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第4話

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    次の日、重たい体を挽きづって登校し、教室に入るとクラスメートの奇異の目にさらされた。

 なんとも珍妙な噂が立っているらしい。

 僕はいじめっ子をただ脅しただけだが、噂ではB組の田山くんを斬りつけたとか、ナイフを舐めてほくそ笑んでいたとか、ナイフを持って狂ったように笑いながら追いかけてきたとか根も葉もない噂が流れているらしい。俺は妖怪かなんかかよ?と愚痴も漏れる。しかし後述は合っているのでなんとも批判しがたい。

 別に目くじらを立てるようなことでもないが、今まで、このように衆目に晒されるようなこともなかったので少し居心地が悪い。

 僕は昼になるまで眠り続け、また屋上に向かった。

 そこには何故か神崎と藤原がいた。そして、藤原は何故か神崎のたるんだ腹を摘みながらキャッキャッと小馬鹿にしたように笑っていた。

 神崎は顔が赤らんでおり、酷く恥ずかしそうにしながら藤原の手をどけようとしている。

 「何してんの?」

 「須川君助けてよ!藤原さん。僕を食べるつもりだ!」

 え?

    乱れている神崎の制服と顔を赤らめている藤原。つまり。

 「食べるってそういう?僕帰った方がいい?」

 昼間から?屋上で?痴女か?とすぐ思考がぶっ飛んだ方向に向かったが、そんな僕を藤原が白んだ目で見てきた。

 「おい。エロガキ。何考えてんの?そんな訳ないでしょ?………あと神崎は意味分かってる?」

 「え?………何が?」

 神崎は不可解な表情で首をかしげてこちらを見ている。僕はため息一つ零し、彼の腹を掴む彼女の手を取る。

 「やめろって。彼は昨日蹴られて、まだ腹が痛いんだよ」

 「ああ。だから来た時、お腹ばっかり気にしてたのか。ごめんごめん」

 と得心がいったように彼女は彼の腹を触るのを辞めた。

 というよりもそんな彼女が必死に触るほど彼の腹は触り心地が良いのだろうか?
     僕も少し触ってみると「ひゃっ」と彼が甲高い声を上げたので触るのを辞めた。

 藤原はまた白んだ目で僕を見る。

 「そういえば、神崎は今日どうだったの?またいじめられた?」

 「あんたすごいドストレートに聞くね」

 藤原が口をはさんできたが、僕は無視し神崎を見る。

 「ううん。何もされてないよ。いつもなら朝もやられるんだけど、今日は何もなかった。須川君のおかげだよ!」

 神崎は満面の笑みでこちらに寄ってくる。

 どうやら僕はこの小太りさんに好かれたようだ。僕は苦笑いをしながら、「ははっそれは良かった」と適当に流した。

 僕は今日も買ってきたジャムパンを食べだす。すると、藤原と神崎も持ってきていたのか、各々昼食を取り始めた。

 始めは等間隔で離れて食べていた。

 数日経てば、その内、集まって会話しながら食べ始めた。

 そうして、不思議な三人の関係が始まった。

 

 

 

ある日、タバコを吸っていると、神崎がこちらを見て、なにやらモゴモゴと口を動かしていた。何か言いたいことがあるのか?と問えば彼は

「ううん。でもタバコは体に悪いから」

 と分かり切った助言をしてきた。

 「そうだな。臭いか?なら吸うのはやめるが」

 「ううん。違うんだ。ただ本当に体に悪いから。だから」

 ああ。彼は善意で助言をしていたようだ。

 「分かっている。百も承知だ。だから止めないでいいよ」

 と言うと彼は分かったと笑った。

 その顔が二ッと笑うと膨らんだ頬がより一層膨らんで、えくぼが出来て、白い肌に二つの柔らかそうな塊が出来る。

 「肉まんみたいな顔してんな?」

 僕はふと思った事が口をついた。

 「おい。それは悪口だ」

 藤原に怒られる。しかし、神崎は笑っていた。

 「なんでそこで笑うの?怒らないと。神崎はそんなんだからいじめられるんだ」

 藤原は何か気に障ったのかご立腹である。

 それを見て、神崎は照れたように頭を掻くと、こちらを見た。

 「でも、須川君は悪意がないよ。だからいいんだ」

 と心底嬉しそうに言うものだから、何故かこちらまで恥ずかしくなる。

 彼はもういじめられてはいない。しかし、狂人の友達と陰で言われている。
    陰口と暴力、カツアゲなら比べようもないが、彼には平穏な学生生活を送って欲しいとふと思った。

 僕のようなナイフを振り回して襲ってくる人間と友達だからそんなことを言われるのだ。

 そう彼に伝えたら、彼は笑って言いたい人には言わせておけばいいと妙に強気に言い放った。

 それ以来、彼は僕の顔を見ると、嬉しそうに笑うようになった。

 今日もまた三人で昼食をとっている。

 「藤原さんは今日、お弁当なんだ?」

 「うん。いらないから。食べる?」

 「え?いいの?」

 そんな彼らの会話をよそに僕はまたタバコに火を付けた。

 そういえば、洗面台に流したせいで酒がなくなったなと思い出す。今日のうちに叔父の家に取りに行こう。

 そんなことを考えていると、猫目の藤原が僕のジャムパンを食べていた。そして「かすかすだ。このパン」と齧ったジャムパンを僕の前に返した。

 彼らと会って1週間が過ぎた。しかし、僕は彼らと放課後に遊ぶことはしない。

 一度、神崎にカラオケに誘われたが断った。

 何故か考えたが、それは考えるまでもないことに気が付いた。

 今まで友達の一人もいなかったが、急に二人も出来たと思ったら、初めてある感情が芽生えたのだ。

 それは小さく口をついて出た。

 「ああ。あと命が一年伸びないかな」

 その言葉は屋上に吹きすさぶ風に乗って消えていった。願わくば彼らの耳には届かないでほしい。
     しかし、こんな突拍子もない言葉を真面目に受け止めるとも思えない。

 「須川。なんか言った?」

 僕はその藤原の言葉に顔を綻ばせて言う。

 「いや。なんでもないよ」

 そう嘘をついたとき、ふと泣きたくなった。

 

 
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