6 / 19
第6話
しおりを挟む
「え?どういうこと?」
私が硬直し、部屋を見渡すと、ラング親子は気を遣ってなのか、手に持っていた麦酒が入ったグラスを静かにテーブルに置いた。
「ん?だからこの国を壊そうかなと」
勇者はまたも同じことを繰り返し、他の者もそれに同意したように言葉を発せず押し黙る。
私だけが部外者のように取り乱していた。
「えっと………意味がわからないんだが?」
「いや、魔王から聞いただろ?」
「いや、ただここに来いと言われて………そうだ!そんなことよりもなんで魔王が生きているんだ!?」
私は魔王を指さして、勇者に問う。
魔王はテーブルに置いてあるオードブルの盛り合わせの中からソーセージを一つ取り、パクリと食べて、「え?なんや?」とこれまた軽い口調で返事をする。
それを見た、ゼーラもあ、飲んでいいんだとすっ呆けた顔で麦酒をぐいっと飲み込んだ。
こちらがこれほど驚き、困惑しているというのにこの態度だからまるで私が間違っているような気になる。
いや、私は正しい。この場面を見て、納得できるものがいるだろうか?
否。そんな奴がいるなら連れてこい。
私は混乱し、「は?」「あ?」とまるでごろつきのような返答をしていると、魔王は説明する気になったのか、グラスを置き、こちらに居直る。
「えっと………ほら。勇者とやり合ってるときになんか勇者からこのラドニアって国が胡散臭いから一緒に壊さへんかって持ちかけられて、それで協力しよかなって。だからそもそもあの時、死んだんやなくて、死んだふりやな。狸寝入り的な?」
「は?」
「おいおい。魔王。その言葉この世界じゃ通じないから」
「お。せやな!はははは」
勇者と魔王は二人して謎の話をして笑い合う。
おかしい。
五年の歳月を共にし、この男を殺すために頑張ってきたのに、今では一緒に酒を囲んで笑い合っている。
意味が分からない。
「つまり、勝手に異世界なんてのに転移されて、右も左も分からない人間に選択肢もなしに魔王を討伐しろと脅す。拒めば、殺してまた新しい勇者を呼ぶっていうこの国に復讐しようかなってな」
勇者はこともなげに今までのことの顛末を告げる。
それに魔王が酒を飲みながら、口をはさむ。
「うわー大変やん。君、向こうでは普通に出世街道乗ってたんやろ?なにやったっけ?ほら、あれ。IT系やろ?」
「そうそう。それで家に帰ってたらいきなりだぜ?やばいだろ?」
「それはご愁傷様。俺も普通に働いてたら、急に前魔王に呼び出さて、そこから君が次の魔王や!て言われて魔王になったんやで?意味わからんやろ?」
「うわー。怠いな。むこうに家族とかいただろ?」
「ああ。それはでも一人暮らしやし、かまへんよ。心残りなんは始めたゲームとか、終わってないアニメとかあって悲しかったわ。俺はもう一生、結末が分からんのやなって」
「ああ。俺もドラマとか、自分がついたプロジェクトもほっぽってここに来たから心残りだ」
彼らはまるで旧友と会ったような雰囲気を出しながら、しみじみと会話を進める。
言っていることが分からないし、勇者がこんなに饒舌に話している姿を見たことがなかったので私は喉まで出かかっていた文句を飲み込んでしまう。
この状況について説明を要しているのは私のみで、他の勇者メンバーも毅然とした態度でこの不思議な夜会にすでに溶け込んでいた。
勇者は昔話に花を咲かせながらも、私が困惑している様子を見て、一旦話を切ると、「すまん、すまん」と手刀で空を切り、話を続ける。
「そうそう。話の続きだったな。えっとここに来たってことはシエラも参加ってことでいいな?」
「ん?えっと………まだ状況が把握しきれていないんだが?」
「そうだな……えっとまぁそれでこの国が胡散臭いなと思った俺はここの国に詳しい人間で俺を手伝ってくれそうな人間を探していたわけだ。
そうしたら、この国に不満を持っている人たちがいたからその人たちに色々裏で根回しをお願いしたわけ。それがそこのロード親子だな」
「そうですね。いや、勇者様に脅されるとは思ってもみませんでした。温厚で優しい方だと聞き及んでおりましたから。まぁ私共も勇者様も目的は一緒でしたので、そこから協力体制に入りましたが」
ラングは今までのような高慢な態度ではなく、侍女のようにおとなしく、下手にへりくだって話す。
そして、彼の話しているときの表情や、柔らかい物腰はやけに自然に見えた。
私はこの男のこんな姿を見たことがなかったし、見たくもなかった。
いや、彼が本当はこういった礼儀に重きを置いている人間であるのではないかと鑑みる時間も、心の余裕もあの頃の生きるのに精一杯であった私にはなかったのだ。
あの鬼教官もとい剣の師範であるミルバがラングにも心を許し、稽古をしているのを不思議に思っていたあの時の私が馬鹿に思えてくる。
今では勇者が前のラングのような高慢な話し方で、ラングが勇者のような丁寧な話し方なので入れ替わっていると言われても私は信じてしまうだろう。
私が硬直し、部屋を見渡すと、ラング親子は気を遣ってなのか、手に持っていた麦酒が入ったグラスを静かにテーブルに置いた。
「ん?だからこの国を壊そうかなと」
勇者はまたも同じことを繰り返し、他の者もそれに同意したように言葉を発せず押し黙る。
私だけが部外者のように取り乱していた。
「えっと………意味がわからないんだが?」
「いや、魔王から聞いただろ?」
「いや、ただここに来いと言われて………そうだ!そんなことよりもなんで魔王が生きているんだ!?」
私は魔王を指さして、勇者に問う。
魔王はテーブルに置いてあるオードブルの盛り合わせの中からソーセージを一つ取り、パクリと食べて、「え?なんや?」とこれまた軽い口調で返事をする。
それを見た、ゼーラもあ、飲んでいいんだとすっ呆けた顔で麦酒をぐいっと飲み込んだ。
こちらがこれほど驚き、困惑しているというのにこの態度だからまるで私が間違っているような気になる。
いや、私は正しい。この場面を見て、納得できるものがいるだろうか?
否。そんな奴がいるなら連れてこい。
私は混乱し、「は?」「あ?」とまるでごろつきのような返答をしていると、魔王は説明する気になったのか、グラスを置き、こちらに居直る。
「えっと………ほら。勇者とやり合ってるときになんか勇者からこのラドニアって国が胡散臭いから一緒に壊さへんかって持ちかけられて、それで協力しよかなって。だからそもそもあの時、死んだんやなくて、死んだふりやな。狸寝入り的な?」
「は?」
「おいおい。魔王。その言葉この世界じゃ通じないから」
「お。せやな!はははは」
勇者と魔王は二人して謎の話をして笑い合う。
おかしい。
五年の歳月を共にし、この男を殺すために頑張ってきたのに、今では一緒に酒を囲んで笑い合っている。
意味が分からない。
「つまり、勝手に異世界なんてのに転移されて、右も左も分からない人間に選択肢もなしに魔王を討伐しろと脅す。拒めば、殺してまた新しい勇者を呼ぶっていうこの国に復讐しようかなってな」
勇者はこともなげに今までのことの顛末を告げる。
それに魔王が酒を飲みながら、口をはさむ。
「うわー大変やん。君、向こうでは普通に出世街道乗ってたんやろ?なにやったっけ?ほら、あれ。IT系やろ?」
「そうそう。それで家に帰ってたらいきなりだぜ?やばいだろ?」
「それはご愁傷様。俺も普通に働いてたら、急に前魔王に呼び出さて、そこから君が次の魔王や!て言われて魔王になったんやで?意味わからんやろ?」
「うわー。怠いな。むこうに家族とかいただろ?」
「ああ。それはでも一人暮らしやし、かまへんよ。心残りなんは始めたゲームとか、終わってないアニメとかあって悲しかったわ。俺はもう一生、結末が分からんのやなって」
「ああ。俺もドラマとか、自分がついたプロジェクトもほっぽってここに来たから心残りだ」
彼らはまるで旧友と会ったような雰囲気を出しながら、しみじみと会話を進める。
言っていることが分からないし、勇者がこんなに饒舌に話している姿を見たことがなかったので私は喉まで出かかっていた文句を飲み込んでしまう。
この状況について説明を要しているのは私のみで、他の勇者メンバーも毅然とした態度でこの不思議な夜会にすでに溶け込んでいた。
勇者は昔話に花を咲かせながらも、私が困惑している様子を見て、一旦話を切ると、「すまん、すまん」と手刀で空を切り、話を続ける。
「そうそう。話の続きだったな。えっとここに来たってことはシエラも参加ってことでいいな?」
「ん?えっと………まだ状況が把握しきれていないんだが?」
「そうだな……えっとまぁそれでこの国が胡散臭いなと思った俺はここの国に詳しい人間で俺を手伝ってくれそうな人間を探していたわけだ。
そうしたら、この国に不満を持っている人たちがいたからその人たちに色々裏で根回しをお願いしたわけ。それがそこのロード親子だな」
「そうですね。いや、勇者様に脅されるとは思ってもみませんでした。温厚で優しい方だと聞き及んでおりましたから。まぁ私共も勇者様も目的は一緒でしたので、そこから協力体制に入りましたが」
ラングは今までのような高慢な態度ではなく、侍女のようにおとなしく、下手にへりくだって話す。
そして、彼の話しているときの表情や、柔らかい物腰はやけに自然に見えた。
私はこの男のこんな姿を見たことがなかったし、見たくもなかった。
いや、彼が本当はこういった礼儀に重きを置いている人間であるのではないかと鑑みる時間も、心の余裕もあの頃の生きるのに精一杯であった私にはなかったのだ。
あの鬼教官もとい剣の師範であるミルバがラングにも心を許し、稽古をしているのを不思議に思っていたあの時の私が馬鹿に思えてくる。
今では勇者が前のラングのような高慢な話し方で、ラングが勇者のような丁寧な話し方なので入れ替わっていると言われても私は信じてしまうだろう。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】金の国 銀の国 蛙の国―ガマ王太子に嫁がされた三女は蓮の花に囲まれ愛する旦那様と幸せに暮らす。
remo
恋愛
かつて文明大国の異名をとったボッチャリ国は、今やすっかり衰退し、廃棄物の処理に困る極貧小国になり果てていた。
窮地に陥った王は3人の娘を嫁がせる代わりに援助してくれる国を募る。
それはそれは美しいと評判の皇女たちに各国王子たちから求婚が殺到し、
気高く美しい長女アマリリスは金の国へ、可憐でたおやかな次女アネモネは銀の国へ嫁ぐことになった。
しかし、働き者でたくましいが器量の悪い三女アヤメは貰い手がなく、唯一引き取りを承諾したのは、巨大なガマガエルの妖怪が統べるという辺境にある蛙国。
ばあや一人を付き人に、沼地ばかりのじめじめした蛙国を訪れたアヤメは、
おどろおどろしいガマ獣人たちと暮らすことになるが、肝心のガマ王太子は決してアヤメに真の姿を見せようとはしないのだった。
【完結】ありがとうございました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる