【コミカライズ】人違いで求婚された令嬢は、円満離縁を待ち望む

渡波みずき

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「デビュタントのご令嬢のひとりが彼女を突き飛ばした挙句、暴言を吐いたのですよ」
「同じデビュタントのなかでも、群を抜いた麗しさに嫉妬でもしたのでしょう」
「『あなたのドレスは白ではないはずだ』などと騒いでいましたね」
「確か相手は、オルド家の令嬢だとか。付き添いの夫人が側にいたのに、たしなめることもしなかった。まったく、マナーがなっていない!」

 怒りも露わに口にされた家名には、聞き覚えがある。

 ──お母さまの友人のいる家だわ。

 母の葬儀にも参列してくれたのだとは思うが、コルネリアはあのとき、外部のだれかと接触する機会を叔父に奪われていた。円滑に爵位を手に入れるためには、コルネリアの後見をと言い出しかねない両親の親しい知人たちを遠ざける必要があったのだろう。

 きっと、付き添いだと言う夫人が母の友人で、その娘がデビュタントだ。互いに面識というほどのものはなく、うっすらと存在を知る程度のだれかが、バロー家の異常事態に、今日この日招かれていたはずのコルネリアがデビューしていないことに気づいているかもしれない。そう考えると、たとえ直接の手助けは得られないにしても、貴族としての自分がいなくなったものと扱われている現状に、一条のひかりがさしこんだような心地がした。

「足をくじいただなんて、心配ね。せっかくのデビューの宴だけど、早めに失礼して、医師に診てもらいましょう?」

 おとなしい令嬢を装うディアナの演技に乗っかって、コルネリアが言うと、うつむいて泣き真似をしていたディアナの頬がピクリと引き攣った。そこへ有無を言わさずたたみかけるように、控えていた侍従に声をかけ、馬車を呼んでもらう。

 名残惜しそうにするご令息がたと語らう従姉の姿を目の端に捉えながら、コルネリアはコルネリアで、先程よくしてもらった男性と結局名乗りあえなかったことを残念に感じた。

 馬車の用意ができ、長椅子から立ち上がるディアナに手を貸すと、ヒールで踏みにじるように無防備な足の甲を踏まれた。ドレスの裾に隠れて行われた行為に、気づくひとはいない。入れ替わりでデビューしたことも、いまのことにしても、騒げば、父母が築き上げたバロー家の誇りに瑕をつけることになる。コルネリアは黙って痛みに耐え抜いた。

「二歳くらいごまかしたところで、たいしたことじゃないのに。たった二歳の若さと、この美貌とを天秤にかけられるとでも思うのかしら」

 馬車の戸が閉まるなりの発言に、コルネリアは静かに反論する。

「デビューは婚姻可能になったことのお披露目ですもの。結婚は家同士の契約よ。婚姻証明書に書かれた生年月日がこれまでの説明と二年違えば、それだけで立派な契約違反だわ」
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