命の対価

桜庭 葉菜

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影 2

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 そんな声が聞こえ、咄嗟に顔をあげようとしたところで、俺の意識は途絶えた。

「しっかりして!」

 誰の、声だろう。

 ぼんやりとした意識の中、聞こえてくるたくさんの音。

 悲鳴、車の止まる音、足音、助けを呼ぶ声。 

「嫌だよ……目を、覚ましてよ……佐々木くん!」

 唯一鮮明に聞こえてきた音。

 これはあの時の彼女の──

 うっすらと目を開けた俺は、まず1番に白の天井が見えた。

 それから少し首を動かし、左右を確認する。

「佐倉、さん……」

 俺の声に気がついた佐倉さんが、すぐ人を呼びに行ってしまった。

 現れたのは保健室の先生。

 俺は保健の先生から俺がここに来るまでの経緯を聞いた。

 どうやら俺は、飛んできたボールを見事に頭で受け、気を失ったようだ。

 それをそばに居た佐倉さんが助けてくれたとのこと。

 話を終えた先生は、俺にまだここにいていいと伝えると、続けて職員室に行くと言って出ていった。

 2人きりになった静かな部屋。

 この状況は、あの時以来だ。

 佐倉さんに、泣きながら事故のことを告げられた、あの日以来──

「あの時も、俺の事を助けてくれたんだよな」

 体を起こし、すぐ隣の椅子に腰かけている佐倉さんに向けて言う。

「え……?」

 事故にあったあの日。

 俺は裕貴との約束の時間に遅れそうになって、あまり乗らない自転車に乗って行った。

 いつもの通り道にある信号は、ちゃんと青だった……と思う。

 とにかく時間が無くて、車が来てるかとか、そんな確認ももちろんする余裕はなくて。

 気づいたら車が真横にいて、そのままぶつかった。

 痛いとか、苦しいとか、もうよく分からなくて。

 呼吸も心臓もおかしくて。

 自分のものだと思われる赤色で徐々に視界が塗られていく。

 そんな中で聞こえたんだ。

 俺を助けようと必死になってくれている、佐倉さんの声が。

 佐倉さんは確かにあの事故現場にいた。

「あの事故の時、佐倉さんは必死で俺の事助けようとしてくれてた。忘れてごめん、さっき、思い出した」

 佐倉さんの目から静かに涙がこぼれ落ちる。

 でもその涙は、やっぱりまだ自分を責め続ける色をしていて。

「あれは、私のせい……私のせいでお父さんは、佐々木くんを……」

 俺は佐倉さんのお父さんが運転していた車に轢かれた。

 それはそうだけど、でも。

「俺は佐倉さんを恨んでない。むしろ感謝してる。あの時も、今日も、俺の事助けてくれてありがとう。
今までずっと、苦しめててごめん」

 再び彼女の瞳から涙がこぼれおちた。

 今度はまるで今までの苦しみが全て流れ落ちるかのように。

 大きく、ゆっくり、彼女の優しさがとめどなく溢れ出した。
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