私に取り憑く、2体のパワハラ上司達

Green hand

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私に取り憑く、2体のパワハラ上司達《5/15》

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『私に取り憑く、2体のパワハラ上司達』

世の中には、様々なハラスメントが蔓延している。 
ハラスメント行為をおかす大半の人間は、どうやら無自覚者が多いらしい。
無自覚だからと言って、やりたい放題言いたい放題されては、被害者はたまったものじゃない。
例えば、酒に酔って暴れた人が、酔っていて覚えてないとか、酒に酔ってやったことだとか、責任から逃れようとよく口にするが、被害者は許せるだろうか。
動物や子供、その他の弱者に対して、”しつけ・教育・指導”を理由に、精神的に追い込む者や、暴力を振るう者を、被害者や家族は許せるだろうか。

大なり小なり、一括りでハラスメントと称してはいるが、中には暴行・傷害罪、性的虐待などの域に達しているケースもある。

私(女性40間近)が勤務していた職場には、無自覚なパワハラ上司が2人いた。
ざっくり紹介すると、言葉で人を追い込む精神攻撃を得意とする論理派上司H(女性30代)と、騒音で人の職務を妨害して楽しむ物当たり・嫌がらせ上司T(男性50代)。
刑法に該当する程の破壊力は無い、何とも小さく、低レベルで第三者に訴えにくい質の悪いパワハラ行為を、メインターゲットを1人に絞って行っていた。
とはいえ、職場への影響力が小さかったワケでは無い。自分を棚上げし、立場を利用した不必要な見下し発言・嫌がらせ行為で、ある者は怒り心頭し、ある者は傷つき追い込まれ、何人もが退職を余儀なくされた。中には、体調を崩して辞めた者も。
もはや、無自覚では罷り通らぬ域に彼らは立っていた。



これは、そんなパワハラ上司と私のヘンテコな会話や行動を記録した日記形式の駄文である。
        
        
        
        
        

《5/15》

朝からミスをしてしまい、同僚と一緒にお叱りを受けた。
もちろん、私達のミスではあった。今朝から開始した仕事上の変更。それについて書かれた書類の文章が、2つの意味に取れる書き方をしていたばかりに起きてしまったミスで、その書類を書いた張本人である上司Hが、自分の事は棚に上げて、私達の解釈が悪いと頭ごなしに怒った。
始まりはこうだった。

「もっとちゃんと読んで、こっちがどういう意味で書いたのか汲み取って下さい!」

同僚はすぐに謝罪した。それが1番の切り抜け方だし、常識的で正しい対応だ。しかし私は、少々納得がいってなかった。
実際に読み違えがあったワケだから、他の従業員も間違う可能性があるため、

「この文章だと勘違いするんじゃない?こういう風に書いた方が・・・」

と、[汲み取る]という気配りも大事だが、誰もが正しく理解出来る文章に直してもらった方が抑止効果があると考えて、私がやんわりと伝えてみると、ミスをなすりつけられているとでも思ったのか、

「もう、最近アホくさい間違いばっかり!」

等と私の言葉を遮るように言って、話を逸らした。
(いやまず目の前のミスから片づけようぜ?)

以前からそうだった。[激しく罵る他人の失敗、笑って誤魔化す自分の失敗]という言い回しがあるが、その言葉通り上司2人とも自分に甘く、部下に厳しい。

それはともかく、私は上司Hの自分を棚上げした物言いと、[アホくさいミス]という言い草が無性に気に食わず、争い事が嫌いで日頃我慢する性格なのだが、この時はつい反論をしてしまった。ちなみに、今回のミスは連帯責任ではあったが、間違った張本人は同僚だった。
ここは小さな厨房。上司が2人、部下が私を含むほんの6~7人程度しかいない。私達に向かって放った言葉は、6~7人の部下全員に放ったも同然だ。反論する理由としては充分だろう。
そしてこの少人数では、全員とうまく付き合っていかなくては、ハッキリ言って仕事は回らない。それなりに責任有る立場の上司Hは、その辺の事を全く考えちゃいないから、後先考えず言いたいことを平気で口にしてしまうのだろう。

「アホくさいって、そんな言い方されたらやる気なくすわ。一生懸命やってる中での失敗なのに。」

「言い方って言いますけど、(私)さんだって言葉遣い良いとは言えませんよ。」

確かに否定は出来ない。かと言って、上司Hのように無闇に人を攻撃して傷つける言い方はしない。その自信だけはあった。

「なに?どんなところが悪いの?言ってみてよ。直すからさ。」

「[直すからさ]じゃなくて、[直します]。」

「あ~タメ口だからダメなの?敬語使えばいいの?」

「そういう事じゃなくて・・・」

(じゃあどういう事よ?)

今、[私に敬語を使え]と珍しく分かりやすい意思表示をしてきておいて、そういう事じゃないと言った。
こんな些細なやり取りでも、上司Hとの会話は、いつも難解だった。
伝える事をまとめてから話さないせいで遠回りするため、結論までの道が長い。その上、結論に達してもイマイチ伝わらず、聞き手は理解に苦しんだ。複数の同僚からも、そんな声がよく挙がっていた。

そうじゃなくて・・・の後を私なりに解釈してみた。恐らく、仕事するにあたって、私の言葉遣いだけでは無く、態度も良くないとでも言いたいのだろう。しかし、具体的に何が悪いと言いたいのかは、本人に聞くしかない。なので、こう提案してみた。

「なにが悪いのかイマイチ分からないから、悪い所とか間違いがあったらその都度言って。」

すると上司Hは、

「その人の人間性を正すのは私の仕事じゃない。」

と言った。

(ん?いや当然でしょ、それは。急に何を言いだしておる?)

「目上に対して失礼ですし。」

(なるほど。日頃目上に対して失礼なことばかり考えてんのかこの人は。)

私はフリーズした頭を何とか動かしてこう答えた。人間性どうこうではなく、あくまで仕事上の話で。

「間違った事してるなら、必要であれば直接言うべきだと思うよ?年上年下関係ないと思う。」

それに対する反応は無く、お次は、

「(私)さんは、社会人としての常識が足りない。」

と言い出した。
(えっと?[人間性・社会人]以前に[言い方]の話はどうなった?この調子で遠回しなこと言ってたら、収集つかなくなるぞい。どーでもいいけど。)

その後、上司Hの気が治まるまで、私に対する人格否定も込められた、[社会人としての在り方]をテーマにした、論理と感情が渦巻く演説めいたものが始まった。
論理的な人に私的感情がこもると、こうも聞き手に伝わらないものなのか?理解しようと努力したが、何を言いたいのかさっぱり分からなかったし、開いた口が塞がらなかった。

(ここ、職場で合ってるよね?社会人講座の受講でも応募したんだっけ?私今何を聞かされているのだろう?)
そんな[?]が頭を支配して、具体的な内容は覚えてない。

ハッキリ言って、約40年間生きてきたが、こんなに話が噛み合わない人と出会ったのは初めてだった。

話を少し元に戻して、[人間性を正すのは私の仕事じゃない]という発言について、私なりにツッコミを入れさせてもらう。
(成人をとっくに迎えた社会人が入社。しかも、人の上に立つ立場ある者として。そして、その人よりも先に成人を迎え、約1年先に入社もしていた年上の部下がいる。特に変わった性癖を持ち合わせてるワケでもないのに、[人として悪い所があれば直すので、どうぞその都度おっしゃって下さい。]なんて、普通職場の上司にお願いしてくる部下なんておるか~~い!本物の下僕か、何らかのプレイを求めてるヤバい人じゃなきゃ有り得んシチュエーションじゃないか!
[人間性を正すのは私の仕事じゃない。]って?逆にお返ししたい。わざわざそんな当たり前を口にするなんて、あなたの方が社会人としての常識も、内容を汲み取る力も足りないんじゃないか。)と。

仕事上の事にしたって、[直すから言って]なんて可笑しな話だ。私にもそれなりに職歴がある。数々の職場の人達から学んで、常識は身につけて生きてきたつもりだ。
この年で、[直すからその都度言って]なんて、色々直すべき所だらけの人に言いたかない。
もっと別の方法もあったろうが、あの時はそんな言葉しか浮かばなかった。
それもこれも、上司Hが何を言いたいのか、理解に苦しんだ結果、何とか導き出した[私なりの譲歩]だということは、あの上司Hには一生分からないだろう。

上司Hの演説が終わりを迎えると、今度はこんな事を言ってきた。

「出来ないとか無理とか、栄養士が決めたことに対して、調理師が言っちゃいけないんですよ。」

(はい出た~。わざわざ口にして人を小馬鹿にする+マウント発言。
[いいですか~?先生の言うことに口答えしちゃいけませんよ~?]って小さい子供に言い聞かせてるように聞こえる。)

「△△の件だって、担当の○○さんが、”(私)さんに、結構キビシイキビシイと言われた”って言ってました。」

(うわ~怖い怖い怖いっ。
△△の話今回の件と全然関係ないし、この人○○さんまで巻き込んだ上に、事実より話を大きくしちゃってるわ。○○さんに迷惑かける気?しかも△△の件は、[何かあれば言って下さい]と言ってなかったか?あなたが。そしていざ相談したら、[○○さんに言って下さい]と丸投げしたろ?だから○○さんに相談したまでだが?え?記憶喪失?)

そんな調子で、本件を解決しないまま、本件にかすりもしない逸れた話に、上司Hは勝手に1人で花を咲かす。
最初からずっと話を聞いていていたもう1人の上司Tは、終始だんまりだ。

以前、[私、口で負けたことないです。]なんてな事を、上司Hが自信満々で言っていたのを急に思い出した。

それは恐らく、今回のように都合が悪いと話を逸らして、真っ向から本題にぶつかるような言い合いを避け、一体何の話をしてるんだ?と相手を困惑させて言い返せなくしていただけなのではないだろうか。
それと、もう一つ言えることがある。勝ち負けを決める土俵に立って話をしているつもりなら、話を逸らした時点であなたの負けです。

どんどん逸れていく話に翻弄されながらも、その都度私も言い返した筈だが、何を言ったかはもうほぼ覚えていない。
頭ごなしで、一方的で、もう会話と呼べるものじゃなかった。
私の中で、今の上司Hの話は、人を否定しているだけで何の解決も生まないので、全く聞く価値がないという結論に至った。

そんな中、上司Hはこう言った。

「(厳しくても)最終的に間に合っているなら変える必要ないですし、栄養士が決めたことに出来ないとか無理とか言ったら、本来クビですよ。」

と、首を手で切るジェスチャーをしてみせて。

(いやいや、気持ちよく指摘してるトコ悪いけど、今その話推す所じゃないぞ目を覚ませ!しかも、同じ事2回言った上に、しまいにゃクビをチラつかせて、部下は黙って上司に従えですか?すげぇ~なこの人大丈夫か?)

「あの、調理師が栄養士に無理とか出来ないとか言っちゃいけないんですよ。仕事で上手くいかないことがあったら、俺に聞いてくれればいいじゃないですか。」

次は上司Tだ。やっと話に入ってきたかと思ったら、Hの発言を繰り返した。

(おいおい、今あなたが軌道修正しないで、誰がやる?)

たとえ逸れてしまっても、最終的に本件へ話を戻し、[まぁまぁ今回は△△の件じゃなくて、こっちの件ですからお互い気をつけましょう]でかなり無理矢理だが話は済む。
私が言ってもいいが、きっと上司Hがさらに逆上するし、角が立って逆効果に終わるだろう。上司お二人のどちらかがそう言えば、私個人はもうそれで終わりにしても良かった。
しかし、上司Hは感情的になり過ぎで社会人だの別件の指摘だので忙しく、それしか頭に無い。上司Tは目の前に落ちてるモノ(別件)しか拾えない。結果、こじれっぱなし。
この上司2人、同盟結ぶのはいいが、実際の着地点よりかなり遠くに不時着して、お互い方向音痴で帰ってこれないパターンの人達だ。

最終的に、上司Tの賛同を得たと勘違いして気を良くしたのか、

「△△の件に関しては、上司Tや◎◎さんに聞かなかった、(私)さんの怠慢です。」

と気持ちよく言い捨てて、上司Hは去って行きましたとさ。めでたし~めでたし~。

(・・・いやいやいや、何っも話まとまっとらんし~っ!!終わりかい!?これで!?上司Hがただ言いたいこと言って終わりかい!?叱られて人格否定されて振り回されて終わりか~~い!?)

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何だかこの日はモヤモヤした1日だった。
そして、頭が痛い。あのヘンテコな会話のせいだろう。というより、あれだけ長々と時間をかけて会話をしておいて、[実り無し、未解決、本件のミス置き去りで終わり]で、叱られ損してしまったからだ。いや、パワハラされ損だ。

私はこれを機に、上司2人への苦手意識がより高まった。

そしてこの日を境に、まるで悪霊のように、私は上司2人に取り憑かれてしまうのであった・・・。
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