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文化祭 2
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特に行きたい場所を考えていなかったので返事に迷う。
桃子のパンフレットを覗き込みながら少しの間考える。
「うーん、タピオカとか? 売り切れる前に買って、それから遊びたいかも」
「ふむふむ」
そう言って桃子は再びパンフレットに目を落とした。
私はシャーベットを食べる手を進める。
「お化け屋敷いきたいなー。あ、体育館で吹部の演奏を観るのもいいなー」
桃子がパンフレットを見て楽しんでいる。
私はシャーベットを食べ終え、桃子と同じようにパンフレットを開いた。
「タピオカは1年生のこのクラスだけみたいだし、そこ行く?」
桃子が先に調べて教えてくれる。
私も1年生のクラスが載っているページを探した。
「ほんとだ! 行きたい!」
「じゃあ行こう!」
桃子は最後の一口を大事そうに食べ終える。
次に行く場所が決まった私たちは、シャーベットのカップとスプーンを片付け、1年生の教室がある1階に向かった。
「いやぁ、学校にエレベーターかエスカレーター欲しいわぁ」
なんてことを桃子が言ってくる。
「あはは、たしかに。授業の度に上行ったり下行ったり大変だもんね」
「だーよねー」
そんな話をしながら階段を降りていった。
校内はだいぶ賑わっていて、上がってくる人をなんとか避けながら歩く。
前を歩く桃子とはぐれないよう追いかけているうちに、いつのまにかお目当のクラスの前まで来ていた。
クラスの前にある手作りのメニュー表を見て何を買うか悩んでいると、隣の桃子が別の場所を見つめていた。
「あ、いた……」
桃子が小さく呟く。
桃子の目線の先を見たとき、私はその言葉の意味を一瞬で理解した。
「っ……!」
私は走り出していた。
「こうちゃん!」
間違いなく視界にとらえた彼に向けてそう呼ぶ。
すると、彼がこっちを見た。
「ひ、久しぶり。あの、私のこと、覚えてる?」
ぎこちない声で目も合わせられずに言った。
なんて話すか決めてなかった。
ゆっくりと視線を上げて、やがて目が合う。
「ごめん、誰?」
声変わりして、低くて男っぽくなった声でそう言われた。
「え、あー……」
それ以上何も喋れなくなる。
どうしよう。
「おーい、こーすけー?」
少し離れたところで彼の友達が呼んでいた。
私とその友達とを交互に見ている。
「えーっと、ごめん、行くね?」
困り顔でそれだけ残して彼は友達の方に行ってしまった。
彼が友達と笑っている。
その姿から目が離せなかった。
「ほんっとごめん!」
周りの人がびっくりするくらいの声で桃子が謝ってきた。
「まさか同姓同名の別人だったなんて……私……」
あの後桃子が私にタピオカドリンクを奢ってくれ、今はその教室の中にいる。
「ううん、大丈夫だよ。それに別人じゃない。あれは絶対、私の知ってるこうちゃんだよ」
そう。それは間違いない。
どんなに声が低くなっていても、どんなに背が伸びていても、あの笑顔だけは何も変わっていなかった。
二重で綺麗な目。
それが笑う時には細くなる。
ニッと笑うあの口元も。
ずっとずっと、見てきたもの。
「その、彼ってさ、会えなくなって探してるって話は聞いたけど……どうして会えなくなったのか、聞いてもいい?」
そういえばその話はしてなかったっけ。
一瞬目を瞑り、昔を思い出す。
「こうちゃんに会えたのは私の両親の離婚がきっかけでね──」
桃子のパンフレットを覗き込みながら少しの間考える。
「うーん、タピオカとか? 売り切れる前に買って、それから遊びたいかも」
「ふむふむ」
そう言って桃子は再びパンフレットに目を落とした。
私はシャーベットを食べる手を進める。
「お化け屋敷いきたいなー。あ、体育館で吹部の演奏を観るのもいいなー」
桃子がパンフレットを見て楽しんでいる。
私はシャーベットを食べ終え、桃子と同じようにパンフレットを開いた。
「タピオカは1年生のこのクラスだけみたいだし、そこ行く?」
桃子が先に調べて教えてくれる。
私も1年生のクラスが載っているページを探した。
「ほんとだ! 行きたい!」
「じゃあ行こう!」
桃子は最後の一口を大事そうに食べ終える。
次に行く場所が決まった私たちは、シャーベットのカップとスプーンを片付け、1年生の教室がある1階に向かった。
「いやぁ、学校にエレベーターかエスカレーター欲しいわぁ」
なんてことを桃子が言ってくる。
「あはは、たしかに。授業の度に上行ったり下行ったり大変だもんね」
「だーよねー」
そんな話をしながら階段を降りていった。
校内はだいぶ賑わっていて、上がってくる人をなんとか避けながら歩く。
前を歩く桃子とはぐれないよう追いかけているうちに、いつのまにかお目当のクラスの前まで来ていた。
クラスの前にある手作りのメニュー表を見て何を買うか悩んでいると、隣の桃子が別の場所を見つめていた。
「あ、いた……」
桃子が小さく呟く。
桃子の目線の先を見たとき、私はその言葉の意味を一瞬で理解した。
「っ……!」
私は走り出していた。
「こうちゃん!」
間違いなく視界にとらえた彼に向けてそう呼ぶ。
すると、彼がこっちを見た。
「ひ、久しぶり。あの、私のこと、覚えてる?」
ぎこちない声で目も合わせられずに言った。
なんて話すか決めてなかった。
ゆっくりと視線を上げて、やがて目が合う。
「ごめん、誰?」
声変わりして、低くて男っぽくなった声でそう言われた。
「え、あー……」
それ以上何も喋れなくなる。
どうしよう。
「おーい、こーすけー?」
少し離れたところで彼の友達が呼んでいた。
私とその友達とを交互に見ている。
「えーっと、ごめん、行くね?」
困り顔でそれだけ残して彼は友達の方に行ってしまった。
彼が友達と笑っている。
その姿から目が離せなかった。
「ほんっとごめん!」
周りの人がびっくりするくらいの声で桃子が謝ってきた。
「まさか同姓同名の別人だったなんて……私……」
あの後桃子が私にタピオカドリンクを奢ってくれ、今はその教室の中にいる。
「ううん、大丈夫だよ。それに別人じゃない。あれは絶対、私の知ってるこうちゃんだよ」
そう。それは間違いない。
どんなに声が低くなっていても、どんなに背が伸びていても、あの笑顔だけは何も変わっていなかった。
二重で綺麗な目。
それが笑う時には細くなる。
ニッと笑うあの口元も。
ずっとずっと、見てきたもの。
「その、彼ってさ、会えなくなって探してるって話は聞いたけど……どうして会えなくなったのか、聞いてもいい?」
そういえばその話はしてなかったっけ。
一瞬目を瞑り、昔を思い出す。
「こうちゃんに会えたのは私の両親の離婚がきっかけでね──」
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