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第3話
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私は王の命により、勇者パーティー、所謂、魔王討伐師団に入団が決定した。
そして、そこから一週間も経たぬうちに私たちは魔王討伐の旅に出るようだ。
いやに急な予定に、パーティの皆も訝しげに王の命を聞いていたが、勇者が首を縦に振れば私たちは同意する他ない。
その旅の前日に私の部屋にラングが訪れた。
いつもの彼ならば、私の都合など考えずにドアを蹴破り、また下劣な笑みを浮かべて勝手に入ってきていただろう。
しかし、この時のラングは私に今は都合はよろしいかと紳士のようにドア越しに伺いを立てていた。
やはり剣聖相手となれば、彼も体裁を取り繕ったりするのだろうか?
私は問答無用で彼を門前払いする。
どうせ彼の話なんて、メイドに来いだの禄でもないものに決まっているのだ。
しかしながら、ドア越しに見た彼はいつもの小者同然の下衆な笑い顔とは違う、何かに追われているのか焦燥感からくる、深刻な表情が少し心にひっかかった。
不可解に思いながらも私は勇者パーティーの一員として、この国を発った。
勇者は誰にでも優しく、物腰の柔らかな男であった。
彼は町で困っている人間がいれば、それがどんな身分の人間でも親身に相談に乗り、問題の解決を図った。
彼にとって異世界人は皆、同じらしく、自分に害を及ぼす者以外は等しく人間であると言った。
私ははじめ彼が苦手だった。
丁寧な話し方に、優しげな瞳、身勝手に異世界に一人送り込まれたのにも関わらず不平不満を吐かず、国のために働く男。一体、何を考えているのか分からない。
私なら異世界に勝手に呼びやがってと王を口汚く罵り、たかがあの程度の微々たる資金で何を討伐しろと言うのかと直談判に向かうだろう。
彼には身分も守るべきものも無いのだ。容易なことであろう。
しかし、勇者は王の依頼を快く同意し、この旅を始めたので私も魔法使いも僧侶もこの安上がりな上にリスキーな依頼を渋々受けるしかなかった。
魔王城に着くまで、私は同性の魔法使いであるフィーネとはよく話していたが、僧侶や勇者とは全く話したことはなかった。
しかし、一度だけ話したことがある。
ある町で、彼と私。僧侶と魔法使い。という組み合わせで、物資の調達を行ったことがあった。
その時、彼が日の光を透かして赤く光る私の髪を一言「綺麗ですね」とそう褒めた。
私に取り入ろうとするお見合い相手もよく同じ言葉を吐いていたが、彼の言葉は少しニュアンスが違った。
本当に驚いたように、ポロっと口から零れた様子だった。
そうして、私がその言葉に気が付くと、彼は今までの冷静な表情や、爽やかな笑顔でなく、何とも言えない苦笑を残し、「なんでもありません。買い物を続けましょう」とまた元の勇者の顔に戻った。
私はいつもなら、「どうも」と流しているが、彼のあの時の表情と言葉は何故か心に残った。
思えば、その瞬間だったのかもしれない。
あの程度のことで、私は心を動かされたのかもしれない。
彼はいつもならば見せないであろう、なんとも言えぬ、あのニヒルな笑みを私はもう一度見たかったのかもしれない。
私はそんな思い出に浸りながらも、魔王城の門を力強く開ける勇者の背中を見守った。
そして、そこから一週間も経たぬうちに私たちは魔王討伐の旅に出るようだ。
いやに急な予定に、パーティの皆も訝しげに王の命を聞いていたが、勇者が首を縦に振れば私たちは同意する他ない。
その旅の前日に私の部屋にラングが訪れた。
いつもの彼ならば、私の都合など考えずにドアを蹴破り、また下劣な笑みを浮かべて勝手に入ってきていただろう。
しかし、この時のラングは私に今は都合はよろしいかと紳士のようにドア越しに伺いを立てていた。
やはり剣聖相手となれば、彼も体裁を取り繕ったりするのだろうか?
私は問答無用で彼を門前払いする。
どうせ彼の話なんて、メイドに来いだの禄でもないものに決まっているのだ。
しかしながら、ドア越しに見た彼はいつもの小者同然の下衆な笑い顔とは違う、何かに追われているのか焦燥感からくる、深刻な表情が少し心にひっかかった。
不可解に思いながらも私は勇者パーティーの一員として、この国を発った。
勇者は誰にでも優しく、物腰の柔らかな男であった。
彼は町で困っている人間がいれば、それがどんな身分の人間でも親身に相談に乗り、問題の解決を図った。
彼にとって異世界人は皆、同じらしく、自分に害を及ぼす者以外は等しく人間であると言った。
私ははじめ彼が苦手だった。
丁寧な話し方に、優しげな瞳、身勝手に異世界に一人送り込まれたのにも関わらず不平不満を吐かず、国のために働く男。一体、何を考えているのか分からない。
私なら異世界に勝手に呼びやがってと王を口汚く罵り、たかがあの程度の微々たる資金で何を討伐しろと言うのかと直談判に向かうだろう。
彼には身分も守るべきものも無いのだ。容易なことであろう。
しかし、勇者は王の依頼を快く同意し、この旅を始めたので私も魔法使いも僧侶もこの安上がりな上にリスキーな依頼を渋々受けるしかなかった。
魔王城に着くまで、私は同性の魔法使いであるフィーネとはよく話していたが、僧侶や勇者とは全く話したことはなかった。
しかし、一度だけ話したことがある。
ある町で、彼と私。僧侶と魔法使い。という組み合わせで、物資の調達を行ったことがあった。
その時、彼が日の光を透かして赤く光る私の髪を一言「綺麗ですね」とそう褒めた。
私に取り入ろうとするお見合い相手もよく同じ言葉を吐いていたが、彼の言葉は少しニュアンスが違った。
本当に驚いたように、ポロっと口から零れた様子だった。
そうして、私がその言葉に気が付くと、彼は今までの冷静な表情や、爽やかな笑顔でなく、何とも言えない苦笑を残し、「なんでもありません。買い物を続けましょう」とまた元の勇者の顔に戻った。
私はいつもなら、「どうも」と流しているが、彼のあの時の表情と言葉は何故か心に残った。
思えば、その瞬間だったのかもしれない。
あの程度のことで、私は心を動かされたのかもしれない。
彼はいつもならば見せないであろう、なんとも言えぬ、あのニヒルな笑みを私はもう一度見たかったのかもしれない。
私はそんな思い出に浸りながらも、魔王城の門を力強く開ける勇者の背中を見守った。
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