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文化祭 4
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よくありがちなチケットと商品の交換制。
しかしながら文化祭の販売システムは学校で長年受け継がれているよくできたシステムであると、本当に感心する。
俺は最後に軽く会釈をしてから、タピオカを受け取りに行った。
気だるげな男子にさっきもらったばかりのチケットを渡す。
俺はそんなに身長が低いわけではないのだが、それでも今目の前にいる男子の方が俺よりも少し身長が高くて、なんだか年下には見えなかった。
「どうぞ」
机越しにタピオカミルクティーとストローを渡され「ありがとうございました」という少し間延びした声を背に受けて、出口と書かれたドアへと歩いた。
しかし、そのまま素直に教室の外に出ることはかなわず、丁度タピオカを堪能し終わった女子グループが行く先を塞いでいた。
教室を出ようとはしているみたいだが、広がって話しながらゆっくり歩いているため、抜かすことが出来ず、同じスピードで後ろをついて行く羽目になった。
一定の間隔を保ちながら無言で歩き、ようやく廊下に出る。
廊下の空気がおいしく感じるほど、教室の中の空気は俺にとってあまりいいものではなかった。
2人はどこにいるのだろうかと、辺りを見回す。
すると1つ隣の教室の前でタピオカを飲んでいる2人が見え、俺はタピオカを一口だけ楽しんでから向かった。
「こうちゃん――」
知らない人たちの会話が交互に耳に飛び込んでくる中、俺にはなぜかその言葉だけしっかりと聞こえた。
「こうちゃん!」
知らない声で俺の名前が呼ばれている。
いや、同じあだ名で呼ばれている人だっているはずだ。
なのに俺は、どんどん近づいてくるその声のする方を向いてしまった。
「ひ、久しぶり。あの、私のこと、覚えてる?」
目の前に俺とそんなに歳の変わらなさそうな女子。
茶色く綺麗な瞳が真っ直ぐに俺のことを見つめていて、彼女の言う「こうちゃん」という人物が間違いなく俺だということを物語っていた。
もしかしたら中学校や小学校の時の同級生かもしれないが、申し訳ないことに覚えていない。
「ごめん、誰?」
素っ気ない返事になってしまったが口から音となって出てしまった言葉をもう一度やり直すことはできない。
「え、あー……」
そんなに俺の言い方に傷ついたのか、彼女は口ごもってしまった。
「おーい、こーすけー?」
裕貴が俺のことを見つけて呼んでいる。
これ以上待たせると目当てのバンドの演奏が見られなくなってしまう。
「えーっと、ごめん、友達待たせてて……行くね?」
何も言わなくなってしまった彼女に今度はできる限り優しく声をかけ、俺はその場からゆっくり立ち去った。
「何かあったのか?」
「いや、何も……」
そう言ってから後ろを見たが、もう彼女の姿は見えなかった。
『こうちゃん』
小学生の頃呼ばれていた俺のあだ名。
でもさっきその名を呼んでいた人を俺は覚えていない。
知らない人に、もう忘れかけていた懐かしいあだ名。
俺を「こうちゃん」と呼んだ彼女の声と顔が頭に焼き付いて忘れられなかった。
しかしながら文化祭の販売システムは学校で長年受け継がれているよくできたシステムであると、本当に感心する。
俺は最後に軽く会釈をしてから、タピオカを受け取りに行った。
気だるげな男子にさっきもらったばかりのチケットを渡す。
俺はそんなに身長が低いわけではないのだが、それでも今目の前にいる男子の方が俺よりも少し身長が高くて、なんだか年下には見えなかった。
「どうぞ」
机越しにタピオカミルクティーとストローを渡され「ありがとうございました」という少し間延びした声を背に受けて、出口と書かれたドアへと歩いた。
しかし、そのまま素直に教室の外に出ることはかなわず、丁度タピオカを堪能し終わった女子グループが行く先を塞いでいた。
教室を出ようとはしているみたいだが、広がって話しながらゆっくり歩いているため、抜かすことが出来ず、同じスピードで後ろをついて行く羽目になった。
一定の間隔を保ちながら無言で歩き、ようやく廊下に出る。
廊下の空気がおいしく感じるほど、教室の中の空気は俺にとってあまりいいものではなかった。
2人はどこにいるのだろうかと、辺りを見回す。
すると1つ隣の教室の前でタピオカを飲んでいる2人が見え、俺はタピオカを一口だけ楽しんでから向かった。
「こうちゃん――」
知らない人たちの会話が交互に耳に飛び込んでくる中、俺にはなぜかその言葉だけしっかりと聞こえた。
「こうちゃん!」
知らない声で俺の名前が呼ばれている。
いや、同じあだ名で呼ばれている人だっているはずだ。
なのに俺は、どんどん近づいてくるその声のする方を向いてしまった。
「ひ、久しぶり。あの、私のこと、覚えてる?」
目の前に俺とそんなに歳の変わらなさそうな女子。
茶色く綺麗な瞳が真っ直ぐに俺のことを見つめていて、彼女の言う「こうちゃん」という人物が間違いなく俺だということを物語っていた。
もしかしたら中学校や小学校の時の同級生かもしれないが、申し訳ないことに覚えていない。
「ごめん、誰?」
素っ気ない返事になってしまったが口から音となって出てしまった言葉をもう一度やり直すことはできない。
「え、あー……」
そんなに俺の言い方に傷ついたのか、彼女は口ごもってしまった。
「おーい、こーすけー?」
裕貴が俺のことを見つけて呼んでいる。
これ以上待たせると目当てのバンドの演奏が見られなくなってしまう。
「えーっと、ごめん、友達待たせてて……行くね?」
何も言わなくなってしまった彼女に今度はできる限り優しく声をかけ、俺はその場からゆっくり立ち去った。
「何かあったのか?」
「いや、何も……」
そう言ってから後ろを見たが、もう彼女の姿は見えなかった。
『こうちゃん』
小学生の頃呼ばれていた俺のあだ名。
でもさっきその名を呼んでいた人を俺は覚えていない。
知らない人に、もう忘れかけていた懐かしいあだ名。
俺を「こうちゃん」と呼んだ彼女の声と顔が頭に焼き付いて忘れられなかった。
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