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第37話 VS聖十騎士ギルバート②
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「ほお、なるほどなぁ。必殺技か? さしずめ消耗戦を捨てて一撃で勝負を決めようってか」
「ああ、ワンパターンで申し訳ないがオレにはこれしかないんでな」
「くっくっくっ、いいぜいいぜ。好きにしな。ただし、オレをこれまでの連中と同じように一撃で片付けられると思うなよ」
そう言ってギルバートはこちらの一撃を受け止めるべく構える。
確かに奴の能力値はオレが対峙してきた聖十騎士団の比ではない。
だが、それでもオレにはこれしか残されていない。
残る全ての力をこの一刀に賭けるべく、オレは全エネルギーを集中させ、光速を超える神速を持って一刀を抜く。
「『花火一閃』!」
光と共に放たれた閃光の花。
それは眩い輝きと共にギルバートの体を捉える――が。
「ぐッ……!!」
「ッ!?」
オレが放った花火一閃はギルバートの脇腹に入り腹部を裂いたがそこで止まった。
ギルバートの並外れた防御力、筋力、そして全エネルギーを防御に向けたことでオレの『花火一閃』の一撃をその体で完全に受け止めた。
バカな。あのアリアの『命の鎧』すら断ち切ったオレの『花火一閃』を強化されたとは言え、その体で受け止めるとは。
その思わぬ結果に動揺したオレの隙をギルバートは見逃さなかった。
「はあッ!!」
「がッ!?」
ギルバートの渾身の一撃がオレの胸に入る。
渾身の一撃を放った直後だったために、オレはその一撃をモロに受け血を吐き、後ろに吹き飛ぶ。
「! 真人さん!?」
「よせ……こっちに来るなッ!」
そんなオレの姿を見てシュナが悲鳴をあげ、近づこうとするがオレはなんとか彼女を制する。
一方のギルバートは体に刺さった剣を抜き、それをオレに向け投げ捨てる。
「そら、武器がなければ最後までやれないだろう」
「こいつは律儀にどうも……」
口から血を吐き捨て剣を取る。
今の一瞬にこいつからの攻撃を受けていればまずかったが、まさかわざわざ武器を返し、こちらの態勢が整うまで待つとは。
よほどの自信か、あるいは騎士道精神というやつか。
とはいえ、こいつはまずい。『加速』を乗せた『花火一閃』ですら倒せないとは。
先ほどのギルバートの一撃でオレは肋骨が砕けているのを自覚していた。
オレの『加速』に対応する反射速度。さらには『花火一閃』すら防ぐほどの防御力。そして、この攻撃力。
恐らく、今のギルバートの全能力値は真名スキルによって四桁を超えるステータスとなっているのだろう。
正直ここまでの化物だったとは想定外であった。
このまま、ここで全力を出し続ければオレの消耗は致命的なレベルになる。
どうすればこいつを倒せるかと焦るオレであったが……その瞬間、ギルバートの体に異変が起きた。
「ッ、ぐ、がはッ!?」
「なッ!?」
突然ギルバートが吐血し、それに伴うように右腕が爆発したかのような血を噴き出させる。
なんだ? どういうことだ?
戸惑うオレにギルバートの笑い声が届く。
「くっ、くくく……クソがッ……時間切れだ……」
「なに?」
「てめえの勝ちってことだよ。ブレイブ……」
その一言と共にギルバートの赤褐色の肌が元に戻っていく。
それと合わさるようにそれまでギルバートから感じていたとてつもない闘気が薄れ、まるで風船がしぼむかのように力なくその場で片膝をつく。
「どういうことだ……?」
「どうもこうもありませんよ……生憎私のこの真名スキルは欠陥品でしてね……。限界を超える力を出し続けると先に私の肉体の方にガタが来る……。つまり、先ほどのあなたの『花火一閃』を受け止め、反撃したところまでが私の限界ということです……」
「つまり、スキル効果の限界ってことか?」
「まあ、そういうことです……。結果として先ほどの打ち合いであなたは私に勝利していたのですよ」
そう言ってギルバートは自らの負けを認める。
正直、オレとしては完全勝利とは言えない形であったが勝利は勝利。
オレはそのままギルバートの首筋に剣を突き立てるが――。
「…………」
「どうしたのです? 私を殺して先に進まないのですか?」
死を覚悟し、目を閉じるギルバート。
だが、自身の傷を魔法で癒した後、剣を収める。
「行こう、シュナ。この先に四聖皇ネプチューンがいる。奴からなぜ巫女である君の命を狙うのか。その理由を直接問いただそう」
「あ、は、はい!」
オレはそのままシュナを連れ、ギルバートの横を通り過ぎる。
だが、そんなオレ達の背にギルバートが声をかける。
「……待ちなさい。なぜ私に止めを刺さないのですか?」
「そういうアンタもさっきオレに剣を返さず、攻撃を仕掛ければトドメを刺すこともできただろう?」
「……見くびらないで欲しいですね。武器を持たない相手を手にかけるほど落ちぶれはいません。あなたは反逆者ですが、それでも対等の敵として私は相手にしたのです」
「なら、オレも同じで戦えない相手に止めは刺さない。それはアンタも知っているだろう?」
無論それは以前オレがドラゴンを見逃し、そのことをギルバートが忠告したことを指しており、そのことは彼も理解しており、背中越しに笑みを漏らす声が聞こえた。
「……随分と甘いですね」
「かもな」
ギルバートの皮肉にオレは笑って答える。
そうして再び歩き出そうとした瞬間、ギルバートが何かを語りだす。
「十年前、一人の騎士がいました。当時、その騎士は任務により姉の警護をしていました。理由はその騎士の姉が当時の『巫女』だったから。騎士は巫女である姉を守りました。ですが、最後にはこの国の神たるネプチューンの命令により――『巫女』を殺しました」
「…………」
突然のギルバートからの告白にオレもシュナも思わず彼の方を振り返る。
彼はそんなオレ達に背中を向けたまま続ける。
「男はその後、聖十騎士団の一員となります。男に迷いがなかったかというと、そうでもありませんでした。なぜ巫女が死ななければならないのか。なぜ姉を殺さなければいけないのか。しかし、神は答えてくれません。いえ、神とはそういうものなのでしょう。自分達への忠義を示すために生贄を募る。昔からある伝承です。ですから、男は考えることをやめてただ神の命令のまま、その任務を全うすることに全力を尽くすようになりました……」
ですが、とギルバートは続ける。
「……あなたはそんな神からの命令に反し“自らの考え”を貫き通した。それはかつての私が思い描きながらも最後まで出来なかったこと。そんなあなたが羨ましかった……」
「ギルバート……」
それはまぎれもないこの男の本心なのだとオレは理解した。
その後、ギルバートがオレに何かを告げることはなかった。無論、オレ達の邪魔もしないと彼はその背中で語っていた。
いや、本当は彼はどこかで待っていたのかもしれない。
オレのように神に対し疑問を持ち、それに対し問いかける意思を持つ者の登場を。
いずれにせよ、これで全ての障害は取り除いた。
オレは自らのステータスを確認する。
現在のレベルは――『798』
その数値に一抹の不安を抱えながらも、オレは隣にてオレの拳を優しく握るシュナに微笑み返す。
もはや、ここまで来て引くことはない。
全ての答えはこの先にある。
オレはひと呼吸をした後、遂にその扉――神へと至る門を開く。
「ああ、ワンパターンで申し訳ないがオレにはこれしかないんでな」
「くっくっくっ、いいぜいいぜ。好きにしな。ただし、オレをこれまでの連中と同じように一撃で片付けられると思うなよ」
そう言ってギルバートはこちらの一撃を受け止めるべく構える。
確かに奴の能力値はオレが対峙してきた聖十騎士団の比ではない。
だが、それでもオレにはこれしか残されていない。
残る全ての力をこの一刀に賭けるべく、オレは全エネルギーを集中させ、光速を超える神速を持って一刀を抜く。
「『花火一閃』!」
光と共に放たれた閃光の花。
それは眩い輝きと共にギルバートの体を捉える――が。
「ぐッ……!!」
「ッ!?」
オレが放った花火一閃はギルバートの脇腹に入り腹部を裂いたがそこで止まった。
ギルバートの並外れた防御力、筋力、そして全エネルギーを防御に向けたことでオレの『花火一閃』の一撃をその体で完全に受け止めた。
バカな。あのアリアの『命の鎧』すら断ち切ったオレの『花火一閃』を強化されたとは言え、その体で受け止めるとは。
その思わぬ結果に動揺したオレの隙をギルバートは見逃さなかった。
「はあッ!!」
「がッ!?」
ギルバートの渾身の一撃がオレの胸に入る。
渾身の一撃を放った直後だったために、オレはその一撃をモロに受け血を吐き、後ろに吹き飛ぶ。
「! 真人さん!?」
「よせ……こっちに来るなッ!」
そんなオレの姿を見てシュナが悲鳴をあげ、近づこうとするがオレはなんとか彼女を制する。
一方のギルバートは体に刺さった剣を抜き、それをオレに向け投げ捨てる。
「そら、武器がなければ最後までやれないだろう」
「こいつは律儀にどうも……」
口から血を吐き捨て剣を取る。
今の一瞬にこいつからの攻撃を受けていればまずかったが、まさかわざわざ武器を返し、こちらの態勢が整うまで待つとは。
よほどの自信か、あるいは騎士道精神というやつか。
とはいえ、こいつはまずい。『加速』を乗せた『花火一閃』ですら倒せないとは。
先ほどのギルバートの一撃でオレは肋骨が砕けているのを自覚していた。
オレの『加速』に対応する反射速度。さらには『花火一閃』すら防ぐほどの防御力。そして、この攻撃力。
恐らく、今のギルバートの全能力値は真名スキルによって四桁を超えるステータスとなっているのだろう。
正直ここまでの化物だったとは想定外であった。
このまま、ここで全力を出し続ければオレの消耗は致命的なレベルになる。
どうすればこいつを倒せるかと焦るオレであったが……その瞬間、ギルバートの体に異変が起きた。
「ッ、ぐ、がはッ!?」
「なッ!?」
突然ギルバートが吐血し、それに伴うように右腕が爆発したかのような血を噴き出させる。
なんだ? どういうことだ?
戸惑うオレにギルバートの笑い声が届く。
「くっ、くくく……クソがッ……時間切れだ……」
「なに?」
「てめえの勝ちってことだよ。ブレイブ……」
その一言と共にギルバートの赤褐色の肌が元に戻っていく。
それと合わさるようにそれまでギルバートから感じていたとてつもない闘気が薄れ、まるで風船がしぼむかのように力なくその場で片膝をつく。
「どういうことだ……?」
「どうもこうもありませんよ……生憎私のこの真名スキルは欠陥品でしてね……。限界を超える力を出し続けると先に私の肉体の方にガタが来る……。つまり、先ほどのあなたの『花火一閃』を受け止め、反撃したところまでが私の限界ということです……」
「つまり、スキル効果の限界ってことか?」
「まあ、そういうことです……。結果として先ほどの打ち合いであなたは私に勝利していたのですよ」
そう言ってギルバートは自らの負けを認める。
正直、オレとしては完全勝利とは言えない形であったが勝利は勝利。
オレはそのままギルバートの首筋に剣を突き立てるが――。
「…………」
「どうしたのです? 私を殺して先に進まないのですか?」
死を覚悟し、目を閉じるギルバート。
だが、自身の傷を魔法で癒した後、剣を収める。
「行こう、シュナ。この先に四聖皇ネプチューンがいる。奴からなぜ巫女である君の命を狙うのか。その理由を直接問いただそう」
「あ、は、はい!」
オレはそのままシュナを連れ、ギルバートの横を通り過ぎる。
だが、そんなオレ達の背にギルバートが声をかける。
「……待ちなさい。なぜ私に止めを刺さないのですか?」
「そういうアンタもさっきオレに剣を返さず、攻撃を仕掛ければトドメを刺すこともできただろう?」
「……見くびらないで欲しいですね。武器を持たない相手を手にかけるほど落ちぶれはいません。あなたは反逆者ですが、それでも対等の敵として私は相手にしたのです」
「なら、オレも同じで戦えない相手に止めは刺さない。それはアンタも知っているだろう?」
無論それは以前オレがドラゴンを見逃し、そのことをギルバートが忠告したことを指しており、そのことは彼も理解しており、背中越しに笑みを漏らす声が聞こえた。
「……随分と甘いですね」
「かもな」
ギルバートの皮肉にオレは笑って答える。
そうして再び歩き出そうとした瞬間、ギルバートが何かを語りだす。
「十年前、一人の騎士がいました。当時、その騎士は任務により姉の警護をしていました。理由はその騎士の姉が当時の『巫女』だったから。騎士は巫女である姉を守りました。ですが、最後にはこの国の神たるネプチューンの命令により――『巫女』を殺しました」
「…………」
突然のギルバートからの告白にオレもシュナも思わず彼の方を振り返る。
彼はそんなオレ達に背中を向けたまま続ける。
「男はその後、聖十騎士団の一員となります。男に迷いがなかったかというと、そうでもありませんでした。なぜ巫女が死ななければならないのか。なぜ姉を殺さなければいけないのか。しかし、神は答えてくれません。いえ、神とはそういうものなのでしょう。自分達への忠義を示すために生贄を募る。昔からある伝承です。ですから、男は考えることをやめてただ神の命令のまま、その任務を全うすることに全力を尽くすようになりました……」
ですが、とギルバートは続ける。
「……あなたはそんな神からの命令に反し“自らの考え”を貫き通した。それはかつての私が思い描きながらも最後まで出来なかったこと。そんなあなたが羨ましかった……」
「ギルバート……」
それはまぎれもないこの男の本心なのだとオレは理解した。
その後、ギルバートがオレに何かを告げることはなかった。無論、オレ達の邪魔もしないと彼はその背中で語っていた。
いや、本当は彼はどこかで待っていたのかもしれない。
オレのように神に対し疑問を持ち、それに対し問いかける意思を持つ者の登場を。
いずれにせよ、これで全ての障害は取り除いた。
オレは自らのステータスを確認する。
現在のレベルは――『798』
その数値に一抹の不安を抱えながらも、オレは隣にてオレの拳を優しく握るシュナに微笑み返す。
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