ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
6 / 122
序章

北へ①

しおりを挟む
 「昨夜はありがとうございました。この近辺の住民一同からのささやかなお礼です!」
 
 魔物モンスター襲来の翌朝、俺とアセウスはテーブルいっぱいに並べられたご馳走の前に座らせられていた。
 イーヴル・アイを倒したのとほぼ同じ頃、町を襲っていた魔物モンスターは一斉に姿を消した。
 まるで指示に従っている・・・・・・・・かのような統率のとれた動きと、その時、魔物モンスターが出現した地域エリアに居た《冷たいグズル青布ブラール》が俺たちだけだったということから、町民たちは俺とアセウスが魔物を退けた、と思っている。
 昨夜の急襲は余程恐怖だったのだろう。
 
 
「量もだけど……内容がヤバいな……。これ、本当に無償で受けていいんだろうか、エルドフィ……」
 
「ぁむ? へあぃはばっぱぁっ、ぎゃふにはりぃだお」
 
「もう食ってんのかよ。なに言ってるか分かんねーよ(笑)」
 
(ん? 下手に支払ったら、逆に悪ぃだろ)
「ぅむんっ(ごっくん!) 生肉! ちゃんと俺とアセウスの分と二人分用意してくれてるから、1つずつな。ヤバいけどさ、せっかくのご馳走ふるまってくれてるんだ、出来立ての美味いうちに専念して味わおうぜ! 俺、しばらく簡易領域発動するっ」
 
 香ばしく焼けた皮に串を刺すと、プツリッッと何かが弾けるような感触。
 ぅわぁはっっ! その後、串の先は滑らかに肉の中に吸い込まれていき……ぁあぁ、なんて悩ましい。
 ゆっくり、そっと、口に運ぶ。
 炭の香りがする。
 んむんんぅ~っっ ドーパミンが大量分泌される……、いまっっ!!
 
 お前変なクスリでもやってんじゃねぇよな、大丈夫かって?
 俺はしっかり素面シラフだ。
 生肉は滅多に食べられない高級食材なのだ!
 この歯ごたえ、弾力、肉汁、うぅっ泣けてくるっ。
 
 朝からこんなに食べてる自分が驚きだった。
 年齢の違いもあるだろうけど現世の俺は、前世の俺とまるで違って健康的だ。
 前世の朝なんて何も食わないでエナジードリンクばっか飲んでた。
 ふ……と昔の記憶がよみがえって、俺は口に入れた肉を噛み締める。
 正直、肉の味が強すぎる、粗雑な調理だった。
 この世界は万事がそうだ。
 前世は美味いものがたくさんあった。
 コンビニでもスーパーでも、ファミレスでも穴場食堂でも。
 あの多様な味に比べたら、この肉なんて原始人だ。それでも、のみこむのが惜しいほどの旨さ・・なんだけど。
 現世こっちに来てから、あんなに美味いもんがあったのになんで食わなかったんだろうって良く思い出す。
 ……○ァミチキ食いてぇェェェェェ……
 
 
「気持ちの良い食べっぷりで、ありがとうございます」
 
 
 アセウスと競うようにご馳走をたいらげると、宿屋の主人は嬉しそうな顔で礼を言いながら食器を片付けた。
 こんなにご馳走になっておいて、お礼を言いたいのはこっちの方だ。
 
 
「とても美味しかったです。ご馳走さまでした」
 
 
 俺とアセウスはお礼がわりに、そう、心からの言葉を返した。
 思わぬ待遇を受け、連泊しづらくなってしまった俺達は、今日宿を発とう、と今後のことを話し合うことにする。だが、お互いに言葉がなかなか出てこない。
 そりゃそうだ、今後のことよりも、気になることがある。
 
 昨夜の魔物襲来あれはきっと、他の《冷たいグズル青布ブラール》を引き付けるための陽動だったと俺は思っている。撤退のタイミングからしたらそうだろ。
 つまり、狙いはアセウスだった。
 今まで3年旅をしていて、アセウスが特別魔物モンスターに狙われることなんてまるでなかったのに。
 これは一体どういうことか……
 俺には思い当たることが1つだけあった。
 
 
「なぁ、あの青い塊、まだ持ってるか?」
 
「あ? あぁ……」
 
 
 アセウスは懐から塊を取り出してテーブルの上に置いた。
 
 
「お前、あの夜もそうやって持っていた?」
 
「……俺があんな目にあったのはこれのせいだって?」
 
「わっかんねぇけど……可能性としては高くねぇ? 他に、お前何か心当たりある?」
 
 
 深刻な表情のアセウスと目が合った。
 
 …………
 
 ん??? まさか、あんのか?
 
 俺はアセウスの目を見返しながら言葉を待つ。
 
 …………
 
 え??? なに、そのちょっと照れたみたいな気まずそうな顔!
 こっちが恥ずかしくなるから止めてくれっっ
 
 
「何か、あるのか?! 俺が知らない……俺に言えないような恥ずかしいことで……っっ」
 
「えっ?!」
 
「あ! いや、俺に言えないようなことで……ほら、お前んち一応領主貴族だし、魔剣伝わってるくらいだし……」
 
 
 ヤバイヤバイ……
 
 言えないような恥ずかしい秘密ことを隠してるもんだから、つい、口をついてしまった。
 アセウスには、ゴンドゥルのことや契約のことは話していない。
 だって、いろいろ恥ずかしすぎるもんっ!
 え? 恥ずかしくね? 俺はすっげぇ恥ずかしいっっ
 
 
「実は……思い当たることがまったく無い訳じゃないんだ……ただ、現実味がないっていうか、代々伝えられたおとぎ話みたいなもので……」
 
 
 アセウスは組んだ両手に頭を落として、俺とは目を合わせないようにして答えた。
 
 
「どんな話?」
 
「……人間と魔物の戦いが始まったくらいの、昔の話」
 
「まぢか。えっっと……あれだろ? 昔々、知的好奇心の塊の巨人族、様が自分達に似せた生き物として人間を創って人間社会を造らせた。人間達とその神になったオージン様が面白おかしく暮らしていることを気に入らなかった巨人族が、南の魔山に魔物を呼び寄せて人間を滅ぼそうとした、てやつ」
 
「あぁ……だいぶエルドフィン解釈が入ってるけど、まぁ、それだ。……その時に人間対魔物の大戦争があって、決着がつかなかったから今に至る……て皆知ってる神話なんだけど……」
 
「うん」
 
 
 なんでこれが恥ずかしいんだろ。
 
 俺は不思議に思いながらアセウスを見た。
 アセウスは手で隠れてるのに、まだ足りないのか顔をあからさまに背けた。
 
 
「大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたものだって。神から貰った神器だって話なんだけど、祖先の名前も神の名前も、失われていて俺らは知らない」
 
「すげー。そんな話あったのか」
 
 
 俺は心底ビックリした。この18年そんなこと全然聞かなかった。
 そんな話あったら、雑兵モブではないだろ。
 
 
「わざわざ言わないよ。誰でも知ってる神話だぜ。『祖先が参加してた』って、誰だって言えそうなネタじゃないか」
 
 
 そう言われてみると、そうでもある。
 有名人の出身地の人が、俺同郷! 実家知ってる! とか言うのと同じくらいショボいかも。
 あぁ、それで恥ずかしかったのかな?
 
 
「でも、魔剣があるんだから、結構信憑性あるんじゃね? その言い伝え、もっと詳しいこと分かんねぇの? お前が狙われるような理由とかさ」
 
「ここから……北に行った町に、当時の仲間の一人って言われてる人の一族がいる。俺は親戚だって聞いたけど。その一族なら、もっと詳しいことを伝え聞いて知ってるかも」
 
「お! いるんだ! じゃあ、聞きに行くか?」
 
「え?!」
 
 
 アセウスは驚いた顔で俺を見た。
 
 
「え? ダメ? なんかマズい?」
 
「……いや、まずくはないけど……」
 
「もともと宛のないブラリ旅じゃん? また狙われてもビビるしさ、理由分かるなら聞きに行った方が良くね? まぁ……俺はまだ青い塊こいつがあやしいという疑いを失くしたわけじゃないけど」
 
「……つきあって、くれるのか?」
 
「え?」
 
「いや、ほら……俺んちの話だし……」
 
「なに言ってんだよ。一緒に町を出た3年前から俺たち一蓮托生って決めたじゃん。死ぬ時は別だけど、たぶんまだまだ死ななそうだし!?」
 
 俺は心配そうなアセウスにニカッと笑いかけた。
 チートなゴンドゥルがついてるんだ、余程のことがなければ死ぬこたない。
 危険がないと分かっていれば、どんな冒険だってむしろバッチコーイだ!!
 たぶん、(チートに裏づけられた)俺の力強さにアセウスも安心したんだろう。
 アセウスはいつもの明るい笑顔で言った。
 
 
「よし、じゃあ、次の目的地ぼうけんは北だ!」
 
 
 その時、黒い甲冑の一団が俺達の居る宿を取り囲んでいたことを、俺達はまだ知らなかった。
 
 
 
 
 ―――――――――――――――――――
 【冒険のアイテム】
 アセウスの魔剣
 青い塊
 【冒険を共にするイケメン】
 戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス
 【冒険の目的地】
 北
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき
ファンタジー
ある日、目を覚ましたレインは、別世界へ転生していた。 そこで出会った魔女:シェーラの元でこの世界のことを知る。 しかし、この世界へ転生した理由はレイン自身もシェーラもわからず、何故この世界に来てしまったのか、その理由を探す旅に出る。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...