弱気な剣聖と強気な勇者

プーヤン

文字の大きさ
上 下
12 / 19

挿話①

しおりを挟む
私はラドニア国の第三皇女として生を受けた。

上に二人の姉を持ち、王である父と王城にて暮らしていた。姉といっても血のつながりはない。

母のことはその姿を見たことも声を聞いたこともなかった。

私が齢18になるころに、母は政略結婚の末に私を産み落としていたことが分かった。

父は母を愛してはおらず、母もまたしかり。

母は病に倒れて死んだと聞かされていたが定かではない。

噂では父によって邪魔者扱いされ、その末に始末されたとか。

しかし、私はそれに対しても何の感慨も抱かない。

始めから知らない人間のことをどうこう聞かされても何も感じないはずだからだ。しかし、その話を聞いて以降、私は言葉を失った。

私に存在価値はない。それを遠回しに聞かされたようなものだ。人として扱われないものに言葉は不要なのだ。

前妻の女性が死んだことで王は変わられたと誰かが言っていた。今の横暴かつ強欲な王を見ているとそれも嘘か誠か分からない。

上の二人の姉は父が愛した前妻の子であり、随分と可愛がられていたが、私は無口で無愛想なこともあり、その輪の中におらず、皆に煙たがられていたのだろう。

政治的利用価値を失った三女など使い道もないので、城で厄介者扱いされても仕方がないのだ。
どこかに売られないだけまだマシというものである。

私に話しかける人間はほとんどいなかった。

第二皇女以外は。

彼女は幼い私に寄り添い、道徳観、国政、魔法など様々なことを教えてくれた。
そのおかげか何も知らぬ私も見聞を広め、ついには魔法も少しだが取得した。姉は私が魔法を使うと、才能があるともてはやしたが、それも私にとっては使い道もなく、披露する場もないので不要なものだった。

しかしながら、彼女との会話以外に私はやることもないので、彼女が喜ぶならばと私は魔法を練習した。

そんな毎日が一生続くと思っていた。

しかし、彼女もまた王の駒として他国に嫁いでいった。

私は知っていた。

彼女が執事の男に恋をしていたことを。

第一皇女がそれを王に伝え、王の逆鱗に触れた彼女が他国に嫁がされたことを。

しかし、私は何も言えなかった。その結婚について肯定も否定の意思も表に出さず、ただ黙って見ていた。

私には言葉がないのだ。

私には存在価値がないのだから。

 

 

 

第一皇女である彼女は王のお気に入りだった。

魔法学校を首席で卒業し、その魔法の才能は国一とされ、王の側近となった。
また彼女の美貌も相まって、一部ではあれは実の娘ながら王を誑かしていると噂が立ったが、それを口にした人間は三日も経たぬうちに姿を消した。

第二皇女が他国に出て行った後は、今まで彼女が諌めてくれていたからなのか、第一皇女は目に見えて、私に対する扱いが酷くなったが、私は何も言わず、彼女のいじめを耐えぬいた。

私は城にほぼ幽閉されているような状態であったが、ある日、使い道のない私に王はある提案をする。

こんな使い道のない私にも、ようやく必要とされる事案が発生したのだ。

そう。

五年前に召喚された勇者だ。

この勇者召喚も他国への脅威として国の駒を召喚されたに過ぎない。

しかし、他国の情勢が落ち着いてきたことで、勇者の存在が邪魔になったのだ。そこで魔王討伐隊にあてがい、勇者を排除しようと目論んだ。

勝手に召喚し、邪魔になったからといって追い出すのもどうかと思ったが、私はただその情報だけを聞かされていたので、他人事のように聞き流した。

しかし、勇者が魔王を討伐し無事帰ってくるという。

これでは、何か褒美を与えてやらねば王の体裁が悪くなる。

そこで私に白羽の矢が立った。 

城で邪魔な勇者と厄介者の私を結ばせて、果ては勇者を東部の辺境の地に飛ばし、そこの防衛にでも加えればすべてが上手くいくという考えだ。

私に選択肢はないので、私は王の命に従い、着たこともないドレスを身に纏って祝賀会に参加した。

その時、勇者を見て、思ったことはこの人は危ないとそう感じた。

今まで、危ない人間は幾度となく見てきた。王の失脚を考え、城に潜入した逆賊や、金目当ての盗賊だ。

勇者はそういった人間と同じ顔をしていた。彼の目にはそういった反旗を翻す思想が色濃く映っていた。

それが私の思い過ごしても、本当に彼がそう企てていようとも私は何も言わない。

私には言葉がないのだ。

いや。違う。嘘だ。

結局、話しても無駄であるため、私はこの城で言葉を発しないだけだ。すべての思考を放棄し、ただ時のまにまに流され生きていくのだ。それだけですべてが楽になる。

誰々の計略だの、政略結婚だのすべてどうでもいい。

私には生きる道も、物事を考える思考すら無意味だ。

ただ生きて、いつか死ぬときまで言葉を発さず、最後の最後に何か愚痴でも吐いてやろう。

「くそくらえ」

と。

私の眼前に映るは、死んだと聞かさせれていたはずの魔王。

王に牢獄を攻めてきた人間の排除を命令されたが、こんな邪気を纏った強者に私が出来ることなどたかが知れている。

私はまぁここらで私の人生も終わりだなと諦観の籠った眼で彼を見て、彼に魔法を行使する。

魔王がこちらに突っ込んでくるのを感じ、とりあえず火の玉でもぶつけてみるがびくともしない。

当たり前である。彼と私では強さのレベルが目に見えて違うのだ。

彼が握る黒い剣で斬り殺されるのだろうと身震いをしながらも、出来るならば一瞬で殺してくれないかなと念じてみる。

どうせ殺されるなら痛みを伴わない死の方が良い。

もう、彼の顔はすぐそこにある。凶悪な顔に、肌が粟立つほどの邪悪なオーラを纏った男が立っている。

そうして私はすべてを悟り静かに目を閉じた。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

処理中です...