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はじめまして 2
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今日はどの部活もやっていないので、わざわざこの場所に来るような人はいないし、ここなら座りながら彼女の話を聞くことが出来る。
不意の涙でパニックになった俺の頭ではこれくらいの配慮が精一杯だった。
「ちょ、ちょっと待ってて」
そう言ってまだ泣き止まぬ彼女をベンチに座らせ、俺は小走りである場所を目指した。
「やっべ、どれにしよ……」
大小さまざま、色とりどりの飲み物が並んだ自動販売機と言う名の白い箱を見つめ、唸り声をあげる。
とりあえず彼女を落ち着かせるために飲み物を買おうというところまでは考え付いたが、肝心の何を買えばいいかがわからない。
「もうこれにしよう」
あまり長い時間待たせるわけにもいかないので、俺の1番好きな飲み物──りんごジュースを2本買い、さっき来た道を戻った。
「あの、ごめん。ほんと、泣かないで」
泣かないで、というのは自分勝手だっただろうか。
それでも俺の声に、縮こまっていた肩がピクリと反応し、静かに顔があがる。
目が赤く、僅かに唇を噛み締めていたが、もう涙は出ていなかった。
「はいこれ。何が好きかわからなかったから俺の好きなやつだけど……飲める?」
そう言って両手の同じペットボトルを見つめた俺は、別々のものを買ってどちらか好きなほうを選んでもらえばよかったと気づいた。
だがもう今更だ。
俺は選ぶ必要のない右と左のうち、利き手である右手の方を彼女の近くに差し出した。
「ありがとう」
ほんの少しだけ彼女の表情が柔らかくなった気がしたが、途端に俺から受けとったりんごジュースに目を落とし、黙り込む。
やがてりんごジュースが彼女の両の手の上でコロコロと遊ばれる。
俺はその一定に動き続けているものを見つめる。
りんごジュース、気に入らなかっただろうか?
それともまた泣き出してしまっているのだろうか?
心配になり、ゆっくりと彼女の顔を覗き込もうと顔を下げると、彼女は大きく息を吸って一気に顔を上げた。
「連絡先、交換しませんか?」
彼女の口から発せられた言葉。
全く想像していなかった言葉。
「連絡先?」
その中で一番強調されていた単語を俺は復唱する。
「ほら、これで知り合いってことで!
私は人違いしてないーみたいな……あはは、そんなわけ、ないですよね……」
後半になるにつれ、だんだん声が小さくなり、せっかく上がった顔が合わせて下がる。
りんごジュースを握りしめ、再び泣き出しそうな彼女。
そんな彼女の前で俺は場違いな声を出した。
「くっ……なにそれっ、変なの……」
彼女の言葉が面白くて、一瞬見せてくれた笑顔に思わず気が抜けて、俺はただ純粋に笑った。
「連絡先、交換しよう」
まだ少し笑い震えた声で彼女に言った。
俺の返事を聞いた彼女は、今までで一番の笑顔を見せてくれた。
不意の涙でパニックになった俺の頭ではこれくらいの配慮が精一杯だった。
「ちょ、ちょっと待ってて」
そう言ってまだ泣き止まぬ彼女をベンチに座らせ、俺は小走りである場所を目指した。
「やっべ、どれにしよ……」
大小さまざま、色とりどりの飲み物が並んだ自動販売機と言う名の白い箱を見つめ、唸り声をあげる。
とりあえず彼女を落ち着かせるために飲み物を買おうというところまでは考え付いたが、肝心の何を買えばいいかがわからない。
「もうこれにしよう」
あまり長い時間待たせるわけにもいかないので、俺の1番好きな飲み物──りんごジュースを2本買い、さっき来た道を戻った。
「あの、ごめん。ほんと、泣かないで」
泣かないで、というのは自分勝手だっただろうか。
それでも俺の声に、縮こまっていた肩がピクリと反応し、静かに顔があがる。
目が赤く、僅かに唇を噛み締めていたが、もう涙は出ていなかった。
「はいこれ。何が好きかわからなかったから俺の好きなやつだけど……飲める?」
そう言って両手の同じペットボトルを見つめた俺は、別々のものを買ってどちらか好きなほうを選んでもらえばよかったと気づいた。
だがもう今更だ。
俺は選ぶ必要のない右と左のうち、利き手である右手の方を彼女の近くに差し出した。
「ありがとう」
ほんの少しだけ彼女の表情が柔らかくなった気がしたが、途端に俺から受けとったりんごジュースに目を落とし、黙り込む。
やがてりんごジュースが彼女の両の手の上でコロコロと遊ばれる。
俺はその一定に動き続けているものを見つめる。
りんごジュース、気に入らなかっただろうか?
それともまた泣き出してしまっているのだろうか?
心配になり、ゆっくりと彼女の顔を覗き込もうと顔を下げると、彼女は大きく息を吸って一気に顔を上げた。
「連絡先、交換しませんか?」
彼女の口から発せられた言葉。
全く想像していなかった言葉。
「連絡先?」
その中で一番強調されていた単語を俺は復唱する。
「ほら、これで知り合いってことで!
私は人違いしてないーみたいな……あはは、そんなわけ、ないですよね……」
後半になるにつれ、だんだん声が小さくなり、せっかく上がった顔が合わせて下がる。
りんごジュースを握りしめ、再び泣き出しそうな彼女。
そんな彼女の前で俺は場違いな声を出した。
「くっ……なにそれっ、変なの……」
彼女の言葉が面白くて、一瞬見せてくれた笑顔に思わず気が抜けて、俺はただ純粋に笑った。
「連絡先、交換しよう」
まだ少し笑い震えた声で彼女に言った。
俺の返事を聞いた彼女は、今までで一番の笑顔を見せてくれた。
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