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序章

オージンの乙女①

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 さっき見えたものを落ち着いて頭の中で整理する。
 考え過ぎだ、大丈夫、きっと……
 もう一度ゆっくりとドアを開けて、そっと中を覗き見る。
 ほら、全然だいじょーぶじゃねーか。
 俺はそっと室内に入ると、後ろ手にドアを閉めた。
 
 部屋の半分がベッド、みたいな狭い寝るだけのための部屋。
 ベッドの上に大の字になって寝るジトレフ。
 そのそばに、座り込んで顔を覗き込んでいる美少女。
 
 アセウスが変なこと言いやがるから……(あっち・・・も分隊長)
 髪を垂らして顔を寄せてるところが真っ先に目に入ったから……
 情事の最中かと一瞬びっくりしちゃいましたよっっ!!!!
(過敏DTな俺かわいいっ! って言うしかないっっ)
 なんのこたぁない、二人とも・・・・服も鎧も身につけてるじゃねーか。
(糠喜びすみませんねっ DT妄想補正デフォなんですよ……)
 
 俺はベッドに近寄りながらそっと声をかけた。
 
 
「あの……あなたは?」
 
 
 色白の小さい顔が驚いたようにこっちを向いた。
 ジトレフに似た切れ長の綺麗な目が、驚きで丸みを帯び可愛らしく輝いた。
 黒曜石みたいな綺麗なストレートの黒髪は胸辺りまで長く伸びていて、
 たわんで撫でていたジトレフの身体からサラサラと流れ、浮いた。
 薄いピンク色の衣。
 その上の鎧はゴンドゥルのよりはグレー味が強いアイスブルー。
 その中に収められたスレンダーな身体は、黒髪とともに日本のアイドルを思い起こさせた。
 
 ばり可愛かわワルキューレたん……
 ゴンドゥルと……同類なんだろうか……
 
 
「貴方は、私が見えるのですか?」
 
 
 綺麗な高い声だ。話し方まで普通だから、ますます親しみがわく。
 そのせいだと思う。俺はかなり大胆になっていた。
 近くに寄ると、彼女が半透明にうっすら光っているのが分かった。
 実体ではなさそうだったから、触って確かめようと腕に手を伸ばした。
 つぷっ……俺の指先は彼女の腕を通り抜けて入ってしまう。
 が、
 ぞわぞわと身体全体に彼女の中に・・入っていくような変な感覚が伝わってきた。
 ヤバいっッッ! ヤバいんぢゃないかコレはっッッ……!!!!
 俺は慌てて手を引っ込める。
 彼女・・と擦れる感触が肌表面を刺激する。
 彼女の表情もなんだか凄くエ〓ピー〓っっ!! 止メテッっ!!
 この感触や表情ほかを描写したら18禁になってしまう!! ダメだ!! (なぜ?)
 ここはスルーでお願いしますっ (だから何故?)
 スルーでいいんだってばっっ! (え? 分かんない、皆さんお待ちかねのSSサービスシーンじゃないの?)
 くどいっっ!! 強行突破じゃぁっっっ (お「見えますっ」え「見えますっ」
 
 
「見えますっっ! 触ろうとしてすみませんでしたっっ。実体はないんですねっ」
 
「……見える人間がいるなんて……それとも人間ではないのですか?」
 
 
 すごいことを言われたぞ(笑)。
 人間じゃなかったらなんだっつーんだ。
 
 
「人間ですよ。人間だと見えないのは、あなたが半神だから? あなたたち・・は、魔山の魔物モンスター殲滅せんめつしかけたワルキューレなんですよね?」
 
 
 かぐや姫みたいなあどけない彼女の表情が、険しいものになった。
 知ってる、この嫌悪感を帯びた表情。
 大丈夫だ、俺は変態ではない、と伝えなければ。
 
 
「何百年も前の話みたいだけど、神話として伝わっていますよ。魔物モンスターと戦う人間の味方をした、オージンの娘たちのこと……。教えてくださいっ、何故あと少しというところで、ヴァルハラに還ってしまったんですか? あなたたちは……オージンは、本当は?」
 
 
 アセウスに祖先の話を聞いた時から、ずっと気になっていたんだ。
 ゴンドゥルとだと、魔物モンスターやらなんやらでまともに会話する間がないから、チャンスだった。
 知りたい、その時・・・何があったのか。
 そして、何が今に繋がっているのか・・・・・・・・・・
 雑兵モブではなくてチート勇者するなら、俺はこの世界にも優位に立たなきゃなんねぇ。
 
 そう考えたのは(変態……ちがうだろっ!) 傲慢だったんだろうか。
 
 気づいた時には、俺は床に倒れこんでいた。
 ベッドの上に立ち上がったワルキューレかのじょから心臓に槍の先を突き付けられていた。
 とっさにかばったらしい左手には、ヒリヒリする痛みと共に赤い血が滲んでいる。
 
 キ……、キレテナク・・ナァーイッッ
 えぇーんっ! 俺の嫌いな、刃物で切れた痛みだよぉぉ
 会社辞めたい理由にもなったヒリヒリ痛だぉ
 もっと早くにコ□ナ社会だったらあんな思いしなくて済んだのによぉっっ、て
 実体ないんじゃねぇのかよ……っ
 
 立ち上がった彼女は、あどけなくて小さい顔とは対照的に背が高かった。
 170センチはゆうにあるんじゃねーか?
 小さな顔も相まってアイドルというよりファッションモデルだ。
 
 
「私たちは全知全能の神オージンに選ばれし乙女。オージンの人間への愛の証であり、信頼の証であり、人間のオージンへの崇拝の証でもあるのです。貴方は人間だと言いましたが、人間の神ヴェラチュールオージンを疑う人間など、この世界に存在するある必要はありません」
 
 
 分かった……
 質問に答える気ないのと、敵意買ったってことは分かったっっ
 なにっ? ワルキューレって気短かなの?!
 ゴンドゥルといいっって、うわっ
 ちょっと待てって待っっ
 
 
「《sverð náð》」
  
 
 無機質な声が聞こえたかと思うと、突き付けられた槍に爆発的な魔力が集まる。
 
 キィィィィンッッ
 
 研ぎ清まされた魔力は空気を鳴らすのか、と
 絶体絶命の状況にどこか他人事のような俺がいた。
 
 槍の先が眩く閃光した。
 
 俺、もう死ぬのか――――――
 
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