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第1章 大聖女は宰相をまだ信じない

第6話 こうして大聖女は監禁される

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「保護って、保護って何よ!!」
「貴方は、貴方自身が救われようと考えていませんから。生きようとしてない貴方を死なせないのは困難だと、改めて認知しました」


 どうやら私の笑みは、セオドアの決意を新たにしてしまったらしい。


「限られた情報だけを与えられ、偏った行動を強いられ、喜んで死ににいくように洗脳された。教会の醜悪さは調べがついています」
「教会はいつだって正しい。あんたが陰険なだけ!」


 あることないこと、宰相はいつもネチネチ追求してくる。
 教会は間違わない。教会は神の意志を代行するのだから。


「そういうところですよ、大聖女ルチア。僕は……やっぱり貴方が憎い」


 憎いと言われたのに、……私は安心した。それは今まで何度も向けられたことがある、見知った感情だったから。
 どの口が愛してるとか言うんだと、怒ることができるから。


「僕の想いを理解せず、振るどころか受け取ることもしない。そんなことされたら、諦められないじゃないですか。この執念に似た愛をどうしろと言うんですか。そうやって行き場がなくなった激情が、この監禁を引き起こしている」


 宰相が、私の頬にかかった髪をそっと払う。そのまま輪郭をつぅとなぞられる。
 ここにいるのだと、存在を確かめられているようだった。


「頭では貴方をそう歪めた教皇を恨むべきだと弁別しているのに、貴方を恨まずにいられない」


 優しい指先とは裏腹に、表情は硬く険しかった。


「どうしてそんなに……私のことを考えるの……?」
「…………さあ。どうしてでしょうね。初めて会った時から、ずっと嫌いですよ。ずっとずっと憎たらしい」


 セオドアが自分を嘲るように笑った。
 なのに、と吐息がくすぐったい。


「愛しています、ルチア」


 怖いぐらい、真剣な目だった。
 シーツが柔らかくまとわりついて、私を逃がさない。こいつの告白を聞くしかない。


「貴方の生命を守るためなら、貴方の尊い意思を踏み躙るぐらいに」


 食べられると思うぐらい、私だけを見ていた。
 聞きたくないのに、目が離せなかった。こんなにセオドアを見つめたことはなかった。


 宰相は、こんな風に感情をあらわにするんだ。


 知らなかった一面を発見して、私は言葉を失う。
  部屋の静けさで、耳が痛い。


 長く見つめあっていたが、やがて宰相は諦めたように身を起こした。


「……教会に囚われる貴方だ」


 悲しそうな、寂しそうな、それでいてどこか喜んでいるような。
 そんな不思議な色を瞳に宿して、宣言する。


「僕に囚われたって変わらないでしょう」


 それが最後の言葉で、セオドアは私を拘束したまま部屋を出ていった。
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