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序章

ベルゲンの赤い輝き①

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 10メートル四方程の広い部屋。
 床には剥いだ樹が敷き詰められていて、
 そこに黒く魔法円が描かれている。
 照明は薄暗く、壁に幾つか据えられた松明が照らすだけ。
 石造りの部屋特有の、湿気のあるひやっとした空気。
 
 ゲームのダンジョンみたいだ。
 さながらここ・・はセーブポイント。
 
 周囲を観察しながら、俺はそんなことを考えていた。
 
 ゲームと違うことは、目の前に人が立っていること。
 魔法円の外、正面位置の壁側に、三人立っている。
 両脇の二人の男が素早い動きで魔法円の一部分の床木を外す。
 残された一人がゆっくり魔法円の中、俺らの方へ歩み寄ってきた。
 床木を壁に立て掛けた屈強な二人は、小柄な一人の両側へと戻る。
 着ている物で、三人の関係性はすぐに分かった。
 真ん中の小柄がこの・・の者で
 両脇の二人はその子分兼護衛役だろう。
 (絵面えづらがまんまロケット団だったわけっスよ。)
 
 
「ようこそお越しくださいました。ソルベルグ家当主、カール・ソルベルグと申します」
 
 
 体格や声から若さは明らかだった。少年当主だ。
 だが、堂々とした態度で礼節正しくお辞儀をしたその姿は、
 歴史ある一族の当主として、十分な威厳を漂わせていた。
 
 
「後ろに椅子が用意してあります。どうぞお掛けください」
 
 
 そう言われて振り向くと、後ろの壁際に椅子が三つ並んで置かれていた。
 俺たちは言われるがままに椅子に腰かけた。
 アセウスの動きに戸惑いが見られる。
 八年前まではこんな感じじゃあ無かったのかもしれない。
 
 
「えっと……、おま……あー、カルホフディ?」
 
「お久しぶりです」
 
「あ、お久しぶりです……。覚えてはいてくれてるんだ? 俺、アセウス。アセウス・エイケン。ほら、一緒に遊んだ……」
 
「貴方がエイケン家のアセウスだということはローセンダールから聞いています。当家にお越しになったご用件を伺いましょう」
 
「ご用件って……」
 
 
 けんもほろろってやつか……
 脳内からキジが飛び出て来て
 カルホフディの頭上を「ケーンッッ」と派手に鳴きながら羽ばたいている。
 アセウスはカルホフディの態度が変わるのを待ったみたいだけど
 キジが「ケーンッッ」「ケーンッッ」「ホロホロ」と煽るように騒ぎ続けただけだった。
 
 うるせぇっっっ
 シュパァーーーーンッッ ッッ
 
 脳内から構えた銃でキジを撃ち殺す!
 フッこれぞキジも鳴かずば撃たれまいってやつだな。
 
 
「……我々一族に伝わる伝承を全て詳しく教えてください」
 
「何故ですか? 貴方はエイケン家を捨てたのでは?」
 
 
 おーいっ、誰かきび団子持ってこーいっっ。
 それか孤高の山猫スナイパー呼んでこいっっ。
 お前ら聞かれたら答えてあげるが世の情けじゃなかったのかよ。
 ちっこい真ん中のぉっ
「なーんてニャ!」って言うならさっさとしてくれ?
 俺はアセウスをちらっと見る。
 アセウスは俺とジトレフに「心配ない」と軽く笑みを見せると、
 カルホフディに向き直って力強く答えた。
 
 
「そのことも含めて、カルホフディと二人で話したい」
 
「分かりました。両親が皆様に是非宿泊して欲しいと申しています。今日は晩餐をご一緒にと準備していますので、どうぞお泊まりください。お連れのお二人は先に部屋へご案内させます。一人ずつ世話人をつけますので、晩餐までご自由にお過ごしください」
 
 カルホフディが合図すると、護衛の男一人が部屋の外へ行く。
 扉の向こう側に控えていたらしい男と共に戻ってくると、俺とジトレフを部屋の外へと連れ出した。
 
 「あなたはエイケン家を捨てたのでは」
 そーゆーことになってるのか。
 そりゃ、仕方ねぇよな……。
 
 俺の気持ちと同じように暗澹とした石造りの狭い廊下が続く。
 まだそんな時間ではないはずだが、薄暗く松明の灯りが頼りだった。
 しばらく歩いて、重厚な扉を通り抜けると、明るく開放的な建物が続いていた。
 一角にある並びの部屋へ案内される。
 
 
「私達は扉の外に控えておりますので、何か有りましたらお声掛けください」
 
 
 ジトレフの部屋の前に立った、護衛役から転身したムキムキの男に比べて、
 随分と華奢な体つきの青年が俺の世話人らしかった。 
 まぁ……悔しいけど順当ですわな。 
 
 
「ジトレフ……アセウスが来るまで、適当に休ませて貰うわー」
 
「了解した」
 
 
 俺はさっさか部屋に入ると大きなベッドに腰掛けた。
 肩から荷物を下ろしながら見回した部屋は、なかなかに上等だった。
 俺は部屋の中から世話人を呼んでみた。
 
 
「はい、何か?」
 
 
 頼り無さそうな世話人が数歩、部屋へ入ってきた。
 
 
「俺はエルドフィン・ヤール。貴方の名前は?」
 
「……スニィオです」
 
 
 色の白い彼は怪訝な顔で答えた。
 ですよねー(棒)。
 っでもっ!! 小説や漫画だと結構鉄板なんだよぉーっ!
 初対面の人とか敵兵とか懐柔するのに名前聞くのってっっ
 えぇーっあるよねぇっ? めっちゃテンプレであるよねぇっっ
 俺の使える魔法もんっったら、前世の知識しかねぇんだもんつ。
 検討はずれだってなんだって、ダメ元で片っ端からやるんだっ
 挫けねぇぞっっ(←既に挫け済み)
 
 
「スニィオさん、……」
 
「はい?」
 
 
 で。……こういう時って、何言ったらいいんだっけ……。(汗)
 
 
「俺も、アセウスも、ソルベルグ家の敵じゃないから。アセウスはソルベルグ家のこと、親しい親戚みたいに思ってるし」
 (←ジトレフはまったく数に入っていないご様子)
 
「?? はい。ホフディ様も先代も、皆さんのことを歓迎していますよ。アセウス様は旧知の友ですから」
 
 
 スニィオはニッコリ笑った。
 駄々っ子を諭すような笑顔だ。
 …………なんか失敗しミスったっっ
 お、俺は挫けね(以下略)
 
 
「なら良かったデス。昼寝するから放っといて」
 
 
 スニィオを部屋から追い払って、俺はベッドに横になった。
 あー、ハズい、消えたい。
 そりゃそうだよな。
 この部屋、この待遇、歓迎されてるわな。
 雰囲気険しかったのはあの部屋・・・・でだけか。
 ……通過儀礼・・・・か。
 アセウス、頑張れよ。
 
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