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こうちゃんの選んだ道 1
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私は何日か、家に引き籠った。
なんの機械にも繋がれなくなったこうちゃんは、ただ寝ているだけに見えた。
すぐに起きるんじゃないかと思った。
そう思ってこうちゃんに触れると、冷たくて。
抱きしめた時のあの温かさを思い出して、涙がこぼれた。
こうちゃんはもういない。
そう思うだけでまた涙が溢れてくる。
あとどれだけ泣けばいいんだろう。
今日もまた、しばらく泣いた。
「こうちゃん……」
その名を呼んでも応えてくれる人はもういない。
『この話が終わったらさ、俺の家に行って欲しいんだ』
こうちゃんの名前を口に出したからだろうか?
私の呼ぶ声に応えてくれたかのように、こうちゃんの言葉が頭の中で聞こえてきた。
「行かなきゃ──」
こうちゃんの最後のお願い。
私はそれを果たすため起き上がった。
泣きはらした目、乱れた髪型と服装を軽く整え、こうちゃんの家に向かった。
こうちゃんの家には昔行ったことがある。
と言っても家の前までだけど。
みんなで遊ぶ時にこうちゃんの家の前を集合場所にしたくらい。
そんな昔の記憶を頼りに向かう。
自分の家から駅まで。
そこから電車に乗り、前に行った駅へ。
公園を通り過ぎ。
マンションを通り過ぎ。
変わった風景と変わらぬ街並みを辿って。
「ここ、かな」
表札にはこうちゃんの名字、佐々木と書いてあった。
私は勇気を出してインターホンを押す。
「はーい」
女の人の声が聞こえくる。
こうちゃんママだろうか。
「あ、あの、鈴木琴音です」
こうちゃんママには何度か会ったことがあるが、中学に上がってからは会っていない。
私のこと、忘れてるんじゃないだろうか……
「あら、琴音ちゃん! 待ってたわ!」
待っていた?
どういうことだろう。
こうちゃんママが玄関に来て、私を家に上げてくれる。
待っていた、ということについて聞こうとしたが、先にこうちゃんママが話し始めた。
「一昨日くらいかしら?
幸介の部屋を掃除してたらね、机の上に『琴音が家に来る。その時は俺の部屋に連れて行って欲しい』なんて紙が机の上にあったのよ。
不思議よね、幸介が事故にあってから1年間、毎日掃除してるのに、急にこんなものが出てくるなんて」
「え、それってどういう──」
「さあ! こうちゃんの部屋に案内するわね」
こうちゃんママに私の声は聞こえなかったらしい。
1年前って?
事故って?
こうちゃんのことがますますわからなくなる。
こうちゃんの部屋に行けば全てがわかるの……?
「私は下にいるから、帰る時に声をかけてね」
こうちゃんママはそう言って、私はドアの前に取り残された。
私は連れてこられた部屋のドアを恐る恐る開けた。
しっかりと片付けられた綺麗な部屋。
全体的に黒系の落ち着いた色で、物も私の部屋より少ない。
中に入りドアを閉める。
ふと壁にあるカレンダーが目に入った。
「去年の、8月……」
引き出しに入ってる教科書や、塾のプリント、日付が書かれているもの全てが1年前のもの。
この部屋の時間は1年前で止まっていた。
なんの機械にも繋がれなくなったこうちゃんは、ただ寝ているだけに見えた。
すぐに起きるんじゃないかと思った。
そう思ってこうちゃんに触れると、冷たくて。
抱きしめた時のあの温かさを思い出して、涙がこぼれた。
こうちゃんはもういない。
そう思うだけでまた涙が溢れてくる。
あとどれだけ泣けばいいんだろう。
今日もまた、しばらく泣いた。
「こうちゃん……」
その名を呼んでも応えてくれる人はもういない。
『この話が終わったらさ、俺の家に行って欲しいんだ』
こうちゃんの名前を口に出したからだろうか?
私の呼ぶ声に応えてくれたかのように、こうちゃんの言葉が頭の中で聞こえてきた。
「行かなきゃ──」
こうちゃんの最後のお願い。
私はそれを果たすため起き上がった。
泣きはらした目、乱れた髪型と服装を軽く整え、こうちゃんの家に向かった。
こうちゃんの家には昔行ったことがある。
と言っても家の前までだけど。
みんなで遊ぶ時にこうちゃんの家の前を集合場所にしたくらい。
そんな昔の記憶を頼りに向かう。
自分の家から駅まで。
そこから電車に乗り、前に行った駅へ。
公園を通り過ぎ。
マンションを通り過ぎ。
変わった風景と変わらぬ街並みを辿って。
「ここ、かな」
表札にはこうちゃんの名字、佐々木と書いてあった。
私は勇気を出してインターホンを押す。
「はーい」
女の人の声が聞こえくる。
こうちゃんママだろうか。
「あ、あの、鈴木琴音です」
こうちゃんママには何度か会ったことがあるが、中学に上がってからは会っていない。
私のこと、忘れてるんじゃないだろうか……
「あら、琴音ちゃん! 待ってたわ!」
待っていた?
どういうことだろう。
こうちゃんママが玄関に来て、私を家に上げてくれる。
待っていた、ということについて聞こうとしたが、先にこうちゃんママが話し始めた。
「一昨日くらいかしら?
幸介の部屋を掃除してたらね、机の上に『琴音が家に来る。その時は俺の部屋に連れて行って欲しい』なんて紙が机の上にあったのよ。
不思議よね、幸介が事故にあってから1年間、毎日掃除してるのに、急にこんなものが出てくるなんて」
「え、それってどういう──」
「さあ! こうちゃんの部屋に案内するわね」
こうちゃんママに私の声は聞こえなかったらしい。
1年前って?
事故って?
こうちゃんのことがますますわからなくなる。
こうちゃんの部屋に行けば全てがわかるの……?
「私は下にいるから、帰る時に声をかけてね」
こうちゃんママはそう言って、私はドアの前に取り残された。
私は連れてこられた部屋のドアを恐る恐る開けた。
しっかりと片付けられた綺麗な部屋。
全体的に黒系の落ち着いた色で、物も私の部屋より少ない。
中に入りドアを閉める。
ふと壁にあるカレンダーが目に入った。
「去年の、8月……」
引き出しに入ってる教科書や、塾のプリント、日付が書かれているもの全てが1年前のもの。
この部屋の時間は1年前で止まっていた。
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