旧校舎の闇子さん

プーヤン

文字の大きさ
上 下
3 / 18

第3話 学校の七不思議について

しおりを挟む
「あら。こんな朝早くから登校してくるなんて偉いじゃない。おはよう。亮介。」

「おはよう。冴子さん。いやあ、ちょっと早く起きちゃって。」

僕は朝七時に旧校舎にいた。

無論、先ほどの言葉は嘘である。

冴子さんに早く会いたかったのもそうだが、なにより登校時間に彼らに会いたくなかったのだ。

朝の旧校舎は放課後に比べて、日の光が差し込んでおり不気味な雰囲気を一切感じなかった。

冴子さんはいつもどおり、その綺麗な姿で僕を出迎えた。

僕は旧校舎の教室に入ると、机にカバンを置き、椅子に座った。

冴子さんは僕の隣の席に座ると、こちらを向き、例の件について話し始めた。

「最近、出張にも行ってないし、霊力が足りないのよ。」

「出張って?」

「貴方たちが普段通っている新校舎のことよ。たまに行って驚かしてるのよ。もちろん、放課後にしてるわよ。勉強を邪魔しないように気を使ってるのよ。」

「変なところに気を遣う幽霊だなぁ。って。冴子さん、ここから出られるの?新校舎来てるの?」

「何よ?驚いた顔して。そうね。学内だし移動可能よ。新校舎には月一回のペースで行っているわ。」

「なるほどぉ。じゃあ、新校舎に幽霊の知り合いとかいるんじゃないの?」

「何言ってるの?この学校にいる幽霊は私だけよ。」

冴子さんはあっけらかんとした表情で答える。

え?

確か、七不思議ということは七つ怪談があるわけだ。トイレの花子さんとか動く像とか。

また、冴子さんは出張と言って新校舎にたまに来ているという。

彼女の言うことが本当ならば、これはもしや…………。

「あれ…………。冴子さん。新校舎の女子トイレとか行ってない?」

「…………え?女子トイレ?…………なにを言ってるの!?女の子に対して失礼でしょ!」

「えっでも幽霊だし関係ないんじゃ。…………いやいや、そういう理由じゃなくて、人を驚かしに行ってない?」

「ああ、それは行ってたわね。トイレとか。後、校庭とか。」

「ああ。納得した。」

トイレの花子さんや動く像は冴子さんだったのか。後の七不思議と言えば、音楽室の怪奇現象と、放送室の幽霊に、廊下に現れる火の玉か。これで六つだが、もう一つは知らない。

「冴子さん、音楽室も来たことない?」

「あるわよ。旧校舎のピアノはもう撤去されたし、あるのもボロいのよ。だから、新校舎の調律済みのピアノを弾きに行ってるの。」

ああ、確定だ。

「他には?他にもあるでしょ?」

「何よ?他って?…………ああ、後、生前に放送室に入ったことなかったから、入って遊んだり、廊下でひとりボール遊びしたり?とか?」

「えらい幽霊生活満喫してますね。」

やっぱり全部、この人のことか。

七不思議の正体はほぼ全部、冴子さんのことだったのか。

「だって仕方ないでしょ?最近、だれも来ないし、こんな古い旧校舎に一人でいても楽しくないのよ。」

「まあ、それは仕方ないけども…………。冴子さん、七不思議扱いされてるの知ってるんでしょ?」

「風の噂で聞いたわね。まあ、バリエーションに富んでた方が受け取る側も楽しいでしょ?」

「なんのサービスなんだか…………。ん?」

なんだかガヤガヤと騒がしい。

外の喧騒が耳につく。

なんだ、もう登校時間か。

旧校舎の二階に移動して窓の外を見ると、他の生徒たちが登校している様が見える。

また、刻一刻と放課後への時間が近づいてくる。

憂鬱な気持ちで外を眺めていると、不意に耳元で声が聞こえる。

「もう、そんな時間なのね。」

「うわ!驚いた。急に後ろに立たないでよ。びっくりするじゃないか。」

「なによ。貴方どこの暗殺者よ。でも、驚きポイントいただきました。」

彼女はご満悦といった顔で、笑っていた。

そんな顔を見れば、不安も少しは薄れて、僕はため息をつきながらも新校舎に向かった。

 

 

 

「ア、ア、アア、ア、ア。」

放課後、例のごとく彼らに金をふんだくられて、顔に青あざを作りながらも、旧校舎に入ると、冴子さんが奇怪な声を上げていた。

そして、目は下瞼(したまぶた)に寄り、手もカタカタと揺れている。

これは確かに初めて目の当たりにしたら腰を抜かすだろう。

しかし、僕から見ればかわいい子の奇々怪々な行動である。知らない子がこんなことしていたら一目散に逃げ出すだろうが。

僕はそんな状態の冴子さんに恐る恐る声をかける。

「あ…………あの。冴子さん?どうしたの?」

「あ、来たわね。亮介。今、怖い顔の練習中なのよ。」

冴子さんはこちらに振り向くと、普段の顔に戻り、エッヘンとふんぞり返る。

「ん?どうしたの?その顔。そういえば、前もそんなフウに青あざ作ってたわね。」

「いやあ、これは体育の時に転んじゃって。」

「そう。そうなんだ。」

「うん。」

これは知られたくなかった。

普段の僕の姿を彼女に知られるのが怖かったのだ。

いじめられっ子で、いつも殴られているという自分の恥ずかしい部分を彼女に知られるのはどうにも耐えられるものではない。

僕のことを知らない彼女だからこそ、僕は友達になれたのかもしれない。

しかし、友達に隠し事をしているというのは少し罪悪感を覚える。

僕は幽霊の彼女にただ甘えているだけなのかもしれない。

そんな彼女は心配そうに僕の痣を見ている。

「まあ、大丈夫だから。そんなに痛くもないしね。それより、さっきの練習ってなんなの?目をすごいひん剥いてたけど。」

「ああ、こないだ新校舎を徘徊中に女子たちの話を聞いていてね。ほら、あの井戸から出るタイプの幽霊の話。呪いのビデオみたら襲ってくるやつよ。あの子は目を下に寄せて異常性を演出しているのよ。ならば私も便乗して、同じ手法でやろうと思って、こないだ新校舎のトイレで試したのよ。すると、もうそれは最大級の恐怖を感じたわけよ。その驚かした女の子は号泣して上からも下からも涙を流してたけど、トイレだしまあいいかと。」

「朝方、女の子にトイレの話をするなんて非常識みたいなこと言ってた人とは思えないな。それに幽霊である本家が作り者を逆輸入するってのもどうなの?」

「いやいや、オマージュよ。いいじゃない。みんなオマージュっていえば許さるんだから。輪っかも呪いもパクッてやればこっちはウハウハよ。」

「冴子さん。それはあまりにも節操なさすぎるよ。まあ、でもそれで恐怖心を煽れるならいいんじゃない?効率よく得られるなら。」

「まあ、そうよね。今後も参考にしていくわ。」

そんな生産性があるのかないのか分からないような会話をしながら今日は終わっていく。

外は暗く、旧校舎の中も徐々に暗闇に包まれていく。

「暗くなってきたわね。そろそろ帰りなさい。夜道は危ないのよ。」

「幽霊の台詞とは思えないね。」

僕はカバンを持つと、旧校舎を出ようと椅子から立ち上がった。

「あ、そうだ。冴子さん。七不思議の最後の七つ目って知ってる?」

「……………………………いいえ。知らないわ。じゃあね。亮介。」

僕は旧校舎を後にした。

彼女はこの後、朝まで旧校舎にいるのだろうか。

あの暗く何もないところで。

一人で夜が過ぎるのを待つのか。

そもそも、なぜ彼女はあそこにいるのだろう。

どうして幽霊として旧校舎に住んでいるのだろう。

彼女についての疑問を今になって考える。

僕は勢いで友達になったものの彼女について何も知らない。

僕は闇子さんのことは知っていても、本田冴子については何も知らないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

エリア51戦線~リカバリー~

島田つき
キャラ文芸
今時のギャル(?)佐藤と、奇妙な特撮オタク鈴木。彼らの日常に迫る異変。本当にあった都市伝説――被害にあう友達――その正体は。 漫画で投稿している「エリア51戦線」の小説版です。 自サイトのものを改稿し、漫画準拠の設定にしてあります。 漫画でまだ投稿していない部分のストーリーが出てくるので、ネタバレ注意です。 また、微妙に漫画版とは流れや台詞が違ったり、心理が掘り下げられていたりするので、これはこれで楽しめる内容となっているかと思います。

処理中です...