18 / 18
森戸銀子~別れ~
しおりを挟む『森戸銀子~別れ~』
その後銀子は、何が起きたのか家族に打ち明け、自ら警察へ連絡し、逮捕された。
事情聴取中、担当刑事から創一の検死結果を聞かされた。
「死因は、頸部圧迫による窒息死。森戸さんの自白通り、息子さんはあなたに首を絞められて死んだ。」
「・・・・・・・・。」
銀子は、虚ろな目で話を聞く。
「それと、息子の創一くんは、死ぬ直前しきりに頭を抑えていたと仰いましたね?その原因も分かりました。」
「・・・・・・・?」
「悪性の腫瘍があったんですよ。ゴルフボールサイズの。」
「しゅ・・・腫瘍?」
銀子は、目を見開いて聞き返す。
「ええ。場所が場所だし、かなりデカいので、手術も治療も難しい段階だった。以前から激しい頭痛・目眩・吐き気・幻覚などの症状が続いていた可能性が高いというのが、検死官の見立てです。早期発見出来ていれば・・・まだ治療法はあったかもしれません。だが、死因は絞殺です。あなたの罪であることに変わりはない。」
「ええ、刑事さん。その通りです。」
銀子は、静かにそう答え、担当刑事に頭を垂れる。
「早く、眠らせてあげて下さい。」
「・・そのつもりですよ。だが、どうしても腑に落ちません。森戸さん、何故創一くんを殺したんです?」
「・・お話ししたとおりです。」
「・・殺したいから殺した。間違いありませんか?」
「はい。」
「・・・・・・・。」
この時の担当刑事が、まだまだ若く血気盛んな権三だった。だが、母親が犯人であることは明らかなので、形式的な聴取のみで済ませるよう上からの指示があったため、それ以上の追求はしなかった。
鑑識・検死結果と本人の自白を基に、故意による殺人により、5年の懲役となった。
銀子は、警察へ連絡する直前、家族と話し合いをした。
銀子の希望で、創一が空き地で動物を虐待死させていたことは伏せ、創一の体調が全く良くならず、思い詰めた末に銀子が犯行に及んだことにした。
旦那も雅紀も反対した。それでは、悪戯に刑期を延ばすだけだからだ。
銀子は一歩も譲らず、話を聞いていた父親が、[銀子がそれで気が済むなら、そうしてやろう。]と告げたことで、旦那と雅紀は渋々受け入れた。
そして、警察が来るのを家族皆で待つ間、父親が懺悔するように口を開いた。
「・・実は、慧が死んだ時、一言書き置きをしていてな。」
「え・・・?」
「[まってるよ そういち むこうで]と。」
銀子も旦那も雅紀も、両手に力を込める。
「お前に見せたくなくて、破り捨てて黙っていた。今思えば・・・アイツは気づいていたのかもしれん。」
創一の死期が近いことを。と、父親は終わりまで口にできなかったが、皆にしっかり伝わり、銀子は歯がみし、旦那は目を閉じる。
「・・分かるもんか。」
雅紀は、憎々しく呟く。
「あんな事するヤツに。家族ってものも、創一の強さも、母親の思いも・・・。ただの、負け惜しみだよ。」
「・・・ああ。そうだな。雅紀の言うとおりだ。」
そう言って、父親は雅紀の肩に手を置く。そして、慧を生かしておいた後悔を胸に秘め、それ以上何も話さなかった。
銀子の獄中生活が始まって間もなく、父親は他界した。創一の葬儀から、2週間後のことだった。それを、面会に来た旦那の口から聞いた。
「そう。心臓発作で・・・。」
「タツが、うちへ知らせに来たんだ。雅紀と一緒に駆けつけたら、自宅の庭に倒れていたんだ。突発性の発作で、あっという間だった筈だって、医者が言ってたよ。葬儀は、村の人達が協力してくれるから心配要らない。」
「・・迷惑ばかりかけて・・・ごめんなさい。」
「なぁに言ってんだ。銀子さんは俺の奥さんで、お義父さんは俺にとっても実の父親みたいに大事な人なんだ。しっかり見送って、留守も守るよ。」
「・・相変わらず、いい旦那だねぇ~。」
旦那は、冗談っぽく笑顔で頭を掻いてみせる。
「店は、村長と相談して、一時的に俺が店主になって継続することにした。」
「え?」
「いやあくまで、一時的にだよ。銀子さんが戻るまで、あの店は開けておきてぇんだ。出所したら引き継げとかそういう事じゃないよ?ただ、森戸家も店も、銀子さんの大事な居場所だ。帰ってくるまで、生かしておきたいんだ。その後煮るなり焼くなり、対処は銀子さんに任せる。」
「・・・分かった。じゃあ、あたしが帰るまで頼むよ。」
「うん、承知した。だからさ、銀子さん。必ず帰ってくるんだよ?雅紀も俺も、それだけを願って頑張ってんだ。変な気は起こさないでくれ。な?」
「ああ、必ず帰るよ。約束する。創一とも・・・約束してるからね。」
「創一?」
「あの子・・・店の傍の崖にタロと一緒にいてさ、あたしを見て笑って、[母さん、僕の分まで生きて。ちゃんと見張ってるからね。]ってさ。夢の中で、晴々しい笑顔見せて脅してきたんだよ。」
「へっ、創一らしいな・・・。」
「あの子、あたし達のこと見てるんだよ。どっかで。だったら、意地でも精一杯生きて、それから会いに行くことにしようって決めたんだ。」
「そうしよう。アイツみたいに、たくさん足掻いて生きようじゃねぇか。」
「うん。そうしよう。」
2人は頷き合い、心に決めた。
翌日、銀子不在の中、父親の葬儀と火葬が行われた。お骨はしばらく父親の家の仏壇へ祀り、タツは森戸家に引き取るつもりだったが、家を守るように玄関先から動かなかったため、毎日見に来ることにした。
だがその2日後、飼い主の後を追うようにタツは眠りについた。
「・・・辛いよなぁ~・・・?大切な人がいない世界で暮らすのは。本当に・・・辛いなぁ。」
横たわるタツの亡骸を優しく撫で、旦那は涙を流す。
雅紀もその隣りに屈み込み、
「もうきっと、爺ちゃんと婆ちゃんと一緒だよ。タツはもう辛くないよ。」
そう言ってタツの頭を撫でる。
「創一の事は・・・きっとタロが面倒見てくれてる。」
「・・そうだ、うん。そうだな、きっと。」
涙が止まらない父親の肩を、雅紀はなだめるようにしばらく擦っていた。
まだ創一の死を受け入れられない雅紀は、父親のように涙を流すことは出来なかった。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
わぁ~ありがとうございます!初めて感想をいただいたので、半分恥ずかしい、半分幸せな気分です。
表現力が乏しいので、解釈しにくい部分が多々あると思いますが、これからも温かい目で見ていただけると嬉しいです。