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森戸創一~報い~
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『森戸創一~報い~』
森戸創一、12歳。
散歩を始めてから1時間、創一は何かに取り憑かれたように歩き続けた。その背を、母親は無言でついていった。
「・・着いた。」
創一は、ずっと見て見ぬフリしてきた。雅紀と練習して、普通の子供に見えるようにするために。
だが今日、痛めつけられてきた動物達の傷ついた姿としっかり向き合い、それを辿って道を歩いた事で、彼は気づいた。
自分に見える動物達は、自分にしか見えない動物達は、ずっと訴えを示し続けていたことを。彼等が自ら道標となり、自分達を痛めつけて殺した男の居場所を、創一に示していたことを。
「ここ?」
母親は、創一の視線の先にある、住宅地内の古い一軒家を見つめて問いかける。
「・・ずっと、教えていたんだ。皆で・・僕に・・・ッ。」
創一は胸を抑えて、地面に膝をついた。母親は慌てて体を支えて、創一を連れて物影に隠れる。
「家の周りに・・・沢山いる。絶対ここ・・・。」
「もしかして、あんたの発作って・・・。」
「ぅ・・・多分。アイツが僕に近づくと、動物達も一緒についてくるから。その度に・・・苦しくなる。」
「・・帰ろう。」
「いいの・・それで?」
「え?」
「心残りを・・・解消してやらないで・・・いいの?」
「・・・訴えが分かるの?」
「今なら・・聞こえる。」
「・・・なんて言ってる?」
「アイツを、殺してって・・・。」
「そ・・そんなのダメ!」
「やらないと・・・皆辛くて痛いままだし、もっと・・もっと殺される・・・。僕の苦しみも・・終わらないって。」
「・・・・・・・!?」
「悪いのは、弱い生き物を痛めつけてるアイツだ・・・。タロに・・酷いこと・・・したのも・・・ッ。」
怒りで体が引き千切れそうな、悲痛な声で訴える創一を、母親は唯々抱き締めていた。
翌日。
調子があまり思わしくないのか、夕方になってやっと創一は起きて居間へ下りてきた。
「創一。」
「ごめん。ちょっと寝不足で、起きれなかった。」
「よく寝れた?」
「うん。もう大丈夫。」
「それなら良かった。これからちょっと仕事に行ってくるよ。手が足りないらしいんだ。3時間位で戻るから。あともう少ししたら、雅紀が帰ってくる。大丈夫かい?」
「うん。母さんは?」
「平気だよ。じゃあ、行ってくるね。」
「・・母さん。」
「ん?」
「気をつけてね。」
「あいよ~。戸締まりしっかりするんだよ。」
母親は、いつもの調子で家を出た。そして、仕事場へ向かって歩いていく。
仕事場へ続く道を行くと、公衆電話が1台設置されている。母親はそこで、電話を一本かけた。
「もしもし。」
「はい、もしもし~。」
「あ・・久しぶり、父ちゃん。」
「お、銀子か?どうした。みんな元気か?」
「うん。何とかね。」
「・・何があった。」
「え?」
「お前の声聞いたら、なんだか胸騒ぎがしてきたぞ。」
「・・あたしは、父ちゃんの声聞いたら少し気分が良くなったよ。」
「・・何かトラブルか。」
「うん。でも、何とかする。何とかしなきゃ・・・。」
「何か、力になれないか?」
「1つあるんだ。聞いてくれる?」
「ああ、勿論だ。言ってみなさい。」
「・・あのさ、もし、あたしに何かあったら・・・。」
「あ?」
「息子と旦那をお願い。」
「おい、何をする気だ!?ぎ・・っ。」
母親は、一方的に電話を切って、仕事場を通り過ぎていった。
「・・ははっ。やっぱ父ちゃんは、何でもお見通しか。」
そう呟いて、昨日創一と歩いた道を辿り、あの古い一軒家を訪れた。
門扉を開け、玄関先のインターホンに手を伸ばして、一瞬躊躇った。数秒目を閉じて、深呼吸してから開いた時には、もう迷いは無かった。
「見てて・・・タロ。」
インターホンを押した。
数秒待ったが、誰も出ない上に、物音すらしない。
再度インターホンを押した。
やはり、待っても誰も出てこなかった。
意を決して訪れたというのに、母親は拍子抜けしてしまった。留守なら仕方ないと、門扉まで引き返したその時、背中や両足に重みを感じ、何かに引き寄せられるように、玄関先へ引き返した。そして、どうしてもドアノブが気になり、ドアノブに手をかけた。すると、
「・・・・・・・?」
ドアが開いた。室内から、酷い腐臭が流れ出てきた。
袖で鼻と口を覆いながら、母親は中へ入り、静かに扉を閉じた。
胃から食道へ逆流してくるモノに堪えながら、玄関を見回す。ごく普通の家だが、それに似つかわしくない酷い匂いに、母親は嫌な予感を覚えた。
「ミ・・ミ・・・。」
どこからか、音がした。とても小さく儚い音。
「ミィ・・・。」
「・・・・・・・!」
猫の鳴き声だった。しかも、まだ幼い声。
母親は、条件反射で靴を脱いで玄関を上がった。すると、視界の隅に黒猫の成猫の姿が入る。
猫は、右手にある階段を全く足音をたてずに上がっていく。それに続いて、母親も2階へ上がった。
2階へ上がると、腐臭が更に増した。黒猫は、そそくさと廊下の奥へ歩いていき、一番奥の部屋の少し開いたドアの隙間を通って中へ入った。
母親は、息を呑んで廊下を渡り、思い切って奥の部屋の扉を全開した。
「・・・・・・・・!!」
部屋の中は、大きな黒いゴミ袋が山積みになっていて、床に敷かれた絨毯は赤黒く汚れ、そこら中をハエが飛び回り、ゴミ袋の穴からウジ虫がその身をさらし、うねうねと蠢いていた。口の開いたゴミ袋の中には、小動物達の悲惨な死骸がゴミのように捨てられていた。そこには、あまり虫が集っていない。
「ミィ・・・。」
鳴き声のする方へ、母親はゴミ袋をかき分けて進むと、足もとに人の両足が現れた。
「・・・・・・・。」
血の気が引くのを感じながら、母親はおそるおそるゴミ袋を退かして、両足以外も掘り返す。
「・・ああ・・・そんな・・・。」
山のゴミ袋の下には、犯人が倒れていた。首には、何かで絞めた跡があった。母親は男の頚動脈に指を当てたが、脈は無かった。
母親は目眩を起こして、その場に跪いた。思考を拒む頭を何とか動かして、鳴いている子猫を探す。
先に入ったはずの黒猫は、何処へ行ったのか考えていると、再び黒猫が姿を現した。
「・・お前、子猫の母親だね。」
黒猫は男の死体の腹の上に座り、母親を見上げ、その頭に直接語りかける。
子猫の居所が分かり、母親は先程目にした口が開いたゴミ袋に手を入れる。
「ミィ・・ミィ。」
冷たくなった小動物達の亡骸の中に、温かいものを感じ取り、それを掴んで取り出した。
「ミィ~・・・。」
血塗れの子猫が、自分の手の中で元気に鳴いているのを見て、母親は不思議と力が湧いてきた。幸いなことに、目立った傷は見あたらない。
「ハァ・・良かった・・・。無事だよ、ホラ!」
笑顔で母猫に見せようとしたが、もう黒猫の姿は無かった。
それから1時間後、母親は我が家に着いた。玄関の扉の前で目を閉じて深呼吸し、気持ちを切り替えて扉を開けた。
「ただいまぁ。」
「あ、おかえり~。急に仕事入っちゃったって?」
いつもの調子で話す雅紀を見て、母親は1時間前までいた地獄のような空間から無事生還したことを改めて実感した。
小刻みに震え出す右手を左手で抑えて、母親は笑ってみせた。
「そうなんだよ~。欠員が出ちゃってさ。月末は忙しいの知ってるし、いつも世話になってるからね。」
「そっか、お疲れ様~。お茶飲む?」
「うん。着替えてすぐ戻るよ。」
母親は寝室へ入り、込み上げてきた恐怖に震え、涙を流した。
自分は、あの男と話をして、自首させるつもりであの家へ訪れた。男が断れば、警察に通報。男が逆上して襲いかかってきたら、家族を守るために刺し違えてでも止めるつもりで、出勤用の手提げバッグに包丁まで用意していった。
そこまで計画して訪れたあの家の中で、男は自分が虐待死させた小動物達と共に、既に死んでいた。
最初に思い浮かんだ顔は、創一の怒りに満ちた顔だった。
早く、創一を問いたださなければならない。問いただすには、仕事と嘘をついて、自分があの家へ侵入した事も打ち明けなければならない。
警察には、あの家の玄関に設置された、下駄箱の上の固定電話から通報した。勿論、匿名で。
自分が創一を問いたださなくとも、いずれ現場から何かが出れば、男を殺した犯人が判明する。結果が出るのを待つという選択肢もある。
母親は、そんな考えが浮かび、自分自身を鼻で笑う。
「それで・・・良いわけないだろ。」
自分を一蹴して、涙を拭い立ち上がる。手提げバッグから子猫を出してやり、床へ下ろして服を着替える。所々血が付着しているので、着ていた衣服は全て要らないスーパーの袋に詰め込んだ。
そして、子猫を片手に抱え、雅紀がいる居間へ行った。
「え・・・どうしたのコイツ?」
「帰り道に拾ったんだ。」
「ちっっちぇ~~~っ!かわい~~~!!」
雅紀は、母親の手から子猫を奪い、嬉しそうに撫でる。そして、違和感に気づいた。
「ん・・何か付いてる。」
母親は気まずくなり、窓の外の庭に目を向ける。
「血がついてたんだ。あらかた拭いたんだけどね。」
「ケガしてるの?」
「いや、この子は・・・親猫が目の前で事故に遭って、しばらく親猫の傍に付いていたらしい。」
「もしかして、親猫いる?」
母親の視線を伺い、雅紀は問いかける。
「いるよ。庭からこの子を見守ってる。」
そう言うと、雅紀は窓辺に子猫を連れて行き、見えない親猫に語りかけた。
「大丈夫だよ~。お前の子供、ちゃんと元気だからなぁ?」
庭にいる黒猫は、優しいオーラを纏い、子猫を見つめていた。そして、黒猫は母親に語りかけてきた。
「・・・・・・!?」
母親は、居間を飛び出して2階へ駆け上がると、創一の部屋の扉を開けた。
「わ・・・・っ。」
創一は驚いて、小さく声を上げて振り向いた。そこには、泣き出しそうな母親の姿があり、ワケが分からず困惑した。
「ど、どうしたの・・・?」
「創一・・・その猫・・・。」
「え・・あっ。」
創一は、一足遅く絨毯をよちよち歩き回る3匹の子猫を体で隠す。
「昨夜、眠れなくて散歩に出たんだ。そしたら、道路にひかれた猫がいて、その猫の回りにこの子達がいたんだ。親猫だったんだと思う。その猫、まだ生きてたんだけど・・・助けようがなくて。苦しそうで可哀相だったから、石で頭を・・・。」
「・・・知ってる。」
「え・・・。」
「聞いたよ。本人から。」
「・・そっか。黙ってて、ごめんなさい。」
「・・もう1匹いたんだ。」
「・・・・・・・?」
「パニックを起こして、親猫と兄弟達から離れちゃった子がね。」
「そうだったんだ・・・。その子はどうなったの?」
「今、下にいる。生きてるよ。」
「ホント?」
創一は嬉しそうに目を大きく開いた。
「でも、その前はあの男の家にいたんだ。」
「・・あの男・・・。」
「ゴミ袋だらけの部屋で、生きたままゴミ袋に捨てられてた。」
「行ったの?アイツの家。なんで!?」
「話しに行ったんだ。自首するように。あたしも謝るよ。仕事なんて嘘ついて悪かった。」
「殺されてたかもしれないのに!」
「あんたはどうなんだい?創一。」
「・・・・・・・。」
「昨夜、外へ出たのは散歩がしたいからじゃなかったんだろ?」
「・・・・・・・。」
「子猫を抱えて、あの家の前まで行くあんたを、親猫が見ていたんだよ。」
「・・・子猫を連れてなんて行けないから、諦めて帰ったんだ。」
「それで正解だよ。本当に良かった。これでもう大丈夫。」
そう言って、母親は創一を抱き締めた。滅多に子供の前で涙を流さない母親が、震えながら啜り泣く声を聞いて、創一は戸惑いながらも問いかける。
「母さんは、あの家に入って、もう1匹の子猫を助けたんだよね?」
「うん。」
「どうやって助けたの?あの男と話したの?」
「・・・言っただろ?もう大丈夫だって。母さんが大丈夫だって言ってるんだよ?だからもう大丈夫。警察には通報したし、あとは警察に任せよう。」
「・・・分かった。」
創一は、腑に落ちない顔をしながらも、母親が言うことに従った。
その日の夕食は、母親が疲れているため、雅紀と創一のリクエストで出前をとった。
父親が帰ってくると、雅紀は嬉しそうに子猫4匹を紹介した。
「こっちの3匹は創一が見つけて、こっちの1匹が母さんが仕事の帰りに見つけたんだって。そしたら、この4匹兄弟だったんだよ。事故で死んじゃった親猫が出てきてそう言ったんだってさ。」
「ほ~う。子供だけでも無事で良かったなぁ。良くやったな、創一。」
「うん。」
今夜は久しぶりに、食卓は穏やかで暖かな空気に包まれていた。
「でも、この子達どうするの?」
「はいっ!はいはいっ!オレと創一で飼う!」
「4匹いるよ?家じゃ無理じゃない?」
「そうだねぇ。タロの病院に明日話してみるよ。あそこで里親募集のポスター見たことあるから、きっと探してくれる。」
「えぇ~!?」
「兄ちゃんは、犬より猫派だもんね。」
「1匹なら、まぁいいけどなぁ。」
「ホント!?父さん!」
「まずは、病院に電話してみてからね!4匹一緒に飼ってくれる人がいるかもしれないだろ?」
「・・・うん。確かにそうだね。」
「4兄弟の事考えたら、そうだよなぁ・・・。」
その時、電話が鳴った。
母親は、台所で鳴っている壁掛け電話の受話器を取った。
「はい、もしもし。」
「もしもし。私岸辺と申しますが、森戸銀子さんのお宅ですか?」
「はい。私が銀子ですが?」
「遅くにすいません。森戸さんから連絡をいただきましてね、娘さんが何やらトラブルに巻き込まれているようだと。」
「岸辺って、もしかして村長さんですか?」
「はい。森戸集落の岸辺です。」
「これは・・・父がお世話になっております。」
「いえ、お世話になっているのはこちらの方です。森戸さんのおかげで、村は平穏を維持できているんですから。」
「そうですか。それは何よりです。」
「ところで、トラブルというのは・・・」
「あ、その事ですが、こちらでもう解決できましたので。確かに父には連絡しましたが、まさか村長さんにまで話を持っていくなんて・・・。父の早とちりに付き合わせてしまって、申し訳ございません。」
「あ~そうでしたかぁ。早とちりで・・・なるほど。しかし、久しぶりの娘さんからの連絡で、[何かあったら、息子と旦那をお願い。]なんて言われたら、父親としては気が気じゃなくなりますでしょう。話を聞いて、私も驚きましたよ。」
「はい。私も、もう少し言葉を選ぶべきでした。どうもご迷惑おかけしました。」
「いえいえ。それでですね、実はまだ話の続きがありまして。」
「はい、何でしょう?」
「こちらも緊急事態と早とちりしてしまいまして、トラブルについて突き止めるために、私のコネでそちらのお住まい周辺で何かなかったか、勝手を承知で少し調べさせていただきました。」
「え・・はい?」
「今日の夕方。ある家の固定電話から警察に[人が死んでいる]と匿名の通報があり、警察がそのお宅へ確認に伺ったところ、家主の高齢女性と、その息子が家の中で亡くなっていたそうなんです。」
「・・・・・・・!!」
「2階の部屋にはゴミ袋の山があり、中には多数の動物の腐乱死体がありました。そのゴミ袋の下には、隠すように息子の絞殺死体があり、居間では母親である家主が、首を吊って死んでいたそうです。」
「・・・・・・・・。」
「そこで、質問があります。[はい]か、[いいえ]で構いません。正直に答えていただけたら、お約束します。必ず御家族皆さんをお助けします。」
「・・・質問を、どうぞ。」
母親は、居間で談話する3人に聞こえないよう、声を潜めた。
「では、現場の固定電話から警察へ通報したのは、あなたですか?」
「・・はい。」
「ということは、あなたは現場宅へ不法侵入した上に、中で人が死んでいるのを目視確認したんですね?」
「はい。でも確認したのは、2階の奥の部屋だけです。」
「では、玄関を上がり、居間は確認せず、2階の部屋へ行き、ゴミ袋を触り、ゴミ袋の山から死体を見つけた。それで間違いないですね?」
「はい。」
「分かりました。あとはこちらで早急に対処します。近い内に、またご連絡させていただきます。それでは、失礼します。」
「・・・・・・・。」
母親は、受話器を戻した。
翌日。
創一は、何年ぶりかにとても体調が良く、早朝から起きて、母親が作った朝食を完食した。
「ごちそうさま。」
「あいよ~。あれ?ウソ!」
「美味しかったよ。」
空の食器を流し台へ置き、創一は歯を磨きに洗面所へ向かった。
母親は、久しぶりに幸せな気分を味わった。
その頃、朝のニュース番組には、あの男の家が映っていた。
そして、40代男性が、母親である70代の高齢女性に絞殺されて死亡。長年に渡り、多くの動物を虐待し殺し続けてきた息子を絞殺し、その後息子を絞殺した延長コードで母親は首を吊って自殺した模様と、報道されていた。
事件はあまり話題にはならず、数日で各メディアから消え去った。
森戸創一、12歳。
散歩を始めてから1時間、創一は何かに取り憑かれたように歩き続けた。その背を、母親は無言でついていった。
「・・着いた。」
創一は、ずっと見て見ぬフリしてきた。雅紀と練習して、普通の子供に見えるようにするために。
だが今日、痛めつけられてきた動物達の傷ついた姿としっかり向き合い、それを辿って道を歩いた事で、彼は気づいた。
自分に見える動物達は、自分にしか見えない動物達は、ずっと訴えを示し続けていたことを。彼等が自ら道標となり、自分達を痛めつけて殺した男の居場所を、創一に示していたことを。
「ここ?」
母親は、創一の視線の先にある、住宅地内の古い一軒家を見つめて問いかける。
「・・ずっと、教えていたんだ。皆で・・僕に・・・ッ。」
創一は胸を抑えて、地面に膝をついた。母親は慌てて体を支えて、創一を連れて物影に隠れる。
「家の周りに・・・沢山いる。絶対ここ・・・。」
「もしかして、あんたの発作って・・・。」
「ぅ・・・多分。アイツが僕に近づくと、動物達も一緒についてくるから。その度に・・・苦しくなる。」
「・・帰ろう。」
「いいの・・それで?」
「え?」
「心残りを・・・解消してやらないで・・・いいの?」
「・・・訴えが分かるの?」
「今なら・・聞こえる。」
「・・・なんて言ってる?」
「アイツを、殺してって・・・。」
「そ・・そんなのダメ!」
「やらないと・・・皆辛くて痛いままだし、もっと・・もっと殺される・・・。僕の苦しみも・・終わらないって。」
「・・・・・・・!?」
「悪いのは、弱い生き物を痛めつけてるアイツだ・・・。タロに・・酷いこと・・・したのも・・・ッ。」
怒りで体が引き千切れそうな、悲痛な声で訴える創一を、母親は唯々抱き締めていた。
翌日。
調子があまり思わしくないのか、夕方になってやっと創一は起きて居間へ下りてきた。
「創一。」
「ごめん。ちょっと寝不足で、起きれなかった。」
「よく寝れた?」
「うん。もう大丈夫。」
「それなら良かった。これからちょっと仕事に行ってくるよ。手が足りないらしいんだ。3時間位で戻るから。あともう少ししたら、雅紀が帰ってくる。大丈夫かい?」
「うん。母さんは?」
「平気だよ。じゃあ、行ってくるね。」
「・・母さん。」
「ん?」
「気をつけてね。」
「あいよ~。戸締まりしっかりするんだよ。」
母親は、いつもの調子で家を出た。そして、仕事場へ向かって歩いていく。
仕事場へ続く道を行くと、公衆電話が1台設置されている。母親はそこで、電話を一本かけた。
「もしもし。」
「はい、もしもし~。」
「あ・・久しぶり、父ちゃん。」
「お、銀子か?どうした。みんな元気か?」
「うん。何とかね。」
「・・何があった。」
「え?」
「お前の声聞いたら、なんだか胸騒ぎがしてきたぞ。」
「・・あたしは、父ちゃんの声聞いたら少し気分が良くなったよ。」
「・・何かトラブルか。」
「うん。でも、何とかする。何とかしなきゃ・・・。」
「何か、力になれないか?」
「1つあるんだ。聞いてくれる?」
「ああ、勿論だ。言ってみなさい。」
「・・あのさ、もし、あたしに何かあったら・・・。」
「あ?」
「息子と旦那をお願い。」
「おい、何をする気だ!?ぎ・・っ。」
母親は、一方的に電話を切って、仕事場を通り過ぎていった。
「・・ははっ。やっぱ父ちゃんは、何でもお見通しか。」
そう呟いて、昨日創一と歩いた道を辿り、あの古い一軒家を訪れた。
門扉を開け、玄関先のインターホンに手を伸ばして、一瞬躊躇った。数秒目を閉じて、深呼吸してから開いた時には、もう迷いは無かった。
「見てて・・・タロ。」
インターホンを押した。
数秒待ったが、誰も出ない上に、物音すらしない。
再度インターホンを押した。
やはり、待っても誰も出てこなかった。
意を決して訪れたというのに、母親は拍子抜けしてしまった。留守なら仕方ないと、門扉まで引き返したその時、背中や両足に重みを感じ、何かに引き寄せられるように、玄関先へ引き返した。そして、どうしてもドアノブが気になり、ドアノブに手をかけた。すると、
「・・・・・・・?」
ドアが開いた。室内から、酷い腐臭が流れ出てきた。
袖で鼻と口を覆いながら、母親は中へ入り、静かに扉を閉じた。
胃から食道へ逆流してくるモノに堪えながら、玄関を見回す。ごく普通の家だが、それに似つかわしくない酷い匂いに、母親は嫌な予感を覚えた。
「ミ・・ミ・・・。」
どこからか、音がした。とても小さく儚い音。
「ミィ・・・。」
「・・・・・・・!」
猫の鳴き声だった。しかも、まだ幼い声。
母親は、条件反射で靴を脱いで玄関を上がった。すると、視界の隅に黒猫の成猫の姿が入る。
猫は、右手にある階段を全く足音をたてずに上がっていく。それに続いて、母親も2階へ上がった。
2階へ上がると、腐臭が更に増した。黒猫は、そそくさと廊下の奥へ歩いていき、一番奥の部屋の少し開いたドアの隙間を通って中へ入った。
母親は、息を呑んで廊下を渡り、思い切って奥の部屋の扉を全開した。
「・・・・・・・・!!」
部屋の中は、大きな黒いゴミ袋が山積みになっていて、床に敷かれた絨毯は赤黒く汚れ、そこら中をハエが飛び回り、ゴミ袋の穴からウジ虫がその身をさらし、うねうねと蠢いていた。口の開いたゴミ袋の中には、小動物達の悲惨な死骸がゴミのように捨てられていた。そこには、あまり虫が集っていない。
「ミィ・・・。」
鳴き声のする方へ、母親はゴミ袋をかき分けて進むと、足もとに人の両足が現れた。
「・・・・・・・。」
血の気が引くのを感じながら、母親はおそるおそるゴミ袋を退かして、両足以外も掘り返す。
「・・ああ・・・そんな・・・。」
山のゴミ袋の下には、犯人が倒れていた。首には、何かで絞めた跡があった。母親は男の頚動脈に指を当てたが、脈は無かった。
母親は目眩を起こして、その場に跪いた。思考を拒む頭を何とか動かして、鳴いている子猫を探す。
先に入ったはずの黒猫は、何処へ行ったのか考えていると、再び黒猫が姿を現した。
「・・お前、子猫の母親だね。」
黒猫は男の死体の腹の上に座り、母親を見上げ、その頭に直接語りかける。
子猫の居所が分かり、母親は先程目にした口が開いたゴミ袋に手を入れる。
「ミィ・・ミィ。」
冷たくなった小動物達の亡骸の中に、温かいものを感じ取り、それを掴んで取り出した。
「ミィ~・・・。」
血塗れの子猫が、自分の手の中で元気に鳴いているのを見て、母親は不思議と力が湧いてきた。幸いなことに、目立った傷は見あたらない。
「ハァ・・良かった・・・。無事だよ、ホラ!」
笑顔で母猫に見せようとしたが、もう黒猫の姿は無かった。
それから1時間後、母親は我が家に着いた。玄関の扉の前で目を閉じて深呼吸し、気持ちを切り替えて扉を開けた。
「ただいまぁ。」
「あ、おかえり~。急に仕事入っちゃったって?」
いつもの調子で話す雅紀を見て、母親は1時間前までいた地獄のような空間から無事生還したことを改めて実感した。
小刻みに震え出す右手を左手で抑えて、母親は笑ってみせた。
「そうなんだよ~。欠員が出ちゃってさ。月末は忙しいの知ってるし、いつも世話になってるからね。」
「そっか、お疲れ様~。お茶飲む?」
「うん。着替えてすぐ戻るよ。」
母親は寝室へ入り、込み上げてきた恐怖に震え、涙を流した。
自分は、あの男と話をして、自首させるつもりであの家へ訪れた。男が断れば、警察に通報。男が逆上して襲いかかってきたら、家族を守るために刺し違えてでも止めるつもりで、出勤用の手提げバッグに包丁まで用意していった。
そこまで計画して訪れたあの家の中で、男は自分が虐待死させた小動物達と共に、既に死んでいた。
最初に思い浮かんだ顔は、創一の怒りに満ちた顔だった。
早く、創一を問いたださなければならない。問いただすには、仕事と嘘をついて、自分があの家へ侵入した事も打ち明けなければならない。
警察には、あの家の玄関に設置された、下駄箱の上の固定電話から通報した。勿論、匿名で。
自分が創一を問いたださなくとも、いずれ現場から何かが出れば、男を殺した犯人が判明する。結果が出るのを待つという選択肢もある。
母親は、そんな考えが浮かび、自分自身を鼻で笑う。
「それで・・・良いわけないだろ。」
自分を一蹴して、涙を拭い立ち上がる。手提げバッグから子猫を出してやり、床へ下ろして服を着替える。所々血が付着しているので、着ていた衣服は全て要らないスーパーの袋に詰め込んだ。
そして、子猫を片手に抱え、雅紀がいる居間へ行った。
「え・・・どうしたのコイツ?」
「帰り道に拾ったんだ。」
「ちっっちぇ~~~っ!かわい~~~!!」
雅紀は、母親の手から子猫を奪い、嬉しそうに撫でる。そして、違和感に気づいた。
「ん・・何か付いてる。」
母親は気まずくなり、窓の外の庭に目を向ける。
「血がついてたんだ。あらかた拭いたんだけどね。」
「ケガしてるの?」
「いや、この子は・・・親猫が目の前で事故に遭って、しばらく親猫の傍に付いていたらしい。」
「もしかして、親猫いる?」
母親の視線を伺い、雅紀は問いかける。
「いるよ。庭からこの子を見守ってる。」
そう言うと、雅紀は窓辺に子猫を連れて行き、見えない親猫に語りかけた。
「大丈夫だよ~。お前の子供、ちゃんと元気だからなぁ?」
庭にいる黒猫は、優しいオーラを纏い、子猫を見つめていた。そして、黒猫は母親に語りかけてきた。
「・・・・・・!?」
母親は、居間を飛び出して2階へ駆け上がると、創一の部屋の扉を開けた。
「わ・・・・っ。」
創一は驚いて、小さく声を上げて振り向いた。そこには、泣き出しそうな母親の姿があり、ワケが分からず困惑した。
「ど、どうしたの・・・?」
「創一・・・その猫・・・。」
「え・・あっ。」
創一は、一足遅く絨毯をよちよち歩き回る3匹の子猫を体で隠す。
「昨夜、眠れなくて散歩に出たんだ。そしたら、道路にひかれた猫がいて、その猫の回りにこの子達がいたんだ。親猫だったんだと思う。その猫、まだ生きてたんだけど・・・助けようがなくて。苦しそうで可哀相だったから、石で頭を・・・。」
「・・・知ってる。」
「え・・・。」
「聞いたよ。本人から。」
「・・そっか。黙ってて、ごめんなさい。」
「・・もう1匹いたんだ。」
「・・・・・・・?」
「パニックを起こして、親猫と兄弟達から離れちゃった子がね。」
「そうだったんだ・・・。その子はどうなったの?」
「今、下にいる。生きてるよ。」
「ホント?」
創一は嬉しそうに目を大きく開いた。
「でも、その前はあの男の家にいたんだ。」
「・・あの男・・・。」
「ゴミ袋だらけの部屋で、生きたままゴミ袋に捨てられてた。」
「行ったの?アイツの家。なんで!?」
「話しに行ったんだ。自首するように。あたしも謝るよ。仕事なんて嘘ついて悪かった。」
「殺されてたかもしれないのに!」
「あんたはどうなんだい?創一。」
「・・・・・・・。」
「昨夜、外へ出たのは散歩がしたいからじゃなかったんだろ?」
「・・・・・・・。」
「子猫を抱えて、あの家の前まで行くあんたを、親猫が見ていたんだよ。」
「・・・子猫を連れてなんて行けないから、諦めて帰ったんだ。」
「それで正解だよ。本当に良かった。これでもう大丈夫。」
そう言って、母親は創一を抱き締めた。滅多に子供の前で涙を流さない母親が、震えながら啜り泣く声を聞いて、創一は戸惑いながらも問いかける。
「母さんは、あの家に入って、もう1匹の子猫を助けたんだよね?」
「うん。」
「どうやって助けたの?あの男と話したの?」
「・・・言っただろ?もう大丈夫だって。母さんが大丈夫だって言ってるんだよ?だからもう大丈夫。警察には通報したし、あとは警察に任せよう。」
「・・・分かった。」
創一は、腑に落ちない顔をしながらも、母親が言うことに従った。
その日の夕食は、母親が疲れているため、雅紀と創一のリクエストで出前をとった。
父親が帰ってくると、雅紀は嬉しそうに子猫4匹を紹介した。
「こっちの3匹は創一が見つけて、こっちの1匹が母さんが仕事の帰りに見つけたんだって。そしたら、この4匹兄弟だったんだよ。事故で死んじゃった親猫が出てきてそう言ったんだってさ。」
「ほ~う。子供だけでも無事で良かったなぁ。良くやったな、創一。」
「うん。」
今夜は久しぶりに、食卓は穏やかで暖かな空気に包まれていた。
「でも、この子達どうするの?」
「はいっ!はいはいっ!オレと創一で飼う!」
「4匹いるよ?家じゃ無理じゃない?」
「そうだねぇ。タロの病院に明日話してみるよ。あそこで里親募集のポスター見たことあるから、きっと探してくれる。」
「えぇ~!?」
「兄ちゃんは、犬より猫派だもんね。」
「1匹なら、まぁいいけどなぁ。」
「ホント!?父さん!」
「まずは、病院に電話してみてからね!4匹一緒に飼ってくれる人がいるかもしれないだろ?」
「・・・うん。確かにそうだね。」
「4兄弟の事考えたら、そうだよなぁ・・・。」
その時、電話が鳴った。
母親は、台所で鳴っている壁掛け電話の受話器を取った。
「はい、もしもし。」
「もしもし。私岸辺と申しますが、森戸銀子さんのお宅ですか?」
「はい。私が銀子ですが?」
「遅くにすいません。森戸さんから連絡をいただきましてね、娘さんが何やらトラブルに巻き込まれているようだと。」
「岸辺って、もしかして村長さんですか?」
「はい。森戸集落の岸辺です。」
「これは・・・父がお世話になっております。」
「いえ、お世話になっているのはこちらの方です。森戸さんのおかげで、村は平穏を維持できているんですから。」
「そうですか。それは何よりです。」
「ところで、トラブルというのは・・・」
「あ、その事ですが、こちらでもう解決できましたので。確かに父には連絡しましたが、まさか村長さんにまで話を持っていくなんて・・・。父の早とちりに付き合わせてしまって、申し訳ございません。」
「あ~そうでしたかぁ。早とちりで・・・なるほど。しかし、久しぶりの娘さんからの連絡で、[何かあったら、息子と旦那をお願い。]なんて言われたら、父親としては気が気じゃなくなりますでしょう。話を聞いて、私も驚きましたよ。」
「はい。私も、もう少し言葉を選ぶべきでした。どうもご迷惑おかけしました。」
「いえいえ。それでですね、実はまだ話の続きがありまして。」
「はい、何でしょう?」
「こちらも緊急事態と早とちりしてしまいまして、トラブルについて突き止めるために、私のコネでそちらのお住まい周辺で何かなかったか、勝手を承知で少し調べさせていただきました。」
「え・・はい?」
「今日の夕方。ある家の固定電話から警察に[人が死んでいる]と匿名の通報があり、警察がそのお宅へ確認に伺ったところ、家主の高齢女性と、その息子が家の中で亡くなっていたそうなんです。」
「・・・・・・・!!」
「2階の部屋にはゴミ袋の山があり、中には多数の動物の腐乱死体がありました。そのゴミ袋の下には、隠すように息子の絞殺死体があり、居間では母親である家主が、首を吊って死んでいたそうです。」
「・・・・・・・・。」
「そこで、質問があります。[はい]か、[いいえ]で構いません。正直に答えていただけたら、お約束します。必ず御家族皆さんをお助けします。」
「・・・質問を、どうぞ。」
母親は、居間で談話する3人に聞こえないよう、声を潜めた。
「では、現場の固定電話から警察へ通報したのは、あなたですか?」
「・・はい。」
「ということは、あなたは現場宅へ不法侵入した上に、中で人が死んでいるのを目視確認したんですね?」
「はい。でも確認したのは、2階の奥の部屋だけです。」
「では、玄関を上がり、居間は確認せず、2階の部屋へ行き、ゴミ袋を触り、ゴミ袋の山から死体を見つけた。それで間違いないですね?」
「はい。」
「分かりました。あとはこちらで早急に対処します。近い内に、またご連絡させていただきます。それでは、失礼します。」
「・・・・・・・。」
母親は、受話器を戻した。
翌日。
創一は、何年ぶりかにとても体調が良く、早朝から起きて、母親が作った朝食を完食した。
「ごちそうさま。」
「あいよ~。あれ?ウソ!」
「美味しかったよ。」
空の食器を流し台へ置き、創一は歯を磨きに洗面所へ向かった。
母親は、久しぶりに幸せな気分を味わった。
その頃、朝のニュース番組には、あの男の家が映っていた。
そして、40代男性が、母親である70代の高齢女性に絞殺されて死亡。長年に渡り、多くの動物を虐待し殺し続けてきた息子を絞殺し、その後息子を絞殺した延長コードで母親は首を吊って自殺した模様と、報道されていた。
事件はあまり話題にはならず、数日で各メディアから消え去った。
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