命の対価

桜庭 葉菜

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ことねの選んだ道 5

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 そうか、もう、これが──

 そう言われ、俺は彼女を見た。

 彼女の真っ直ぐな瞳が、俺を見つめている。

 正確には、その瞳はどこにいるかわからない死神に向けられていたもの。

 そうわかっていても、俺は見つめ返さずには居られなかった。

 じっと彼女の瞳を見つめる。

 もうこの先二度と見ることの出来ない彼女の顔をしっかりと、目に、脳裏に、記憶に焼き付ける。

 一通り泣き終えてもまだ潤んでいるその瞳に、俺の姿は映っていない。

 その瞬間、彼女の顔が歪んだ。

 ぱたり、ぱたりと、膝に不思議な温かさを感じる。

 彼女の顔が歪んだ原因は俺だった。

 ああ、好きな女の子の前で泣くなんて、かっこ悪いな。

 でも、彼女に見えていないだけ、まだマシかな。

 そっと伸ばした手が、ノートをすり抜け、彼女の頬へと一直線に進む。

 できることならばもう一度だけ、彼女に触れたい。

 震えながら進む手が頬の横にようやく辿り着いた。

 その瞬間、彼女が顔を下げ、俺は反射的に手を引き戻す。

 触れてはいけない、なぜかそう思ってしまった。

「こと、ね」

 もう触れることも話すことも出来ないけれど。

「琴音」

 彼女は手元のノートを見つめている。

「好きだよ」

 何故だろうか、聞こえないはずなのに、琴音の顔が上がった。

 もう悔いはない。

 ありがとう。

 そこから先の記憶はない。
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