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第2話

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一瞬、視界が暗転したかと思えば、俺の眼前には駅前の広場があり、頭上から光が指す。

ほぼ無音であった自室から急に駅前にきたことで、大勢の人間の声やら、信号機の音、車の排気音。それに伴う街特有の排気ガスやら、コンクリートの焼ける匂い、誰かの香水の匂いが一挙に俺の体を襲った。

あまりの情報量に頭痛がして、ふらつく体をなんとか立たせて、俺は駅、構内のトイレに入りすぐさま自分の姿を確認する。

吉井は白いシャツに、黒のジーンズ生地のボトムスを履き、少し大きめのショルダーバッグを肩から下げていた。

俺はトイレで一息つくと、再度、決戦の場に赴く。

待ち合わせ場所である駅前の広場の時計塔前から彼女を探す。

横断歩道が見えて、視界の端に滝川さんが立っていた。

こちらに気が付くと彼女が陽気な笑顔で手を振ってくる。

天使ここにあり。

俺は思わず、満面の笑顔で彼女に手を振り返す。

信号が変わったことで、彼女はトテテッとこちらに駆け寄ってくる。

「ごめん!待ったよね?」

「いやいや!全然待ってないよぉ!!」

満面の笑みで答える。
俺の心は跳ねて喜び、鼓動は走る。また声も思わず上擦った。

それを見た彼女は苦笑しながら、何故か俺の額に手を当てた。

マジか?

こんな急に接近されるのか?

吉井の野郎いつもこんな事されてるのか?ゆるせねぇ。

俺はこんな近くで彼女の顔を見たことがない。

あ、口の横に小さなほくろがあるんだなぁ。ってマジでやめてくれ。

心臓の鼓動が早くなって、自分でも分かるほど動揺して、幸せすぎて心がはち切れそうだ。それはこんな美人に顔を触れられたらおかしくもなるだろ。

「えっと………大丈夫?顔も赤いし風邪とか?なんかおかしいよ?」

あ…………。そうだ。今の俺って吉井じゃないか。

あいつが笑いながら手を振ったり、上擦った声ではしゃぐ姿が想像できない。

落ち着け俺。平常心だ。俺は今日、吉井の株を下げに来たのだから。はしゃぐ気持ちを後ろに手を回し、尻をつねることで落ち着かせる。

朴念仁、無口、仏頂面と。

「…………ご、ごほん。いや。大丈夫だ」

「そっか。本当に辛かったら今度にしよ。ほら、また赤くなってるよ」

「いや………大丈夫だ」

ん?なんか大丈夫だ、しか言えないロボットみたいになってるな。

それにさっき声が上擦っていたから喉がヒリヒリと痛む。こいつは腹を抱えて笑ったり、手を叩いてはしゃいだりしないのか?もっと喉を鍛えろよ、この唐変木めが。

「それで……滝川。今日はどういう予定だった?」

「え?映画観に行くんじゃないの?ほら。あの「千年の恋より花束を」ってタイトルの」

「ああ。そうだったな。行こう」

なんじゃ、その有名作のタイトルごちゃ混ぜみたいなやつは。俺なら断然「魔法少女サラナの激闘」を観るな。

しかしながら、その映画なら感想をネットで見たぞ。

よし、ここはいっちょかましてやるか。

 

 

 

俺たちは駅前のデパートに入っているシネマ10という映画館に向かった。

彼女は着いて早々、ジュースを買いたいと言ったが、俺は「ああ」とだけ相槌をうち、悲しそうな顔の彼女はそのまま一人で売店の列に並んでいた。

俺は物販を見に行き、そこでちゃんと「魔法少女」のパンフレットを購入しホクホク顔でカバンに入れたが、思えば、今は吉井であるので意味がないことに気がついた。
そして吉井の金で自分のオタクグッズを買ったことを詫びて、今度何かしら奢ってやるから安心しろよと念を送る。
そして、その時、初めて出来た彼女の話をしてやるぜ!

俺はすぐさまそのパンフレットをカバンに戻すと、ちょうど彼女がポップコーンとジュースを持って来た。

「今日は………ちょっと元気ない?」

「ああ。いや」

「そっか」

彼女は少し落ち込んだのか、なにか自らの靴の先をみながら、もじもじとしている。

館内には、バカでかいスクリーンがあり、今から観る恋愛映画の予告が流れていた。
涙ぐむヒロイン。雄叫びをあげる主人公。全米が泣いた!

「なあ。滝川」

「え、なに?」

「この映画な…………」

「う、うん」

「ヒロインが最後死にます」

「………え。えっとなんて?」

「だから……ヒロインが最後に死にます」

滝川さんは俺の暴露に何も言葉が出ないのか、口が半開きでヒューヒューと空気だけが通過している音がする。

どうだ。

今から見る映画のラストをいきなりばらされる。これこそまさに鬼畜の所業。

たまに「話のさわり」だけ教えて下さいと聞かれるが、実際教えてやると大体こういう顔をするんだよなぁ。

「えっと………ちょっと聞きたくはなかったかなぁ」

滝川さんは拗ねたように口元をとんがらせて、足をもじもじと動かす。
そして、「ごめん。じゃあ行こっか」と彼女が気を取り直し歩き出そうとする。

俺は心を鬼にして、再度ぶちこむ。

「ちょっと待て。滝川………」

「今度は何?」

「主人公も死にます」

「ブフォッ」

落ち込むだろうと思っていれば、滝川さんは何故かそこで耐え切れなくなったのか噴き出した。

そうして、すべてを知っている俺たちは死んだ顔で145分の映画を見終わった。二人して出てきた、「やっぱり死んだね」とつぶやいた時の彼女の無表情を俺は一生忘れない。
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