命の記憶

桜庭 葉菜

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私だけ 1

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 夏休みも残り2週間ほどになった。

 あれからこうちゃんとは、2人で水族館に行ったり、図書館で一緒に宿題をしたりした。

 連絡も絶えずとり続けていて、すごく順調だと思う。

 そして実は今日も午後から一緒に図書館で宿題をする予定が入っているのだ。

 私たちは電車で1時間ほど家が離れていて、会う時は不便だと思う。

 もっと距離が近ければ気軽に会えるのにって。

 でも逆に、こうちゃんに会えるならそんな電車の時間くらい我慢してやる。

 私は宿題の入ったリュックを背負い、電車に乗って図書館に向かった。

「ほんっとごめん!」

 こうちゃんが誠心誠意謝ってくる。

 なにがあったかというと……

「ちゃんと休館日確認しとけばよかった……ごめん……」

 ということで私たちは図書館の前で暑い中途方に暮れていた。

「ちょっとだけまってて」

 そう言ってこうちゃんが何やら電話を始める。

 少しして戻ってくると、なんだかさっきと比べて安心したような顔をしていた。

「今お母さんに電話して、家来ていいって。どう?」

「佐々木くんの、家に?」

「い、嫌だったらいいけど……」

 どうしよう。

 こうなるとは思っていなかったため、心の準備など到底できていない。

 でも、こうちゃんがいいって言ってくれてるから……

「嫌じゃない! 佐々木くんが、嫌じゃないなら……」

「お、俺だって嫌じゃないよ!」

 なんだかお互いに恥ずかしい状況になってしまった。

「じゃあ、い、行こうか」

 こうちゃんがそう言って歩き出したことで、その場はなんとかなった。

 俺だって嫌じゃない、か……

 その言葉に期待してしまう私がいた。

 電車の中では2人とも静かで、周りの人も今日は妙に静かな気がして居心地が悪い。

 こうちゃんの家の最寄りまでの数駅。

「次、降りよう」

 車内で交わした会話はたったこれだけ。

 もう少し長かったらあの空気に潰されてしまうところだった。

 時間が経ったからか、はたまた周りの空気が変わったからか。

 私たちのよそよそしい雰囲気はほぐれ始めてきた。

「こうちゃんって昔からここに住んでるの?」

 改札を出たところでそれとなく聞く。

 小学生の頃、家の中に入ったことはないが、家の前までは案内をされたことがある。

「そうだよ」

 そう言われて、私は昔見た一軒家を朧気ながら思い出す。

 その家の中に入ることを想像して今から緊張してしまう。

「あ、公園……」

 不意に目に入ってしまった。

 こうちゃんの家に行くってことはここも通るってことだもんね……

 すっかり忘れてしまっていた自分が嫌になった。

「ここ、懐かしいなー」

 こうちゃんがポロッと言う。

「俺、毎日ここで友達と遊んでてさ。あ、小学生のころなんだけどね」

 こうちゃんが昔のことを楽しそう話し出した。

 でも、その話に私が出てくることは無かった。
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