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《7/31》《8/14》

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《7/31》

昼食の調理作業中、今日の主菜は魚料理だった。
この病院は基本ホスピス。しかし、患者の中には検査のために入院する方もいる。
検査入院(CF)の方には、CF用の献立があり、食材によっては通常食とは別の食材を使って、別の料理を作らなくてはならない。
今回の献立は、通常食で使用する魚がCFの患者にはNGなので、別の魚を使わなければいけなかった。献立には、CFは[カレイ]を使用とあった。
日頃、献立通りの食材・調味料を使用し、献立通りのグラムで味つけするよう上司Hに指示されている。
しかし、いくら探しても[カレイ]が無いので、上司Hに聞いた。

「カレイ無いみたいだけど、何使えばいいですか?」

「カレイじゃなくても、タラとかあります。」

献立通りの食材使うように言った人間の切り返しか?コレ。
普通に話せば問題など全く起きる筈のない会話内容ですら、相変わらず上司Hは、相手によっちゃ喧嘩になりそうな、いちいちトゲを含んだ物言いをする。
献立通りの食材使うように言ったの誰よ?ってツッコミを飲み込んで、我慢していたら、たまたま在庫確認の為に厨房に来ていた栄養士の○○さんがやり取りを聞いていて、気を遣って冷凍庫からタラを出してくれた。

知っている。ここで働く限り、この悪霊達がいる限り、この小っちゃい小っちゃいストレスの積み重ねだ。
なのに何故この職場で働いているのか。
それはやっぱり、上司2人以外の従業員が皆さん良い人で、愚痴を聞いて共感してくれたり、精神的に支えになっていてくれるからだ。
辛抱しなくては。




《8/14》

上司Tが、出勤してからずっとご機嫌斜めだった。原因は、昼休憩に判明した。
つまり、出勤してから昼休憩まで、いや2日前の12日からずっと怒りを温めていたらしい。

昼休憩に入ると、上司Tが私に向かってこう言った。

「(12日に作成した)ババロアの量が、半量も普通量も変わらない。表面に気泡は溜まってるし。」

「え、そうでしたか?分かりました、次気をつけます。」

確かに12日に作成したのは私なので、量はまだしも、気泡があると飲み込みの難しい患者には良くないので、気をつけなくてはと思い素直に謝った。
・・・しかしだ。コレを注意したいが為に、出勤してからずっとふて腐れた顔と態度で、ろくに返事もしなかったのか?
えーーーっと・・・・何歳でしたっけ?
私に注意した後はもうケロッとして、いつもの調子に戻っていた。
そんなにスッキリしたか。良かったなそりゃ。
今まで同じように作ってきたが、誰にも言われた事なかったなぁ~。
食材を極力余らさないよう言われていて、提供数は約20~25程度なのに、計算誤って手作りデザートを何度も10皿以上余らせて廃棄することになってるような人が、あんな不機嫌な態度で人に注意出来るなんてなぁ~。どんな神経してるのかなぁ~。
また言われたくないしホント気をつけなくちゃと、私は思った。

今まで上司Hのインパクトが強すぎて、あまり活躍されていなかったが、この方も中々の悪霊だった。
簡単に表すと、上司Hが口先お化けとすれば、上司Tはパフォーマンスお化けだ。
機嫌が良いと、就業中に大きな声で笑いながら、部下とではなく、上司Hや食材配達業者と言葉を交わしてコミュニケーションをはかる。
機嫌が悪いと部下に挨拶は返さない、物に当たる、嫌いな相手に嫌がらせ、仕事の質問をすると、ふて腐れた子供のような物言いで相手の気分を害する上に、働く意欲を削いで楽しんでいるという悪行三昧だ。
ある意味上司Hよりも接触時間が長いせいか、上司Tの方が質が悪かったかもしれない。

今となっては、その片鱗は上司Tが入社して数日がたった頃から確かにあった。
入社して間もない頃は、誰でもそうだと思うが、緊張などもあって余所行きの顔で感じよくしようと努力をするものじゃないだろうか。

上司Tもそうだった。正式に店長となるまでの間は、何とか頑張っていた。それでも、時々おや?と思う態度が見られた。こちらは教えることに集中しているので、当時は何とも思わなかった。

ある時は、上司Tがよく間違う所があるので、確認したら間違っていたので、

「これ、違いますね。」

と私が教えたら、あ!と声を上げて

「またやったぁ~。」

と悔しそうにしていたので、

「今気づいたから大丈夫です。そのうち慣れます。」

と言ってその場は済んだが、後日また間違っていたので声をかけると、

「・・・・・・・。」

何の返事もせず、黙って直していた。その時は、特に違和感を覚えることはなかった。

そしてまたある時は、特に無視される心当たりは無かったのだが、挨拶しても話しかけても返事がなかったりした。
もしかして、教えるのに口うるさくし過ぎたか?と思い、

「もう大体分かりました?あまり話しかけない方がやりやすいですかね?」

と聞いてみたが、半笑いでハッキリした答えは返ってこなかった。

まぁわざわざそんな声をかけなくても、見ていて分かっていた。上司Tは調理経験は私よりずっとあるが、何となく私と共通する部分があった。それは要領が悪い所。
仕事を覚えるのに必死なんだって事は見てとれた。だから私は当時特に気にしなかったが、今思えば、どんなに必死とて最低限挨拶は出来るだろう。

そして、正式に店長となってから今の間に、仕事にも慣れて本性がチラホラ見え隠れするようになった。本人も特に隠すつもりも無いのだろう。
誰だって職場に慣れてくれば、自分が出てくる。出すのはいいが、周りの反応を見て気をつけることも大事だ。
つまり、必要以上に職場の空気を悪くして互いに働きづらくならないよう、周りを見て加減すること。
上司2人は、周りの反応が見えていたのかいなかったのか、加減を知らないのか、気をつけはしなかった。


上司Tとのヘンテコエピソードは、だんだんこれから明るみに出ることになる。

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