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 視界が明るくなる。いつか夜会で目にしたとおりの精悍な顔立ちが、すぐ近くにある。視線が交わったとたんに、彼の紺碧の双眸が驚愕に見開かれた。だが、そのくちびるが刻むのは、自分の名では無かった。

「ディアナ……」

 ──違う。わたしは、ディアナなんかじゃない。

 ハッ、ハッと呼吸を荒くして、歓喜にあふれた顔で、伯爵はコルネリアのからだをかき抱くと、確かめるように頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけてくる。くちづけられて、目を合わせたまま、愛を囁かれる。

「ああ、愛している。あなたが欲しかったんだ、ディアナ」

 そうか。伯爵は、仮初の妻に好きな女を重ねることにしたのか。だから、うつくしいだなんて口にしたのだ。そちらがそうやってコルネリアを抱くつもりなら、あくまでも妻自身を見ないつもりならば、しかたがない。

 諦めて、コルネリアは彼に身を任せた。そもそも、書物には書かれていないような具体的な性交渉に関する知識は、持ち合わせが無い。夜の営みの流れは、相手に委ねるしかなかった。

 伯爵の指が肌をたどると、未開拓なからだのそこここに、ほんのりと熱が生まれる。足のあいだに割り込まれ、太ももを舌で舐めあげられて、コルネリアは悲鳴をあげたくなった。足の付け根まで到達した舌は、あろうことか襞を割り開き、秘所に入りこもうとする。

 伯爵はコルネリアの腰を抱え込み、白金の下生えに鼻先を埋めた。生温かい舌先を尖らせて、からだのなかにさしいれてくる。背筋を駆け上がるぞわぞわっとした感覚に、んんん、と、鼻にかかった声が出て、コルネリアは両手で口元を覆った。

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、からだのなかを舐められ、頭がふわふわしてくる。それもこれも、行為の相手への恋情のせいだ。

 自分だって、ディアナの容姿に群がる男たちのことは笑えない。なぜなら、コルネリアは、このドミティウス伯爵と初めて出会い、ことばを交わした夜会の日、彼にひとめで魅入られてしまったのだから。

 伯爵に愛おしげにやさしく触れられて、とろけた目で見つめられているのは、みっともない本狂いのコルネリアではない。彼がコルネリアを通して見ているのは、うつくしいディアナだ。頭ではわかっていても、気持ちは裏腹に浮かれ、からだは彼の愛撫に従順に応えていく。

「ディアナ、どうか私のものになってくれ……ッ」

 熱に浮かされた調子で従姉ディアナの愛を乞い、伯爵は容赦なく肉の楔を打ちつけてくる。好いた男にからだを奥深くまで開かれて感じる痛みと悦びの裏で、コルネリアのこころは、完全に閉じた。
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