かわいそうの向こう側

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かわいそうの向こう側2~山で生まれたきょうだい~

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『かわいそうの向こう側2~山で生まれたきょうだい~』

        1

わたしは ここにいる

ひろい おおきな やまでうまれたの

おとうとも ここにいる

いつも いっしょにいるの

ふたりで かけっこしたり

ふたりで むしや ことりをとったり

ふたりで なにかのしがいをたべたり

ふたりで あなのなかで くっついてねむったり

いつも いっしょにいるの

ときどき こわいものにあうの

こわくて ふるえちゃう

でも わたしは おねえちゃん

わたしは あしがはやいの

だから わたしがひきつけて

おとうとを まもるの

そうやって いきてきたの

ふたりで いきてきたの


       2

ちいさいころは おかあさんがいた

きょうだいも たくさんいたの

たくさん みるくをのんだの

たくさん のんだの

めがみえるようになったら

おとうとと わたしだけだった

ふたりで たくさんみるくをのんだの

たくさん のんだの

たくさんのんだから 大きくなった

おかあさんと いつもいっしょにいたの

おかあさんと むしや ことりをとったり

おかあさんと なにかのしがいをたべたり

おかあさんと あなのなかでくっついてねむったり

おかあさんと いつもいっしょにいたの

でも 

たてなくなって うごけなくなって

なにも たべなくなって

わたしと おとうと ふたりになった

でも

こわくないの さみしくないの

おとうとが かぞくがいるから

わたしは かわいそうじゃないの



       3

あれ

かいだことない においがする

しらないにおい でも

おいしそうなにおい

なんだろう なんだろう

いいにおい

あと もうひとつにおいがする

なんだろう なんだろう

あれは ちかづいたらいけないもの

おかあさんがおしえてくれた

ちかづいたら いたいことされるの

にげなくちゃ

ふたりで にげなくちゃ



       4

それから まいにち まいにち

おいしそうなにおいと

ちかづいたらいけないものがきた

たくさん たくさん にげたの

わたしは あしがはやいから

さきに おとうとを にがして

たくさん たくさん にげたの

でも まいにち まいにち

おいかけられて

つかれて おなかがすいて

つかれて はやくはしれなくて

そのうち にげられなくなったの

ちかづいたらいけないものが

ちかづいたきた

こわくて ふるえがとまらない

でも

わたしは おねえちゃん

おとうとを まもるの

いつでも おとうとのまえにたって

おとうとを まもるの

かぞくだから まもるの

おかあさんに いわれたの

きばをむいて うなりごえをあげて

まもるの

「へいきだよ。」

なに なんで すわってるの

なんで せなかをむけるの

「ごめんな、こわいよな。」

なんで おいかけないの

もう おいかけないの

ちがう そんなわけない

「ほら、おなかすいてるだろ。」

いつもの おいしそうなにおい

すごく おいしそうなにおい

でも だめ ちかづいたらいけないものがいる

「じゃあ、またくるよ。」

あれ おいかけないの

どんどん とおくへいって

いなくなっちゃった

おいしそうなにおいがするものを

おいてっちゃった

ふるえてたおとうとが ちかづいて

においをかいで たべちゃった

すごい たべてる

じゃあ わたしもたべるの

おいしい おいしい おいしい
おいしい おいしい おいしい

わたしは おなかいっぱいで

おとうとも おなかいっぱいで

ちかづいたらいけないものは いない

こわいものは もういない

だから

こわくないの さみしくないの

おとうとが かぞくがいるから

わたしは かわいそうじゃないの




        5

また やってきた

ちかづいたらいけないもの

それと おいしそうなにおいも

でも おいかけてこないの

おいしいたべものをおいて かえっていくの

そのうち 

ちかづいたらいけないものが まだいるのに

おとうとは たべるようになった

わたしは いやなの

たべればいいのにって いわれるけど

わたしは みはりをするの

「だいじょうぶだよ。」

やさしいこえ

でも いやなの

また やってきた

ちかづいたらいけないもの

それから おいしいたべもの

それと みたことがないものも

いつもみたいに 

まだいるのに おとうとはたべて

わたしは みはるの

ちかづいたらいけないものが

おとうとのくびに なにかかけた

わっかの ひも

おとうとは あばれて

わたしは きばをむいたの

「ごめんな。」

あばれるおとうとが 

へんなはこに いれられる

いやだ いやだ

わたしは ほえたの

たくさん ほえたの

わたしのおとうと わたしのかぞく

とらないで 

あれ

「こっちもつかまえた。」

わたしのくびにも わっかの ひも

いやだ いやだ

「だいじょうぶだ。ほら、あばれたらけがするぞ。」

こわい こわい

「はぁ、やっとだな。はやくつれていこう。」

やまを おりてくの

ここにいたい ふたりで ずっと

どこへ つれてくの

わたしは ないた

たくさん ないた

そしたら

おとうとも ないた

たくさん ないた

はこのなか ふたりでくっついて

ふるえて ないた

でも

こわくないの さみしくないの

おとうとが かぞくがいるから

わたしは かわいそうじゃないの 



       6 

わたしは ここにいる

やまより ずっとせまい へやのなか

おとうとも ここにいる

いっしょに いるの

ときどき ちかづいたらいけないものがきて

オシッコとウンチを かたづける

それから たべものをおいていく

「もうだいじょうぶだ。」

やまでは すわっていたのに

ここでは うごきまわってる

わたしも おとうとも もうたべない

でも

おなかがすいて くらくらしてきて 

ほんのすこし たべたの

「たべていいんだぞ。」

ちかづいたらいけないものが へやにはいってきた

わたしも おとうとも 

すみっこへにげてふるえる

こわい こわい

「こわいよな。きゅうにこんなところつれてこられたら。」

いやだ いやだ

「でも、もうだいじょうぶなんだ。ここにはたくさん、おまえらみたいのがいる。すこしずつ、なれていこうな。」

ちかづいたらいけないものが てをのばしてきた

「すごいな、おまえ。こんなビビりなのにかまないし、きょうだいまもって。おとこまえのおんなやなぁ~。」

なんで わらうの

なんで ないてるの

「こんなボロボロになっても、がんばっていきてきたんだ。ぜったい、いいかぞくみつけてやるからな。」

てが ほんのすこし せなかにふれた

あったかいて それと やさしいこえ

でも  まだ

あれ

おとうとが かおをだして

おとうとが てのにおいをかいだ

「ありがとな。ゆうきだしてくれて。」

ちかづいたらいけないものは

たべものをちかくによせて へやをでた

おとうとは すぐにたべた

すごい たべてる

じゃあ わたしもたべるの

おいしい おいしい おいしい
おいしい おいしい おいしい

まいにち2かい ふたりでたべるの





       7

ちかづいたらいけないものが

へやをあけた

「お~っす。きょうはそとでてみるか~。」

あけたまま どこかへいっちゃった

でて いいのかな

おとうとが こわいのに でようとしてる

じゃあ わたしが さきにでるの

あんぜんか たしかめるの

あるいていくと こえがしてきた

そとに でた やまより せまいの

でも

たくさん いる

たくさん たくさん いるの

たくさん たくさん ほえて

たくさん たくさん ひなたぼっこして

たくさん たくさん はしりまわって  

たくさん たくさん あそんでる

たくさんの たくさんの いぬたちが

わたしや おとうとみたいな いぬたちが

ちかづいたらいけないものと あそんでる

こわくないのって きいたら

こわくないよって おしえてくれた

たのしいのって きいたら

すごくたのしいよ いっしょにあそぼって さそってくれた

でも まだすこし こわいから

おとうとと すみっこでくっついて

たくさんの いぬたちを みてるの

みんな わらってる

みんな たのしそう

こわいのは わたしと おとうと

ふたりだけ

「やっぱここにいたのかぁ~。まぁいいや、すこしずつな。」 

いま わかったの

わたしは かわいそうじゃない

おとうとも かわいそうじゃない

これをしらなかった わたしと おとうとは

ずっと

ずっと ずっと

かわいそうのむこうがわに いたの

ちかづいたらいけないものは 

かわいそうのむこうがわへ やってきて

わたしと おとうとを

みつけて

わたしと おとうとを


つれだしてくれたの




       8 
 
こうして わたしは いきてきたの

おとうとと いっしょに いきてきたの

こわいのも さみしいのも いつかなくなるかな

おとうとと 

やさしいこえと あったかいて

それが いつも そばにいてくれたら

きっと・・・


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