ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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第一部ヴァルキュリャ編  第一章 ベルゲン

二日酔い

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 う゛゛……。
 
 鈍器に殴られたような痛みに気づくと、開けた目の先に漆喰の天井が見えた。
 
 ……ここは、どこで、しょうか……?
 
 ぐぅわんぐぅわんと頭が苦しんでいる。
 重くて怠くて、動く気にもならない身体から、毒のような排出物質が滲み出てるように感じる。
 
 あ゛ぁあ……、やっちまった…………。
 頭いてぇ。どたま痛ぇえ。
 うう゛~~。
 
 意を決して、そぉっと身体を起こすと、どうやらソルベルグ家のゲストルーム。
 俺用にと提供されていた部屋のベッドに寝ていたようだ。
 部屋には俺の他に誰もいない。
 思い出した、歓迎の晩餐会だ。
 そこで、まさかのビール(のような飲み物)が出たんだ。
 それで、俺はひたすら飲んで潰れたのだ。
 
 
「やっっっっっちまったぁぁぁ゛」
 
 
 強く拍動する重い頭を右手で支えながら、俺はよろよろと部屋のドアを開ける。
 ドアの先の視界に人の足が見えた。
 顔を確認しようと頭を上げるより早く、知っている声が聞こえた。
 
 
「お目覚めになりましたか? お身体の具合は、大丈夫ですか?」
 
 
 スニィオの声だ。
 昨日からずっと控えていてくれたのか。
 俺は顔を確認するのを諦めて、ドアを開けた目的を果たすことにした。
 
 
「水を……、水を貰えますか」
 
「部屋にご用意した分はお飲みですか? 飲み終えてしまったのであればすぐにお持ちします」
 
 
 スニィオは俺に手を貸しながら、部屋の書斎机へと促し座らせた。
 ほんとだ、机の上に水瓶とコップが置いてあった。
 スニィオが注いでくれた水をゴクゴクと飲み干す。
 その作業を何回か繰り返す。
 
 
「はぁぁ……、ありがとう、ございます……。スイマセンでした……。俺、夕食の途中から、記憶がなくて……」
 
「いえ、私たちも気がつかず失礼をいたしました。エルドフィン様は宴席の途中で寝てしまわれて、ジトレフ様がお部屋まで運んでくださったんです。ビールを少し飲み過ぎたというお話でしたが、お身体の具合は大丈夫ですか? 痛みや吐き気はありますか?」
 
「あー……大丈夫です、痛みは絶賛大放出中ですけど、ただの二日酔いですから」
 
 
 みっともなさで自嘲気味に言ったからだろうか。
 生真面目なスニィオは表情をちょっと和らげた。
 
 
「……お酒に酔い潰れたのが初めて、というわけではなさそうですね。それなら私たちも一安心です。新しいお水をお持ちしますので、ゆっくり部屋でお休みください。アセウス様たちには、私の方から、目を覚まされたことをお知らせしておきますので」
 
「ありがとうございます、今って……」
 
 
 窓の方を見ようと頭を動かしかけた俺の言葉をスニィオは先読みしたようだ。
 
 
「昼食後、一刻経ったか、というところです」
 
 
 てきぱきと部屋を後にしたスニィオを、俺は大きなため息で見送った。
 
 ……ほんと、すんません……。
 吐かなくて、まだ、良かった……。
 酒は飲んでも飲まれるな、って鉄則だろぉ?
 何やってんだよ俺は。
 …………………………………
 ………………
 でも……俺は……、飲まれて酔い潰れたかったんだよな……。
 
 胸の中に巣喰い始めていたヤバいもの・・も、アセトアルデヒドと一緒に分解されたのかもしれない。
 昨日とは絶対に違う心持が昨夜の酒のせいだとするなら、この酷い二日酔いの頭痛と気持ち悪さもありがたく感じてしまう。
 仕事を終えた、もう用済みのアセトアルデヒドちゃんを追い出すべく、俺はコップの水をあおった。
 ごめんな、散々利用するだけ利用して、気持ち良くさせて貰っておいて、用が済んだら手のひらを返すとかさ。
 勝手な男だよな。
 しかも、キミにあげるのはただの水だけ。
 なんの旨味も与えず小便おしっこで追い出すって酷い扱いにも程がある。
 まるで、若い看護師をつまみぐい不倫しまくってる、ケチ医者みてぇじゃねぇか。
 って、あれか。
 気持ち良い思いさせてくれるのは、アセトアルデヒドじゃなくてアルコールの方か。
 ダメだな……、おふざけも頭が回らねえしノリきれねぇ。
 
 考えてみろ、そもそも俺は、前世と身体が違うんじゃねぇか。
 18歳で、酒なんかまず飲んだことなくて、ウコンだって飲んでないんだぞ。
 前世のペースで飲んだらミステイクに決まってるじゃねぇか。
 そもそも18歳って飲酒が禁止されてる年じゃね?
 いや? 法改正でギリギリセーフか? (違います。成人年齢が18歳だけど、お酒は変わらず20歳からだよ~ by天の声)
 アセトアルデヒド脱水素酵素は、日本人は4割が弱いんだっけ。
 なら体質は強いはずか? いや、でもウコンは最強だからな。
 ウコンは最強だからな。大事なことだから二回言ったぞ。
 頭が冴えてるのか? 淀みなく思考の泉が湧いている。
 これは、真面目なことを考えた方が良いのかもしれない。
 
 タクミさん、ウコン持ってないかなぁ。
 二日酔いになっちまった後は、しじみオルニチンだったっけ。……しじみ、しみじみ。
 海水と淡水が混ざり合う汽水域とかゆーとこでしか採れないからベルゲンにはないか?
 待て、あっても味噌がないぞ。
 味噌汁が飲めないとしじみがあってもダメか。
 うぅっ! 無駄に味噌汁が恋しくなったぢゃねぇか!!
  
 二日酔いのしんどさで思考も崩壊してるらしい。
 絶望とともに、無心で、水を二杯ほど飲み干したところで、アセウスが現れ部屋に入ってきた。
 
 
「エルドフィン! 大丈夫か? 酔い潰れてずっと寝てたんだって?」
 
 
 配慮のない声ががんがんと頭に響く。
 心配よりも好奇心に満ちた顔。
 そーだよ、こいつは酒や酔いを知らねぇんだよな、確か。
 めんどくせぇから説明は端折はしょろ。
 
 
「なんとなく青白いかな、頭痛むのか? まだ辛そうだぞ」
 
 
 俺は、机に左肘を立てると、ぐらりと横に倒した重い頭を受け止めた。
 
 あ゛ーーーー 
 頭いてぇ。ぐぅわんぐぅわん止まねぇ。
 ほんと、ダりぃーーーー
 
 
「どんな気分? 俺に出来ることある? なぁ、遠慮しなくていいからっ」
 
「…………やけ……」
 
「え? 何っ?」
 
「囁けっ……。俺が……いいって言うまで……でけぇー声は出すなっっ」
 
 
 イライラしてる俺のそばに、椅子を持ってきてアセウスが座る。
 つーか……顔が嬉しそうなんだよっっ隠しもせず面白がりやがってっ。 
 
 
「エルドフィン、ソルベルグ家のこの屋敷に、秘密の部屋があるんだ」
 
 
 突然、大事な話をするみたいに、アセウスが声を潜めた。
 秘密の部屋?
 急に世界的ベストセラーファンタジー小説みが出てきたぞ。
 俺はアセウスの言葉を聞き漏らさないように耳をそばだてる。
 アセウスがニヤリと笑う。
 
 
「一緒に行こう!! ホフディが連れてってくれるって!!」
 
「お゛ぐっっっ、ぅう、あ゛ぁあ゛……っっつっ……!!」
 
 
 間近で大声を出されて、頭の中が揺れてるみたいに痛みが響く。
 ぐぅわんぐぅわんぐぅわんぐぅわんっ
 ズキズキズキズキズキズキズキズキ
 こっっのっ……やろぉォォっっ
 
 
「音が響くって本当なんだな! エルドフィンの反応、声で攻撃出来る魔法でも使ったみたいだった」
 
 
 頭を押さえながら睨みつける俺を、心配そうな顔で見つめ返す。
 いや、ぜってぇー違うだろ、そのリアクションッッ
 
 
「ちょっと試したのはゴメンな。体調落ち着くまでは休んで、例の部屋には良くなってから行こう。時間は心配いらないから。でも、不思議だなー、お酒って。酔うと気持ちいいんだろ?! なのに酔い過ぎると翌日体調悪くなるなんて。こんなチャンスなかなかないし、俺も一度酔い潰れるまで飲んでみようかなー?!」
 
 
 だー、かー、らーーっっ!
 でけぇー声は出すなっってっっ
 ……アバダ ケダブラっっっ!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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