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1巻
1-3
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「とりあえず、依頼を受けた以上、やるだけのことはやらせてもらいたいんです。そのプラチナスライムがいる場所はどこですか」
オレの質問にイストは呆れたような視線を向けるが、何を言っても無駄だと判断したのか、ため息混じりに〝こっちじゃ……〟と古城の門を開けた。
彼女は先に立って説明しながら、目的の場所へ案内してくれる。
「プラチナスライムの数は合計四体。しかも、そのどれもが中型の大きさで、四~五メートルある。すでに知っておるかもしれないが、連中は物理・魔法いずれの攻撃も完全に無効化する。ただのスライムであれば儂の魔術で焼き焦がせるのじゃが、相手が魔法無効化まで持つプラチナスライムではお手上げじゃ。何度も言うがお主のような素人が勝てる相手ではないぞ。仮にお主が捕食されても儂は知らんぷりして逃げるからな」
「はあ、まあ、それは仕方がないですね……」
それにしても、四、五メートルもあるのは正直予想外だ。某国民的RPGの影響でプラチナな質感の愛らしいスライムを想像してたが、やっぱり実際の異世界だと全く違うのね。まあ、当然と言えば当然か。
と、そんなことを思っていると、通路を歩いていたイストが立ち止まり、杖を構えた。
「……いたぞ。あの通路の先じゃ」
見ると、T字路の先を巨大な銀色の何かが、ゆっくりと這っていた。
うお、でけえ。かなりの幅で天井すれすれの高さまである物体が這い進む姿はまさに圧巻。
想像よりも迫力があり思わず怖気づきそうになるが、ここで逃げるわけにはいかない。
オレはぐっと足に力を入れる。
幸い、プラチナスライムはこちらに気づいていない様子で、奥の通路をゆっくりと移動している。
「プラチナスライムはこちらから攻撃しない限りは反撃しない魔物じゃ。そのため、連中に出くわしても手を出さなければ比較的安全じゃ。とはいえ、この城のように珍しい金属がある場所に現れれば、そこにある金属を全て平らげるまではいなくならなくてな……儂みたいに人里離れて研究している魔術師にとってはあれが最も厄介な魔物じゃ。あれを相手にするくらいなら、今世間を騒がしている魔人を相手にした方がはるかにマシじゃな……」
はあ……と、ため息をこぼすイスト。
なるほど。王様が言っていた魔人よりも、このプラチナスライムの方が強敵なのか? まあ、人にもよるのかもしれないが。
そう思いながらオレは早速、スキル一覧にある『金貨投げ』を選択する。
「それで、これからどうするんじゃ。まさかお主のスキルであやつをどうにかできるとでも思――」
「スキル『金貨投げ』」
イストが何やらからかうような口調で聞いてくるが、オレは答えるより早くスキルを発動した。
目の前のプラチナスライム目掛けて、『金貨投げ』を使用する。
視界の端には『現在の金貨枚数:100』という文字が浮かんでいる。これはオレが『アイテム使用』で取り込んだ金貨の枚数そのままであり、言わば残弾数だ。
使用する金貨の数は……一発で仕留められなかったら嫌だからな、念のため十枚使うか。
その瞬間、オレの指から金貨が弾かれた。
とてつもない速度で飛翔した弾丸はプラチナスライムに命中すると、その体をゼリーのようにやすやすと貫通し、瞬時に消滅させる。しかも、それだけではなく、奥にあった壁すら撃ち抜いて大穴を開け、光の速さで青空へと消えていった。
え、ええっと、何が起こった?
あまりの事態にオレは呆気に取られて立ち尽くしていたが、それは隣にいるイストも同じだ。彼女は、呆然とした表情のまま固まっていた。
「……お、お主……い、今……な、何をしたのじゃ……?」
「ええと、金貨投げ?」
恐る恐るオレがそう答えると、イストは目の前にいたはずのプラチナスライムの残骸――すら残っていない空間を見つめながら呟く。
「プ、プラチナスライムが……あ、跡形もなく消滅した……こ、こんなの聞いたことがないぞー!? なんなんじゃ、お主はああああああああああああ!?」
「い、いや、そんなのオレが知りたいっていうか……! ちょ、掴みかからないでくださいよ、イストさん! ま、まだ他のプラチナスライムは残っているんでしょう!?」
「プラチナスライムなどどうでもいい! 今はお主のことが知りたい! ええい、いいから洗いざらい全て儂に話せー!」
「え、ええーーーー!?」
この後オレは、魔女イストに自分のことを延々と話す羽目になったのだった。
◇ ◇ ◇
「なるほど……『アイテム使用』……そのようなスキルがあったとは……」
オレの説明を聞き終えたイストは、興味津々な様子でこちらを眺めながら続ける。
「『金貨投げ』についても聞いたことはある。かつて栄華を極めし黄金王国の初代国王〝金色の王〟ガルドが持っていたとされるユニークスキルじゃ。伝承では、彼の手から放たれた金貨はあらゆる敵の防御を貫通し、一撃で相手を仕留めたという……じゃが、その初代国王以来、『金貨投げ』を有する者が現れた記録はない。しかし、まさかお主がそのスキルを取得するとは! それも『アイテム使用』とかいうスキルの副産物で……」
「はあ、なんだかすみません」
『金貨投げ』がそれほど大層なスキルだとは思いもよらなかった。
それならそうと、スキルの説明欄に書いておいてほしかったなー。
だが一方で、イストはますます興味深そうな目を向けてくる。
「お主のその『アイテム使用』についてなのじゃが、儂にも聞き覚えがない。おそらく、これまで誰も手にしたことのないユニークスキルじゃろう」
「はあ、そうなんですか。オレはてっきり最初はハズレスキルかと」
「それは儂も同じじゃ。実際、最初にお主を見た際、すまぬがステータスと一緒にスキルも確認させてもらった。そこには〝アイテムを使用するスキル〟とだけ書かれていて思わず噴き出しそうになったわ。じゃが、これは皆が騙されるのは当然じゃろう。一体どういうスキルなのじゃ……儂にもさっぱり分からぬ……」
そう言ってますますオレの体をジロジロと見るイスト。
「って、ちょっと待ってください。ステータスと一緒にスキルを確認したって、どういうことです?」
「ん? ああ、そういえば言っていなかったな。それが儂のスキル『解析』じゃ」
「『解析』……『鑑定』みたいなものですか?」
「バッカ者! 『鑑定』などという平凡なスキルと一緒にするな! これはいわば『鑑定』の上位互換! 相手が持つスキル、能力はもちろん、それらを全て解析した後、どのようなものであるか瞬時に理解するというスキルじゃ! これを使えばいかなる敵の弱点も暴き出し、古代の遺物、魔法器具、さらには異世界の代物なども全て理解可能! こう言ってはなんじゃが、儂以外にこの『解析』スキルを持つ者などまずおらんじゃろう!」
と、イストは自信満々に宣言する。
へえー、なるほど。確かにそれは便利そうだ。ん、でも待てよ。
「イストさん。その『解析』スキルでもオレのスキルのことは分からないんですか?」
「さん付けはよせ。イストでよい。うむ、その通りじゃ。今もお主のスキルを解析しておるが、よく分からん。それどころか、お主が複数のスキルを所持していることすら儂には分からなかった。現に、儂の『解析』に映っているのはお主の『アイテム使用』ただ一つじゃ」
え、そうなの? でも、オレの視界の端には確かに複数のスキルが表示されているが……
うーんと悩むオレを見て、イストが何か気づいたような表情をする。
「時にお主、先程の紹介の際、自分は異世界から来た転移者じゃと言っておったが」
「あ、はい、そうです。オレはこの国の国王に召喚された異世界人の一人です」
「ふむ、そうか。王国は未だに例の『召喚の儀』を行っているのか。……まあ、確かに世界の危機に対しては異世界人の力を借りるのが一番確実な手段なのじゃろうが、それではこの世界の住人から英雄は生まれないじゃろう。それに、召喚された異世界人達の立場も……」
そう呟くイストの顔に複雑な感情が漂う。
どういうことだろうか? 気になって尋ねてみたが、彼女は〝……気にするな〟と呟くのみで、はぐらかされてしまった。
うーん、そう言われると余計に気になるのだが、これ以上聞いても教えてくれそうにないので、とりあえず今は横に置いておこう。
「それよりもお主、異世界人というのなら、この世界の常識やスキルについてまだ詳しく知らぬじゃろう?」
「まあ、そうですね」
「ならば、儂が詳しく説明してやるが、どうする?」
そう言いながらドヤ顔を向けてくるイスト。これは明らかに解説したそうな表情だ。
まあ、オレもこの世界のことについて、色々と知っておきたいので素直に頼もう。
「お願いします」
「うむ。まずスキルについてじゃが、これは〝一人一つ〟神より授かる天性の能力じゃ。多くは成人……十五歳前後でそのスキルに目覚めるが、個人差がある。で、ほとんどの場合、スキルと言ってもそのスキルランクはFやEがいいところじゃ」
「そういえばランクってありましたけど、それって具体的にどんな序列になるんですか?」
「ランクは大きくS~Fまで分けられる。当然、Sが最高でFは最低ランク。Fランクのスキルはまあ、日常動作を便利にするくらいのスキルじゃ。たとえば明かりをつけたり、コップ一杯分の水を出したり。ぶっちゃけ、この程度のことなら魔法でどうにかなる。民のほとんどがこのFスキルじゃ。ちなみに儂も、最初お主のスキルはFランクだとばかり思っていた」
ああ、まあ、そりゃそうでしょうね。
「Eからはスキルと呼べる程度には便利になるが、それでも熟練の戦士や魔法使いならば、自身が鍛えた技や魔法に頼った方がよいな。D、Cあたりならば十分強力なスキル、天賦の才と言っていい。これらのランクのスキル持ちが村や街に現れれば、そやつはたちまち王宮入りを許されるじゃろう。そして、伝説上の英雄や勇者が持っていたスキルがBやAなどになる。現在、このランクのスキルを持っている者は国王直属の騎士や騎士長、あるいは賢者、または戦場でその名を轟かせる傭兵など限られた一部の者のみじゃ。ちなみに儂もこのランク持ちじゃぞ?」
さらりと自分のスキルを自慢するイスト。
なるほど。あの時、王様がBランクやAランクを特別扱いしていたのはそういうことか。
で、転移者の場合はそのスキルランクがほぼ確定でB以上になると。そりゃ確かに、あちこちから逸材を探すよりも、異世界から転移者を呼んで協力してもらった方が遥かに効率いいわなー。
「それじゃあ、Sっていうのは?」
オレが問いかけるとイストは首を横に振る。
「Sランクのスキルについては、ぶっちゃけよく分からん。存在するかもしれないという噂程度であり、実際にそれを持つ人物は確認されておらんのじゃ。過去にこの世界に召喚された勇者が持つスキルがあまりに規格外すぎて、このSランクというランクが作られたそうじゃが、今となってはそれもおとぎ話のようなもの。果たして本当にあるのかどうか……」
そう言って、イストは首を傾げる。
なるほど。つまり、実質的にAランクがスキルにおける最高ランクか。
それを聞くと、『金貨投げ』って普通にやべえな。って、何げに『鉱物化』もBランクだったし。
「で、話を続ける。それらスキルとは別に、儂らは『魔法』というものを修めることが可能じゃ。これは修練をすれば誰でも身につけられる。とはいえ、これにも才能が影響していて、覚えの良い者と悪い者がいる。また、スキルの中にはこの『魔法』を習得する際に有利に働くものもある。そうしたスキル持ちならば、魔法を自動的に習得できたり、同じ魔法を段違いの威力で使用できたりする」
そういえば、転移者の一人が魔法を全部覚えられるみたいなスキルを持っていたな。
「で、ここからが重要じゃ。魔法はスキルと違って様々な種類の魔法を覚えることが可能じゃ。炎系、水系、風系、あるいは精神に作用するものや天候を操作するものなどなど。しかし、それらは全て『魔法』と呼ばれる一つのジャンルに集約される」
「はあ、それがどうかしたんですか?」
「察するに……ええと、お主の名前、なんといったか?」
「ユウキです」
「うむ、ユウキよ。お主の『アイテム使用』はこの『魔法』と似たような扱いではないのか?」
「? と言うと?」
「つまり、お主はスキルが増えたと言っておるが、それは正確ではない。それはあくまでも『アイテム使用』によって変化した『アイテム使用』スキルの一種と言えるのではないか?」
なるほど。つまり魔法と同じように、そのジャンルの中で使えるものが増えたということか。オレが会得したスキルは全て『アイテム使用』が変化したものにすぎないと。
「うむ。だからこの世界におけるスキルは〝一人一つ〟という原則から外れているわけではない。まあ、かなり反則じみたやり方というか、スキルじゃが。これならば儂の『解析』にその複数のスキルが映らないのも当然じゃ。それらは全て『アイテム使用』というスキルにまとまっているのじゃからな。とはいえ、儂がもう少し解析すれば、それらを覗けるかもしれないが」
と言って、イストはずずいっと顔を近づけてくる。いや、その……近いです、顔。
「まあ、とにかく色々理解しました。でも、今はここに巣食ったプラチナスライムを退治しましょう」
「おお、そうじゃったな」
って、依頼主さんが忘れてたんかい。
思わず突っ込みかけたがぐっと呑み込んで、イストの案内に従って城の奥を目指す。
「そうじゃ。お主、さっきの『金貨投げ』じゃが、一体いくらの金貨を使用したのじゃ?」
「ええと、十枚ですかね」
オレがそう答えるとイストは持っていた杖でオレの頭を叩く。
「いた! 何するんですか!」
「馬鹿者! そんなに使えばこの城の壁を貫通したのも当たり前じゃ! いいか! プラチナスライムの体力……HPは、多くても100! つまり一枚で十分なのじゃ!」
「え、そうなの?」
「当たり前じゃ! 物理・魔法無効の上に、それらを貫通してダメージを与えたとしてもせいぜい1、2ポイントが関の山! 全身全霊の一撃を百回も繰り返さないと倒せないんじゃぞ!? 100でも多すぎじゃ!」
言われてみればそうか。某国民的RPGでもアレ系のモンスターのHPはだいたい一桁。三桁もあってクリティカル的な防御無視攻撃もないなら、倒せないっていうか、普通に戦うの諦めて逃げるわ。この世界の住人がプラチナスライムと戦いたがらない理由が理解できた。
そんなことを考えながら、オレはイストの案内に従い、城に巣食ったプラチナスライムの討伐を続けるのだった。
◇ ◇ ◇
「スキル『金貨投げ』」
オレの手の中に生じた一枚のコインがピンッという音とともに光の速さで飛翔し、目の前にいたプラチナスライムを撃ち抜いた。
その一撃でプラチナスライムの体は四散し、蒸発していく。
「うーむ。しかし、何度見てもとんでもないスキルじゃな……」
「ふぅ、これで最後ですかね?」
古城に巣食った最後の一体を倒した後、オレは背後にいるイストに確認を取った。
「先程ので四体。うむ、見事じゃ。それでは依頼はこれで完了じゃ。すぐに報奨金を持ってこよう」
「あれ、依頼料ってここでもらうんですか? ギルドじゃなくって?」
「お主、何も知らないんじゃな。貼り紙での依頼はそれを出した依頼主が払う。だから、たまに依頼主と請け負った側で行き違いがあって問題が発生することもある。それを嫌って、大抵の本職の冒険者はギルドが直接依頼してくるものしか請け負わん。ちなみに、そういう依頼は受付で直接斡旋してもらう必要があるし、ギルドによる試験をクリアした〝プロ冒険者〟の資格がないと受けられんぞ。最低でもレベル10はないと、試験は突破できんじゃろうな」
なるほどなー。ギルドにも色々あるんだなー。
レベル10か。今のオレだとちょっと厳しいかな。まあ、『金貨投げ』や『鉱物化』を使えば、案外楽にクリアできそうなイメージもあるけれど。
そんなことを考えながらイストについていくオレであったが、突然、彼女が何かを思い出したように立ち止まった。
「レベル……そうじゃ! レベルじゃ! お、お主! 今、レベルはどうなっておる!?」
「へっ?」
慌てて振り返ったイストは、オレを見るや否や、何やら顔を青ざめさせる。
「なっ……そ、そんなバカな……! い、いや、だが、しかし……一人でプラチナスライム四匹を倒せば当然と言えば当然じゃが……し、しかしこんなの、あ、ありえん……ありえんぞ……前代未聞じゃ……! そ、そもそもプラチナスライムを一人で倒すこと自体が不可能であり、このような状況が……!?」
「ちょ、どうしたんですか、急に顔色を変えて」
「ええい! いいから己のレベルを確認せんかーー!!」
イストはもどかしそうにオレを急かす。
一体なんなんだよ、と思いながら、ステータス画面を表示してみる。すると、そこには――
『レベル:173』
…………
「はい?」
思わず素で呟く。
ええと、これ……なんか桁がおかしくないですかね?
最初、ここに来たときレベル3だったのが173って……なんか二桁増えてますが。
ごしごしと何度も目をこするが、依然表示は変わりなく『レベル:173』という文字が刻まれている。
え、ええー!?
見ると、イストは頭を抱えながらブツブツ呟いている。
「確かに、プラチナスライムは全ての魔物の中でも最も膨大な経験値を有していると聞く。そもそも、あれは複数の上級冒険者が徒党を組んでようやく倒せるもの……つまりその分、経験値は討伐に参加した人数に振り分けられる。しかも上級者だから上がるレベルも数レベル程度……とはいえ、その経験値はやはり莫大。それを一人で……しかも四匹も倒せば、急激にレベルアップするのも当然か……」
「え、ええと、このレベル173って、やっぱりすごいの?」
「馬鹿者! 十分すぎるほどすごいわ! いいか、伝説上の英雄や勇者と呼ばれた者のレベルが100! 過去に存在した最高のレベル持ち、英雄王イザークのレベルは158とされておる! レベル173なんて、儂ですら聞いたことがないぞ!」
え、ええー。マジか。
じゃあオレ、事実上最強レベルになってしまったってこと?
まあ、確かにプラチナスライムといえばいかにも経験値の塊っぽいが、まさかそこまでとは……
でも、あの図体だからな。大量の経験値を持っていても不思議ではないか。
と、どこか他人事みたいに考えるオレに、イストは呆れたような顔を向ける。
「やれやれ……一瞬で儂はおろか、この世界最強とも言えるレベルになったのに、お主は随分と反応が薄いなぁ」
「はあ、なんだかすみません。そういう性分なもので」
「よいよい、下手に浮かれて調子づくよりはマシかもしれぬ。まあ、とりあえず報酬を払うから、このまま儂について来い」
イストは苦笑を浮かべながら、城の通路を歩く。
やがて彼女の自室と思しき場所へと案内される。
「ほれ、ここじゃ。どこか適当なところに座れ」
「はあ、そう言われましても……」
その部屋は一言で言えばゴミ溜め。部屋のあちこちにいろんなゴミが大量に捨てられており、書物、食べ物、鉱物、宝石、武器、洋服などが散乱している。
よく見ると彼女の下着らしきものまで落ちていて、正直目のやり場に困る。あと、単純に座るスペースがない。
一方のイストはまるでオレを気にする様子もなく、こちらにお尻を向けたまま奥にある引き出しから〝ええと、どこにやったかのぉ〟と、ゴソゴソ何かを探している。
うーん。実年齢はオレよりはるかに上らしいが、やはり見た目が少女なので微妙な気分だ。
「おお、あったぞ。これじゃ」
イストは引き出しから手のひらサイズの袋を取り出し、それをオレの方へ投げた。
「ほれ、報酬の金貨じゃ。受け取れ」
「っと、どうも」
オレは早速受け取った袋の中身を確認する。
うん、確かに王様にもらったのと同じ金貨が入っている。数も依頼書通り五十枚。
「それじゃあ、これで依頼完了ですかね。お疲れ様です」
「待て」
そのままさっさと帰ろうとするオレを、イストが引き留めた。
「お主、これからどうするつもりじゃ?」
「まあ、今回みたいに適当な依頼を受けながら生活しようかと」
それを聞き、イストは不思議そうに首を傾げる。
オレの質問にイストは呆れたような視線を向けるが、何を言っても無駄だと判断したのか、ため息混じりに〝こっちじゃ……〟と古城の門を開けた。
彼女は先に立って説明しながら、目的の場所へ案内してくれる。
「プラチナスライムの数は合計四体。しかも、そのどれもが中型の大きさで、四~五メートルある。すでに知っておるかもしれないが、連中は物理・魔法いずれの攻撃も完全に無効化する。ただのスライムであれば儂の魔術で焼き焦がせるのじゃが、相手が魔法無効化まで持つプラチナスライムではお手上げじゃ。何度も言うがお主のような素人が勝てる相手ではないぞ。仮にお主が捕食されても儂は知らんぷりして逃げるからな」
「はあ、まあ、それは仕方がないですね……」
それにしても、四、五メートルもあるのは正直予想外だ。某国民的RPGの影響でプラチナな質感の愛らしいスライムを想像してたが、やっぱり実際の異世界だと全く違うのね。まあ、当然と言えば当然か。
と、そんなことを思っていると、通路を歩いていたイストが立ち止まり、杖を構えた。
「……いたぞ。あの通路の先じゃ」
見ると、T字路の先を巨大な銀色の何かが、ゆっくりと這っていた。
うお、でけえ。かなりの幅で天井すれすれの高さまである物体が這い進む姿はまさに圧巻。
想像よりも迫力があり思わず怖気づきそうになるが、ここで逃げるわけにはいかない。
オレはぐっと足に力を入れる。
幸い、プラチナスライムはこちらに気づいていない様子で、奥の通路をゆっくりと移動している。
「プラチナスライムはこちらから攻撃しない限りは反撃しない魔物じゃ。そのため、連中に出くわしても手を出さなければ比較的安全じゃ。とはいえ、この城のように珍しい金属がある場所に現れれば、そこにある金属を全て平らげるまではいなくならなくてな……儂みたいに人里離れて研究している魔術師にとってはあれが最も厄介な魔物じゃ。あれを相手にするくらいなら、今世間を騒がしている魔人を相手にした方がはるかにマシじゃな……」
はあ……と、ため息をこぼすイスト。
なるほど。王様が言っていた魔人よりも、このプラチナスライムの方が強敵なのか? まあ、人にもよるのかもしれないが。
そう思いながらオレは早速、スキル一覧にある『金貨投げ』を選択する。
「それで、これからどうするんじゃ。まさかお主のスキルであやつをどうにかできるとでも思――」
「スキル『金貨投げ』」
イストが何やらからかうような口調で聞いてくるが、オレは答えるより早くスキルを発動した。
目の前のプラチナスライム目掛けて、『金貨投げ』を使用する。
視界の端には『現在の金貨枚数:100』という文字が浮かんでいる。これはオレが『アイテム使用』で取り込んだ金貨の枚数そのままであり、言わば残弾数だ。
使用する金貨の数は……一発で仕留められなかったら嫌だからな、念のため十枚使うか。
その瞬間、オレの指から金貨が弾かれた。
とてつもない速度で飛翔した弾丸はプラチナスライムに命中すると、その体をゼリーのようにやすやすと貫通し、瞬時に消滅させる。しかも、それだけではなく、奥にあった壁すら撃ち抜いて大穴を開け、光の速さで青空へと消えていった。
え、ええっと、何が起こった?
あまりの事態にオレは呆気に取られて立ち尽くしていたが、それは隣にいるイストも同じだ。彼女は、呆然とした表情のまま固まっていた。
「……お、お主……い、今……な、何をしたのじゃ……?」
「ええと、金貨投げ?」
恐る恐るオレがそう答えると、イストは目の前にいたはずのプラチナスライムの残骸――すら残っていない空間を見つめながら呟く。
「プ、プラチナスライムが……あ、跡形もなく消滅した……こ、こんなの聞いたことがないぞー!? なんなんじゃ、お主はああああああああああああ!?」
「い、いや、そんなのオレが知りたいっていうか……! ちょ、掴みかからないでくださいよ、イストさん! ま、まだ他のプラチナスライムは残っているんでしょう!?」
「プラチナスライムなどどうでもいい! 今はお主のことが知りたい! ええい、いいから洗いざらい全て儂に話せー!」
「え、ええーーーー!?」
この後オレは、魔女イストに自分のことを延々と話す羽目になったのだった。
◇ ◇ ◇
「なるほど……『アイテム使用』……そのようなスキルがあったとは……」
オレの説明を聞き終えたイストは、興味津々な様子でこちらを眺めながら続ける。
「『金貨投げ』についても聞いたことはある。かつて栄華を極めし黄金王国の初代国王〝金色の王〟ガルドが持っていたとされるユニークスキルじゃ。伝承では、彼の手から放たれた金貨はあらゆる敵の防御を貫通し、一撃で相手を仕留めたという……じゃが、その初代国王以来、『金貨投げ』を有する者が現れた記録はない。しかし、まさかお主がそのスキルを取得するとは! それも『アイテム使用』とかいうスキルの副産物で……」
「はあ、なんだかすみません」
『金貨投げ』がそれほど大層なスキルだとは思いもよらなかった。
それならそうと、スキルの説明欄に書いておいてほしかったなー。
だが一方で、イストはますます興味深そうな目を向けてくる。
「お主のその『アイテム使用』についてなのじゃが、儂にも聞き覚えがない。おそらく、これまで誰も手にしたことのないユニークスキルじゃろう」
「はあ、そうなんですか。オレはてっきり最初はハズレスキルかと」
「それは儂も同じじゃ。実際、最初にお主を見た際、すまぬがステータスと一緒にスキルも確認させてもらった。そこには〝アイテムを使用するスキル〟とだけ書かれていて思わず噴き出しそうになったわ。じゃが、これは皆が騙されるのは当然じゃろう。一体どういうスキルなのじゃ……儂にもさっぱり分からぬ……」
そう言ってますますオレの体をジロジロと見るイスト。
「って、ちょっと待ってください。ステータスと一緒にスキルを確認したって、どういうことです?」
「ん? ああ、そういえば言っていなかったな。それが儂のスキル『解析』じゃ」
「『解析』……『鑑定』みたいなものですか?」
「バッカ者! 『鑑定』などという平凡なスキルと一緒にするな! これはいわば『鑑定』の上位互換! 相手が持つスキル、能力はもちろん、それらを全て解析した後、どのようなものであるか瞬時に理解するというスキルじゃ! これを使えばいかなる敵の弱点も暴き出し、古代の遺物、魔法器具、さらには異世界の代物なども全て理解可能! こう言ってはなんじゃが、儂以外にこの『解析』スキルを持つ者などまずおらんじゃろう!」
と、イストは自信満々に宣言する。
へえー、なるほど。確かにそれは便利そうだ。ん、でも待てよ。
「イストさん。その『解析』スキルでもオレのスキルのことは分からないんですか?」
「さん付けはよせ。イストでよい。うむ、その通りじゃ。今もお主のスキルを解析しておるが、よく分からん。それどころか、お主が複数のスキルを所持していることすら儂には分からなかった。現に、儂の『解析』に映っているのはお主の『アイテム使用』ただ一つじゃ」
え、そうなの? でも、オレの視界の端には確かに複数のスキルが表示されているが……
うーんと悩むオレを見て、イストが何か気づいたような表情をする。
「時にお主、先程の紹介の際、自分は異世界から来た転移者じゃと言っておったが」
「あ、はい、そうです。オレはこの国の国王に召喚された異世界人の一人です」
「ふむ、そうか。王国は未だに例の『召喚の儀』を行っているのか。……まあ、確かに世界の危機に対しては異世界人の力を借りるのが一番確実な手段なのじゃろうが、それではこの世界の住人から英雄は生まれないじゃろう。それに、召喚された異世界人達の立場も……」
そう呟くイストの顔に複雑な感情が漂う。
どういうことだろうか? 気になって尋ねてみたが、彼女は〝……気にするな〟と呟くのみで、はぐらかされてしまった。
うーん、そう言われると余計に気になるのだが、これ以上聞いても教えてくれそうにないので、とりあえず今は横に置いておこう。
「それよりもお主、異世界人というのなら、この世界の常識やスキルについてまだ詳しく知らぬじゃろう?」
「まあ、そうですね」
「ならば、儂が詳しく説明してやるが、どうする?」
そう言いながらドヤ顔を向けてくるイスト。これは明らかに解説したそうな表情だ。
まあ、オレもこの世界のことについて、色々と知っておきたいので素直に頼もう。
「お願いします」
「うむ。まずスキルについてじゃが、これは〝一人一つ〟神より授かる天性の能力じゃ。多くは成人……十五歳前後でそのスキルに目覚めるが、個人差がある。で、ほとんどの場合、スキルと言ってもそのスキルランクはFやEがいいところじゃ」
「そういえばランクってありましたけど、それって具体的にどんな序列になるんですか?」
「ランクは大きくS~Fまで分けられる。当然、Sが最高でFは最低ランク。Fランクのスキルはまあ、日常動作を便利にするくらいのスキルじゃ。たとえば明かりをつけたり、コップ一杯分の水を出したり。ぶっちゃけ、この程度のことなら魔法でどうにかなる。民のほとんどがこのFスキルじゃ。ちなみに儂も、最初お主のスキルはFランクだとばかり思っていた」
ああ、まあ、そりゃそうでしょうね。
「Eからはスキルと呼べる程度には便利になるが、それでも熟練の戦士や魔法使いならば、自身が鍛えた技や魔法に頼った方がよいな。D、Cあたりならば十分強力なスキル、天賦の才と言っていい。これらのランクのスキル持ちが村や街に現れれば、そやつはたちまち王宮入りを許されるじゃろう。そして、伝説上の英雄や勇者が持っていたスキルがBやAなどになる。現在、このランクのスキルを持っている者は国王直属の騎士や騎士長、あるいは賢者、または戦場でその名を轟かせる傭兵など限られた一部の者のみじゃ。ちなみに儂もこのランク持ちじゃぞ?」
さらりと自分のスキルを自慢するイスト。
なるほど。あの時、王様がBランクやAランクを特別扱いしていたのはそういうことか。
で、転移者の場合はそのスキルランクがほぼ確定でB以上になると。そりゃ確かに、あちこちから逸材を探すよりも、異世界から転移者を呼んで協力してもらった方が遥かに効率いいわなー。
「それじゃあ、Sっていうのは?」
オレが問いかけるとイストは首を横に振る。
「Sランクのスキルについては、ぶっちゃけよく分からん。存在するかもしれないという噂程度であり、実際にそれを持つ人物は確認されておらんのじゃ。過去にこの世界に召喚された勇者が持つスキルがあまりに規格外すぎて、このSランクというランクが作られたそうじゃが、今となってはそれもおとぎ話のようなもの。果たして本当にあるのかどうか……」
そう言って、イストは首を傾げる。
なるほど。つまり、実質的にAランクがスキルにおける最高ランクか。
それを聞くと、『金貨投げ』って普通にやべえな。って、何げに『鉱物化』もBランクだったし。
「で、話を続ける。それらスキルとは別に、儂らは『魔法』というものを修めることが可能じゃ。これは修練をすれば誰でも身につけられる。とはいえ、これにも才能が影響していて、覚えの良い者と悪い者がいる。また、スキルの中にはこの『魔法』を習得する際に有利に働くものもある。そうしたスキル持ちならば、魔法を自動的に習得できたり、同じ魔法を段違いの威力で使用できたりする」
そういえば、転移者の一人が魔法を全部覚えられるみたいなスキルを持っていたな。
「で、ここからが重要じゃ。魔法はスキルと違って様々な種類の魔法を覚えることが可能じゃ。炎系、水系、風系、あるいは精神に作用するものや天候を操作するものなどなど。しかし、それらは全て『魔法』と呼ばれる一つのジャンルに集約される」
「はあ、それがどうかしたんですか?」
「察するに……ええと、お主の名前、なんといったか?」
「ユウキです」
「うむ、ユウキよ。お主の『アイテム使用』はこの『魔法』と似たような扱いではないのか?」
「? と言うと?」
「つまり、お主はスキルが増えたと言っておるが、それは正確ではない。それはあくまでも『アイテム使用』によって変化した『アイテム使用』スキルの一種と言えるのではないか?」
なるほど。つまり魔法と同じように、そのジャンルの中で使えるものが増えたということか。オレが会得したスキルは全て『アイテム使用』が変化したものにすぎないと。
「うむ。だからこの世界におけるスキルは〝一人一つ〟という原則から外れているわけではない。まあ、かなり反則じみたやり方というか、スキルじゃが。これならば儂の『解析』にその複数のスキルが映らないのも当然じゃ。それらは全て『アイテム使用』というスキルにまとまっているのじゃからな。とはいえ、儂がもう少し解析すれば、それらを覗けるかもしれないが」
と言って、イストはずずいっと顔を近づけてくる。いや、その……近いです、顔。
「まあ、とにかく色々理解しました。でも、今はここに巣食ったプラチナスライムを退治しましょう」
「おお、そうじゃったな」
って、依頼主さんが忘れてたんかい。
思わず突っ込みかけたがぐっと呑み込んで、イストの案内に従って城の奥を目指す。
「そうじゃ。お主、さっきの『金貨投げ』じゃが、一体いくらの金貨を使用したのじゃ?」
「ええと、十枚ですかね」
オレがそう答えるとイストは持っていた杖でオレの頭を叩く。
「いた! 何するんですか!」
「馬鹿者! そんなに使えばこの城の壁を貫通したのも当たり前じゃ! いいか! プラチナスライムの体力……HPは、多くても100! つまり一枚で十分なのじゃ!」
「え、そうなの?」
「当たり前じゃ! 物理・魔法無効の上に、それらを貫通してダメージを与えたとしてもせいぜい1、2ポイントが関の山! 全身全霊の一撃を百回も繰り返さないと倒せないんじゃぞ!? 100でも多すぎじゃ!」
言われてみればそうか。某国民的RPGでもアレ系のモンスターのHPはだいたい一桁。三桁もあってクリティカル的な防御無視攻撃もないなら、倒せないっていうか、普通に戦うの諦めて逃げるわ。この世界の住人がプラチナスライムと戦いたがらない理由が理解できた。
そんなことを考えながら、オレはイストの案内に従い、城に巣食ったプラチナスライムの討伐を続けるのだった。
◇ ◇ ◇
「スキル『金貨投げ』」
オレの手の中に生じた一枚のコインがピンッという音とともに光の速さで飛翔し、目の前にいたプラチナスライムを撃ち抜いた。
その一撃でプラチナスライムの体は四散し、蒸発していく。
「うーむ。しかし、何度見てもとんでもないスキルじゃな……」
「ふぅ、これで最後ですかね?」
古城に巣食った最後の一体を倒した後、オレは背後にいるイストに確認を取った。
「先程ので四体。うむ、見事じゃ。それでは依頼はこれで完了じゃ。すぐに報奨金を持ってこよう」
「あれ、依頼料ってここでもらうんですか? ギルドじゃなくって?」
「お主、何も知らないんじゃな。貼り紙での依頼はそれを出した依頼主が払う。だから、たまに依頼主と請け負った側で行き違いがあって問題が発生することもある。それを嫌って、大抵の本職の冒険者はギルドが直接依頼してくるものしか請け負わん。ちなみに、そういう依頼は受付で直接斡旋してもらう必要があるし、ギルドによる試験をクリアした〝プロ冒険者〟の資格がないと受けられんぞ。最低でもレベル10はないと、試験は突破できんじゃろうな」
なるほどなー。ギルドにも色々あるんだなー。
レベル10か。今のオレだとちょっと厳しいかな。まあ、『金貨投げ』や『鉱物化』を使えば、案外楽にクリアできそうなイメージもあるけれど。
そんなことを考えながらイストについていくオレであったが、突然、彼女が何かを思い出したように立ち止まった。
「レベル……そうじゃ! レベルじゃ! お、お主! 今、レベルはどうなっておる!?」
「へっ?」
慌てて振り返ったイストは、オレを見るや否や、何やら顔を青ざめさせる。
「なっ……そ、そんなバカな……! い、いや、だが、しかし……一人でプラチナスライム四匹を倒せば当然と言えば当然じゃが……し、しかしこんなの、あ、ありえん……ありえんぞ……前代未聞じゃ……! そ、そもそもプラチナスライムを一人で倒すこと自体が不可能であり、このような状況が……!?」
「ちょ、どうしたんですか、急に顔色を変えて」
「ええい! いいから己のレベルを確認せんかーー!!」
イストはもどかしそうにオレを急かす。
一体なんなんだよ、と思いながら、ステータス画面を表示してみる。すると、そこには――
『レベル:173』
…………
「はい?」
思わず素で呟く。
ええと、これ……なんか桁がおかしくないですかね?
最初、ここに来たときレベル3だったのが173って……なんか二桁増えてますが。
ごしごしと何度も目をこするが、依然表示は変わりなく『レベル:173』という文字が刻まれている。
え、ええー!?
見ると、イストは頭を抱えながらブツブツ呟いている。
「確かに、プラチナスライムは全ての魔物の中でも最も膨大な経験値を有していると聞く。そもそも、あれは複数の上級冒険者が徒党を組んでようやく倒せるもの……つまりその分、経験値は討伐に参加した人数に振り分けられる。しかも上級者だから上がるレベルも数レベル程度……とはいえ、その経験値はやはり莫大。それを一人で……しかも四匹も倒せば、急激にレベルアップするのも当然か……」
「え、ええと、このレベル173って、やっぱりすごいの?」
「馬鹿者! 十分すぎるほどすごいわ! いいか、伝説上の英雄や勇者と呼ばれた者のレベルが100! 過去に存在した最高のレベル持ち、英雄王イザークのレベルは158とされておる! レベル173なんて、儂ですら聞いたことがないぞ!」
え、ええー。マジか。
じゃあオレ、事実上最強レベルになってしまったってこと?
まあ、確かにプラチナスライムといえばいかにも経験値の塊っぽいが、まさかそこまでとは……
でも、あの図体だからな。大量の経験値を持っていても不思議ではないか。
と、どこか他人事みたいに考えるオレに、イストは呆れたような顔を向ける。
「やれやれ……一瞬で儂はおろか、この世界最強とも言えるレベルになったのに、お主は随分と反応が薄いなぁ」
「はあ、なんだかすみません。そういう性分なもので」
「よいよい、下手に浮かれて調子づくよりはマシかもしれぬ。まあ、とりあえず報酬を払うから、このまま儂について来い」
イストは苦笑を浮かべながら、城の通路を歩く。
やがて彼女の自室と思しき場所へと案内される。
「ほれ、ここじゃ。どこか適当なところに座れ」
「はあ、そう言われましても……」
その部屋は一言で言えばゴミ溜め。部屋のあちこちにいろんなゴミが大量に捨てられており、書物、食べ物、鉱物、宝石、武器、洋服などが散乱している。
よく見ると彼女の下着らしきものまで落ちていて、正直目のやり場に困る。あと、単純に座るスペースがない。
一方のイストはまるでオレを気にする様子もなく、こちらにお尻を向けたまま奥にある引き出しから〝ええと、どこにやったかのぉ〟と、ゴソゴソ何かを探している。
うーん。実年齢はオレよりはるかに上らしいが、やはり見た目が少女なので微妙な気分だ。
「おお、あったぞ。これじゃ」
イストは引き出しから手のひらサイズの袋を取り出し、それをオレの方へ投げた。
「ほれ、報酬の金貨じゃ。受け取れ」
「っと、どうも」
オレは早速受け取った袋の中身を確認する。
うん、確かに王様にもらったのと同じ金貨が入っている。数も依頼書通り五十枚。
「それじゃあ、これで依頼完了ですかね。お疲れ様です」
「待て」
そのままさっさと帰ろうとするオレを、イストが引き留めた。
「お主、これからどうするつもりじゃ?」
「まあ、今回みたいに適当な依頼を受けながら生活しようかと」
それを聞き、イストは不思議そうに首を傾げる。
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