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宝物【鈴木琴音】
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「好きです、俺と付き合ってください」
「ごめんなさい。私、好きな人がいます」
────────────────
「琴音~、大学で告白されたのこれで何人目?」
「5……とか?」
「そのたびに好きな人がいるって断ってるんでしょ? もうさ、いい加減嘘でもなんでも彼氏いますって言えばいいんじゃない?」
「う、嘘はだめだよ桃子! それに、本当に好きな人はいるの!」
「でもいつになっても私に紹介すらしてくれないじゃーん!」
「そ、それは……」
言えるわけがない。
だって、言ってしまったら、私は死んでしまうから。
そんなこと、誰も信じてはくれないだろうけど。
「まあでも、男たちが琴音に言い寄ってくる気持ちもわかるわ。あんた、高3の夏ぐらいから一気にかわいくなっていったもん。そりゃほっとくわけないよね。
あーあ、琴音に告った人みーんな、ことねが一途に思ってるその男のこと、羨ましく思ってるよー?」
「か、かわいく……そうなのかな」
高3の夏といえば彼と会った時期。
そう思うとちょっぴり恥ずかしくなった。
「あ、今好きな人のこと考えてたでしょ!」
「ち、ちがうよ! もう!」
桃子はもう覚えていない。
去年の夏のたった1ヶ月。
私にとってかけがえのない思い出を。
「それにしてもさ、琴音、ずっとそのキーホルダーつけてるよね」
「あ、これ……」
携帯についているリボンのキーホルダーを指さす桃子。
「なんか思い入れとかあるもの?」
「うん、そうだね。とっても大事な宝物」
「そかそか、ならそろそろ大事にしまっておいてもいいんじゃない? だってほら――」
そう言って桃子がそのキーホルダーに触れた瞬間、ひもが切れ、床に落ちてしまった。
「ほんとごめん! そんな、ごめん!」
すぐに拾って必死に謝る桃子。
「いや、いいの。ずっとつけててひもが切れかかってたみたい。どこかでなくすより全然よかったよ。これからは家で大事にする」
そう言って私はバッグに丁寧にしまった。
それからまたいつものように一時間ほどだべってから家に帰った。
「あれから1年、か」
死神と契約を交わしてから1年。
彼のことを口外してはいけないというこの生活にも慣れた。
「お互いに好きだったけど、付き合っては、いないもんね……?」
少し前の桃子の言葉を思い出して考える。
「付き合ったら、どんな感じだったのかな……」
もう彼のことを笑顔で思い出せるくらいにはなった。
「あ、そうだ、忘れる前にっと!」
私はバッグにしまっておいたキーホルダーを取り出し、棚の上に飾ってあった青いノートの隣にそっと並べた。
「ごめんなさい。私、好きな人がいます」
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「琴音~、大学で告白されたのこれで何人目?」
「5……とか?」
「そのたびに好きな人がいるって断ってるんでしょ? もうさ、いい加減嘘でもなんでも彼氏いますって言えばいいんじゃない?」
「う、嘘はだめだよ桃子! それに、本当に好きな人はいるの!」
「でもいつになっても私に紹介すらしてくれないじゃーん!」
「そ、それは……」
言えるわけがない。
だって、言ってしまったら、私は死んでしまうから。
そんなこと、誰も信じてはくれないだろうけど。
「まあでも、男たちが琴音に言い寄ってくる気持ちもわかるわ。あんた、高3の夏ぐらいから一気にかわいくなっていったもん。そりゃほっとくわけないよね。
あーあ、琴音に告った人みーんな、ことねが一途に思ってるその男のこと、羨ましく思ってるよー?」
「か、かわいく……そうなのかな」
高3の夏といえば彼と会った時期。
そう思うとちょっぴり恥ずかしくなった。
「あ、今好きな人のこと考えてたでしょ!」
「ち、ちがうよ! もう!」
桃子はもう覚えていない。
去年の夏のたった1ヶ月。
私にとってかけがえのない思い出を。
「それにしてもさ、琴音、ずっとそのキーホルダーつけてるよね」
「あ、これ……」
携帯についているリボンのキーホルダーを指さす桃子。
「なんか思い入れとかあるもの?」
「うん、そうだね。とっても大事な宝物」
「そかそか、ならそろそろ大事にしまっておいてもいいんじゃない? だってほら――」
そう言って桃子がそのキーホルダーに触れた瞬間、ひもが切れ、床に落ちてしまった。
「ほんとごめん! そんな、ごめん!」
すぐに拾って必死に謝る桃子。
「いや、いいの。ずっとつけててひもが切れかかってたみたい。どこかでなくすより全然よかったよ。これからは家で大事にする」
そう言って私はバッグに丁寧にしまった。
それからまたいつものように一時間ほどだべってから家に帰った。
「あれから1年、か」
死神と契約を交わしてから1年。
彼のことを口外してはいけないというこの生活にも慣れた。
「お互いに好きだったけど、付き合っては、いないもんね……?」
少し前の桃子の言葉を思い出して考える。
「付き合ったら、どんな感じだったのかな……」
もう彼のことを笑顔で思い出せるくらいにはなった。
「あ、そうだ、忘れる前にっと!」
私はバッグにしまっておいたキーホルダーを取り出し、棚の上に飾ってあった青いノートの隣にそっと並べた。
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