23 / 27
こうちゃんの選んだ道 3
しおりを挟む
鍵を忘れて私の家に来た時のこと。
『今日は久々に会えて嬉しかった。
帰る時、本当はもう少し一緒にいたかったけどこれ以上迷惑かけるわけにもいかなくて帰った。
また、会えたら嬉しい』
そしてそれは私が引っ越してしまった日も──
『今日、部活が早く終わったからことねを驚かしに家に行ってみた。
でもインターホンを押しても誰も出なかった。
どうやら引っ越したようだった。
一言、何か言って欲しかった』
チクリと胸の痛みを感じながらまた1ページ、1ページとめくる。
そこから先は白紙が続いた。
最後のページ、たった1文。
それを見た瞬間、私の目から大粒の涙が溢れた。
『俺は琴音のことが好き』
丁寧に書かれたこうちゃんの字が私の涙で滲んでいく。
『いつか必ず琴音と再会して、この気持ちを伝えたい』
楽しいことを書き留めていたはずのノートに記された、たった1つの願い。
「こうちゃん……」
こうちゃんは昔から私のことを好きでいてくれた。
離れてしまっても、私のことを想っていてくれた。
「彼は生きてキミに会いたくてボクと契約した。
ボクからの契約条件は彼の大切な人の記憶を奪うこと。
そして残念な事にボクが奪った記憶はキミとのもの。
彼はボクと契約した理由すらも忘れてしまったんだよ」
こうちゃんは大切なものを失くしたとしても、それでも私に会おうとしてくれていた……
「彼はキミのことをこんなにも想っていたのに、その全てを、今度はキミが忘れてしまうのかい?」
こうちゃんはもう居ない。
それは辛くて、いっそ忘れられるなら忘れてしまいたいこと。
でも、彼が私のことを好きでいてくれたことすらなくなってしまうのは嫌だ。
「死神さん、お願い。
彼との記憶を、消さないで……」
昔、会えなくなる前に気持ちを伝えられなかったことを、ずっと後悔していた。
もし記憶を消してしまったらこれから先もまた後悔し続けることになるだろう。
「彼に気持ちを伝えられたこと、彼に好きって言って貰えたこと、全部大切な思い出なの。
忘れたくないよ……」
青のノートをそっと抱きしめる。
これは、こうちゃんが生きた証だから。
こうちゃんの大切なものが全部書かれているものだから。
たとえみんなが忘れても、私だけは忘れちゃいけない。
「契約、しましょう」
どこにいるのかわからない死神に向けて、はっきりとそう告げる。
「おっけー」
死神は相変わらずの軽い口調で話を進める。
これから先、私だけがこうちゃんが生きていたこの1年間を知っていることになる。
それを誰かに言った場合、私は死ぬ。
そういう契約だ。
改めて契約の内容について確認する。
「それじゃあ、ボクはこれで」
その声を最後になんの声も聞こえなくなった。
どうやら死神はいなくなったようだ。
『今日は久々に会えて嬉しかった。
帰る時、本当はもう少し一緒にいたかったけどこれ以上迷惑かけるわけにもいかなくて帰った。
また、会えたら嬉しい』
そしてそれは私が引っ越してしまった日も──
『今日、部活が早く終わったからことねを驚かしに家に行ってみた。
でもインターホンを押しても誰も出なかった。
どうやら引っ越したようだった。
一言、何か言って欲しかった』
チクリと胸の痛みを感じながらまた1ページ、1ページとめくる。
そこから先は白紙が続いた。
最後のページ、たった1文。
それを見た瞬間、私の目から大粒の涙が溢れた。
『俺は琴音のことが好き』
丁寧に書かれたこうちゃんの字が私の涙で滲んでいく。
『いつか必ず琴音と再会して、この気持ちを伝えたい』
楽しいことを書き留めていたはずのノートに記された、たった1つの願い。
「こうちゃん……」
こうちゃんは昔から私のことを好きでいてくれた。
離れてしまっても、私のことを想っていてくれた。
「彼は生きてキミに会いたくてボクと契約した。
ボクからの契約条件は彼の大切な人の記憶を奪うこと。
そして残念な事にボクが奪った記憶はキミとのもの。
彼はボクと契約した理由すらも忘れてしまったんだよ」
こうちゃんは大切なものを失くしたとしても、それでも私に会おうとしてくれていた……
「彼はキミのことをこんなにも想っていたのに、その全てを、今度はキミが忘れてしまうのかい?」
こうちゃんはもう居ない。
それは辛くて、いっそ忘れられるなら忘れてしまいたいこと。
でも、彼が私のことを好きでいてくれたことすらなくなってしまうのは嫌だ。
「死神さん、お願い。
彼との記憶を、消さないで……」
昔、会えなくなる前に気持ちを伝えられなかったことを、ずっと後悔していた。
もし記憶を消してしまったらこれから先もまた後悔し続けることになるだろう。
「彼に気持ちを伝えられたこと、彼に好きって言って貰えたこと、全部大切な思い出なの。
忘れたくないよ……」
青のノートをそっと抱きしめる。
これは、こうちゃんが生きた証だから。
こうちゃんの大切なものが全部書かれているものだから。
たとえみんなが忘れても、私だけは忘れちゃいけない。
「契約、しましょう」
どこにいるのかわからない死神に向けて、はっきりとそう告げる。
「おっけー」
死神は相変わらずの軽い口調で話を進める。
これから先、私だけがこうちゃんが生きていたこの1年間を知っていることになる。
それを誰かに言った場合、私は死ぬ。
そういう契約だ。
改めて契約の内容について確認する。
「それじゃあ、ボクはこれで」
その声を最後になんの声も聞こえなくなった。
どうやら死神はいなくなったようだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる