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2巻

2-2

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「それで、同盟の話アルな」
「ああ。先に書状で伝えたとおり、オレ達ウルドは君達イゼル領と手を組み、アゼル領との戦争に協力したいと思う。無論、その間は停戦条約を結んで、アゼルを倒すまではお互いに攻撃を仕掛けない。そうした同盟を結びたいが、いかがだろうか?」
「ふむ。確かにそちらの提案は魅力的アル。現状、私達とアゼルの勢力はほぼ互角アルネ。そこにお前達の戦力が加わればアゼルといえども落とせる可能性は高いアル」

 オレの提案に、魔人ミーナは考えるような素振りを見せる。
 やがて、しばらく思案した後でミーナは頷く。

「いいアル。その同盟結んでもいいアル」
「本当か! なら、早速――」
「ただし、条件があるネ」
「条件?」

 ミーナからの承諾を得てほっとするオレ達であったが――

「そうネ。これを呑めば同盟を締結するアル」
「……どんな条件だ?」

 ミーナからの条件に思わず構えるオレ。だが、次に告げられたセリフに思わず首を傾げる。

「私の『天命』を果たす協力をするアル。それが条件ネ」
「天命……?」

 なんだろうかそれは? オレには聞き覚えのない単語であったが、それを聞いた瞬間、リリムを含むリザードマン達の表情が変わる。

「なっ!? ミーナ様、正気ですか!? 天命を果たすおつもりですか!?」
「にゃははははー、やっぱりタダでは同盟を結んでくれないとは思っていたのだがー『天命』とはー。さすがはミーナ姉様なのだー。抜け目ないというか、滅茶苦茶な協力なのだー」
「当然アル。この同盟が終われば、次に戦うのはお前達になるアル。負けるつもりはないアルが、私は万全を期すアル。この条件を満たすというのなら、お前達との同盟も喜んで結んでやるアル」

 そう告げるミーナに対し、リリムを含めた魔物達は何やら悩むような仕草を見せる。
 だが、オレを含めイストや裕次郎達は一体何のことかさっぱりであった。

「すまないが、魔人ミーナ。その『天命』というのはなんなんだ?」
「なんだ、お前。魔王の称号を持っているのに天命について知らないアルか? ……まあ、元々人間なのだから、そこに至るために必要な経緯を知らなくても仕方ないアルか」

 オレの問いかけにミーナは意外そうな顔をしたが、すぐに解説をしてくれる。

「『天命』とはその名のとおり、その者に与えられた試練。天よりの命令アル。これは『魔人』の称号を得た者が与えられる試練ネ」
「試練?」
「そうアル。お前、なぜ私達、魔人が人間の領土を襲い、この魔国を統一するために内乱を起こしているか、分かるアルか?」
「なぜって……そりゃ人間を襲うのは魔人というか魔物の本能みたいなものだろう? この魔国統一にしても自分が王になりたいからとか……」
「それもあるが一番は、魔人の上にある称号『魔王』になるためネ」
「魔王に?」

 その単語にはオレも思わず反応する。

「そうネ。魔王になるための手段はいくつかあるネ。たとえば魔人の称号を持つ者がある一定以上のレベルに到達すること。とはいえ、これは非常に難しいアル。私もそこにいるミーナもレベルはすでに200を超えているアル。けれど、未だに魔王に到達するには足りないアル。当然ながらレベルが高くなればなるほど、次のレベルに上がるのは難しいアル。多くの魔人が人間の領土を襲い、そこにいる人間の英雄達を殺すのは、自らのレベルを上げて魔王に到達するためネ。前にお前達の領土を襲った魔人ゾルアーク、あいつがそのいい例ネ。まあ、結果は返り討ちだったみたいネ」

 そうか。あれは単なる虐殺ではなく、自分のレベルを上げて魔王に到達するのが目的だったのか。

「二つ目の方法はこの魔国の統一アル。この魔国を一人の魔人が支配した時、その魔人は魔国という領土そのものに認められ、その結果として『魔王』の称号を得られるアル。だから今、私とベルクール兄様は魔国統一のために争っているアル」
「なるほど。『魔王』の称号を得るには、レベルアップを目指すより、魔国を統一した方がスムーズか」
「けれど、魔国統一も簡単ではないアル。魔人は必ず同時期に複数現れる仕組みになっていて、これも『天命』の一種と言われているアル。つまり、レベルアップも他の魔人を押しのけて魔国を統一するのも、どちらも相応に大変ってことアルよ。けれど、この二つ以外にもう一つ『魔王』になれる手段があるネ。それが『天命』ネ」
「その『天命』ってのは一体なんなんだ?」
「要するに、その者にとって〝最も困難な課題〟。それを達成した時、その者は無条件で『魔王』の称号を得られるアル。レベルアップや魔国統一をしなくてもネ」

 マジか。つまり『天命』ってのは最短で魔王の称号を得られる試練なのか?
 しかし、ちまちまレベルアップや他の魔人を倒して魔国を統一しなくても魔王になれるんなら、皆その『天命』ってのを果たせばいいんじゃないのか? すると、オレが考えていることに気づいたのか、ミーナが首を横に振る。

「けれど、その『天命』を果たすのは簡単なことではないアル。まず、課せられる『天命』の内容は魔人によって異なるアル。そして、全ての課題がその者に取って一番困難なものアル。魔人によっては『天命』を果たすよりも地道にレベルアップを目指すか、魔国統一をした方が早いと感じるネ。実際、歴代の魔人達の中で、『天命』によって魔王になった者は数えるほどしかいないアル」
「で、それをオレらが手伝うのが条件だと」
「そういうことアル」

 こいつは参ったな。聞く限り、それを手伝うのは魔国統一以上に厄介な内容になりそうだ。しかも、それを果たせばミーナの称号は魔人から魔王に進化する。それはつまり、下手をすればあのガルナザークと同じくらいの強さになるということ。
 なるほど、リリム達がごねていた理由が分かった。
 条件を受け入れれば、仮にこいつと協力してアゼルを倒しても、その後オレ達は自分達で育てた最強の敵を相手にしないとならなくなる。難儀なことだ……

「どうするか? この条件を呑むなら同盟締結アル。無論、お前達に危害は加えないアル。なんなら、魔国統一後もウルドは独自の勢力としてその存在を認めてやってもいいアル。リリムも私に歯向かわないなら見逃すネ」
「にゃはははー、さすがはお姉様なのだー。一応心を読んだけど、これマジで言ってるのだー」

 それはおそらく、魔王となった自分にそれほどの自信があるということだろう。
 正直、その条件で手を組むのはこちらとしては色々と不安がある。が、仮にアゼルと手を組むことにしたとしても、似たような条件を出される可能性が高い。
 現状オレ達の戦力では、アゼルとイゼルにまともにぶつかるわけにはいかない。
 となれば、やはり彼女と組むしかないか。
 幸いというべきか、リリムが心を読んでくれたおかげで、ミーナが魔国を統一してもウルドを滅ぼす気はないと分かったのだから。

「……分かった。その条件で同盟を結ぼう。けれど、その前に一つ。こちらも伺いたい。肝心の君の『天命』の内容について教えてくれないか? 内容次第ではオレ達が力になれないこともある」
「それなら安心するアル。これはむしろお前達でなければ協力できない内容アルよ」
「? どういうことだ?」

 ミーナの意外な一言に疑問符を浮かべるオレ達。
 だが、その答えはすぐさま告げられた。

「私に課せられた『天命』の内容。それは――『人間の国に認められること』アル」
「人間の国に認められる……? それは一体どういう意味だ?」
「簡単に言うと、その国に住む人間達に認められるという意味ネ。ちなみに何をもって認められることになるかは、具体的には指示されていないアル」

 なるほど。人間達に認められること、か。
 こいつは確かに無理難題だ。
 そもそも、ミーナは魔人だ。
 一般の人間が見たとしても、彼女が特別な力を持った異形の存在であると、すぐに気づくだろう。
 その上で、彼女を人間の国において認めさせるというのは、普通に考えれば不可能だ。
 現在の人間の国は、魔人の脅威におびえている状態だ。そこに彼女が現れればパニックになるのは必然。
 まず受け入れるという第一関門がそもそも成り立つのかどうか……こいつは想像以上に厳しいことになりそうだ。

「それでどうするアルか? 協力するか、それとも同盟の話をなかったことにするアルか?」

 こちらを試すように問いかけるミーナ。
 とはいえ、こうなった以上は仕方がない。

「……分かった。できる限り協力するよ」
「さすがネ。では、同盟成立アル」

 ミーナはすぐさま部下に契約書のようなものを持たせると、それに自らの血によるサインを記す。
 するとそのサインに何やら魔力のようなものが込められ、それがミーナと結ばれたのが見えた。

「これは魔国の契約書。これに血をもって契約すれば、この契約書に書かれた誓いは破れなくなるアル。さ、お前もするアル」

 契約書を見ると、オレ達ウルド領と同盟を結ぶこと、その間は互いの領土に手を出さないこと、という内容が記されている。
 確認したが、他には特にあやしい一文はなかった。
 念のためにリリムにサインの確認とミーナの読心をしてもらったが、何かを企んでいる様子はないとのこと。さすがにここで小細工はしないようだ。
 しかし、意外だったのが契約の内容にミーナの『天命』を手伝うという記載がないことであった。

「ミーナ。これだとオレ達がお前の『天命』に最後まで協力をするか分からないぞ」
「それならそれで構わないアル。そもそも私の『天命』が本当に果たされるかどうかは分からないから、それを条件に付け加えるのはフェアではないアル。とりあえずお前の頑張りには期待するアルけど、もしもダメならその時はその時で構わないアル。それに……」
「それに?」
「……いや、なんでもないアル」

 そう言ってミーナは意味深に口を閉じる。
 自分の『天命』を果たすようオレ達に協力を要請しておいて、それを果たす自信がないということだろうか?
 それにしては少し引っかかる言い方であった。
 人間のオレ達に協力させて、それで『天命』を果たせるかどうか試す、というような感じとも違う。
 もしかして、何か別の目的があるのか?
『天命』にかこつけて、オレ達と共に人間の国に行く。
 そこに何らかの隠された目的があるとか……

「どうしたアルか? その契約では不満アルか。言っておくが、これ以上はありえないほど対等な契約のはずアルよ」

 そうこうしている内に、ミーナが急かすようにオレに告げる。
 ……確かに、ミーナの思惑はどうあれ、今はとにかくこのイゼルと同盟を結び、一刻も早く魔国統一のために動くべきだ。
 オレはそう自分に言い聞かせると、先程のミーナと同じように血による契約を行う。

「それじゃあ、これで同盟は締結アル。では、早速行動開始アルよ」
「え、もしかして、今から人間の国に向かうのか?」

 契約を済ませるや否や、即座に立ち上がるミーナを見て驚く。
 が、彼女はすぐに首を横に振る。

「違うアルよ。まあ、人間の国にはすぐにでも行くつもりアルが……そうなると私もお前達もいなくなって、ウルドとイゼルの守りが薄くなるアルよ。だからその前に敵を牽制しておくアル」
「牽制?」
「分からないアルか? これからアゼル領のベルクール兄上に会いに行くアルよ」


 ◇  ◇  ◇


「にゃはははー。まさかミーナ姉様と会ってすぐにベルクール兄様にも挨拶に行くとは思わなかったのだー」

 そんなミーナの発言通り、現在オレ達はミーナと共にアゼル領へと来ていた。
 そこは領土と呼ぶにはあまりに奇怪な場所であった。
 目の前にあるのは巨大な穴。東京ドームの倍以上はある巨大な穴が地面に広がっている。
 中を覗くと底が見えないほどの深淵が広がっている。
 そんな穴の壁には、無数の窓や光がともっているのが見える。
 どうやら穴の周囲、壁の中に無数の魔物達が暮らしているようである。
 言うなれば、ウルドが山を土壌とした天へと登るほどの領土であり、イゼルは果てしなく横に広がる領土、そしてこのアゼルは地下深く広がる無限の領土。
 それぞれに異なる領土の広さを見せ、つくづく魔国における国のあり方は面白いと感心する。

「ベルクール兄上はこのアゼルの最下層にいるアル。と言っても普通の方法では最下層に行くのは難しいアルから、向こうから使者を送ってもらったアルよ」
「使者って……大丈夫なのか? アゼルとイゼルはどちらが魔国の支配権を握るかで争っているんだろう? そこにイゼルの支配者である君が来たら……」
「それは大丈夫アル。ベルクール兄上にはあくまでも話し合いのために来たと言っているアル。向こうもいきなりそこで決着をつけるつもりはないアルよ。それに、そのためにお前達や私、更には私が抱える『第四位』の魔人にも来てもらったアルから」

 そのミーナの発言と同時であった。
 彼女の背後より、小柄な少女が闇をまといながら姿を現した。

「ふふふっ、はじめまして。皆さん」

 金の髪をなびかせる少女は、ミーナとは全く異なる衣装であった。
 ミーナが中華をイメージさせるチャイナ服なのに対し、少女は西洋風のドレス、それもいわゆるゴスロリと呼ばれるものを着込んでおり、手にはフリルのついた傘まで握っている。
 普通なら、それほど派手な服を着れば衣装負けしてしまうところだが、少女の透き通るような白い肌と金のツインテール、更には幼いながらも不釣合いなほどの美貌を宿した顔には、まるでその服を服従させているかのように似合い、蠱惑的こわくてきな魅力すら感じさせる。

「アタシの名前はソフィアって言います。こう見えて『第四位』の魔人でミーナ様の副官です。これからよろしくね。特にそっちのお兄ちゃん♪」

 ソフィアと名乗った少女はなぜだかオレに顔を近づけ、耳元で舌なめずりしてくる。
 そのなまめかしい態度にオレは思わず後ろに下がる。
 な、なんだこの子。初対面のくせにえらく積極的だな。
 戸惑うオレであったが、どういうわけか目の前の少女に既視感を覚えた。
 初対面のはずだが、以前にどこかで会ったような感じがする。いや、正確には似た気配を知っているというか……
 そんな奇妙な感覚に囚われていると……突然、背後より声がかかる。

「あー、マジでこれ来ちゃってるしー。超だるいんですけどー。っていうか、イゼルとウルド魔人が勢ぞろいしてて草ー。うち、帰っていいっすかねー」

 何やら独特……というかギャルのような話し方が聞こえ、慌ててそちらを振り向く。
 するとそこには、とんがり帽子に黒いローブという、いかにも魔女っぽい服装をした女性が立っていた。
 銀色の髪に、ややタレ目の眠たそうな目。服の上からでも分かるほど立派な胸に、ミニスカートから覗く生足は思わず視線が釘付けになるほどの魅力を備えていた。

「えーと、君は?」
「あー、うちはベルクール様より案内役を任された魔人リアって言いまーす。一応『第五位』の魔人ってことになってるんで、そこんところよろしくーみたいなー」

 リアと名乗った魔女の変わった口調に困惑するオレを押しのけて、隣にいたイストが前に出る。

「久しぶりじゃな、リア。まさかお主がこのようなところにいるとは思わなかったぞ」
「あれー? それはこっちのセリフみたいなー。なんでこんなところにいるのー?」
「え? イスト、知り合いなのか?」

 魔人の少女に臆面もなく話しかけるイストを見て驚くオレであったが、続くイストのセリフに更なる衝撃を受ける。

「知り合いも何もこやつは儂の妹じゃ」
「い、妹ぉ!?」
「あははー、そうそう。うち、そっちのイスト姉様の妹みたいなー」

 思わぬ一言に驚くオレ。
 魔人の妹がいたのもそうだが、見た目的には明らかにリアの方が年上だ。
 しかし、以前イストが、魔女族はある一定の年齢になれば外見の変化がそこでストップすると言っていた。ならば、見た目でどちらが年上かなど考えるのは意味がないか。
 そんなことを思っていると、イストは呆れた様子でため息をこぼした。

「それにしてもリア。お主の喋り方は相変わらずじゃな」
「えー? そうかなー? ってかこれってうちら魔女一族に伝わる伝統的な喋り方っていうか、若い魔女達の流行語だったしー。姉様は喋り方がうざいって言って興味持ってくれなかったけどー」
「今でもうざいわ。それより、なぜお主が魔人になっておるのじゃ。リアよ」
「あー……」

 イストからの問いかけに、リアは何やら困ったように頬をかく。

「っていうかー、うちら魔女族ってどっちかっていうと魔物寄りの種族じゃん。このとおり寿命は数百年あるしー、そもそも『魔人』っていわゆる称号だしー。魔物の中である一定以上の力を得た者が魔人の称号を得るなら、うちら魔女にもその資格って十分あるんじゃね? 的なー。まあ、そんな感じでうちはこの魔国で力を磨いている内に魔人の称号を得て、ここにいるベルクール様に拾われたみたいな感じー」
「……そうか。まあ、確かに儂ら魔女は半分魔物のようなものか……」

 そう言ってイストはどこか複雑そうな表情を浮かべる。
 が、すぐさまその表情を打ち消すように頭を振る。

「では、今のお主はアゼルに属する魔人ということでいいのじゃな?」
「そゆこと。でも、ここでやり合う気はないよー。つーか、さっきも言ったけど、うちは案内するだけだからー。ベルクール様もその気はないみたいだから、とりま安心していいっしょ。ってなわけで案内するからついて来てーみたいなー」
「うむ。そういうことなら案内を頼むとしよう」
「オケマルー。っていうかー、イスト姉様マジ変わってなさすぎで草ー。生真面目なところも相変わらずカワユスー。ちっこい体で抱き心地最高ー。うちの姉様マジカワユスー、スコスコー」
「ええい!? いきなり抱きつくな! というか誰がちっこいじゃこらー!!」
「えー、いいじゃんー。別に減るものじゃないしー。というか久しぶりの家族の再会っしょー。たくさんハグしたいーみたいなー」
「勝手に一族から抜け出した奴が何を言っておるか!? というか放せー!!」
「まーまー、気にしないー気にしないー」

 と、そんな風に騒ぐイストを抱き枕のように抱きしめながら、リアはオレ達の案内をする。
 本当に大丈夫なんだろうかとオレは少し不安に思うのだった。


「いやぁ、皆さんわざわざ遠くからよう来はったなー、ホンマ毎度おおきにー。とりあえず、皆さん座って座って。ワイが、このアゼル領土を支配する『第一位』の魔人ベルクールや。いやー、どうぞよろしゅう頼んます」

 何弁!?
 リアに案内された先は、まるで江戸時代の城のような場所だった。
 時代劇などで将軍が話すような場所に似ており、そこに座っていたのは日本の浴衣ゆかたのような衣装を着た黒髪の偉丈夫。
 見た目だけならば、いかにも強面こわもてな剣豪、あるいはそうした威厳に満ちた人物に思えるのだが、口を開くや否や先程の愉快な口調が飛び出し、出会って早々色んなものをくじかれた。
 というか本気で何弁だよ。エセ関西弁というかなんというか……
 まあ、この世界に関西弁なんてあるわけないから、それに似たような適当な言語なのかもしれないが、ミーナといいリリムといい、なんなの? アルとかなのだーとか、魔王の子供達って全員変な喋り方しかしないの? ねえ?

「あー、ちなみにワイのこれはアゼルに古くから伝わる喋り方や。気にさわったんなら許したってぇなー。ワイ、こう見えてアゼル出身の魔物と親父殿とのハーフやさかい。親父殿のことは尊敬しているけれど母親のことも大事に想ってるねん。せやから、このアゼルに敬愛を示してこの喋り方を普段からしてんねん」

 へ、へえー、つまりアゼル弁ってやつなの……?

「ちなみに私のこれはイゼル弁ネ。私もイゼルの魔物とのハーフアルよ。だから私の喋り方も由緒ある言語アル」

 そ、そうなんですか……イゼル弁……
 ってことはもしかしてリリムも……?

「にゃはははー! 私は関係ないのだー! この喋り方は私独自の癖みたいなものなのだー!」

 あっ、そうですか。もうどうでもいい感覚で受け流すオレ。
 そんなオレ達を見ながらベルクールが切り出す。

「そんでぎょうさん仲間を引き連れて何の用や、ミーナ。まさか宣戦布告でもするつもりかいな?」
「それも面白いアルね。ただ今回は警告に来ただけアルよ」
「ほぉ」

 ミーナの一言に、目を細めてオレ達を観察するベルクール。
 喋り方は一見ふざけているが、一瞬だけ見せたベルクールの凍えるような視線と殺気は本物であり、オレですら一瞬気圧けおされて思わず冷や汗が流れた。

「見てのとおり、イゼルとウルドは手を組んだアル。これだけ見れば私達の勢力はアゼルを上回ったアル」
「せやな。けど戦いは数だけやあらへんやろ。あんさんとそっちの兄ちゃんが組んだところで、『第一位』であるワイを超えられるとでも思ってるんか? 『第一位』の壁はそんなに甘くはないで」

 確かに数で言えばこちらの方が圧倒的に有利。
 にもかかわらず、あぐらを組んでこちらを見るベルクールに対しては、不思議と勝てる気がしなかった。
 仮にこの場で戦いになったとして、その結果がどうなるのかまるで予想がつかない。そんな底知れない印象を目の前の男から受ける。


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