ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
47 / 122
第一部ヴァルキュリャ編  第一章 ベルゲン

オージンの書

しおりを挟む
「……箱、ですね」
 
「中に何も入っていない、ただの木箱だよな」
 
 
 机の上に置かれた手のひらサイズの小さな木箱。
 それを慎重に開けたホフディは顔を曇らせ、目で訴えかけられたアセウスが、ホフディへの同意を言葉に表した。
 それは蓋開閉式の箱で、俺の側からは良くは見えない。
 ホフディが手にとって入念に調べた後、手渡されたアセウスも同様に、箱をひっくり返したりしながら隅々を確認していた。
 
 
「中身、空っぽなのか? どこかに持ってかれちまったってこと?」
 
「そんなことは……この部屋は代々の当主が管理していますし、書にもそのような記載は……」
 
 
 ホフディは取り返しのつかない過ちをしたかのような面持ちで、覚え書きに今一度目を走らせる。
 
 
「なかったよな。分かってるよ、ホフディ。持ち出されたとしたら、何かそれなりの事情があるはずだ。お前がそんな風に・・・・・感じることじゃないよ。この部屋も、この部屋の中にあるものも、ソルベルグ家当主のものだから、動かすことだってあるだろう。俺らは、善意で見せて貰ってるだけなんだし」
 
「……すみません。一番、核心に近付けそうなだったのに。こちらでも、調べてみます」
 
「謝るなって。でも、確かに期待度の高いお宝・・ではあったよな。書かれてる順番としても、その次の盾のレベルからいっても。もし、何か分かったら、また教えて貰えるか?」
 
「もちろんです!」
 
 
 ……美しい・・・関係だな。
 微笑み合う二人を見て、俺はそんなシャレにもならないようなことを思っていた。
 後から考えるとガラでもねぇし、爆死しそうなほど恥ずかしくなるケド。
 前話でコンプレックス発動して、一人でバトってたからかもな。
 漫画で見るみたいな、でも前世では一度たりとも見たことのないものだと思った。
 この世界は前世よりは澄んでいるのかもしれない。
 
 
「ホフディ、いろいろ良くしてくれてありがとう。ここで出来ることは一通りやり終えたと思うから、今日明日にでも発とうと思うんだけど」
 
 
 俺が木箱を手に観察していると、アセウスが言った。
 俺たちはまた椅子に座り、何とはなしに時間を潰していた。
 
 
「そうですね。では、また宴を催して送り出したいと思いますので、出発は明日にして頂けませんか?」
 
「そんな気を遣わないでって言いたいとこだけど、そうさせて貰うよ。ありがとう。アクセル達には昼食の時に話そうと思う」
 
「分かりました」
 
 
 木箱は金具を使わない木組技法を使っているようだった。
 細工が外観からは分からないから、指物さしものの技術が使われているんだろうか?
 箱根の秘密箱みたいに隠し部屋があるんじゃないかと探してみたのだが、見つからない。
 
 えぇ?! そこは前世で箱根細工にハマってて、自分でも作っちゃうようなマニアだったってぼっちにお似合いの設定が出てきて、見事に開けてみせてエルドフィンすげぇぞ! おおおって展開とこじゃねぇのかって?!
 ねぇよっ! 普通のぼっちで悪かったな!!
 幾何とかCADとか、は? て感じだ。エクセルだって、マクロ? 数式?
 表作って満足してるネ申エクセルユーザーだよ!!
 なんだ使えねぇなって言ったか、おいっ
 そんなレベルでも正社員で仕事やってけるんだよ、前世の日本ってお国はよぉ!
 そーゆーお前はどんな関数使えるって言うんだ?!
 言ってみろよぉぉ!
 
 
「しかし、案じてたのとは違い、魔物の襲撃はありませんでしたね」
 
「そうだな、ありがたい誤算だけど。覚悟の上とはいっても、正直親しい人に迷惑をかけるのはキツい」
 
 
 眉をしかめるアセウスに、あぁ、ホフディこいつこういうこと・・・・・・が言える相手だったんだ、と少し驚いて、安心もした。
 それならそれで、増える選択肢があるよな。
 俺は目を木箱に向けたまま、何気無さを装って口を開く。
 
 
「あれから……6日経つのか? あの襲撃が何かの間違いで、意外と神の子の一生は平和なのかも知れねぇなぁ。計画変えてみる? 俺は、ベルゲンここに定住して様子を見るんでも別にいいけど。ホフディも親父さん達も歓迎してくれるみたいだし、なぁ? リップサービスって訳じゃねぇんだろ?」
 
「もちろんですっっ!! 様子見でも、そのままずっとということになっても、姉上も喜びますし、私だってっっ」
 
 
 ホフディが声を高くして、かーわいい反応を見せる。
 こういうところは中学三年生っぽい。
 パタパタ尻尾が見えんぞ。
 俺はそんなホフディに笑顔で頷きながら、アセウスを見やった。
 
 
「いや、変更はしない。俺は、進むって決めたんだ」
 
 
 あらら、そうですか。
 全く、面倒臭い幼馴染みさんですこと。
 
 
「明日ここを出発してからは、ローセンダールを拠点にワルキューレ一族を訪問して回る。魔物の襲撃がないなら、ないうちに全てを手に入れておかないと。タクミさんの転移魔法も頼りだし、時間に追われて神経質になるつもりはないけど、無闇にのんびりすることもなくしたい。エルドフィンはそのつもりでよろしく」
 
「イエスマイろーどっ」
 
 
 半ガチモードで返しやがって。
 分かってるよ、もー。
 
 
「ということで、ホフディ、あの帯を俺に貸して貰えるだろうか?」
 
「もとよりそのつもりです。後半の四つは交流の記念品のようなもので、美術的価値しかないと思われますが……」
 
 
 ホフディが言葉を詰まらせる。
 あらら、また顔を曇らせちゃってら。
 あれか? 一つ目のあれか? それとも二つ目の方か??
 
 
「……ホフディ、無理をしようとしなくていい。友好を永く続けるためには、適度な距離感ってのが大事だと思う。踏み寄り過ぎても、かえってひずみが生まれたりするだけだ」
 
「……回る順番は決まっているのですか?」
 
「あぁ。タクミさんのお陰で位置関係を考慮しなくて済むからね、ワルキューレに選ばれた順に回っていこうと思う。一番目と三番目は飛ばすから、二番目から四番目、五番目って感じかな」
 
「……一ヵ所あたり、最低二日は欲しいな」
 
 
 木箱の音を確かめながら俺は口を挟む。
 出来ればヴァルキュリャ達にも接触して、協力を取りつけたい。
 そういや、6日もいたのに、ソルベルグ家のヴァルキュリャは見かけもしてないな。
 
 
「そうだね。歓迎されようとされなかろうと、最低二日はその地に滞在することにしよう」
 
「なぁ、ソルベルグ家のワルキューレさん、えっと、シグなんちゃらって」
 
「「シグルドリーヴァ」」
 
「あぁ、シグルドリーヴァ、さん。どんな人なの? 分かってること、知りたい、なぁ、なんとなく?」
 
 
 木箱の匂いを嗅いだりしつつ、これまた何気なさを装いながら言ってみる。
 シグルドリーヴァってのも、多分本名じゃなくて通り名なんだろ?
 昼飯の後、ソグンを呼び出して、接触出来ないか聞いてみるか。
 
 
「そうですね……整理のされていない、思いつくままにはなりますが、お話ししましょう。我らが『輝ける乙女』について」
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ
ファンタジー
 オタクの女子高校生だった美水空は知らないうちに異世界に着いてしまった。  ふと自分の姿を見たら何やら可愛らしい魔法少女の姿!  謎の服に謎の場所、どうしようもなく異世界迷子の空。  紆余曲折あり、何とか立ち直り人間の街についた空は吹っ切れて異世界を満喫することにする。  だけどこの世界は魔法が最弱の世界だった!  魔法使い(魔法少女)だからという理由で周りからあまりよく思われない空。  魔法使い(魔法少女)が強くないと思ったの?私は魔法で生きていく!という精神でこの異世界で生きていく!  これは可愛い魔法少女が異世界で暴れたり暴れなかったりする話である。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...