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第28話
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家につく頃には小雨がチラチラと降っており、湿気と雨の匂いに微かな頭痛を覚えた。
しかし、先ほどの謎の怒りはだいぶ収まり、雨で少しは頭も冷めてきたところである。
毛先に付いた雨粒を払い落とし、湿ったズボンに嫌気が指す。
そうして、思わず雨の所為で携帯が壊れていないかを確認してしまう。こんな行動は現代だからこそである。
未来には板状の小雨程度なら故障しない携帯が出回っているというのに。
そうして携帯の画面を開くと、一通のメールが来ていた。
内容は来週、水族館に行きませんかという短いお誘いのメールである。差出人は見なくても分かる。
俺は顔が自然とにやけてくるのを我慢して家に入った。
一日に怒ったり喜んだり一喜一憂するする、高校生らしい生き方もだいぶ板についてきた気がする。
そうして幸せオーラ全開のまま、靴を脱ぎ、家に上がると自室の二人を想像する。
自分が幸せな時は他人も幸せだろうと、自分本位な考え方に陥ってしまうが、気がかりであるのも事実である。
そうして自室に向かおうと廊下を歩いてると、リビングに誠がいることに気が付いた。
どうやら二人の話は短時間で終わったようだ。
それは自然に会話が終わり二人は離れたのか、それとも何かが起こり二人は離れざるを得なかったのか。
俺の中では、未だに二人して適当な話でもしているだろうから、そこに乱入してやろうと考えていたのだが。
誠は平然とテレビを見ており、何か大変は事があった空気ではないように見える。しかし、彼女の横顔が少し曇っているようにも見えた。
俺は誠に声をかけず、そのまま自室に向かった。先に待たせている友達の方に声をかけるのが筋だと思ったのだ。
ドアを開けると、これまた普段通りの橘が俺を出迎えた。
自室で他人に出迎えられると言うのも奇妙な話ではあるが。
俺の様子を見た橘は雨に当てられたかと心配してきた。
窓から外を覗くと雨脚はどんどん強くなっており、窓に打ち付けられる雨音で声があまり聞こえない。
「風邪ひくぞ?」
と橘はなおも母のような事を言う。
「うるせぇなぁ。……お、また雨が強くなってきたな………お前こそ帰り大丈夫かよ」
俺はそんな事より自分の心配をしろと橘に意地の悪いことを言った。流石にこの豪雨の中で、友達を家から出すのは気が引けて、橘を逆に心配してしまう気持ちもなくはないが。
「まぁ、駅まではすぐだし、走れば大丈夫だろ………まぁ大丈夫だ」
「ん?」
なにやら橘は少しバツの悪そうな顔でこちらを見た。
嫌に煮えきらない態度である。
そんな顔をされてはこちらは聞くほかあるまい。
「いや、そのなんだ………今日は急な誘いだと思ってたんだ」
「ああ?まぁそうだな。俺もあんまり家に人を呼ぶ人間ではないしな」
「そうだよな?美月の家に上がったのなんて初めてだろ?まぁ誘ったのは美月ではなかったわけだが」
「まぁ。誠経由でだな」
「そうだな………いや。今日の放課後の反応からして美月は知らなかったんだろう。いや、そうなんだろうな」
「なんだよ?煮え切らないな」
「いや。その………今日はありがとう。誠ちゃんにもお菓子やらなんやらありがとうって礼を言っておいてくれ」
橘は腰を上げると、背を伸ばし、苦笑いする。橘の反応といい、誠のあの顔といい何があったのかは分からないが、俺のいない間に何かはあったのだろう。
「自分の口から言えよ」
「いや。今は出来ない。すこし用事も出来たしな」
「………そうか」
俺はこの問題にどこまで口を出していいかも分からない。
妹の恋する人間が友達であったとして、そこに介入する意味も理由もあまりに薄く、下手に掻き回すと悪化する恐れがある。
俺が橘ほど上手く立ち回れるとは思えないのだ。
彼の帰りに俺は傘を貸そうかと声をかけたが彼はそれを断った。
橘はそのまま俺の家を後にした。
自分の部屋の窓から豪雨の中、走り去っていく友の背が見える。しかし、それも雨粒の中で歪んで、消えていった。
リビングに行き、誠に橘が帰ったことを報せる。
「そっか………」とポツリと誠は小さく答えた。
あまりに小さく聞こえぬほどの羽音のような声に俺は多少の不安を覚える。
もしや、告白でもしてフラれたのではないかと。
「えっと………お前、俺の部屋で告白でもしたか?」
不安に思った俺の頭はどうやらアホになったらしく、そんな真正面から攻め込むこともないだろうと言った後で我に返った。
しかし、言葉は雨音の中でも正確に誠の耳に届いたようで、誠はこちらに真顔でこちらを見ていた。
昔、彼女のケーキを盗み食いした時もこんな顔をしていた気がする。
「………いや。なんだ言いたくないならいい」
「なにそれ?聞きたいんじゃないの?」
「いやいや。なんか芳しくなさそうだし?」
「分かってるなら聞かないでよ………」
誠は拗ねたように口を尖らせて言うと、すぐに背を向けた。そうして、微かにため息をつくと、こちらに小さく何かをささやいた。
「は?」
「………だから保留だって」
「保留?」
「うん。今は他にやることがあるから、それが終わったらすぐに返事をするって橘先輩が」
「なんだそりゃ!?」
俺は怒気のこもった言葉を吐き捨てた。
橘がそんな事を平気で言ったのかと思うと苛立ちを抑えられなくなっていた。
「うん。でも、橘先輩、携帯を見てから様子が変だったし。あんな真剣に言われたら、私も頷くしか出来ないからさぁ………はは」
誠は力なく笑うと、ソファに深くもたれかかってまたバラエティ番組を見ていた。
そんな妹に兄としてかけてやる言葉など見つかるはずもなく、俺は先程買ってきたジュースを彼女の傍らに置き、一緒に並んでテレビを見た。
しかし、先ほどの謎の怒りはだいぶ収まり、雨で少しは頭も冷めてきたところである。
毛先に付いた雨粒を払い落とし、湿ったズボンに嫌気が指す。
そうして、思わず雨の所為で携帯が壊れていないかを確認してしまう。こんな行動は現代だからこそである。
未来には板状の小雨程度なら故障しない携帯が出回っているというのに。
そうして携帯の画面を開くと、一通のメールが来ていた。
内容は来週、水族館に行きませんかという短いお誘いのメールである。差出人は見なくても分かる。
俺は顔が自然とにやけてくるのを我慢して家に入った。
一日に怒ったり喜んだり一喜一憂するする、高校生らしい生き方もだいぶ板についてきた気がする。
そうして幸せオーラ全開のまま、靴を脱ぎ、家に上がると自室の二人を想像する。
自分が幸せな時は他人も幸せだろうと、自分本位な考え方に陥ってしまうが、気がかりであるのも事実である。
そうして自室に向かおうと廊下を歩いてると、リビングに誠がいることに気が付いた。
どうやら二人の話は短時間で終わったようだ。
それは自然に会話が終わり二人は離れたのか、それとも何かが起こり二人は離れざるを得なかったのか。
俺の中では、未だに二人して適当な話でもしているだろうから、そこに乱入してやろうと考えていたのだが。
誠は平然とテレビを見ており、何か大変は事があった空気ではないように見える。しかし、彼女の横顔が少し曇っているようにも見えた。
俺は誠に声をかけず、そのまま自室に向かった。先に待たせている友達の方に声をかけるのが筋だと思ったのだ。
ドアを開けると、これまた普段通りの橘が俺を出迎えた。
自室で他人に出迎えられると言うのも奇妙な話ではあるが。
俺の様子を見た橘は雨に当てられたかと心配してきた。
窓から外を覗くと雨脚はどんどん強くなっており、窓に打ち付けられる雨音で声があまり聞こえない。
「風邪ひくぞ?」
と橘はなおも母のような事を言う。
「うるせぇなぁ。……お、また雨が強くなってきたな………お前こそ帰り大丈夫かよ」
俺はそんな事より自分の心配をしろと橘に意地の悪いことを言った。流石にこの豪雨の中で、友達を家から出すのは気が引けて、橘を逆に心配してしまう気持ちもなくはないが。
「まぁ、駅まではすぐだし、走れば大丈夫だろ………まぁ大丈夫だ」
「ん?」
なにやら橘は少しバツの悪そうな顔でこちらを見た。
嫌に煮えきらない態度である。
そんな顔をされてはこちらは聞くほかあるまい。
「いや、そのなんだ………今日は急な誘いだと思ってたんだ」
「ああ?まぁそうだな。俺もあんまり家に人を呼ぶ人間ではないしな」
「そうだよな?美月の家に上がったのなんて初めてだろ?まぁ誘ったのは美月ではなかったわけだが」
「まぁ。誠経由でだな」
「そうだな………いや。今日の放課後の反応からして美月は知らなかったんだろう。いや、そうなんだろうな」
「なんだよ?煮え切らないな」
「いや。その………今日はありがとう。誠ちゃんにもお菓子やらなんやらありがとうって礼を言っておいてくれ」
橘は腰を上げると、背を伸ばし、苦笑いする。橘の反応といい、誠のあの顔といい何があったのかは分からないが、俺のいない間に何かはあったのだろう。
「自分の口から言えよ」
「いや。今は出来ない。すこし用事も出来たしな」
「………そうか」
俺はこの問題にどこまで口を出していいかも分からない。
妹の恋する人間が友達であったとして、そこに介入する意味も理由もあまりに薄く、下手に掻き回すと悪化する恐れがある。
俺が橘ほど上手く立ち回れるとは思えないのだ。
彼の帰りに俺は傘を貸そうかと声をかけたが彼はそれを断った。
橘はそのまま俺の家を後にした。
自分の部屋の窓から豪雨の中、走り去っていく友の背が見える。しかし、それも雨粒の中で歪んで、消えていった。
リビングに行き、誠に橘が帰ったことを報せる。
「そっか………」とポツリと誠は小さく答えた。
あまりに小さく聞こえぬほどの羽音のような声に俺は多少の不安を覚える。
もしや、告白でもしてフラれたのではないかと。
「えっと………お前、俺の部屋で告白でもしたか?」
不安に思った俺の頭はどうやらアホになったらしく、そんな真正面から攻め込むこともないだろうと言った後で我に返った。
しかし、言葉は雨音の中でも正確に誠の耳に届いたようで、誠はこちらに真顔でこちらを見ていた。
昔、彼女のケーキを盗み食いした時もこんな顔をしていた気がする。
「………いや。なんだ言いたくないならいい」
「なにそれ?聞きたいんじゃないの?」
「いやいや。なんか芳しくなさそうだし?」
「分かってるなら聞かないでよ………」
誠は拗ねたように口を尖らせて言うと、すぐに背を向けた。そうして、微かにため息をつくと、こちらに小さく何かをささやいた。
「は?」
「………だから保留だって」
「保留?」
「うん。今は他にやることがあるから、それが終わったらすぐに返事をするって橘先輩が」
「なんだそりゃ!?」
俺は怒気のこもった言葉を吐き捨てた。
橘がそんな事を平気で言ったのかと思うと苛立ちを抑えられなくなっていた。
「うん。でも、橘先輩、携帯を見てから様子が変だったし。あんな真剣に言われたら、私も頷くしか出来ないからさぁ………はは」
誠は力なく笑うと、ソファに深くもたれかかってまたバラエティ番組を見ていた。
そんな妹に兄としてかけてやる言葉など見つかるはずもなく、俺は先程買ってきたジュースを彼女の傍らに置き、一緒に並んでテレビを見た。
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