぇだろ。ここに・・・居る・・誰もが・・・分かってることだ。よな?」
 
 
 身体を強張らせて俯くアセウスの肩を掴むと、カールローサの方へ向かせて背を強く押した。
 
 
「八つ当たりなんてらしくねぇことしてないで、本来の相手にぶつけとけ」
 
 
 アセウスはしゃがみこんで、カールローサに声をかけるけれど、余り芳しい反応はないようだ。
 彼女はずっと俯いたままで、表情が見えない。身体は微動だにしない。
 なるほど。
 やり過ぎ・・・・、ね。
 俺は深く息を吐くと、ジトレフの方へ振り向いた。
 
 
「お前ほんと何考えてんのか分かんねー奴。アセウスこいつカールローサあのねぇちゃんも甘ちゃんだからさ、とりまお前は部屋戻ったら。一応、あちらの御家族には挨拶してさ」
 
「……そうする」
 
 
 数秒だろうか、やいばのような鋭い目線を俺に向けた後、ジトレフはソルベルグ家の面々が待つ東屋の方へと去って行った。
 
 なんだあれ?
 こっわーっ
 ぜってぇージトレフあいつと真剣勝負なんて無理っっ!
 ほんと、このねぇちゃん、どういうつもりだったんだろ。
 
 カールローサに向かい合うように、アセウスの横にしゃがみこんだ。
 傷の様子を尋ねると、アセウスがそっと当て布を離して傷口を見せてくれた。
 首の傷は大分浅そうだ。
 傷跡は残らなそうだし、残ったとしても髪で隠れる位置で、そんな気にすることもないだろう。
 髪は……あれだけを伸ばすには時間を要すだろう、でも、いずれは伸びる。
 この世界でも髪は女の命だったりするのか?
 だとしたら、感じ方に大きな齟齬があるだろうけど……
 カールローサの表情にはりついているのは、ショックや怒りではなく恐怖。そして絶望。
 目の前に大好きな男が自分を心配して熱く見つめてるっていうのに、目も合わせず、全身を震わせて固まっている。
 俺は再び深く息を吐いた。
 深く大きいため息だ。
 
 あのヤロー、薄皮一枚狙っときながら、さてはマジモンの殺気ぶち当てやがったな。
 
 無意識に左手がうなじを撫で、首が繋がってることを確認していた。
 
 
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