記憶喪失をした俺は何故か優等生に恋をする

プーヤン

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第11話

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その日は、彼女が落ち着いたところで、別れた。

ただ、今後同じような事象にいつ見舞われるとも分からない中、彼女は不安そうにしており、俺自身も自分が何故に二度目の人生などという奇妙な出来事に苛まれているのか未だ、理解していないことから、連絡は取れたほうが良いと言うことになり、連絡先を交換するに至った。

それはある側面からすれば願ったり叶ったりであるが、彼女の心中を考えると安易に喜ぶことも憚られる。

彼女は何らかの事情から、ある男に殺されたというのだ。

それが現実のことではなく、白昼夢のようなものだと、他人であるなら言えるだろう。しかし、俺は自分が死んだことを理解している。

既視感に、謎の記憶。俺からすれば、それは彼女の未来であると考えてしまう。そう彼女に言えば、彼女は狼狽えると思っていた。

しかし、彼女は冷静に、気丈に振舞っていた。いや、違う。ある種、自分を数カ月、追い詰めていた意味不明な記憶の謎を解く、糸口を見つけ、安心したのかもしれない。

何も分からずあの記憶を見ていたのなら、それは不安でしかない。しかし、少しでも意味が分かれば、また見え方も変わる。

彼女は自分の中でもう少しこの既視感や謎の記憶と向き合ってみると言っていた。

そうして、彼女とは笑ってお別れした。

 

 

 

季節は秋。9月も終わりに近づいていた。

来月に文化祭を控えているということもあり、学内は放課後になると、騒々しく、活気立っていた。

うちのクラスは行事に積極的に参加するようで、模擬店に、体育館での劇への参加など、関係者は忙しなく行事に追われる日々が続いている。

俺は少しだが変な記憶を見る日々は続いていたし、既視感は時折、覚える程度の毎日であった。

しかし、嬉しい出来事もある。

先週から、宮藤さんが学校に来ていたことだ。

彼女はもともと、影の薄い生徒であったことから、それほど、話題にはならなかったが、彼女がクラスメートと話している姿を見るのは、ただ嬉しかった。

そうして、彼女が学校に復帰し、文化祭間近の10月に入った時、俺は彼女に呼び出しを受けた。

いや、相談か。

放課後に彼女の家で会う予定である。
文化祭準備で明日からは忙しく、放課後も空いた時間が取れないことから、今日を選んだのだろう。

ボーッとしていれば授業は終わり、放課後になり、いつも通り、橘たちと談笑を始める。

小西は部活のため、ホームルームが終わるとすぐに教室を出ていった。なにやら、地区大会が近いらしい。

そのため、教室には俺、橘、漆原、本田、その友達の佐竹、坂口が残っていた。他の生徒も数人残っている。

その中でも、やはり俺たちのグループは目立っており、所謂、これが陽キャなのだろうと自覚した。

前はそんなスクールカーストなどという言葉も知らず、考えたこともなかったが、今、このクラスの真ん中で、なんの気も遣わず大声で話している俺たちのグループと、横目で俺たちをチラチラ見ながら、ある程度、声を抑えて話すグループがいるこの状況がそうなのだろうと感じる。

この時代にはその言葉自体、まだ無いだろうが。

漆原と佐竹が何やら下ネタを言い合って笑い合っているのが聞こえてくる。俺が考え事をしているうちに話は盛り上がっていたようだ。

どうやら彼らはこの後、歓楽街に遊びにいくようだ。いつもなら、俺も付いて行くのだろうが、今日は用事があり断った。

「………ねぇ。上原、なんか最近付き合い悪くない?何?また馬鹿な喧嘩しに行くの?」

本田がこちらに険のある物言いをしてくる。

それを佐竹と坂口が黙して、聞いており、その後、チラリと俺を見た。二人の妙な反応を不審に思いながらも、俺は本田に言う。

「そうか?………まぁ、明日とかなら空いてるし、いつでも町には遊びに行けるだろ?」

「そういうことを言ってるんじゃないんだけど………」

「………?」

「別に良いけど」

本田は眉間に皺を寄せながら、口を尖らせていた。俺が遊びの誘いを断ることが何か気に障ったのだろうか?

それとも、彼女の好意をさりげなく避けていることに関して、彼女が勘付いて、苛立っている可能性もある。

こういう場合は何も言わない方が良い。俺は彼らの知りえない情報を知っているために、余計な事がつい口をついて出るかもしれない。
しかし黙っていれば、場の空気は徐々に重くなっていく。

「なんだ上原。女でも出来たか?」

その時、漆原が俺を揶揄ってくる。
彼は何気なく言っているのだろうが、俺は思いがけぬ助け舟に乗ることにした。

「は?俺がモテないのはお前も知ってるだろ?」

「いや、そう思ってんのは美月だけだぞ?」

俺の言葉に、橘が言葉を重ねる。

「マジで?………俺ってモテてんのか?」

「さぁ………そりゃどうだろうな?なぁ?」

橘が女子に話を振るも、彼女らは「どうだろうね?」と適当に誤魔化し、妙な空気は霧散した。

俺は話が途絶えたことで逸る気持ちが抑えきれず、その後、すぐに教室を後にした。
別れ際、本田が何とも言えない冷めた表情でこちりを見ていたが、俺は知らぬふりで足を止めなかった。

校門から出て、すぐに駅へと向かう。

好きな女子の家に行けるのだ。興奮しないわけがない。

昔の俺なら下心のみで鼻の下を伸ばして、彼女の家に走って向かっただろう。

いや、それは今も同じか。

電車に揺られていれば、すぐに彼女の家へと着く。

電車内での考え事は捗るのかもしれないと、つい最近、気が付いた。例えば、この変な出来事。

所謂、タイムスリップというのか、死に戻りというのか。まぁ名称は別にいいが、それについて、記憶と既視感に重きを置いていた。

しかし、もう一つ、不思議な出来事があったことを見落としていた。

そう。俺自身の変化についてだ。

橘たちの話によると、俺はお世辞にも、善人とは言えない性悪な不良であったそうだ。
友達の一人を馬鹿にする、喧嘩をする、妹に厳しい、学内でも教師に楯突くなど、上げ連ねばキリがないが、今の俺からすれば呆れてしまうような言動を行っていたらしい。

そんな俺が今のようなある種、達観した考え方をして、普通に友とも接している現状を鑑みれば、それは二度目の人生だからという理由しか見当たらない。

ならば、彼女はどうだろう?

彼女には何か変化はあったのだろうか?

それを聞かなければならないと思ったが、俺は元の彼女をよく知らない。それに彼女を良く知る、謂わば客観的に彼女を見ている人物を知らない。

交友関係の少ない彼女のことである、もし変化していたとしても、それを自覚することはないのかもしれない。

はて困ったと一瞬、頭を抱えたが、俺はすぐに最適な人物を思い出した。

そうして、彼女に会う前に先に、その人物に話を聞くことにした。

「あの、ここ最近のことでいいのですが、桔梗さんに変わった点とかありましたか?」

俺は彼女の母に問う。

「何?急に………変わったこと?」

「はい。少しのことでもいいんです。何か変わったことはありませんでしたか?」

変わったことねぇと顎に手を当て、彼女の母は思案する。

「あー。でも携帯を見てる時間は増えたわね。誰かと連絡してて、その返事を待ってたのかしら………ね?」

急な変化球に狼狽し、「そうなんですかぁ」と愛想笑いをするので精一杯であった。そうして、「桔梗とは付き合ってるの?どうなの?」と質問攻めに遭う前に、彼女の部屋に逃げた。

 

 

 

「母と何を話していたんですか?」

その噂の桔梗さんは、えらく不満げにこちらを睨んでくる。

彼女の部屋は女性らしいファンシーな部屋ではなく、想像通りのこざっぱりとした部屋であった。

彼女の人柄が出ている点と言えば、本棚に置かれた大量の小説、漫画だけである。

彼女は睨みながらも、コーヒーカップを用意したり、俺が座る椅子を引いたりしてくれていた。

そんな細かなところに、また惹かれている自分を自覚しながら、彼女の用意したコーヒカップに口を付ける。

そうして、一息ついたところで、自分の変化を彼女に説明した。

自分という人間の変化についてだ。彼女は興味深く、俺の話を聞いていたが、聞き終えると、「なるほど」と何やら納得していた。

「なるほどって………」

「いえ。確かに、私も上原さんのことを怖い人だと思っていたのです。喧嘩番長みたいな」

「喧嘩番長って………」

「でも、噂は噂ですから。こうして、話してみれば、上原さんは面白い人だなって思いますよ?」

微笑を讃えて言われた、ありふれた言葉に「あ、そ、そう」と不器用に照れている俺は、二度目の人生を生きているとは思えない余裕のなさに、少し落胆してしまう。

俺は前の人生で何を学んでいたんだと。

しかし、落ち込んでばかりもいれず、彼女について聞いてみる。

「何か、そういう自身の変化を他人に示唆されたりしていない?」

「いえ。私は得にそういったことは………あ。でも、変化といえば何故か、あの時の混乱していた自分が最近、嘘みたいに落ち着いています。なんででしょう?」

「さあ、なんでだろう」

互いに黙り込んでしまい、少しの沈黙が訪れた。

「考えても仕方なさそうですね………」

彼女は力なく笑って、小休止にと立ち上がると、棚の上段にあったクッキーの缶を取っていた。

取りながら、「この間、知人からお歳暮を頂いたんです」と聞いてもいない説明をしながら、長い髪を揺らし、つま先を伸ばして、震えながら缶を取っていた。

その頑張っている姿に、またも見惚れていると、彼女は「ほっ!」と息を吐き、缶を取った。

本田なら、「上原。あれ取って」と猫撫で声で要求していただろうが、彼女が「フンス」と取れたことを嬉しがっているように握り拳を作り、口を結んでいる様子が可愛らしく、俺は表情が表にでないよう、笑わないように、彼女の部屋の本棚に目を移した。

小説は読むだろうと想像していたが、漫画も同じ位、揃えてあった。少年漫画から少女漫画まで。

そうして、棚に置かれている漫画の巻数が中途半端なところで止まっているところで目が留まる。

彼女の性格では、漫画でも小説でも、最後まで集めてそうなものだが。どうなのだろう?と、周りを見渡す。

そうして、タンスに目を移すと、彼女は焦ったようにこちらにクッキーを勧めた。俺は彼女の焦った様子を不審に思い、問うてみる。

「どうしたの?」

「へ?………どうも、どうもしませんよ」

目が明後日の方に泳いでいる。俺はついイジメたくなり、彼女への質問を続ける。

「いや、明らかに焦ってないか?」

「何を………何を焦るというのでしょうか?………」

「タンスに見られたらマズイものでもあるのか?」

「え?………いえ、えっと………それは……」

「それは?」

「まあ、なんでもないですよ…………ええ。なんでも………」

「アニメ関係とか?」

「エスパーですか?」

「正解ですか?」

「はい。正解です」

彼女は観念したように、タンスを開けると、想像越える数のアニメのDVDや、グッズが出てきた。

それは俺が知っているものから、知らないあれやこれやである。大人用の物はなかったので、少し安心した。

いや、それこそ見えないところに置いているのかもしれないが、それも突つけばすぐに綻びが生まれそうなので、やめておこう。

泣かれても、どう対処していいか分からないしな。

俺はタンスの中のアニメ関連の物を見ていると、彼女はもうどうにでもなれと、俺に背を向けて、死んだ目でとおくをみながら、リスのようにクッキーを頬張っており、菓子食いマシーンと化していた。
流石に悪いことしたなぁと話を振ることにする。

「あ、宮藤さん。これ」

「え?なんですか?もうどうとでも………あ、そのアニメ。知っているんですか?」

「ああ。昔、誰かに勧められたんだよなぁ。面白いから絶対見ろって」

「その人とは気が合いそうですね」

彼女は自分の好きな物の話題が出たからか、いつもとは違って陽気に笑い、目を輝かせて、そのアニメの説明を始めた。

そうして、何故か、アニメ鑑賞会がスタートした。

 

 

 

 
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