18 / 19
最終話
しおりを挟む
王は王城の隠し通路を抜け、市街地の裏路地にでたところで何者かに暗殺されていたようだ。
王城についても詳しいラングとゼーラが先に待ち伏せして殺したのだろう。
第一王女は未だ発見されていない。彼女はラングたちの猛攻を掻い潜り、他国へと逃げ果せたらしい。
そういった情報が私の耳に入るころにはもう次の新王が王座へと深く腰を下ろしていち。
魔王は地下の牢獄での出来事を赤裸々に語った後、この国に長居するつもりはないようで、看守長ステイル・ボールと共に魔王城へと帰っていった。
第三皇女が魔王城に同行したのは謎であったが。
逃げたフィーネとマルクスは市街地の宿屋で待っていたようだ。おおかた予想はつくが、やはりそういうことであった。
剣聖の一族であるロード家と王国とのつながりも前王が死んだことで、すべて断ち切られた。
ロード家の本家の人間は喧しく抗議していたが、私とラングが結託している旨を聞くと、途端に口をつぐんだ。そうしてゼーラが家長となるのにもあまり時間はかからなかったようだ。
彼はあまりそういった指揮をするタイプの人間ではなく、老後は国の南端に位置する島で奥さんと優雅な暮らしをと考えていたそうだが、その夢はいともたやすく潰えた。
彼の妻。所謂、ラングの母親は一度お目にしたが二人とは全く似ておらず、穏やかな雰囲気の女性で彼女を前にして笑うラングとゼーラの顔は酷似していた。
そうして、勇者が根をはった他国の協力もあって国の再建にはあまり時間はかからなかった。
しかし前よりも目に見えて豊かになったのは確かだ。
私が知らなかった地方の国民も賑わいを見せ、勇者は満足そうに己の職務を全うした。
勇者の自分の仕事がすべて終わると、彼は思い出したかのように言った。
「よし、明日から旅に行こう」
「え?」
「いや、用意はしていたんだ。もちろん、シエラも来るよな?」
「ああ。もうお前のそういうところには慣れた。それより結婚式はいつにするんだ?」
「ならば、それも明日にしよう」
「もう勝手にしてくれ」
私は適当な返事をしかぶりを振るう。
彼はにやけた面で意思を伝達する魔法を用いて魔王に連絡をとっていた。
そうして、国の端にある田舎町に住んでいるフィーネたちにも連絡を取ると、知人だけの小さな結婚式を挙げた。
20人ほどの小さな結婚式にはゼーラ、ラングも来ており、ラングの息子も来ていた。
結婚式は司会をラングが行ったことから、粛々と行われ、終わると式後のパーティーに主役である私たちの姿はない。
私と勇者はお互いの薬指に指輪を光らせ、すぐさま旅に出たのだ。
急いで行くことに意味はあるのか?パーティーくらい出ろよ?主役だろ?と野次が飛んできたが、勇者はにこやかに「それは、あんたらにくれてやるよ」と言い放った。
その先に何があるのかは分からないが、これからの旅はあの頃の魔王討伐の旅のような無機質な旅ではない。
どこか高揚感が沸き立つ、胸踊る旅である。
隣にいるこの人の夢を追う旅。
私は私の夢を見て、彼に随行する。
「後悔しないか?」
「馬鹿じゃないのか?それなら行かない」
「それもそうだな」
彼がまた嫌らしい笑みを浮かべたので、それを見た私も思わず笑みが零れる。
まずは結婚を控える魔王のもとに向かおう。
魔王は転移魔法で先に魔王城にいるだろうが私たちはゆっくりと色んな国を見て回る。
のらりくらりと旅をして、彼が帰る方法を探すのだ。
勿論、私は彼の故郷にも付いて行くつもりだし、彼もそのつもりだ。
私達がこれから先、離れることは二度とないだろう。
勇者は「さぁ。行こうか」と少年のように目を輝かせ、私は苦笑しながらもそれに付いて行く。
あの時と同じだ。
私は勇者に恋をしたのだ。
王城についても詳しいラングとゼーラが先に待ち伏せして殺したのだろう。
第一王女は未だ発見されていない。彼女はラングたちの猛攻を掻い潜り、他国へと逃げ果せたらしい。
そういった情報が私の耳に入るころにはもう次の新王が王座へと深く腰を下ろしていち。
魔王は地下の牢獄での出来事を赤裸々に語った後、この国に長居するつもりはないようで、看守長ステイル・ボールと共に魔王城へと帰っていった。
第三皇女が魔王城に同行したのは謎であったが。
逃げたフィーネとマルクスは市街地の宿屋で待っていたようだ。おおかた予想はつくが、やはりそういうことであった。
剣聖の一族であるロード家と王国とのつながりも前王が死んだことで、すべて断ち切られた。
ロード家の本家の人間は喧しく抗議していたが、私とラングが結託している旨を聞くと、途端に口をつぐんだ。そうしてゼーラが家長となるのにもあまり時間はかからなかったようだ。
彼はあまりそういった指揮をするタイプの人間ではなく、老後は国の南端に位置する島で奥さんと優雅な暮らしをと考えていたそうだが、その夢はいともたやすく潰えた。
彼の妻。所謂、ラングの母親は一度お目にしたが二人とは全く似ておらず、穏やかな雰囲気の女性で彼女を前にして笑うラングとゼーラの顔は酷似していた。
そうして、勇者が根をはった他国の協力もあって国の再建にはあまり時間はかからなかった。
しかし前よりも目に見えて豊かになったのは確かだ。
私が知らなかった地方の国民も賑わいを見せ、勇者は満足そうに己の職務を全うした。
勇者の自分の仕事がすべて終わると、彼は思い出したかのように言った。
「よし、明日から旅に行こう」
「え?」
「いや、用意はしていたんだ。もちろん、シエラも来るよな?」
「ああ。もうお前のそういうところには慣れた。それより結婚式はいつにするんだ?」
「ならば、それも明日にしよう」
「もう勝手にしてくれ」
私は適当な返事をしかぶりを振るう。
彼はにやけた面で意思を伝達する魔法を用いて魔王に連絡をとっていた。
そうして、国の端にある田舎町に住んでいるフィーネたちにも連絡を取ると、知人だけの小さな結婚式を挙げた。
20人ほどの小さな結婚式にはゼーラ、ラングも来ており、ラングの息子も来ていた。
結婚式は司会をラングが行ったことから、粛々と行われ、終わると式後のパーティーに主役である私たちの姿はない。
私と勇者はお互いの薬指に指輪を光らせ、すぐさま旅に出たのだ。
急いで行くことに意味はあるのか?パーティーくらい出ろよ?主役だろ?と野次が飛んできたが、勇者はにこやかに「それは、あんたらにくれてやるよ」と言い放った。
その先に何があるのかは分からないが、これからの旅はあの頃の魔王討伐の旅のような無機質な旅ではない。
どこか高揚感が沸き立つ、胸踊る旅である。
隣にいるこの人の夢を追う旅。
私は私の夢を見て、彼に随行する。
「後悔しないか?」
「馬鹿じゃないのか?それなら行かない」
「それもそうだな」
彼がまた嫌らしい笑みを浮かべたので、それを見た私も思わず笑みが零れる。
まずは結婚を控える魔王のもとに向かおう。
魔王は転移魔法で先に魔王城にいるだろうが私たちはゆっくりと色んな国を見て回る。
のらりくらりと旅をして、彼が帰る方法を探すのだ。
勿論、私は彼の故郷にも付いて行くつもりだし、彼もそのつもりだ。
私達がこれから先、離れることは二度とないだろう。
勇者は「さぁ。行こうか」と少年のように目を輝かせ、私は苦笑しながらもそれに付いて行く。
あの時と同じだ。
私は勇者に恋をしたのだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる