命の記憶

桜庭 葉菜

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はじめまして 1

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 あれからこうちゃんと何日か連絡を取り合い、その結果を桃子に電話で報告していた。

『2人で遊ぶー!?』

 桃子の大きい声が私の耳を痛めつける。

「それで、一緒に映画に行くことに……」

 なんだか前にもこんなことがあったような、そんなことを思いながら桃子への近況報告を済ませた。

『琴音のこと忘れてるのにずいぶん積極的だね』

 積極的……

「だよね……」

 私はその言葉に少しだけ悲しくなった。

『琴音?』

「いや、ほら、他の女の子にもおんなじようにしてたらどうしようかなって……」

 彼女でもないのにこんなことを考えてしまうなんて、私ってわがままなんだなぁ。

『彼女いるかとかも探ってみなきゃね』

「彼女……」

 今自分で考えていただけに、ダメージがでかい。

『まあ、彼女いたらそんな簡単に別の女の子と出かけたりしないだろうから、そこは大丈夫な気がするけどなー』

 と、桃子が冷静に分析する。

 その言葉に今度は安心をする。

 こうちゃんのことでいちいち感情が振り回されるばかりだ。

 それから映画に行く当日のことや、桃子の夏休みの様子などを話してから電話を切った。

 時が経つのは早いもので、それは夏休みなら尚更のことで。

 気がつけばこうちゃんと映画に行く当日。

 昨日のうちに悩みに悩み、そろそろ寝るようにと急かされながら決めたコーディネートを鏡でチェックする。

 水色の膝丈ワンピース。

 私は色よりもこの小さな花柄が気に入っている。

 靴はこの前の文化祭の時と同じサンダルで、バッグは茶色の小さな肩掛けバッグ。

 文化祭に持っていったやつと迷ったが、あれでは全体的に淡くなってしまう気がしたため、これにした。

 髪は何かアレンジができるほど長くはないので、いつもよりかは整えている程度。

 自分の格好を一通り確認して、ゆっくり深呼吸をする。

 これからこうちゃんと映画に行くんだ。

 正直、今は楽しみよりも不安が勝っている。

 私のことを忘れてしまったこうちゃんは、性格は変わっていなくてもやっぱり私への態度は昔と全然違って。

 呼び方は「鈴木さん」「佐々木くん」とお互いに名字呼び。

 あれから私のことを本当に忘れてしまったのか聞くこともできなかった。

 これから新しく楽しい思い出を作ればいいと考えていたが、やはりどこかで私のことを思い出してくれるんじゃないかという期待をしている自分がいる。

 だめだ、また1人で嫌なことばかり考えている。

 私はもう一度深呼吸をし、こうちゃんとの待ち合わせの場所へ向かった。

 10時に映画館のある最寄駅に集合、そう約束した時間の5分前に駅に着く。

 あまり降りたことのない駅で、少しだけ迷いながら改札を出ると、すぐ見えるところにこうちゃんが立っていた。

 黒いズボンに白い半袖のパーカー。

 洒落たものを身につけているわけではないのに、なんだかかっこよく見える。

 それに、この前会った時は制服だったが、今日は私服。

 私服の方が自分に心を開いてくれているような雰囲気を感じて好きだと思った。

「佐々木くん、早いね」

「鈴木さんも」

 まだ慣れないこの呼び方で声をかけ、同じように返される。

 私は一瞬感じた心の痛みに気づかぬふりをして、2人で映画館に向かった。

 駅からそう遠くなく、館内も広くて綺麗な場所。

 今日のプランは基本的にこうちゃんが考えてきてくれたもの。

 こんな場所に彼女とも来るのかなと考えるとやっぱり悲しくなってしまうので、それ以上は考えないことにした。

 映画のチケットと飲み物を買い、チケットに書かれた席に座る。

 こんなに近くに座ったのは中1の時に私の家に来た時以来かも。

 なんて考える。

 隣を見ると、荷物を整理したり、飲み物を飲んだりしながら映画を楽しみにしているこうちゃんがいる。

 その横顔を見ていると、好きという気持ちが一気にこみ上げてきた。

 このままだといつもの癖で口が先に動いて「好き」と告白でもしてしまいそうだ。

 そんな自分の口を封じようと飲み物を一気に飲む。

 コーラの炭酸が思ったよりも強かった。
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