ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
49 / 122
第一部ヴァルキュリャ編  第一章 ベルゲン

黒船来襲

しおりを挟む
「……止めなくていいのかよ」
 
 
 強い風が時折吹き抜ける中庭を臨んで、俺は隣のアセウスに呟いた。
 中庭には一組の男女が向かい合って立っていた。
 束ねられた赤褐色の髪が風に揺れている。
 女が手にするのは大きな銀色の剣。
 猛々たけだけしい気迫を放つカールローサ・ソルベルグ。
 彼女が睨み付ける先には、ジトレフ・ランドヴィーク。
 兜鎧を着けず、黒い長剣を手にしただけの姿で、長い……3つに分ければ良かったかもm(_ _)mかに風を受けていた。
 カールローサの燃える炎のような闘志とは対照的に、ジトレフからは冷たい威圧感が漂っている。
 ホフディと父親と母親、長男と双子と俺とアセウス。
 観戦者ギャラリーは東屋の付近まで下がって、今始まろうとしている真剣勝負を見つめていた。
 
 ベルゲンに来て五日目の昼食時、アセウスは彼らを前に出立の意思を告げた。
 ホフディが事前に話していたんだろな、父母は少しも驚きを見せず、夜に宴席を設けると笑った。
 兄姉妹きょうだいたちは僅かに驚きを見せたが、予想の範疇ではあるんだろ。
 静かに微笑んで受け入れてた。
 ただ一人、カールローサを除いては。
 
 
「お願いがあるの。アセウス、お父様、お母様。足手まといにはならないと誓うわ。自分の身は自分で守ってみせる、絶対に迷惑はかけない。だから、私も一緒にベルゲンここを離れることを認めて貰えないかしら」
 
 
 広間が水を打ったように静まった。
 和やかだった空気が、小さな物音すら許さないかのように冷たくなる。
 長びくほどに重苦しさが強まるようだ。
 その沈黙を破ったのは、カーラクセルだった。
 
 
「ローサ……お前はもう大人だ。わしも、母上も、お前が望む生き方があるのなら、好きにすれば良いと思っている。誉れあるソルベルグの血を引く者として、このカーラクセルの娘として、お前が選んだ道であれば、例えそれが分不相応だとしても親として力になりたいと思う。だが、決めるのはアセウスだ。……アセウス、どうだろうか。娘の望みが叶うなら、どんな結果になろうとそなたを恨むことはないと誓う。妨げになることが有れば切り捨てても構わん。親バカと憐れまれることも覚悟の上だ。ローサを一緒に連れていってはくれぬだろうか?」
 
 
 慈愛に満ちた表情のカーラクセルに、ローサは今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。
 その感動的な光景に、俺は露骨に眉根を寄せていた。
 
 父娘おやこ揃って、卑怯な真似しやがってっっ
 アセウスが一番弱い・・・・ところを攻めてきやがった。
 居酒屋のお通しぐらいに断りづらいじゃねぇかっっ。
 え? お通しって断れねぇだろって? 店によるんじゃね? 断ったこと、俺はある。
 
 
「出来ません」
 
 
 俺が心配して表情を伺うよりも早く、全ガチモードのアセウスが答えていた。
 少しも揺らいだ様子のないアセウスと、そっと項垂うなだれたカーラクセルにホッとする。
 なんかアセウスこいつ……ちょっとメンタル強くなった……?
 
 
「どうして?!」
 
「危険なんだよ。みすみす巻き込むわけにはいかない」
 
「エルドフィンやジトレフはいるじゃない! 同じよ! 私だって彼らと同じように出来るわ!」
 
「ローサ、聞き分けのないことを……」
 
 
 正面と左隣でいきなりディベートがスタートしてしまった。
 授業じゃないから勝敗を決める審判ジャッジはいないけど、どーすんだこれ。
 俺は首振り人形みたいに、二人の顔を交互に追いかけた。
 
 
「確かに今はまだ及ばない、分かってる。でもジトレフに稽古をつけて貰って、足りないものも目指すレベルも分かったの。旅をしながらにはなってしまうけれど、今までよりも時間は使えるのだし、きっと私にも出来るわ! お願い輝く光ビョルドル! チャンスを頂戴!」
 
「ダメだ。答えは変わらない。……いつものように笑って送り出してよ、ローサ」
 
「嫌よ、どうしたら認めて貰えるの? ジトレフ! あなたからもアセウスに言って、私は十分に戦えるって」
 
 
 オイオイオイオイオイ。
 ジトレフにムチャ振りかよ。
 ジトレフだぞ? 一番ぇだろ。
 あいつじゃ、たとえ出したとしても助け船じゃなくて泥船だ。
 そこまでするのか?
 絶対に諦めないっっつー執念か!? ハンパねぇな。
 
 俺がこの流れにドン引きしていると、長男カーヴェルが静かにカールローサに声をかけた。
 
 
「ローサ。もう、諦めなさい」
 
「嫌。全然納得出来ないんだもの。絶対迷惑かけないって覚悟があるのに、どうしてダメなの? そうだわ、ジトレフと私が真剣勝負をして、私が一太刀ひとたちでもジトレフに入れることが出来たら、嘘じゃないって認められるでしょう? それで決めましょう!」
 
 
 カーヴェルが心苦しそうにアセウスを見た時、既にアセウスは声を荒げていた。
 
 
「何馬鹿なことを言ってるんだ! そんな勝負ことはしない。危険だ」
 
「だから危険じゃないと証明するんじゃない」
 
 
 ダメだこの二人、不毛だ。
 俺はこのディベートは一生終わることはねぇと悟った。
 どちらかというとカールローサが理解不能で元凶だ。
 アセウスが込める意味とは違うんだろうけど、俺の頭も同じセリフでいっぱいだった。
 何馬鹿なこと言ってるんだ? この女は。
 ドン引きも引き過ぎて、目の前に居るのに空想ファンタジーの人物に見えてくる。
 まぁ、ファンタジーはファンタジーなんだけど(笑)。
 
 ジトレフと真剣勝負して、一太刀入れたら連れて行けって?
 これまでのちょいちょい強気な発言通り、マジですんごい手練れなんだろうか。
 ガチンコ勝負をしたことはねぇけど、ジトレフはかなり強い、と思う。
 一緒にオッダを出てから、隙さえあれば、ストイックな鍛練をしているし。
 普段から動きには無駄がねぇし、筋肉の付き方も強いやつのソレだ。
(と、エルドフィンの記憶の中の知識がそう言っていた、うん。)
 トロル戦の時も見てるから、間違いない。
 味方だったから、すげぇ! で済んだし、何度も助けられたけど、敵だったら危険なんてもんじゃない。
 今現在生きている人間対象で、王様ランキングならぬ戦士ランキングがあれば、上位だと思う。
 少なくとも、セウダとオッダの中では一番強いはず。
 
 そんなジトレフを? え?
 ワンチャン来たぁっみたいなノリで? ふぁっ?
 どっかズレてるか、頭お花畑のド天然なのか? 理解出来る奴がいるなら解説して欲しい。
 
 
「そういうことじゃない。ローサがどうとかって問題じゃないんだ。答えは変わらない、ダ・メ・だっ!!」
 
「何よそれ!」
 
「あー、あのぅ……」
 
 
 つい口を挟んでいた俺を、二人が凄い表情で振り返る。
 ひぇぇっ! 何を言うつもりなのか、気になるよなぁ、そりゃぁ……。
 俺はちらっとジトレフを見やってから、カールローサに視線を合わせた。
 アセウスの考えは知らなかったので静観していたんだけど、さっきの言葉でなんとなく分かった。
 連れてく気なんて、ちょっともないんだろ? なら……
 
「……さぁ、勝負なんて意味ないんですヨ。そもそもジトレフも」
 
 
 一緒には来ないんだから、そう言うつもりだった。
 そのつもりだったんだけど……
 
 
「私は構わない。アセウス殿、真剣勝負の結果で決着をつけては? カールローサ殿も納得出来る根拠ものを示された方が良いだろう」
 
 
 はぁっっっ?!?!
 黒船ジトレフ、警戒ゼロだった背後から低音ボイスで来襲。実際は右隣からだけど。
 漫画だったら絶対飛び出て血走っている目で、俺はジトレフを睨んだ。
 泥船か?! まさか助け船になるのか?! どっちっっ!
 いやいやっ。
 エルドフィン まだ はなしのとちゅう! 
 よこどり だんこきょひ!!
 
 
「いや、あのな、今俺が」
 
「ジトレフ……」
 
 
 だーかーらー最後まで喋らせろって!
 っって、アセウス?!
 俺の言葉を遮った声の主を見ると、何か訴える目をしたアセウスがこっちを見ていた。
 こっち・・・、俺を通り越して、後ろのジトレフをだ。
 
 
「いや、でも、……」
 
「大丈夫だ。ちゃんとやる・・・・・・
 
 
 あれ?
 俺は今度は、アセウスとジトレフを交互に見る首振り人形になった。
 
 
「……分かった。じゃあ、そうしよう。ローサ、最初で最後の譲歩だ。それでいいな」
 
 
 あれれ??
 ジトレフ 真剣勝負するます?
 アセウスとジトレフ、以心伝心?
 あー、うん、したのか?! 二人だけで?
 まだ話してるとちゅうだったのに エルドフィン くうき?!
 
 
「もちろんよ! 昼食の後、少し休んで準備ができたら、中庭ではっきりさせましょう! ありがとう、輝く光ビョルドル! ジトレフ!」
 
 
 あれれれれぇぇぇぇえ????
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

東海敝国仙肉説伝―とうかいへいこくせんじくせつでん―

かさ よいち
歴史・時代
17世紀後半の東アジア、清国へ使節として赴いていたとある小国の若き士族・朝明(チョウメイ)と己煥(ジーファン)は、帰りの船のなかで怪しげな肉の切り身をみつけた。 その肉の異様な気配に圧され、ふたりはつい口に含んでしまい…… 帰国後、日常の些細な違和感から、彼らは己の身体の変化に気付く――― ただの一士族の子息でしなかった彼らが、国の繁栄と滅亡に巻き込まれながら、仙肉の謎を探す三百余年の物語。 気が向いたときに更新。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...