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第36話 VS聖十騎士ギルバート①
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「アリア!」
決着がつくと同時にオレはすぐさま周囲に張っていた結界を解除し、アリアのもとへ近づく。
見ると体に広がっていた毒の黒点は収まっているが、自ら腹を『命の剣』で貫いたために出血がかなりひどかった。
「アリシアちゃん! しっかりして!」
「うっ……シュナ……だ、大丈夫よ、これくらい……」
「何が大丈夫だ。ったく無茶しやがって」
強がりを言っているアリアを抱き抱え、オレは回復魔術を使い彼女の傷を癒す。
見る見るうちに傷口は塞がったが、先ほどの戦いによる披露は完全には回復しきれなかったようだ。
彼女は立つ気力もなく、座ったままオレの胸に拳を当てる。
「もう大丈夫よ。アンタのおかげで傷は回復した……。けど、ここでのんびりしてる時間はアンタにはないでしょう。アタシのことはいいから、このまま最上階を目指しなさい」
「アリア……」
見ると広場の奥には転送陣が起動しており、次なる階層に向けオレ達を誘うように光り輝いている。
オレはすぐ傍に倒れる聖十騎士ミネルヴァをチラリを見るが、アリアはそれには心配無用と笑う。
「平気よ。もう師匠にも戦う力は残ってないわ。アタシは気力の回復の為にしばらくここで休むけど、また戦えるようになったらすぐにアンタ達を追いかけるから」
そう言ってオレとシュナに先へ行くよう促す。
確かにここでのんびりしている間にも敵はさらに態勢を整える。
まだオレやアリアが反逆してから一時間も経っていない今こそが好機。
オレは彼女の気持ちを汲み取るとシュリの手を取る。
「シュリ。先へ行こう」
「真人さん……」
シュリもそんなアリアの気持ちを読み取ってか、しばしの沈黙の後、決意に満ちた表情を向ける。
「行きましょう、真人さん」
「ああ」
そのままオレとシュリは転送陣へと向かい、残る聖十騎士の元へと向かった。
◇ ◇ ◇
一瞬の閃光と同時に目の前の景色が変わる。
そこは荘厳な神殿の中。
目の前には巨大な扉が広がり、まるで神々への門のようにその圧倒さを見せつけていた。
「ようこそ。まさかこの『聖皇城』の最上階――100階に到達するとは思いませんでした」
そして、そんな扉の前にまるで番人のように一人の男が待ち構えていた。
白銀の鎧を身にまとう、眼鏡をかけた理知的な印象を与える騎士。
「聖十騎士団統括ギルバート」
「ええ、お久しぶりですね。特級騎士ブレイブ……いえ、今は反逆者ですか」
その男――最後の聖十騎士にして統括たる男ギルバートは今までになく落ち着いた様子でオレとシュリを迎えた。
「……巫女がそこにいるということは、やはりあなたには殺せませんでしたか」
「ああ、せっかく忠告してもらったのに悪いな」
それは以前、あの旅芸人の刺客の際、ギルバートがオレに呟いた忠告のことを指していた。
「いえ、まあ、正直あなたならこうするかもしれないと、どこかで期待していましたよ」
「期待? 失望の間違いじゃないのか」
ギルバートの皮肉を指摘するオレだが、しかし不思議と彼はオレに対し羨望のまなざしを向ける。
「いいえ。まあ、聖十騎士団としてはあんたのこの行動には失望です。ですが、“私個人”としてはあなたの選択は羨ましいと思っています」
「?」
どういう意味かと問いかけようとしたが、ここに来てそのような問答は意味をもたない。
ギルバートもそれをわきまえているのか静かに携えた剣を抜く。
「さて、それでは始めましょうか。この先にいる『四聖皇』ネプチューン様に会いたければ私を倒すほかありませんよ。もっとも聖十騎士団統括たる私を簡単に倒せると思わないことですね」
「そうかよ。けど、生憎だったな。オレには本命が控えているんでアンタには速攻退場してもらうぜ!」
宣言と同時にオレは真名スキル『加速』を使い、一気にギルバートへと駆け寄る。
彼がわずかに動く動作を見せたが、それより速くオレの神速の一太刀が放たれる。
入った! 勝利を確信したオレであったが次に目に入った光景を見て、オレは思わず瞠目した。
「なっ!?」
「ここまで来たということは下にいた聖十騎士達の『真名スキル』も見てきたはずですね」
涼しげにそう告げるギルバート。
驚くべきことに彼は“素手で”オレの一閃を受け止めていた。
「彼らの真名スキルはどれ強力でなにより派手です。必殺技と呼ぶに相応しいスキルです。しかし、生憎彼らの統括でもある私の『真名スキル』は地味でしてね。アリスのように七つの雷龍を生み出すわけでも、グレイソンのように千を超える炎の魔人を作り出すわけでも、ミネルヴァのように猛毒の空間を形成するわけでもありません」
見るとオレの剣を受け止めているギルバートの腕にある異常が起こる。
それは肌の色が赤い――紅蓮へと変化していく。
そして、それは腕だけでなく足や体、顔と全てへと広がる。
「今しがたあなたが見せた真名スキル。おそらくはスピードを増加させる能力ですか。私の真名スキルもまあ似たようなものでしてね。違いは私の場合、速度だけではなく全ての能力値が数倍に跳ね上がること。そして、もう一つ、これがどうしようもない欠点でして――」
やがて、全身の肌が真っ赤に染まるとギルバートはかけていた眼鏡を静かに外すと、それを片手で握りつぶす。
「この真名スキルを発動させると……どうにも血が収まらなくてよぉ……『本来』の性格が出ちまうんだよなぁ」
瞬間、赤く滾るギルバートの目とあった瞬間、オレの本能が全霊で危険信号を発した。
まずい! オレは咄嗟に両手をクロスしガードをすると、そこにギルバートの拳がぶち当たり、オレはそのまま天井まで吹き飛ぶ。
「がっ!?」
「真人さん!?」
「はっはっはっはっはっ! わりぃな! 普段は統括って立場から戦闘狂の本性は出せねぇんだよ! けどな、この真名スキルを使った以上、もう誰にもオレは止められねぇぞ! さあ、始めようか、ブレイブ! オレの真名スキル『狂戦士』を前にどれだけ立っていられるか血で血を洗うガチンコ勝負だァッ!!」
嬌笑と共にギルバートは地面を蹴る。
刹那、奴の体は天井まで達し、そこに埋もれたオレに止めの一撃を放つ。
「にゃろう!」
オレは咄嗟に『加速』を使い、なんとか回避するが、コンマ数秒遅れでオレのいた天井はズタズタとなる。
これが聖十騎士団統括の真名スキルか。
本人は地味とか言っていたが、とんでもない。
単純な戦闘能力に関して言えば、間違いなくこれまでの相手の中で最強だ。
いや、ヘタをすればオレにも匹敵する能力!
それを証明するようにギルバートは『加速』を行ったオレの速度についてくる。
「はっはっはっはっはっ! 速いなぁ! ブレイブ! さすがにここまで並み居る聖十騎士を倒してきただけはあるぜぇ! てめえみたいな強者と戦えるのは本当に騎士冥利につきるぜえええええええ!!」
「ぐッ!?」
そう言ってギルバートは目にも止まらぬ光速剣を放つ。
オレはそれを『加速』を用いた剣術でなんとか抑えるが余波だけで周囲の壁や地面はえぐられている。
ったく、とんでもない統括だぜ。
普段のあの温厚な姿と口調は、まさにこの本性を抑えるための仮面か。
オレはギルバートの剣を払い、わずかに体勢が崩れたところに蹴りを入れ、距離を保つ。
「ぐっ……ふふふ、やるじゃねえかよ。ブレイブ」
「そっちもな、統括。つーか、メガネ外した途端、ノリノリすぎだろう」
そう言って距離を保ち、互いに間合いを計る。
正直なところ、肉体能力に関しては今のオレとギルバートはほぼ互角であろう。
速度に関してはまだオレの方が若干余力があるため、スピードで翻弄し続ければ、いずれは勝てるかもしれない。
だが、それをするということは勝負の時間が伸びるということ。
それはこの戦いにおけるオレのレベルの低下を意味する。
後にはネプチューンが控えている以上、ここでこれ以上の時間をかけるわけにはいかない。
故にオレが取るべきはただ一つ。
「――ふぅ」
ひと呼吸吐いた後、オレは剣を鞘に収め、居合の構えを取る。
決着がつくと同時にオレはすぐさま周囲に張っていた結界を解除し、アリアのもとへ近づく。
見ると体に広がっていた毒の黒点は収まっているが、自ら腹を『命の剣』で貫いたために出血がかなりひどかった。
「アリシアちゃん! しっかりして!」
「うっ……シュナ……だ、大丈夫よ、これくらい……」
「何が大丈夫だ。ったく無茶しやがって」
強がりを言っているアリアを抱き抱え、オレは回復魔術を使い彼女の傷を癒す。
見る見るうちに傷口は塞がったが、先ほどの戦いによる披露は完全には回復しきれなかったようだ。
彼女は立つ気力もなく、座ったままオレの胸に拳を当てる。
「もう大丈夫よ。アンタのおかげで傷は回復した……。けど、ここでのんびりしてる時間はアンタにはないでしょう。アタシのことはいいから、このまま最上階を目指しなさい」
「アリア……」
見ると広場の奥には転送陣が起動しており、次なる階層に向けオレ達を誘うように光り輝いている。
オレはすぐ傍に倒れる聖十騎士ミネルヴァをチラリを見るが、アリアはそれには心配無用と笑う。
「平気よ。もう師匠にも戦う力は残ってないわ。アタシは気力の回復の為にしばらくここで休むけど、また戦えるようになったらすぐにアンタ達を追いかけるから」
そう言ってオレとシュナに先へ行くよう促す。
確かにここでのんびりしている間にも敵はさらに態勢を整える。
まだオレやアリアが反逆してから一時間も経っていない今こそが好機。
オレは彼女の気持ちを汲み取るとシュリの手を取る。
「シュリ。先へ行こう」
「真人さん……」
シュリもそんなアリアの気持ちを読み取ってか、しばしの沈黙の後、決意に満ちた表情を向ける。
「行きましょう、真人さん」
「ああ」
そのままオレとシュリは転送陣へと向かい、残る聖十騎士の元へと向かった。
◇ ◇ ◇
一瞬の閃光と同時に目の前の景色が変わる。
そこは荘厳な神殿の中。
目の前には巨大な扉が広がり、まるで神々への門のようにその圧倒さを見せつけていた。
「ようこそ。まさかこの『聖皇城』の最上階――100階に到達するとは思いませんでした」
そして、そんな扉の前にまるで番人のように一人の男が待ち構えていた。
白銀の鎧を身にまとう、眼鏡をかけた理知的な印象を与える騎士。
「聖十騎士団統括ギルバート」
「ええ、お久しぶりですね。特級騎士ブレイブ……いえ、今は反逆者ですか」
その男――最後の聖十騎士にして統括たる男ギルバートは今までになく落ち着いた様子でオレとシュリを迎えた。
「……巫女がそこにいるということは、やはりあなたには殺せませんでしたか」
「ああ、せっかく忠告してもらったのに悪いな」
それは以前、あの旅芸人の刺客の際、ギルバートがオレに呟いた忠告のことを指していた。
「いえ、まあ、正直あなたならこうするかもしれないと、どこかで期待していましたよ」
「期待? 失望の間違いじゃないのか」
ギルバートの皮肉を指摘するオレだが、しかし不思議と彼はオレに対し羨望のまなざしを向ける。
「いいえ。まあ、聖十騎士団としてはあんたのこの行動には失望です。ですが、“私個人”としてはあなたの選択は羨ましいと思っています」
「?」
どういう意味かと問いかけようとしたが、ここに来てそのような問答は意味をもたない。
ギルバートもそれをわきまえているのか静かに携えた剣を抜く。
「さて、それでは始めましょうか。この先にいる『四聖皇』ネプチューン様に会いたければ私を倒すほかありませんよ。もっとも聖十騎士団統括たる私を簡単に倒せると思わないことですね」
「そうかよ。けど、生憎だったな。オレには本命が控えているんでアンタには速攻退場してもらうぜ!」
宣言と同時にオレは真名スキル『加速』を使い、一気にギルバートへと駆け寄る。
彼がわずかに動く動作を見せたが、それより速くオレの神速の一太刀が放たれる。
入った! 勝利を確信したオレであったが次に目に入った光景を見て、オレは思わず瞠目した。
「なっ!?」
「ここまで来たということは下にいた聖十騎士達の『真名スキル』も見てきたはずですね」
涼しげにそう告げるギルバート。
驚くべきことに彼は“素手で”オレの一閃を受け止めていた。
「彼らの真名スキルはどれ強力でなにより派手です。必殺技と呼ぶに相応しいスキルです。しかし、生憎彼らの統括でもある私の『真名スキル』は地味でしてね。アリスのように七つの雷龍を生み出すわけでも、グレイソンのように千を超える炎の魔人を作り出すわけでも、ミネルヴァのように猛毒の空間を形成するわけでもありません」
見るとオレの剣を受け止めているギルバートの腕にある異常が起こる。
それは肌の色が赤い――紅蓮へと変化していく。
そして、それは腕だけでなく足や体、顔と全てへと広がる。
「今しがたあなたが見せた真名スキル。おそらくはスピードを増加させる能力ですか。私の真名スキルもまあ似たようなものでしてね。違いは私の場合、速度だけではなく全ての能力値が数倍に跳ね上がること。そして、もう一つ、これがどうしようもない欠点でして――」
やがて、全身の肌が真っ赤に染まるとギルバートはかけていた眼鏡を静かに外すと、それを片手で握りつぶす。
「この真名スキルを発動させると……どうにも血が収まらなくてよぉ……『本来』の性格が出ちまうんだよなぁ」
瞬間、赤く滾るギルバートの目とあった瞬間、オレの本能が全霊で危険信号を発した。
まずい! オレは咄嗟に両手をクロスしガードをすると、そこにギルバートの拳がぶち当たり、オレはそのまま天井まで吹き飛ぶ。
「がっ!?」
「真人さん!?」
「はっはっはっはっはっ! わりぃな! 普段は統括って立場から戦闘狂の本性は出せねぇんだよ! けどな、この真名スキルを使った以上、もう誰にもオレは止められねぇぞ! さあ、始めようか、ブレイブ! オレの真名スキル『狂戦士』を前にどれだけ立っていられるか血で血を洗うガチンコ勝負だァッ!!」
嬌笑と共にギルバートは地面を蹴る。
刹那、奴の体は天井まで達し、そこに埋もれたオレに止めの一撃を放つ。
「にゃろう!」
オレは咄嗟に『加速』を使い、なんとか回避するが、コンマ数秒遅れでオレのいた天井はズタズタとなる。
これが聖十騎士団統括の真名スキルか。
本人は地味とか言っていたが、とんでもない。
単純な戦闘能力に関して言えば、間違いなくこれまでの相手の中で最強だ。
いや、ヘタをすればオレにも匹敵する能力!
それを証明するようにギルバートは『加速』を行ったオレの速度についてくる。
「はっはっはっはっはっ! 速いなぁ! ブレイブ! さすがにここまで並み居る聖十騎士を倒してきただけはあるぜぇ! てめえみたいな強者と戦えるのは本当に騎士冥利につきるぜえええええええ!!」
「ぐッ!?」
そう言ってギルバートは目にも止まらぬ光速剣を放つ。
オレはそれを『加速』を用いた剣術でなんとか抑えるが余波だけで周囲の壁や地面はえぐられている。
ったく、とんでもない統括だぜ。
普段のあの温厚な姿と口調は、まさにこの本性を抑えるための仮面か。
オレはギルバートの剣を払い、わずかに体勢が崩れたところに蹴りを入れ、距離を保つ。
「ぐっ……ふふふ、やるじゃねえかよ。ブレイブ」
「そっちもな、統括。つーか、メガネ外した途端、ノリノリすぎだろう」
そう言って距離を保ち、互いに間合いを計る。
正直なところ、肉体能力に関しては今のオレとギルバートはほぼ互角であろう。
速度に関してはまだオレの方が若干余力があるため、スピードで翻弄し続ければ、いずれは勝てるかもしれない。
だが、それをするということは勝負の時間が伸びるということ。
それはこの戦いにおけるオレのレベルの低下を意味する。
後にはネプチューンが控えている以上、ここでこれ以上の時間をかけるわけにはいかない。
故にオレが取るべきはただ一つ。
「――ふぅ」
ひと呼吸吐いた後、オレは剣を鞘に収め、居合の構えを取る。
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