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第一部ヴァルキュリャ編 第一章 ベルゲン
開かずの部屋
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ソルベルグ家には当主他一部の者にしか知らされていない、「開かずの部屋」があるという。
俺らが飛ばされた「転移の部屋」と同じように、邸宅内の片隅の地下に、地形を利用して作られている。
アセウスからそう説明を受けた時はビックリした。
転移の部屋は、地下だったのか……。
あんなにしっかりした部屋を地下に作れんのか?
あと、部屋へと繋がっていたあの廊下。
他にも保秘目的の部屋が地下にあるって……。
外観だけじゃねぇ、立派に要塞だ。
そして、その「開かずの部屋」に、今俺はいる。
アセウスと、カルホフディと、二日酔いと。
「ソルベルグ家の役割に関わるものは、全てここに保管されています」
ソルベルグ家の役割、それはワルキューレやオージンの伝承を変えることなく後世へ伝え続けることだとか。
神話の時代に関わるものや記録は、その口伝を事実と示す証拠だ。
そりゃあもう大事で、絶対に失われてはならないものだ。
何年もの長い年月、この「開かずの部屋」に隠され、守られてきたという。
「私も全部を確認したことはありません。ちょうどいい機会なので、一緒に調べられたらと」
「本来なら、部外者の俺らは知ることも許されない部屋なんだろ? ……ありがとう、ホフディ」
アセウスの力のことや封印を解く方法が分かるかもしれない。
カルホフディが朝食の後、申し出てくれたらしい。
俺も一緒じゃないとって待たせてたっつーから、二日酔いの頭を抱えて早速来た。
「あまり期待は出来ませんが。物の状態で伝えられることを、言葉で伝えていないということはないでしょうし」
「封印を解く手がかりがなかったとしても、伝承のことをもっと詳しく知れる。随分な収穫だよ」
うんうん、そうだね。ってカルホフディ、お前も昨日酒飲んでたよな?
15歳の癖になんで平気なんだよ、二日酔いになってないんだよ。
酒の失敗は若者の専売特許じゃねぇのか?!
アセウスとの再会にご機嫌だったじゃねぇか、羽目外して飲み過ぎたりしろよ。
平然と飲み慣れてんじゃねぇよぉおっ!
部屋の中の大半は書物だった。
何かの皮に絵文字のようなものが書かれている。
「これは……ソルベルグ家のことかな?」
「そうですね、過去のソルベルグ家当主と、その統治下の出来事が書かれているようです」
「これって文字? 二人は読めんの?」
手近な書物を見ながら語らう二人に、俺はちょっとふてくされた。
そーいや、エルドフィンの記憶に、文字の読み書きはない。
「いや、読めない。文字は一通り学んだけど、セウダのとは結構違う。似てるところもあるから、なんとなく何について書かれてるかくらいは分かるけど」
「私が全部読みましょう。……この書物は、ソルベルグ家の記録がメインで神話伝承には触れてなさそうですが、どうしますか? 必要そうな部分だけ、私の判断で選別してもいいですが」
「どっちにしろ、読めない俺たちにすることはないんだ。一緒に聞くよ。ホフディは大変かもしれないけど、全部読んで貰ってもいいかな」
「わかりました」
部屋の真ん中に一畳もないかくらいの小ぶりな木の机がある。
アセウスはカルホフディと見ていた付近の書物を一塊、棚から机の上に移した。
さっさと椅子に身体を投げ出した俺を笑いながら、向かい側の椅子に腰掛ける。
そんな俺たちに、珍しいもんでも見るような一瞥をくれながら、カルホフディも椅子に座った。
書物が俺らにも見えるように机上に開げると、低めの穏やかな声で読み上げ始めた。
・
・
「しっかし面白いなぁ、ソルベルグ家の当主年代記」
何度かの休憩を挟んで、ニ、三十人分くらいを読み終えただろうか。
机の上にたまった書物を一旦片付けようということになった。
カルホフディが内容で整理して束にまとめ、アセウスが棚に積み移していく。
俺? 俺は二日酔いがマシになったのをいいことに、椅子を傾けてぷらぷら無駄口を叩いてる。
あ、二日酔イヤサの必需品、水瓶とコップを持ってきてたから、休憩の時みたいに、カルホフディに水をお勧めした! グッジョブだろ?
「その時の当主が自分で書くことになってるって話だけど、書いてある量も内容も全っ然違うんだもんなぁ。まぁー素っ気ねぇやつも居れば、そーゆー言葉少なな当主さんの分も~なんて丁寧に補足してくれてる饒舌なやつも居るし」
「人となりはにじみ出てんね。ホフディも書いたやつあるの?」
「ありますが……読みませんよ」
「えー? 読もうよー」
「この流れで読む奴いねぇだろ。どんだけよ、アセウスさん。あとさぁ、名前にカルとかカールとかつく奴多くね? 昨日の親族紹介の時にも気になったんだけど。何か意味があるんですか?」
「カールもカルも、これだよ」
アセウスが言いながら、カルホフディの見事な巻き毛を掴んで見せた。
「あぁ、巻き毛か」
「ソルベルグの家系はこの通り巻き毛が多いんです。だから、巻きが強いほど、鮮やかな赤色であるほど、強い血筋の証と誇りにしますし、名にも表すのです」
「血筋の象徴だから、当主の名前にも多くなるってわけだ。俺の『アセウス』みたいにさ、ソルベルグ家当主の意味で『カール・ソルベルグ』って総称もある、皆まとめて当主は『カール』。逆にさ、俺はカルホフディのことをホフディって呼んでるけど、身内が皆そういう呼び方をしてるからなんだ」
懐かしのスナック菓子みてえに言われてんぞ、当主様。
まったく、天然アセウスやってくれるわ。
二日酔いでなければ、スナック菓子のあの味が恋しくなってるところだ。
西日本でしか入手できないとか、絶対皆十代のうちに一度は食っとけよ。
「私たちにとって巻き毛は当然な部分でもありますから。私の父はカーラクセルという名なのですが、皆アクセルと呼んでいます」
「へぇー。アセウスも? 俺らも呼んでもいいわけ?」
「……昨日アクセルさんって呼んだら怒られたんで、アクセルって呼んではいるけど……」
「身内ではないので、エルドフィンが父をアクセルと呼ぶ訳にはいかないでしょう。私のことならホフディと呼んでも構いませんが」
「まぢ? ですか?」
「まぢ、ですね。とってつけたような敬語も要りません。私の方が年下なので」
カールウォーカーもといカルホフディは、クールな顔のまま答えた。
正直カルホフディって言いにくいし長いし、めんどかったんだよな。
「……そ? なら、お言葉に甘えるけど。ホフディってなんか意味あるの?」
あれ? 間がある。
見ると、カルホフディがアセウスと顔を見合わせていた。
アセウスがニヤッと笑い、ホフディが呆れたように俺を見た。
「……頭、です」
「巻き毛頭か。そのまんまじゃん」
俺は拍子抜けした感情を隠さずに声に出した。
ホフディは嫌気のさした顔で水を飲み干し、アセウスがその様子をニヤニヤと眺めていた。
ん? なんだ?
「そうですね、さぁ、次を読みましょう」
俺らが飛ばされた「転移の部屋」と同じように、邸宅内の片隅の地下に、地形を利用して作られている。
アセウスからそう説明を受けた時はビックリした。
転移の部屋は、地下だったのか……。
あんなにしっかりした部屋を地下に作れんのか?
あと、部屋へと繋がっていたあの廊下。
他にも保秘目的の部屋が地下にあるって……。
外観だけじゃねぇ、立派に要塞だ。
そして、その「開かずの部屋」に、今俺はいる。
アセウスと、カルホフディと、二日酔いと。
「ソルベルグ家の役割に関わるものは、全てここに保管されています」
ソルベルグ家の役割、それはワルキューレやオージンの伝承を変えることなく後世へ伝え続けることだとか。
神話の時代に関わるものや記録は、その口伝を事実と示す証拠だ。
そりゃあもう大事で、絶対に失われてはならないものだ。
何年もの長い年月、この「開かずの部屋」に隠され、守られてきたという。
「私も全部を確認したことはありません。ちょうどいい機会なので、一緒に調べられたらと」
「本来なら、部外者の俺らは知ることも許されない部屋なんだろ? ……ありがとう、ホフディ」
アセウスの力のことや封印を解く方法が分かるかもしれない。
カルホフディが朝食の後、申し出てくれたらしい。
俺も一緒じゃないとって待たせてたっつーから、二日酔いの頭を抱えて早速来た。
「あまり期待は出来ませんが。物の状態で伝えられることを、言葉で伝えていないということはないでしょうし」
「封印を解く手がかりがなかったとしても、伝承のことをもっと詳しく知れる。随分な収穫だよ」
うんうん、そうだね。ってカルホフディ、お前も昨日酒飲んでたよな?
15歳の癖になんで平気なんだよ、二日酔いになってないんだよ。
酒の失敗は若者の専売特許じゃねぇのか?!
アセウスとの再会にご機嫌だったじゃねぇか、羽目外して飲み過ぎたりしろよ。
平然と飲み慣れてんじゃねぇよぉおっ!
部屋の中の大半は書物だった。
何かの皮に絵文字のようなものが書かれている。
「これは……ソルベルグ家のことかな?」
「そうですね、過去のソルベルグ家当主と、その統治下の出来事が書かれているようです」
「これって文字? 二人は読めんの?」
手近な書物を見ながら語らう二人に、俺はちょっとふてくされた。
そーいや、エルドフィンの記憶に、文字の読み書きはない。
「いや、読めない。文字は一通り学んだけど、セウダのとは結構違う。似てるところもあるから、なんとなく何について書かれてるかくらいは分かるけど」
「私が全部読みましょう。……この書物は、ソルベルグ家の記録がメインで神話伝承には触れてなさそうですが、どうしますか? 必要そうな部分だけ、私の判断で選別してもいいですが」
「どっちにしろ、読めない俺たちにすることはないんだ。一緒に聞くよ。ホフディは大変かもしれないけど、全部読んで貰ってもいいかな」
「わかりました」
部屋の真ん中に一畳もないかくらいの小ぶりな木の机がある。
アセウスはカルホフディと見ていた付近の書物を一塊、棚から机の上に移した。
さっさと椅子に身体を投げ出した俺を笑いながら、向かい側の椅子に腰掛ける。
そんな俺たちに、珍しいもんでも見るような一瞥をくれながら、カルホフディも椅子に座った。
書物が俺らにも見えるように机上に開げると、低めの穏やかな声で読み上げ始めた。
・
・
「しっかし面白いなぁ、ソルベルグ家の当主年代記」
何度かの休憩を挟んで、ニ、三十人分くらいを読み終えただろうか。
机の上にたまった書物を一旦片付けようということになった。
カルホフディが内容で整理して束にまとめ、アセウスが棚に積み移していく。
俺? 俺は二日酔いがマシになったのをいいことに、椅子を傾けてぷらぷら無駄口を叩いてる。
あ、二日酔イヤサの必需品、水瓶とコップを持ってきてたから、休憩の時みたいに、カルホフディに水をお勧めした! グッジョブだろ?
「その時の当主が自分で書くことになってるって話だけど、書いてある量も内容も全っ然違うんだもんなぁ。まぁー素っ気ねぇやつも居れば、そーゆー言葉少なな当主さんの分も~なんて丁寧に補足してくれてる饒舌なやつも居るし」
「人となりはにじみ出てんね。ホフディも書いたやつあるの?」
「ありますが……読みませんよ」
「えー? 読もうよー」
「この流れで読む奴いねぇだろ。どんだけよ、アセウスさん。あとさぁ、名前にカルとかカールとかつく奴多くね? 昨日の親族紹介の時にも気になったんだけど。何か意味があるんですか?」
「カールもカルも、これだよ」
アセウスが言いながら、カルホフディの見事な巻き毛を掴んで見せた。
「あぁ、巻き毛か」
「ソルベルグの家系はこの通り巻き毛が多いんです。だから、巻きが強いほど、鮮やかな赤色であるほど、強い血筋の証と誇りにしますし、名にも表すのです」
「血筋の象徴だから、当主の名前にも多くなるってわけだ。俺の『アセウス』みたいにさ、ソルベルグ家当主の意味で『カール・ソルベルグ』って総称もある、皆まとめて当主は『カール』。逆にさ、俺はカルホフディのことをホフディって呼んでるけど、身内が皆そういう呼び方をしてるからなんだ」
懐かしのスナック菓子みてえに言われてんぞ、当主様。
まったく、天然アセウスやってくれるわ。
二日酔いでなければ、スナック菓子のあの味が恋しくなってるところだ。
西日本でしか入手できないとか、絶対皆十代のうちに一度は食っとけよ。
「私たちにとって巻き毛は当然な部分でもありますから。私の父はカーラクセルという名なのですが、皆アクセルと呼んでいます」
「へぇー。アセウスも? 俺らも呼んでもいいわけ?」
「……昨日アクセルさんって呼んだら怒られたんで、アクセルって呼んではいるけど……」
「身内ではないので、エルドフィンが父をアクセルと呼ぶ訳にはいかないでしょう。私のことならホフディと呼んでも構いませんが」
「まぢ? ですか?」
「まぢ、ですね。とってつけたような敬語も要りません。私の方が年下なので」
カールウォーカーもといカルホフディは、クールな顔のまま答えた。
正直カルホフディって言いにくいし長いし、めんどかったんだよな。
「……そ? なら、お言葉に甘えるけど。ホフディってなんか意味あるの?」
あれ? 間がある。
見ると、カルホフディがアセウスと顔を見合わせていた。
アセウスがニヤッと笑い、ホフディが呆れたように俺を見た。
「……頭、です」
「巻き毛頭か。そのまんまじゃん」
俺は拍子抜けした感情を隠さずに声に出した。
ホフディは嫌気のさした顔で水を飲み干し、アセウスがその様子をニヤニヤと眺めていた。
ん? なんだ?
「そうですね、さぁ、次を読みましょう」
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