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第3話 学校の七不思議について
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「あら。こんな朝早くから登校してくるなんて偉いじゃない。おはよう。亮介。」
「おはよう。冴子さん。いやあ、ちょっと早く起きちゃって。」
僕は朝七時に旧校舎にいた。
無論、先ほどの言葉は嘘である。
冴子さんに早く会いたかったのもそうだが、なにより登校時間に彼らに会いたくなかったのだ。
朝の旧校舎は放課後に比べて、日の光が差し込んでおり不気味な雰囲気を一切感じなかった。
冴子さんはいつもどおり、その綺麗な姿で僕を出迎えた。
僕は旧校舎の教室に入ると、机にカバンを置き、椅子に座った。
冴子さんは僕の隣の席に座ると、こちらを向き、例の件について話し始めた。
「最近、出張にも行ってないし、霊力が足りないのよ。」
「出張って?」
「貴方たちが普段通っている新校舎のことよ。たまに行って驚かしてるのよ。もちろん、放課後にしてるわよ。勉強を邪魔しないように気を使ってるのよ。」
「変なところに気を遣う幽霊だなぁ。って。冴子さん、ここから出られるの?新校舎来てるの?」
「何よ?驚いた顔して。そうね。学内だし移動可能よ。新校舎には月一回のペースで行っているわ。」
「なるほどぉ。じゃあ、新校舎に幽霊の知り合いとかいるんじゃないの?」
「何言ってるの?この学校にいる幽霊は私だけよ。」
冴子さんはあっけらかんとした表情で答える。
え?
確か、七不思議ということは七つ怪談があるわけだ。トイレの花子さんとか動く像とか。
また、冴子さんは出張と言って新校舎にたまに来ているという。
彼女の言うことが本当ならば、これはもしや…………。
「あれ…………。冴子さん。新校舎の女子トイレとか行ってない?」
「…………え?女子トイレ?…………なにを言ってるの!?女の子に対して失礼でしょ!」
「えっでも幽霊だし関係ないんじゃ。…………いやいや、そういう理由じゃなくて、人を驚かしに行ってない?」
「ああ、それは行ってたわね。トイレとか。後、校庭とか。」
「ああ。納得した。」
トイレの花子さんや動く像は冴子さんだったのか。後の七不思議と言えば、音楽室の怪奇現象と、放送室の幽霊に、廊下に現れる火の玉か。これで六つだが、もう一つは知らない。
「冴子さん、音楽室も来たことない?」
「あるわよ。旧校舎のピアノはもう撤去されたし、あるのもボロいのよ。だから、新校舎の調律済みのピアノを弾きに行ってるの。」
ああ、確定だ。
「他には?他にもあるでしょ?」
「何よ?他って?…………ああ、後、生前に放送室に入ったことなかったから、入って遊んだり、廊下でひとりボール遊びしたり?とか?」
「えらい幽霊生活満喫してますね。」
やっぱり全部、この人のことか。
七不思議の正体はほぼ全部、冴子さんのことだったのか。
「だって仕方ないでしょ?最近、だれも来ないし、こんな古い旧校舎に一人でいても楽しくないのよ。」
「まあ、それは仕方ないけども…………。冴子さん、七不思議扱いされてるの知ってるんでしょ?」
「風の噂で聞いたわね。まあ、バリエーションに富んでた方が受け取る側も楽しいでしょ?」
「なんのサービスなんだか…………。ん?」
なんだかガヤガヤと騒がしい。
外の喧騒が耳につく。
なんだ、もう登校時間か。
旧校舎の二階に移動して窓の外を見ると、他の生徒たちが登校している様が見える。
また、刻一刻と放課後への時間が近づいてくる。
憂鬱な気持ちで外を眺めていると、不意に耳元で声が聞こえる。
「もう、そんな時間なのね。」
「うわ!驚いた。急に後ろに立たないでよ。びっくりするじゃないか。」
「なによ。貴方どこの暗殺者よ。でも、驚きポイントいただきました。」
彼女はご満悦といった顔で、笑っていた。
そんな顔を見れば、不安も少しは薄れて、僕はため息をつきながらも新校舎に向かった。
「ア、ア、アア、ア、ア。」
放課後、例のごとく彼らに金をふんだくられて、顔に青あざを作りながらも、旧校舎に入ると、冴子さんが奇怪な声を上げていた。
そして、目は下瞼(したまぶた)に寄り、手もカタカタと揺れている。
これは確かに初めて目の当たりにしたら腰を抜かすだろう。
しかし、僕から見ればかわいい子の奇々怪々な行動である。知らない子がこんなことしていたら一目散に逃げ出すだろうが。
僕はそんな状態の冴子さんに恐る恐る声をかける。
「あ…………あの。冴子さん?どうしたの?」
「あ、来たわね。亮介。今、怖い顔の練習中なのよ。」
冴子さんはこちらに振り向くと、普段の顔に戻り、エッヘンとふんぞり返る。
「ん?どうしたの?その顔。そういえば、前もそんなフウに青あざ作ってたわね。」
「いやあ、これは体育の時に転んじゃって。」
「そう。そうなんだ。」
「うん。」
これは知られたくなかった。
普段の僕の姿を彼女に知られるのが怖かったのだ。
いじめられっ子で、いつも殴られているという自分の恥ずかしい部分を彼女に知られるのはどうにも耐えられるものではない。
僕のことを知らない彼女だからこそ、僕は友達になれたのかもしれない。
しかし、友達に隠し事をしているというのは少し罪悪感を覚える。
僕は幽霊の彼女にただ甘えているだけなのかもしれない。
そんな彼女は心配そうに僕の痣を見ている。
「まあ、大丈夫だから。そんなに痛くもないしね。それより、さっきの練習ってなんなの?目をすごいひん剥いてたけど。」
「ああ、こないだ新校舎を徘徊中に女子たちの話を聞いていてね。ほら、あの井戸から出るタイプの幽霊の話。呪いのビデオみたら襲ってくるやつよ。あの子は目を下に寄せて異常性を演出しているのよ。ならば私も便乗して、同じ手法でやろうと思って、こないだ新校舎のトイレで試したのよ。すると、もうそれは最大級の恐怖を感じたわけよ。その驚かした女の子は号泣して上からも下からも涙を流してたけど、トイレだしまあいいかと。」
「朝方、女の子にトイレの話をするなんて非常識みたいなこと言ってた人とは思えないな。それに幽霊である本家が作り者を逆輸入するってのもどうなの?」
「いやいや、オマージュよ。いいじゃない。みんなオマージュっていえば許さるんだから。輪っかも呪いもパクッてやればこっちはウハウハよ。」
「冴子さん。それはあまりにも節操なさすぎるよ。まあ、でもそれで恐怖心を煽れるならいいんじゃない?効率よく得られるなら。」
「まあ、そうよね。今後も参考にしていくわ。」
そんな生産性があるのかないのか分からないような会話をしながら今日は終わっていく。
外は暗く、旧校舎の中も徐々に暗闇に包まれていく。
「暗くなってきたわね。そろそろ帰りなさい。夜道は危ないのよ。」
「幽霊の台詞とは思えないね。」
僕はカバンを持つと、旧校舎を出ようと椅子から立ち上がった。
「あ、そうだ。冴子さん。七不思議の最後の七つ目って知ってる?」
「……………………………いいえ。知らないわ。じゃあね。亮介。」
僕は旧校舎を後にした。
彼女はこの後、朝まで旧校舎にいるのだろうか。
あの暗く何もないところで。
一人で夜が過ぎるのを待つのか。
そもそも、なぜ彼女はあそこにいるのだろう。
どうして幽霊として旧校舎に住んでいるのだろう。
彼女についての疑問を今になって考える。
僕は勢いで友達になったものの彼女について何も知らない。
僕は闇子さんのことは知っていても、本田冴子については何も知らないのだ。
「おはよう。冴子さん。いやあ、ちょっと早く起きちゃって。」
僕は朝七時に旧校舎にいた。
無論、先ほどの言葉は嘘である。
冴子さんに早く会いたかったのもそうだが、なにより登校時間に彼らに会いたくなかったのだ。
朝の旧校舎は放課後に比べて、日の光が差し込んでおり不気味な雰囲気を一切感じなかった。
冴子さんはいつもどおり、その綺麗な姿で僕を出迎えた。
僕は旧校舎の教室に入ると、机にカバンを置き、椅子に座った。
冴子さんは僕の隣の席に座ると、こちらを向き、例の件について話し始めた。
「最近、出張にも行ってないし、霊力が足りないのよ。」
「出張って?」
「貴方たちが普段通っている新校舎のことよ。たまに行って驚かしてるのよ。もちろん、放課後にしてるわよ。勉強を邪魔しないように気を使ってるのよ。」
「変なところに気を遣う幽霊だなぁ。って。冴子さん、ここから出られるの?新校舎来てるの?」
「何よ?驚いた顔して。そうね。学内だし移動可能よ。新校舎には月一回のペースで行っているわ。」
「なるほどぉ。じゃあ、新校舎に幽霊の知り合いとかいるんじゃないの?」
「何言ってるの?この学校にいる幽霊は私だけよ。」
冴子さんはあっけらかんとした表情で答える。
え?
確か、七不思議ということは七つ怪談があるわけだ。トイレの花子さんとか動く像とか。
また、冴子さんは出張と言って新校舎にたまに来ているという。
彼女の言うことが本当ならば、これはもしや…………。
「あれ…………。冴子さん。新校舎の女子トイレとか行ってない?」
「…………え?女子トイレ?…………なにを言ってるの!?女の子に対して失礼でしょ!」
「えっでも幽霊だし関係ないんじゃ。…………いやいや、そういう理由じゃなくて、人を驚かしに行ってない?」
「ああ、それは行ってたわね。トイレとか。後、校庭とか。」
「ああ。納得した。」
トイレの花子さんや動く像は冴子さんだったのか。後の七不思議と言えば、音楽室の怪奇現象と、放送室の幽霊に、廊下に現れる火の玉か。これで六つだが、もう一つは知らない。
「冴子さん、音楽室も来たことない?」
「あるわよ。旧校舎のピアノはもう撤去されたし、あるのもボロいのよ。だから、新校舎の調律済みのピアノを弾きに行ってるの。」
ああ、確定だ。
「他には?他にもあるでしょ?」
「何よ?他って?…………ああ、後、生前に放送室に入ったことなかったから、入って遊んだり、廊下でひとりボール遊びしたり?とか?」
「えらい幽霊生活満喫してますね。」
やっぱり全部、この人のことか。
七不思議の正体はほぼ全部、冴子さんのことだったのか。
「だって仕方ないでしょ?最近、だれも来ないし、こんな古い旧校舎に一人でいても楽しくないのよ。」
「まあ、それは仕方ないけども…………。冴子さん、七不思議扱いされてるの知ってるんでしょ?」
「風の噂で聞いたわね。まあ、バリエーションに富んでた方が受け取る側も楽しいでしょ?」
「なんのサービスなんだか…………。ん?」
なんだかガヤガヤと騒がしい。
外の喧騒が耳につく。
なんだ、もう登校時間か。
旧校舎の二階に移動して窓の外を見ると、他の生徒たちが登校している様が見える。
また、刻一刻と放課後への時間が近づいてくる。
憂鬱な気持ちで外を眺めていると、不意に耳元で声が聞こえる。
「もう、そんな時間なのね。」
「うわ!驚いた。急に後ろに立たないでよ。びっくりするじゃないか。」
「なによ。貴方どこの暗殺者よ。でも、驚きポイントいただきました。」
彼女はご満悦といった顔で、笑っていた。
そんな顔を見れば、不安も少しは薄れて、僕はため息をつきながらも新校舎に向かった。
「ア、ア、アア、ア、ア。」
放課後、例のごとく彼らに金をふんだくられて、顔に青あざを作りながらも、旧校舎に入ると、冴子さんが奇怪な声を上げていた。
そして、目は下瞼(したまぶた)に寄り、手もカタカタと揺れている。
これは確かに初めて目の当たりにしたら腰を抜かすだろう。
しかし、僕から見ればかわいい子の奇々怪々な行動である。知らない子がこんなことしていたら一目散に逃げ出すだろうが。
僕はそんな状態の冴子さんに恐る恐る声をかける。
「あ…………あの。冴子さん?どうしたの?」
「あ、来たわね。亮介。今、怖い顔の練習中なのよ。」
冴子さんはこちらに振り向くと、普段の顔に戻り、エッヘンとふんぞり返る。
「ん?どうしたの?その顔。そういえば、前もそんなフウに青あざ作ってたわね。」
「いやあ、これは体育の時に転んじゃって。」
「そう。そうなんだ。」
「うん。」
これは知られたくなかった。
普段の僕の姿を彼女に知られるのが怖かったのだ。
いじめられっ子で、いつも殴られているという自分の恥ずかしい部分を彼女に知られるのはどうにも耐えられるものではない。
僕のことを知らない彼女だからこそ、僕は友達になれたのかもしれない。
しかし、友達に隠し事をしているというのは少し罪悪感を覚える。
僕は幽霊の彼女にただ甘えているだけなのかもしれない。
そんな彼女は心配そうに僕の痣を見ている。
「まあ、大丈夫だから。そんなに痛くもないしね。それより、さっきの練習ってなんなの?目をすごいひん剥いてたけど。」
「ああ、こないだ新校舎を徘徊中に女子たちの話を聞いていてね。ほら、あの井戸から出るタイプの幽霊の話。呪いのビデオみたら襲ってくるやつよ。あの子は目を下に寄せて異常性を演出しているのよ。ならば私も便乗して、同じ手法でやろうと思って、こないだ新校舎のトイレで試したのよ。すると、もうそれは最大級の恐怖を感じたわけよ。その驚かした女の子は号泣して上からも下からも涙を流してたけど、トイレだしまあいいかと。」
「朝方、女の子にトイレの話をするなんて非常識みたいなこと言ってた人とは思えないな。それに幽霊である本家が作り者を逆輸入するってのもどうなの?」
「いやいや、オマージュよ。いいじゃない。みんなオマージュっていえば許さるんだから。輪っかも呪いもパクッてやればこっちはウハウハよ。」
「冴子さん。それはあまりにも節操なさすぎるよ。まあ、でもそれで恐怖心を煽れるならいいんじゃない?効率よく得られるなら。」
「まあ、そうよね。今後も参考にしていくわ。」
そんな生産性があるのかないのか分からないような会話をしながら今日は終わっていく。
外は暗く、旧校舎の中も徐々に暗闇に包まれていく。
「暗くなってきたわね。そろそろ帰りなさい。夜道は危ないのよ。」
「幽霊の台詞とは思えないね。」
僕はカバンを持つと、旧校舎を出ようと椅子から立ち上がった。
「あ、そうだ。冴子さん。七不思議の最後の七つ目って知ってる?」
「……………………………いいえ。知らないわ。じゃあね。亮介。」
僕は旧校舎を後にした。
彼女はこの後、朝まで旧校舎にいるのだろうか。
あの暗く何もないところで。
一人で夜が過ぎるのを待つのか。
そもそも、なぜ彼女はあそこにいるのだろう。
どうして幽霊として旧校舎に住んでいるのだろう。
彼女についての疑問を今になって考える。
僕は勢いで友達になったものの彼女について何も知らない。
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