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第1章 大聖女は宰相をまだ信じない

第2話 宰相は大聖女サマが忌々しい

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「ちょ、ちょっと……何言ってるか分かってるの」


 目の前の宰相がついに狂っちゃったのかと思った。
 

「魔王討伐だよ? この世界のみんなの願いなのに、それを諦めろって」


 私が詰め寄っても、セオドアは椅子に座ったままだ。顔色一つ変えない。


「僕としては、監禁のほうに反応してほしかったんですが」


 目の前で細くため息を吐かれた。ムカつく。とってもむかつく。やれやれって首を振って、緑髪がさらさら流れるのが腹立たしい。


「だったらご期待に添えるけど、あのね、監禁って犯罪なんだよ?」
「ええ、存じ上げてますよ。この国の法律なら全て」
「大聖女監禁とか、教会が黙ってないよ!」
「そうですね、普通なら教会との全面戦争になるでしょう」


 会話をするけど、のらりくらりとかわされる。私は真剣なのに、セオドアは飄々としていた。
 だから私は脅すために、語気を強める。


「いくらあんたの国が大陸一の大国でも、教皇様に逆らったら大変なことになる。それぐらい、かしこい宰相様が分からないわけないと思うんだけど!」


 そしたら、腹黒が目をぱちぱちさせた。


「おや、貴方にも考える脳があったんですね」


 くぅううう、やっぱこいつ、むかつくーーーー!!


「私のこと、なんだと思ってんの?!」
「教会の秘蔵っ子。愛らしく慈悲深い光の魔法使い。世界をあまねく照らす大聖女サマ、でしょうか」


 こいつの薄い唇から、讃辞の言の葉が並ぶ。唐突な監禁宣言より、よっぽど驚いた。
 え、悪いもの食べた? 魔物の邪気に犯されちゃった? 浄化魔法しとく?


 【聖女の直感】でセオドアを視るが、身体は邪気を帯びてないし、洗脳もされてない。
 つまり、宰相は正気だ。自分の考えで私を褒めたたえたし、大聖女を監禁している。で、魔王討伐の邪魔をしたいらしい。


 ……これで正気のほうが怖くない? 


 胸に少しだけ不安が生まれたが、大聖女である私は鋼の心の持ち主であるのでひとまず消しさった。


「なんだ、分かってるじゃん」


 褒められたのは嬉しかったので、自然と笑ってしまう。
 すると、セオドアがにっっこり笑顔を浮かべる。でも、それは私につられたからじゃなさそうだった。


 数年の付き合いでも察知できる。あ、これ、たぶん作り笑いだ。


 警戒する間もなく、腹黒が本領を発揮した。


「本当に、忌々しい」


 冷め切った目つきと、凍るような声音で吐き捨てた。さっきまでは敵意もなかったのに、今は全身から憤怒のオーラが湧き上がる。

 下級の魔物に対してでも、そんな態度はとらないはずだし、何に対してそこまで怒っているのかが分からなかった。


「あの、せ、セオドア……?」
「ようは、貴方は教会の傀儡だということです」


「なにしろあなたは、魔王討伐のための……贄なんですから」


 片唇を吊り上げて、セオドアは不均等な笑みを象った。


 どうしてこの男が、教会の秘儀を。
 私が思うのはそれだけだった。

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