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〈3/31〉〈4/30〉
しおりを挟む〈3/31〉
昼食の配膳を済ませてから、早番の私は夕食を提供する患者の食札チェックを行う。そしてそのついでに、夕食の汁物をゼリー状に作る必要のある患者数を数えて、夕食調理担当者に分かるよう、ホワイトボードに記入するという仕事もいつからか追加されていた。
今日も数えて記入しておいたら、上司Tが記入した数字を消して書き直していた。
「数間違ってました?」
と聞くと、[はい]と返事が返ってきたので、再チェックしてみると、私が書いた数で合っていた。
塩分制限の患者が数人いて、献立表を見ると、汁物が付く日と付かない日がある。今日は付かない日で、上司Tはその塩分制限の患者の分を足して書き直していた。
「今日は塩分制限の人は、汁物付かない日ですよ?」
というと、
「俺いつも付けてますよ。面倒だから。」
と返してきた。さすがに衝撃が走った。何のための献立表で、何のための塩分制限食だ!?
「でも汁物付けたり、代わりに果物付けたりして塩分調整してるんじゃないんですか?その為の献立表じゃないんですか?」
と言うと、上司Tから返事はなく。
「じゃあ塩分制限の人の分も(献立関係なく)計算に入れておいていいんですね?」
と聞くと、[はい]と返事が返ってきた。
こりゃ話にならんと思い、告げ口なんかしたくないが、患者の体に関わってくることなので、帰り際に事務所にいる上司Hに報告。冷静に聞いていたが、これが上司Tではなく私だったら何を言われていたことか・・・。
せっかく告げ口するなら、上司Hではなく病院の院長に伝えるべきだったと後で思った。
〈4/30〉
4月に入ると、上司Tを休ませるためにヘルプが4日ほど来るようになり、フルタイムの遅番パートが1人入社。
良い意味で、若いのに人との付き合い方がとても上手で、上司2人に気に入られたようだ。仕事の覚えも良いし、やる気もあるし、私も特に問題は感じなかった。
何よりも、今回は上司Tがメインで新人の指導をしていて、上司Hも新人へ意識が向き、今月は上司2人とも猫を被って良い上司風を吹かせているため、こちらへの嫌がらせがほぼ無くて助かった。
ヘルプで上司Sが来た時には、大先輩の同僚が、上司Tが作るシフトがおかしいことや、自作で長時間労働にしておいて、[疲れた][休みが無い]などとぼやいていること、有休の取り方について嘘をついていることなど、日頃の上司2人の悪質な態度を含めて訴えてくれて、今月はわりと良い気分で終わりそうだと思っていた。
しかし、この日は違った。
早朝、同僚がエンジョイゼリーという栄養食をカットしようと冷蔵庫を開けると、朝食分には全く足りず、急いで倉庫から常温のエンジョイゼリーを持ってきて冷蔵庫に入れた。
エンジョイゼリーは常温では柔らかすぎるので、ある程度冷やさないとカットが難しいため、朝の分が間に合わない場合、前日倉庫から持ってきて冷蔵庫に補充しておかなければならない。
勤務表を見た限り、昨日の夕にカットしたのは新人だった。まだ入って間もないし、指導しているのは上司Tだ。新人のミス=上司Tのミスに当然なる。
結局ギリギリまで冷やして、まだ柔らかかったが同僚が何とかカットして時間通りに配膳した。
上司Tが出勤して、同僚がエンジョイゼリーが冷蔵庫に補充されてなかったことを報告すると、
「あ~・・・昨日は@@さんが作ったからなぁ~。」
と新人を名指しした。
それを耳にして、私の理性は突然限界に達した。
どんだけ上司Tに嫌がらせされようと、ストレスにはなるが、何とか我慢できた。その翌日ケロッとして普通に仕事していても、腹は立つが何とか我慢できた。
でも、今の一言は別だ。
今までも、上司Tも関わっているクセに責められるのは部下だけで、上司Tは知らぬ振りを決め込んで責任逃れしようとする事や、珍しくフォローするかと思いきや部下を名指しして[~~さんもやっていた]などと余計な横やりを入れる事があった。
でもこの一言だけは、私の中でかなり別物だった。
部下に罪をなすりつける行為もなかなか最低だが、上司T本人が指導中の入社間もない新人にまで同じ扱いをしたのだ。
腹が立ちすぎて、全身の血の気が引く感覚を覚えた。
今回の新人はとても覚えがいいので、上司Tが1回でも教えていれば、恐らく補充していたはずだ。上司Tが教え忘れた可能性がかなり高い。
どちらにせよ、相手は新人でまだまだ勝手が分からないのだから、指導者として作業後に上司Tが一通りちゃんと出来たかチェックするものだろう。
出来てなくて、翌日に支障を招いても、それは入社間もない新人の責任ではなく、指導者である上司Tの責任だ。
私達は上司2人と違って、[あ!ごめん忘れた!]の一言があれば、[次気をつけて下さいね]で許せる。今までだってその一言さえあれば丸く収まるところを、機嫌を悪くして逆ギレして物に当たって、軽く謝罪する代わりに、部下へおかしな圧力をかけてきた。
何だかもう、うんざりだ。
かろうじて上司2人へ繋がっていた仕事仲間のか細い糸が、今日切れた。
この日、私は上司2人の扱いを変えることを決めた。
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